『聖夜(修正)』 ... ジャンル:恋愛小説 ショート*2
作者:水芭蕉猫                

     あらすじ・作品紹介
クリスマスの話。BL注意。

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 クリスマス・イヴの夜だった。
 煌々とイルミネーションに光る商店街。腕を組んでべったりとひっついて、さも幸福そうにしている往来の男女カップルを横目に見て触発されたのか、恭介は不意に雪哉の腕に己の腕を絡ませようとする。と、雪哉は慌てて恭介から体を離して距離を取る。
「何で離れんだよバカ」
 恭介がつまらなさそうに口を尖らせると、雪哉はギロリと恭介を睨みつける。
「こんな往来で良い歳した男が二人で腕なんか組めるかバカ!」
 小声でそんなふうに怒る雪哉を見て、「別に良いじゃねぇか」と言いかけた恭介は、すぐに口をつぐんだ。
 こういう妙なところで雪哉は頑固なのを、恭介は知っている。だからぽりぽりと頭を掻いて、雪哉が怒らないような、最低限の距離を取りながら隣を歩く。
「しっかし、クリスマスクリスマスって、いつからこの国はキリスト教になっちまったんかねぇ」
 恭介がそんな下らない話題を雪哉に振る。が、雪哉は「さぁ、しらねぇ」と一言いったきり、また黙り込んだ。
 いつもの雪哉なら、「一番クリスマスクリスマスはしゃぎまくってたどの口が言うんだ」くらいの突っ込みをいれてくれるはずなのに。
 やれやれ。
 恭介は肩をすくめた。
 雪哉はいつも大抵こんな感じだが、今日はいつもより口数が少なく機嫌が悪く見える。
 理由は、知っている。
 先日、恭介が父親と大喧嘩をしたのを、雪哉が心配しているのだ。
 自分の実家へ赴いた恭介は、良い歳した父親と取っ組み合いの大喧嘩をやらかして、危うく隣家の人に警察を呼ばれる寸前だったのだ。
 どうにか喧嘩そのものは母親の仲裁により警察のご厄介になることは無かったのだが、取り付く島の無い父親から実家を追い出されるようにしてアパートに帰った。
 手当ての一つくらいして帰れば、ここまでのことにはならなかったのだろうだが、そんなところにまで頭の回らなかった恭介は、傷だらけ痣だらけの顔のまま雪哉と顔を会わせたのだ。
 その結果が、コレだ。
 頬やらに青あざを作った恭介を見た雪哉は大層驚き、大慌てで手当てしてくれたが、それからぷっつりと雪哉は貝のように無口で、おまけに不機嫌そうな顔になってしまった。
 別に、怒っているわけではない。
 ただ、雪哉は心配で不安になると、まるで機嫌が悪いかのように無口で不機嫌そうな顔になるのを恭介は長い付き合いでよく知っている。
 恭介が父親と喧嘩したのは決して雪哉のせいでは無いのに、雪哉はそれを自分のせいだと思っているのは明白だった。
 こういうとき、思いつめるフシのある雪哉には何を言っても悪い方向へ考えてしまうから、恭介はあえて気休め的なことを言わないようにしている。
 男二人に似合わないクリスマスケーキを入れたファンシーな袋をぶら下げながら、ようやっと人通りの少ない道に出た。
「人、居なくなったな」
 恭介がそう言うと、雪哉はそっけなく「そうだな」と言った。
「腕、組んで良い?」
 恭介が聞いた。雪哉は無言だった。
「うりゃ」
 恭介が雪哉に腕を絡ませたが、今度は雪哉は腕を振り払ったりしなかった。
「やっぱし、寒いからくっついてたほうがあったかいな」
 恭介がそう言っても、雪哉は黙ったままだったけれど、恭介は満足だった。
「早く帰って、ケーキ食ってカンパイといこうや」
 恭介が笑う。
 雪哉の顔が寒さとは別に耳まで真っ赤になっていたのを見て、恭介は可愛い奴だなと思った。


 アパートに戻った恭介と雪哉は、ささやかなクリスマスパーティと称して座卓でちまりちまりと安いワインを飲み、安売りしていた鳥モモのローストチキンとホールケーキの半分を食べた後、その場で恭介は雪哉を押し倒した。
 雪哉は抵抗しない。
 雪哉が抵抗しないのは、恭介に対する許可の合図のようなものだから、恭介はしていいかどうか聞く等という無粋なことをせず、そのまま雪哉のシャツをたくしあげながらキスをした。
「あまい」
 恭介の下で雪哉が顔をしかめた。
 雪哉は甘いものが苦手だった。恭介がクリスマスクリスマスと騒いだからケーキは買ったのだが、雪哉はほとんどそれには手をつけず、恭介から一口だけ貰って食べたきりだ。
「イヤ? 俺は、キスはあまいほうが好きだぞ」
 わざとすっ呆けた返答をする恭介を、雪哉はむっとした表情で睨んだ。
「お前もちゅーはあまい方が好きじゃなかったっけ?」
 そう言うと、雪哉は恥ずかしそうにぷいとそっぽを向いた。
「……知らん」


「やっぱり、パーティもどきなんて止めよう。クリスマスなんて、要するにキリスト様の誕生日だろう。ヘテロカップルならともかくさ、やっぱりホモがいちゃついたところで地獄に落とされるのがオチだろうよ」
 雪哉がそんなことを言ったのは、父親と殴り合いの大喧嘩をした名残を頬に残したままの恭介が仕事から帰ってきて、ちっと遅いけどクリスマスの買い物にでも行こうと言った時だった。
 二人してこの年末で忙しい時期に、事前に翌日の仕事の休みを取るなどという用意周到なことをしておいて今更何を言うのかと恭介は思ったが、雪哉は別にクリスマスがどうのとか宗教がどうのとか自分達がゲイカップルであることがこうのとか、そんな壮大なスケールでモノを言ってるのではないのは、何だか居心地悪そうな雪哉を見れば何となく解った。
 要するに、不安でパーティなんてする気分では無いのだろう。
「あ? お前、俺が喧嘩したの心配してんの? 気にするなよ。あんな頑固親父に反対されたところで別に俺の愛が変わるわけじゃねーし」
 軽い調子で恭介が言うと、雪哉は「違うよバカ」と言った。
「何が違うんだよ。言っとくけど、俺は誰に反対されても気持ちは変わらんからな」
 そう恭介が言うと、雪哉は黙ってしまった。恭介はため息をついて、手っ取り早く雪哉を両腕で抱いた。
「まぁ、そうだな。今は無理でもさ、結婚した後でも、ぼちぼち説得していくさ」
 結婚、というのは、養子縁組のことだ。
 恭介が雪哉に養子縁組しようとプロポーズしてからおよそ半年。
 ぐらぐらしていた雪哉の気持ちがようやく固まっていたというのに、いざ恭介の両親に雪哉をあわせる段になって、父親が「やっぱり会わない」と言い始めたのが雪哉の不安と心配の原因だ。
 相手が男であるというのは、事前に伝えてあったのだが、いざ相手に会う段階になるとやっぱりまだ抵抗があったらしい。
 恭介が自ら実家に帰り、嫌がる父親をどうにか宥めすかそうとするうちに、父親の機嫌が急激に悪くなり、そのまま大乱闘になるに至った。
 恭介が父親と大喧嘩したその日から、雪哉はずっとそのことを気にしている。
 雪哉は自分がゲイであることをカミングアウトしてから両親とは疎遠らしいから、余計に恭介が自分とくっつくことで、彼の家族と険悪な状態になることを心配していた。
「心配すんなや。あのオヤジめ、あの時は機嫌が悪かったんだ。最初は相手が男だって言ってもなんとも無かったしな。母さんはもうオーケーしてくれてるからさ。どうにか説得してくれるって。オヤジの奴、母さんには頭上がらないから絶対大丈夫だ」
 そう言って宥めても、雪哉が安心していないのは明白で、だからこそ今日は始終不機嫌そうに黙っていたのだろう。


「なぁ、俺が女なら良かったのかな」
 恭介の腕の中で、雪哉がぽつりと思い出したように言葉を紡いだ。
 セックスした後、シャワーも浴びずにそのまま二人で抱き合ってまどろんでいたその中で言われた一言に、恭介は「何で」と聞いた。
「もう、俺がホモなのは諦めがついてるけれど、ヘテロならこんな思いしなくて済んだのかと思ってな」
 なんとも思ってない風に言う雪哉に、恭介はその額へ口付けた。
「うん。別に男でも女でも、俺はどっちでも良いんだけれどな。ってか、雪哉がどっかのご令嬢でも俺は反対する奴を殴り倒して連れて逃げるけど」
 恭介がそう言うと、雪哉はようやっと笑った。
「うん。何か暗いこと言って悪かった。それに、お前の母さんは俺と会ってくれるって言ってたしな。それだけでも随分良い事だよな」
 おう、と恭介が言ってから、そういえば、と続けた。
「そういや、クリスマスプレゼント渡すの忘れてた。ごめん」
「いいよ、そんなの明日で。俺、疲れたし」
「そうか」
「ああ」
「じゃあ、明日な」
「うん」
「おやすみ雪哉」
「おやすみ恭介」
 どちらからともなく、メリークリスマスと囁いた後、恭介が呟いた。
「今日、ホモは地獄に落ちるって雪哉は言ったけどさ、俺は雪哉といちゃつけるなら、地獄でも全然構わないからな」
 雪哉は小さい声でバカヤロウと恥ずかしげに言った。

 
 雪哉が目覚めたのは、恭介が話す声だった。
「……だからさ……マジ?」
 恭介が、携帯電話で誰かと喋っている後姿が見えた。
「?」
「おう、あんがとな。んじゃな」
 目覚めた雪哉に気付いた恭介が、ぽちっと携帯を切る。
「だれ?」
 もぞもぞと起き上がり、目を擦りながら尋ねると、恭介はニタリと笑って、雪哉の肩に腕を回した。
「驚くなよ? オヤジがさ、雪哉に会っても良いって」
 びくっと雪哉の体が跳ねた。
「マジ?」
「マジ。母さんが何とか説得したって。今日の昼にでも来いってさ」
 ブイサインを作って笑う恭介を見て、雪哉がかくんと下を向いた。
「何? どうした?」
 そして座ったまま、両手で顔を覆った雪哉の裸の肩が揺れ始めるのを見て、恭介が雪哉の肩に腕を回したままで笑った。
「バカ。泣く奴があるかよ」


2009/12/28(Mon)22:07:12 公開 / 水芭蕉猫
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■作者からのメッセージ
初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。水芭蕉猫です。にゃあ。
どうしてもクリスマスに間に合わせたくて昨日からぽちぽちしてましたが、ようやっと見れる形に……orz
なんかもう間に合わないんじゃないかと思いつつ、無理矢理間に合わせようとしたので、ちょっと色々厳しいところがあるかもですが、時事ネタはタイミングが大切ということで無理矢理投稿。推敲は後ほどという体たらくですが、ちらりと読んでいただければ嬉しいです。
そこらのヘテロカップルより幸せなゲイカップルが書けてれば良いなと思います。

十二月二十八日。
推敲と修正完了。何か色々お目汚し申し訳ありませんでしたorz

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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