『プリウス短編集 「home party」』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:プリウス                

     あらすじ・作品紹介
この物語はフィクションです。下から順に新しくなります。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
4「home party」

「ねえ、そこの女の子は君のガールフレンド?」
 ふいにそう尋ねられてレオは、ちょっと照れた仕草で否定せずににんまりと笑った。
「ちょっと待ってよ、全然違うでしょー!」
「ははは。すいません、僕らの関係は秘密なんであまり口外出来ないんです」
 即座に否定するシェリィを無視してレオはしゃあしゃあと答えた。尋ねた男性はすぐに察した様子でソーリーと言って笑った。周囲の雰囲気も悪くない。
「リックさんはどういったお仕事でこちらに来ているんですか? やはり金融で?」
「いや、僕も君と同じでね。実は秘密なんだよ」
 そう言われてレオは知り合いの話を思い出した。知り合いというのは元自衛隊幹部の人で、組織内部には真面目にスパイ活動をしている人がいるのだとか。そういった人たちは現地に入って、そこに知り合いがいたとしたら絶対に会わないようにするのだとか。とにかくそこにいるということ自体が秘密なのだ。
 だから一瞬、リックもそうした類の人かと思ってしまったが、話の続きを聞いて彼がスパイではないということが分かった。
「僕の仕事は例えば原油とか、そういったものに関することなんだよ。資源のことって国のトップシークレットだから、簡単に他人に話してはいけないのさ」
 一同が感心し切ったところでこの話題は打ち切りとなった。レオも興味はあったが、どこまで突っ込んで聞ける話なのか分からなかったので控えておいた。
「ところで、そちらの方。えっと……」
「ヴィヴィよ。初めまして」
「初めましてヴィヴィ。君はミサコさんとどういった繋がりで?」
「私の仕事はゴルフ場のエスコート役なのよ。そこで彼女は上客ってわけ」
「へえ、なるほど。じゃあ僕もゴルフ行ったらお世話してもらおうかな。良ければ携帯番号を教えてもらえませんか」
 さりげない風を装って携帯番号を聞きだそうとするレオをシェリィがきっと睨みつけたが、彼は何処吹く風だった。
「そうね。ミサコが知ってるからミサコに聞いてみて」
 レオがするりとかわされたので周囲がまた賑わった。レオはレオでそういう結果になったことがむしろ満足な様子で、一緒になって笑っていた。
「レオ、ゴルフなんかしたことないでしょ」
 シェリィがしれっとレオに釘を刺す。
「ごめんねシェリィ。でも僕は君一筋だから心配しなくてもいいよ」
「心にも無いことを言うな!」

* * * *

「何言ってるのよ」
 レオとシェリィは深夜に二人、ベンチに座ってとりとめもない時間を過ごしていた。二人でパーティのことを語り合った。
 2歳から5歳くらいの子供たちが来ていて、彼ら彼女らがとても愛くるしかったこと。色んな国の人が集まっていてミサコさんの人脈に驚いたこと。お酒がとても美味しかったこと、などなど。
 特にそういう雰囲気ではなかった、だろうとレオも思った。ただなんとなく伝えておいてもいいかと思ったのだ。それはある意味告白のようなものだったかもしれないが、そうでないとも言えた。日常会話以上、告白未満。ただレオはシェリィに「好きだよ」とだけ伝えた。
「ごめんね、こんなタイミングで。僕もちょっとひどいかなとは思ったんだけど」
「まったくほんとだよ」
「でも僕が外国に行くって言った時の君の表情があんまりにも寂しそうだったから。伝えてあげなくちゃって思ったんだ。それってひょっとして僕の勘違いだったかな」
「分かんないよ……」
「そうなの?」
「うん、全然分かんない。頭の中ぐちゃぐちゃ。バカ。レオのせいでI'm so confused。直訳すれば私はとても混乱しています、よ」
「短いセンテンスにシェリィの混乱っぷりがしっかり凝縮されてるね」
 シェリィはベンチの上で体育座りをして顔をうつぶせにした。レオは何度か彼女を抱きしめようかと思ったが、なんとなくやめにした。そうやって本当に困った風のシェリィを見て可愛いなと思うだけにとどめた。
「レオは面食いだよね」
 シェリィがぽつりと呟くのでレオは思わず笑ってしまった。
「そうだね。シェリィはとっても可愛いと思うよ」
「うるさい、バカ」
 そう言ってシェリィは何故かレオの肩をぽかぽかと連打した。レオはレオで「痛い痛い」と言いながらまんざらでもない様子だった。
 ヒスパニック風の男が道を尋ねてきたので、レオは「そこを真っ直ぐ」とだけ答えた。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
 シェリィがにっこり笑ってレオに告げた。その笑顔が精一杯の笑顔に思えたのでレオもそれ以上何も言わなかった。タクシー乗り場まで行って、シェリィを先に乗せる。
 シェリィを乗せたタクシーが走り去るのを見送ってから、レオはふうとため息をついた。全てはタイミングだ。どうしようもない。
 すると間もなく携帯の着信音が鳴った。開いて内容を読むとレオはつい笑ってしまった。そして心の中で突っ込みを入れる。まったく、いつになるやら、と。


3「I am a cat」

 中華街を歩いているとよく人間を見かける。今日、この日も例外ではない。我輩は彼の顔をまじまじと見つめる。彼も我輩の顔をまじまじと見つめる。我輩は猫である。名前はまだ無い、かもしれない。
「わあ、ほら見て猫さんだよ。可愛いなー」
 人間の男が嬉しそうにはしゃぐ。連れの女はさほど興味が無さそうに見える。普通は逆のパターンが多いのだが、まあ例外もいるということだろう。
「ねえサラ、彼女僕のことじっと見てるよ。ひょっとしたら僕に気があるんじゃないかな」
 人間の男が連れの女に問いかける。女の方はやれやれといった風に肩をすくめる。
「レオってほんとに節操無いよね。こないだもクラブでフィリピン女に抱きついたりして。そしてついに猫にまで手を出そうっての? この変態」
「いや、あれは抱きついたんじゃなくて抱きつかれたの。それに、その程度のこと、クラブでは日常茶飯事なんだから」
「あと橋の上で西洋の女をナンパしてたんでしょ。腰に手を回してたって聞いたわよ」
「ちょっと、そんなこと誰から聞いたんだよ。あれは単に、あの女の子が高いところから下りるのを手伝ってあげただけで、何のやましいこともない。携帯番号だって聞いてないし」
「携帯番号と言えばこないだの韓国女はどうしたの? やけに親密そうに喋ってたじゃない。別れ際にも抱き付かれてたし」
「携帯番号を聞いたのは社交辞令だよ。あれ以来、一度も連絡取ってない。抱きついてこられたのは彼女が酔っ払ってたからで、そんなのはどこにでもある光景じゃないか」
 人間の男がしどろもどろになって答える。女は胡散臭いものを見るような目をしている。我輩はやれやれと思いながら男に近づく。ここは少し、手助けをしてやろう。
 我輩は男の目の前まで行くと、腹を天空にさらし、にゃんこっぽいポーズを取る。さあ人間の男よ、我輩の腹を愛でるが良かろう!
「おおお、猫、まじカワユス!」
 人間の男が我輩に意識を向けると、女の方もそれ以上追及するのを止めにする。我輩の作戦通り。男は満面の笑みを浮かべながら我輩の腹を愛でる。ふん、愚かな人間よ。せいぜい我輩の腹にて至福を味わうが良いわ!
「ああやばい。萌える。癒される。サラも触りなよ。超気持ちいいから」
「忘れたの? 私が猫アレルギーだってこと。触ったら首とかに蕁麻疹できちゃうのよ。まあ、猫なんかさほど可愛くもないから別にいいんだけどね。私は断然犬派だから」
「そうだね。サラってSっぽいから猫より犬のがいいかも。『猫はどうしてわがままか』って本知ってる?それによると人間と犬とは主従関係だけれど、猫とは親子関係なんだって」
「あっそ。だから何よ」
 目を輝かせて嬉しそうに知識を披露する人間の男に対して、女は冷たい。なるほどこれが俗に言うツンデレなるものであろうか。我輩、見るのは初めてである。
「つまりね。猫を愛せない人は自分の子供も愛せないんじゃないかって。犬を愛する人間はきっと自分の子供を従者か何かのように扱うんだ。自分勝手な話だよね」
「それで? 何が言いたいわけ?」
「猫をこんなに愛してやまない僕は、なんて慈愛に満ちた存在なんだろうなってことさ」
「なるほど、それでそんなにも節操無しなのね」
 我輩は猫である。危険を察知し、「みゃう」と鳴く。さすればたちどころに不穏な空気も消え去る。争いの絶えぬ愚かな人間どもの心を癒し、それにより世界平和を実現する我ら猫こそ、世の救世主たらん。我輩は猫である。


2「girl's discussion」

「やっぱり日本の男は全然ダメね。女性の扱いとかさっぱりなんだもの。レディ・ファーストが出来ないし。基本的に主体性が無いんだと思うわ。それに比べて韓国の男はとってもナイスね。女性に対してとても紳士的だわ。他人に気を遣うのも大抵韓国人よ」
 真美が熱く語る。彼女の前では韓国人の女の子、スジョンが一人、ストローでジュースをすする。ライムジュース。すっぱさを無理やり砂糖で抑え込んだ味がする。
「特に最近の日本の男ってほんと草食系なのよね。何事にも消極的で、いつだって受身の姿勢なの。このあいだも皆でレオの誕生日パーティをやろうって話になったんだけど、結局私が全部仕切ったわ。日本の男たちは誰も私の指示に従うだけで、何かアイディアを出すとか、そういったこともしないのよ。全部、アップ・トゥ・ユー(あなたにお任せします)なの」
 真美が「はあ」とため息をつく。スジョンはその名前の通り水晶に似た瞳で真美をじっと見つめている。不思議なものを見る眼をしている。
「中国人と韓国人、それから日本人の男でランキングを付けたら、断然一位は韓国人ね。それから二位が中国人。どっちの男も女性をとっても大事にしてくれるじゃない。レディ・ファーストをちゃんと分かっているのよ。こないだレオが言ってたわ。日本にはレディが居ないからレディ・ファーストも存在しない、って。冗談じゃないわよ。男が情けないだけじゃない」
 真美は瞳に怒りの炎を燃やす。そしてスジョンに対して「スジョンもそう思うよね」と同意を求める。スジョンは少し考えてから「そうね」と答える。
「日本の男は、確かに何を考えているかもよく分からないし、あまり女性に優しい気がしないわね。レディ・ファーストという点では韓国と中国の男の方が優れているわ。でも真美、あなたは韓国の男が好きなの?」
 スジョンが真美に問いかける。真美は少し答えに窮する。特に一人の韓国人男性を好きになったことはない。全般的な話をしている。だから真美は具体的に好きとは言えない。するとスジョンが重ねて真美に言う。
「韓国人の男は不細工ばかりよ。格好いいのはテレビに映るスターだけ。あとは皆、ジャガイモみたい。真美の友達の韓国人に格好いい男はいた? 私が知る限りでは、誰も彼も不細工ばかりじゃない。そしてあいつらが平均的な韓国人の男なのよ」
 スジョンのストレートな物言いに真美は驚く。確かに真美の美的感覚もスジョンとさして変わらない。けれどスジョンの言っていることは間違っている、と真美は思う。人は決して見た目ではないはず。
「でも、それならスジョンはどうなの? 中国人や韓国人よりも日本人の方がいい? 日本の男だってそんなに格好いいわけじゃないし、ほとんど韓国人と同じよ。それなら内面的に魅力的な韓国人を選ぶべきじゃない」
 スジョンは大きく首を振る。ならやはり日本人を選ぶのかと真美は問いただすが、それに対しても首を振る。スジョンは何を考えているのだろう、と真美は不思議に思う。
「やっぱり格好よくてレディ・ファーストを重んじる国の人が一番ね。それはイギリス人よ。日本や韓国の女性は西洋でとても人気があるの。私たちは向こうの女と違って奥ゆかしさを持っているから。奥ゆかしさの無い女に男たちは疲れて、東洋人に癒しを求めるというわけ。だから私は選ぶならイギリス人、もしくは他の西洋人を選ぶわ」
 スジョンの言葉に真美は大いに納得する。韓国の女性が韓国の男をダメだと言うのは説得力がある。真美は真美で日本の男はダメだと言う。それならば、と西洋人に眼が行くのは自然なことだろう。
「そうね。その通りよ。やっぱり男は西洋人が一番よね。これからはグローバル化の社会で、私たち女がどんどん外に出て行く時代だと思うの。日本の男はもういらないわ。ねえレオ、あなたはどう思う?」
 彼女たち二人に挟まれて僕は言った。「アップ・トゥ・ユー」


1「the way to be someone」

 はあ、とため息を付く彼女に僕はどうしたのかと問いかける。息を強く吸う音。水の泡立つ音。息を強く吐く音。辺りに漂う甘い香り。いちごの香り。いちごの香りは確かにするけれど、実はりんごの味と大して変わらない。僕には違いが分からない。
「レオはタバコ、好きだったかしら。そんなイメージ全然無いのだけれど」
「いや、タバコはやらないよ。これだけ」
 手に握るチューブ。チューブを振る右手。チューブを見る彼女。アラビア風の容器。白い煙を吐き出して遠く中東に思いを馳せる。僕が握っているのは水煙草。シーシャ。
 アラビア風のレストランのテラスでソファにもたれかかりながら、麻薬中毒者のような表情で香りを楽しむ。もちろん麻薬どころか普通の煙草ほどの害も無い。街中で吸う排気ガスの方が身体に悪いだろう。
「ふうん。甘い香りが好きなの?」
「いや。実はあんまり好きじゃない。むしろ吸ってるとちょっと気持ち悪くなる。単にぼこぼこって音がするのが面白いだけだよ。自分が何か変なことをしているというか、エキゾチックな雰囲気を楽しんでるだけだね」
「子供みたい」
「子供だよ」
「もう大人でしょ」
「子供でいたいんだ」
 息を強く吸う音。水の泡立つ音。息を強く吐く音。辺りに漂う甘い香り。いちごの香り。
 彼女、クィンはベトナムから来た女の子。ベトナムで働いて貯めたお金を使って留学中なのだ。何かを言いたそうにしている彼女に僕は言葉を促す。
「レオがうらやましいの。レオはいつも目標に向かって一所懸命だわ。資格の勉強とか、パート・タイムの仕事とか。友達も大勢いて、いつも楽しそう。それに比べて私は何もないから。空っぽなのよ」
「君にも目標があるじゃないか。確か、マーケティングのプロになりたいんだろう? そこらじゅうの広告やプロモーションの展示を見ては活き活きと目を輝かせていたの、覚えてるよ」
「そんな私を見て、なんでもかんでもマーケティングだなと小ばかにしていたのはどこの誰だったかしらね」
「馬鹿になんかしていない。ただ面白がってただけさ」
 そうね、と言ってクィンはチューブを渡せと手で合図する。僕は彼女にチューブを渡す。息を強く吸う音。水の泡立つ音。息を強く吐く音。辺りに漂う甘い香り。いちごの香り。少しむせる彼女。
「大学に行きたいのよ。国立大に。でも、私の経歴と英語力じゃちょっと難しいみたい。英語力はTOEFLで100点必要なんだけど、今の私では70点くらいが限界。それから経歴も求められたわ。事務の人に聞いたんだけど、グローバル企業のマーケティング部門で働いた経験がいるんだって。コカ・コーラとかP&Gみたいなね。日本の、トヨタとかSONYなんかでもいいと思う。私はマーケティングの仕事をしていたけれど、地元の小さな会社だったし」
「大変だね。でも君なら大丈夫だと思うよ」
 僕は何も考えず社交辞令を言う。特に根拠は存在しない。実際のところは、とても無理だろうなと思っている。英語力を上げるだけなら問題ない。ちなみに彼女の言うTOEFLとはibt、つまりコンピュータの置いてある試験場で受けるもののことだ。満点が120点で、内容はTOEICよりもずっと難しい。けれど、ある程度試験慣れさえしてしまえば、あとは応用力の問題だ。それに対して大きな会社に入るのは、努力だけでなんとかなるものじゃない。実力に加えて運も必要だろう。今は世界的な不況もあるから、容易ではないはず。
「私、いったんベトナムに帰るわ」
「どうして」
「ビザの関係でね。お金の問題もあるわ。ベトナムで英語の勉強を続けて、TOEFLも受ける。ここに戻るのは二ヵ月後くらいになるわね。英語の勘が鈍りそうで心配なんだけれど、なんとか頑張ってみる。ところでレオはこれからどうするの? 来年就職するって言ってたけど、もう何か始めてるの?」
 僕はほんの少し黙って考える。実のところ、あまり深くは考えていない。パート・タイムの仕事だけでは生きていけない。当然、仕事を見つけなきゃいけない。けれどまだ何もしていない。とりあえずなんとかなるだろう、と特に理由もなく楽観的に構えている。
 僕は近くのウェイターに声をかける。
「モジトひとつ。あと、火も足して」
 シーシャに乗せた炭の火が尽きていたので、取り替えるよう注文する。それからモジトという名前のカクテルを注文する。モジトはミントっぽい味のする甘いカクテルだ。ここで飲むモジトはいつも底に粗目のようなものが入っており、それをがりっと齧るのが僕の趣味。
 いつの間にか辺りは暗くなっていた。ネオンだかLEDだかの明かりが周囲を照らす。誰かがはしゃぐ声が聞こえる。それは子供だったろうか、それとも大人だったろうか。いや、はしゃぐ人間に年齢は関係ない、か。
「実は貯金が尽きそうでね。あと2か月分の家賃を払ったらそれで終了。だからそろそろ仕事を探し始めないといけないんだ。まだ何もしてないけど。まあ、今週中にどこかエージェントの登録にでも行くかな」
「どんな仕事を探す予定?」
「ファイナンスだね。そういう関係の仕事を探してる。前職はコンピュータ関係だったから、そういうのの方が見つけやすいんだろうけど。ファイナンスの勉強がしたいんだ」
 彼女はマーケティング。僕はファイナンス。互いの夢。
「大変ね。でもレオなら大丈夫だと思うわ」
 ウェイターがやって来て水煙草の火を入れ替える。注文したモジトは全く来る気配が無い。
「モジトは、まだかな」
「きっと、忘れてるんじゃないかしら。ウェイターに確認する?」
 ここではこういうことはよくある。注文を聞いておいて、すぐに忘れてしまうのだ。まるで取り頭だと思う。アメリカや日本ではあり得ないだろう。
「いや、それならそれでいい。今はもうそんな気分じゃないし。ビールがいいな。美味しいビールが飲める店があるんだ。ベルギーのビール。そこに移動しよう。経営大学は知ってる? あそこの1階フロアに小さなお店があってね。ちょっと離れてるからタクシーで行こう」
「歩いて行ける距離じゃないかしら。お金、大事にしないとダメなんじゃない? さっき、貯金が尽きそうって言ってたでしょ」
「確かにそうだけどね。時間の方がもっと大事だよ。なに、仕事が見つかりさえすれば大して問題じゃない」
「そういうものかしら」
 僕の論理、取らぬ狸のなんとやらに不安そうな顔をするクィン。しかし僕はつとめて明るく、楽観主義者を気取って最後に答えた。
「ああ。そういうものだよ」

2010/07/17(Sat)18:39:26 公開 / プリウス
■この作品の著作権はプリウスさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 気晴らしも兼ねて短編をちまちま書こうと思い立ちました。あんまり沢山書いて、他の作品を埋もれさせるのは良くないので、項目として自分専用の「短編集」を作ってみました。特に問題ないと思っているのですが、何かあればご指摘ください。

1「the way to be someone」(書き直し)
 常日頃から「time is money」は違うだろうと思って生きています。どう考えても時間の方が大事です。とは言え、その時間とお金のバランスをうまく舵取りしないと人は生きていけないわけで。そのバランス感覚が一番重要なんじゃないかと思っています。

2「girl's discussion」
 気の強い女が二人いれば、男は百人でかかっても敵いません。そういうものです。もっと正確に言えば、気の強い女一人で男千人は余裕ではないかと。今回は特に女性の方にコメントしていただけたらと思います。

3「I am a cat」
 言わずと知れた夏目漱石の名著『我輩は猫である』の英文バージョンは『I am a cat』でした。なんか可愛いですよね。僕は動物にアテレコするのが好きで、よく道端の子猫に「愚かな人間どもよ。我らが鉄槌受けるが良い」とか言わせてます。

4「home party」
 ちょっとだけセンチメンタルな雰囲気を出してみようとしたんですが、うまくいったでしょうか。短編だけど前後編に分けて仕上げてみました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。