『眠れない男【読み切り】』 ... ジャンル:リアル・現代 お笑い
作者:鋏屋                

     あらすじ・作品紹介
何故眠れない? そのトンデモな理由とは

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 俺の名前は甘木小五郎宗典【アマキ コゴロウムネノリ】。
 あ、今「変な名前」とか思ったろ! 「源氏名?」とか思ったろ、え?
 まあいいさ、鷹揚にして寛大な俺はそんなことでは怒らない。つーかこれまでの人生で出会った人間の9割が似たようなリアクションをするからな。親が勝手に付けた名だから、今更言っても仕方ないし、改名するのも面倒だ。大体いつの時代のセンスだよ。なあ、これから結婚して子供を作る計画のある奴に言っておく。日本人の名前にミドルネームを付けるのはやめて置いた方が良いぞ。間違いなく俺のようなひねくれた人間に育つからな……
 まあ、俺の名前などどうでも良い。俺は名前の事なんてホントにどうでも良いんだ。なぜなら俺は今モーレツに困っているからだ。
 とてつもなく眠い。信じられないぐらい眠い。理由は寝てないからだ。
 今「寝ればいいじゃん」って思った奴、前に出ろ。おお、お前か、目をつむって歯を食いしばれ!

 ばこん!

 っとまあ脳内で出てきた妄想の住人を2,3人ぶっ飛ばしても全然憂さなど晴れはしないことは俺にも良くわかっている。でも、そんなアホなことをしてしまうほど俺は追いつめらているんだよ。理由は……


 コンコン
 何かを叩くような音で、布団に入って30分で今夜もまた目が覚めてしまった。枕元にある腕時計で時間を確認するときっかり24時と10秒、11,12、13……
 とりあえずスルーしよう。最近は慣れてしまったので1回目はスルーするのが、もはや向こうに対しても礼儀のようになっている。

 ゴンゴン

 さっきよりもさらに強く叩く音。とりあえず俺は布団を頭から被って黙りを決め込む。

 ドカンドカン!

 オイちょっと待て、何で叩いてるんだ!? ここのアパートのドアは厚み30cmの金庫の扉じゃないんだぞっ!?
 布団から頭だけを出し、部屋中に所狭しと置いてある楽器と積み重なった書籍の向こうに見えるドアを睨む。すると急に静かになった…… あれ?
 しばらく待ってみたが、叩く音は聞こえない。もしかしてあきらめたのか? そっか、最初から居留守使えばよかったんだ。今のはドアがちょっとヤバかったけどさ。
 するとドアの外でなにやらガサゴソと音がしたかと思うと、「ごほんっ!」と咳払いなどが1,2度…… なんだ?

「あったらしい〜夜がきた〜♪ 野望のよる〜だ、陰〜謀にほくそ〜笑み、月夜〜を仰ぐ〜♪」

 俺はベッドから飛び起き、大股3歩で玄関までの距離を闊歩してドアを開けた。
「てめぇ今何時だと思ってるんだ!!」
 と怒鳴りつけながらドアを開けると、昨夜とはまた違う人物が戸口に立っていた。
「こんばんは、甘木小五郎宗典!」
 そう言ってにこりと笑う。年の功は高校生ぐらいだろうか、あどけなさを残す顔立ちは美少年と言った感じで、少し小柄な体にはよく似合っているように思えた。きっと年上の女性には受けが良いだろう。ストレートジーンズにフード付きパーカーの上からスタジャンを羽織ったラフな格好だった。
「僕は羽堕健太郎【ハネダケンタロウ】羽健【ハネケン】でも羽堕【ハネオチ】でもどっちで呼んでも良いよ。でも僕としては羽堕【ハネオチ】の方が好みかな。なんかさ『堕天使』みたいでかっこいいから」
 そう言って俺の了解も取らぬまま勝手に玄関に入る少年羽墜。
「お前のニックネームの好みなんて聞いてねぇ! お前らいったい何なんだよ! あ、おいコラ、せめて靴脱げ靴っ!!」
「ああ、ゴメンゴメン。でも…… 靴下汚れない?」
「うるせぇ!!」
 俺は澄まし顔の少年に回し蹴りをお見舞いするが、少年は「ははっ」と笑いながらひょいと軽く避けて靴を脱ぎ、すたすたとベッドのある方へ歩いていった。
 羽墜少年はスタジャンのポケットに両手を突っ込み、部屋の中を見回す。
「ひや〜 聞いてはいたけど凄いね…… 楽器集めが趣味って聞いてたけど、想像以上だ」
 そう言って部屋中に置いてある楽器を順番に見回す。
 そう、俺の数ある趣味の中でも一番金がかかっているのがこの『楽器集め』なのだ。
「あ、このベースカッコイイ。このギターも良いなぁ…… あ、ヴァイオリン発見!!」
 そう言って羽墜はヴァイオリンのケースを開け出す。オイてめぇ! なにやってんだよっ!!
「勝手に開けるなっ! そこ、ネック踏んでるっ!! 弓でギター引くんじゃねぇっ!!」
 取り上げられたヴァイオリンに固執せず、次々に楽器に飛びつく羽堕。そのたびにどこかが壊れていく俺の楽器達。やめてくれーっ!
「ねぇ、どれかちょーだい? こんなにあるんだから1個ぐらい良いでしょ?」
「やるか! どれも俺の大切な楽器なんだ! 貸すのだって嫌だ!」
「ケチ!」
 手にしたヴァイオリンケースで心ゆくまで殴り倒したい衝動に駆られるが、寸前で思いとどまる。もちろんコイツじゃなくてヴァイオリンが大事だから。
 羽堕はぐるりと部屋を一週し、部屋の片隅においてあるPCの前にやってきた。
「前任の『鋏屋』から引き継いだ分は一通り目を通したけど、あんまり良くないね。いい加減だったからな、彼。その前の『猫』さんの時の方ができが良かったよ。彼女はちょっと変わってるけど、その辺の目は確かだった」
 そう言って羽堕は俺を見た。
「で、どこまで書き上がったの?」
 そう言ってにっこり笑う羽堕。幼い顔立ちで愛くるしい笑顔だ。年上女性の母性本能を確実に揺さぶる威力を秘めている。あー、一応言って置くが、俺はBLでもないしショタコンでもない。
「もう書かねぇ、絶対書かねぇっ! 昨日来た『鋏屋』にも言ったが、金輪際あの話は書かんっ!!」
「そりゃ困るよ〜 企画部長に今週中に持っていくって言っちゃったんだよ〜 頼むよ小五郎宗典〜」
 そう言って泣きそうな顔をしておねだりする羽堕。うう、なんか俺、凄く悪い奴みたいだ…… いや、ここで甘い顔しちゃダメだ。もう書かないって決めたんだ。これ以上睡眠時間が減ったら確実に生命維持に支障をきたす。つーかもうきたしている。先週から平均睡眠時間2時間を割ってるんだ。普通なら倒れてる、いや確実に死ぬ!!
「知るかっ! それと名前で呼ぶな! 大体何で俺の『小説』なんだ!? 他にもいっぱいいるだろっ!! もうな、こっちも限界なんだよ!!」
「だって、君の書いた『小説』が一番僕らがやってる『星間戦争』に合ってるんだもん」
 そう言って涙目で座り込む羽堕。俺は落ちかける瞼をこすりながら「はぁ」とため息とも欠伸とも付かない息を吐いた。

 事の発端は3週間前にさかのぼる。
 1月前、俺はネットである小説投稿掲示板に自作の小説を投稿した。小説は俺の数ある趣味の中でも割とコンスタンスに続けている趣味の一つだった。前に某出版社から出版手前まで行ったこともある。その時は担当者との確執でフイになったのだが、それでも自作小説は趣味として書き続けていた。
 そんなある日、ネットで色々な小説投稿サイトを巡っていたら、ある小説投稿掲示板を発見し覗いてみた。するとそこに投稿されている作品の完成度とレベルの高さに驚かされた。俺は現行ログはもちろん、過去ログを漁ったしてロムり続け、そして自作を投稿するにはここしかない! と決心し自作のSF小説を投稿したのだ。すると思いの外好評かで、固定読者も付いてきて、嬉しくなった俺は続きを書き続けた。物語が中盤にさしかかった頃、俺に1通のメールが届いた。内容は
『あなたの作品に非常に興味を持ちました。是非一度お会いし、私の上司を交えてお話の機会を頂きたくお願い申し上げます』   
 こんな内容だったと思う。俺は『とうとう俺の時代が来たぜ!』と心の中でガッツポーズを取り、早速メールに書いてあった連絡先に電話を掛けたのだ。『プレアデス・バトライン』と言う、ちょっと聞いたことのない出版社だったが、まあ、まだそんなに大きくない出版社なのだろうと、あまり考えずに、聞かれるまま住所を告げた。普通だったら『会社に来てくれ』とか『どこか外で会おう』とか言われるはずで、自宅の住所を聞き『お宅に伺います』と告げられた時点でおかしいと思えば良かったんだが、舞い上がった俺は少しも疑わなかったのだ。このとき『やっぱりいいです』って電話を切っておけば良かったとつくづく思う。
 そしてその3日後、『プレアデス・バトライン社』の常務と名乗る男が、1名の部下を連れて俺の部屋までやってきた。しかも24時だぜ? こいつら馬鹿じゃね? って思ったよ。ここで初めて俺は何かおかしいことに気づいた。
「私は常務取締役の冠犬次【カンムリ ケンジ】と申します。そしてこちらが部下の中村啓太【ナカムラ ケイタ】です」
 最初のノックはシカトしたのだが、どんどん大きくなるノックの音に、普通に近所迷惑なのでドアを開け、部屋に通すと、眠い目をこすりながら短パンTシャツ装備の俺に、その男はそう挨拶した。
「この度は突然の訪問まことに恐縮ですが、快く迎えてくれたことを嬉しく思います。ありがとう」
 そう言って名刺を差し出し、握手を求められた。
 いや、決して『快く』ではありません。むしろ大迷惑です。時間考えてくださいよコラ!
「我が社は君の『物語』に大変感銘を受けました。こんな素晴らしい『企画書』を他社のみすみす持って行かれるわけには参りません。そこで、まだ連載中ですが我が社と専属に契約を結んで頂きたいと思いまして、こうして参った訳です」
 素晴らしいとか言われると照れちゃいますが、あの一応『小説』なんすけど、あれ。
「それで、早速ギャランティーなのですが……」
 そう言って冠常務は、胸のポケットから計算機を取り出し、ピピッと指で弾いた。見たこともない形の計算機だなって思っていると、何度かボタンを弾いてこちらに液晶を見せてくれた。その提示された液晶に映る0の多さに目が点になった。
「この辺でいかがですか?」
 いやもうまじで全然オッケー! 無名の小説書きにこんな破格のギャラを提示する会社なんて他にねぇって思って、「うんうん」と赤べこのように首を上下に動かしながら、契約書にサインしてしまった。そう、3週間前の今頃……

「あのなぁ、どうして俺の小説で『星間戦争』やろうって事になったんだよ……」
 一応断って置くが、俺は電波じゃねぇし、病んでもいねぇ。でも言ってる事は大まじめだ。星間戦争…… 一言一句、意味も含めてそう言うこと。スターウォーズとかそういうやつな。
「僕たちの銀河じゃ、戦争のしすぎでさ、もう普通に戦争しないんだ。領土拡大とか文明の違いとかで戦争してもシラケちゃうんだよ。そこで『シナリオ』を作って劇的な戦争を楽しむことにしたんだよ」
 コイツの言葉通り、コイツはあれだ、その『異星人』ってやつだ。地球から数万だか数億光年だか離れた銀河系から地球に来たエイリアンなのだ。俺達地球人と寿命以外はほとんど変わらない。どっからどう見ても地球人でしかも日本人なんだけど、ほんまモンの、正真正銘の宇宙人なのだ。
 信じられるかって? 俺もそう思った。でも、夜中に小型宇宙船や、地球上じゃ絶対居ない『プレデター』に羽が生えたような生き物に乗って窓をノックされたりすれば信じる気になるだろ? それでも信じないなら、大阪に衛星軌道から『惑星拠点攻撃用』とかいう、いかにもヤバそうな用途名の超電磁なんたら砲を打ち込んでみせるってコイツの前任者だった『鋏屋』って野郎が自信満々に笑って言うんだもんよ。俺が『信じない』って言っただけで900万人ほどが消し炭になるなんて冗談は聞けませんまじで。
「でも僕らじゃどうやってもこの星の人類みたいな『面白いシナリオ』ってのが浮かばないんだよ。戦争ばっかやってきたからみんな『ウッホ』になっちゃったんだ」
 そう言いながらPCの前で肩を落とす羽堕。ちなみに『ウッホ』とは、なんつーか、俺達で言う『馬鹿』とか『アホ』って言うニュアンスの言葉らしい。これは案外地球でも使えるかもしれないな。
「だからこの星で甘ちゃんみたいな才能有る書き手を捜して、シナリオを書いて貰って、その通りに『戦争』しないとダメなんだよ」
 なんだよそのアホな設定…… つーかお前に『甘ちゃん』なんて言われる筋合いねえだろ!
「つーか戦争しなきゃいいじゃねぇか。戦争したっていいことなんかあるもんかよ。戦争して喜んでるのは、インテリ崩れの革命家かどっかのミリヲタぐらいだぞ。他の大多数の人間は迷惑なんだし」
「それじゃダメなんだよ。戦争するのが全ての僕らなんだから。人口問題だって深刻だし、このまま推移してったら絶対『侵略戦争』始めちゃう。そしたら他の太陽系まで迷惑が掛かっちゃうんだよ。この太陽系だって例外じゃない。きっと数週間後には万単位の惑星制圧用戦闘艦艇がこの星衛生軌道上に終結して空を埋め尽くしちゃうんだよ? 甘ちゃん、それでもいいの?」
 つぶらな瞳をうるうるさせて問いかける羽堕。コイツが『雄』で良かった。
「つまり、俺の『小説』が地球を救うって…… そう言いたいんだな?」
 俺がそう聞き返すと、羽堕はコクコクと首を上下に動かし頷いた。
「オッケー、わかった寝よう! 人類の数週間先の未来より自分の睡眠だっ!! つーか地球の未来なんて知ったことか!」
「ええっ!? マジで酷くない!?」
「知るかっ! こちとらこの2週間、昼は会社で働き、夜はお前ら『ウッホ』なETにつき合って全然寝てねぇんだ! 今から寝て明日の日曜フルに使って睡眠を取り戻す! お前も帰れ! 帰って糞して寝ろっ!!」
 そう怒鳴ってベッドへダイブ。冗談じゃねえ、つき合ってられるか! 俺は頭から掛け布団を被った。
「甘ちゃんダメだよ! 起きてよ! ギャラだって前金で破格の額貰ってるじゃないか!」
「うるせぇ! あんなカード貰ったって使えねえじゃねぇか! 円で持ってこい円でっ!」
 コイツの会社の常務に提示された金額に驚いたが、実はアレはコイツらの銀河でしか使用できないカードだったのだ。コイツの言うとおり、彼らの銀河系では、シナリオライターって言えばいいのか? つまりそう言う物で稼ぐ額ではとんでもない破格なギャラらしいのだが、受け取ったカードは地球じゃ全く使えない。おまけに地球上の貨幣に勧銀するためには奴らの本星まで『本人』が出向かなきゃならないらしい。全く詐欺以外のなにものでもない。
「わかったよ…… 甘ちゃんがそう言う態度なら僕にも考えがある……」
 そう言って羽堕はなにやらごそごそやり始めた。あれ? 何始めたんだコイツ? と恐る恐る布団をまくって様子を見る。レーザー銃とかビーム兵器みたいなのを向けているんじゃないかと思ったが、羽堕はなにやらコードらしき物を手に持ち、何かを準備しだした。
「えっと…… これはここに繋いで…… ボリュームはこのぐらいかな」
 となにやらブツブツと呟きつつ、部屋をうろうろしている。
 あれ? お前ひょっとして……
 すると羽堕は立てかけてあったギターを構え、いきなり弦にピックを走らした。ものすごいボリュームで「ギュイーンっ!!」とアンプが震える。鼓膜を叩く痛みにベッドで耳をふさぎながらのたうち回る俺。
「もう終わりだ〜!♪ 地球が終わりだ〜!♪ たった一人の我が儘で〜!♪ 明日のラミーは食べられな〜い!♪ ファッキンベイベー!」
 とでたらめに弾くギターとアホな歌詞の歌声が部屋中に鳴り響く。とっさにベッドからジャンプして熱唱する羽堕ちに向かってドロップキック! 羽堕はギターを抱えたままアンプに激突した。
「てめぇ気は確かかっ!? 何時だと思ってるんだっ!! 下の階で寝てるジイサンショック死したらどーすんだよっ!!」
 すると羽堕は俺をキっと睨み、今度は窓を開けて外に向かって大声で叫びだした。
「きゃー! やめてよー! お尻が痛いよーっ!」
 この馬鹿野郎がっ!!
 俺は後ろから羽堕の口を押さえ込み、そのままバックドロップ! ズズゥンと鉄骨2階建てのアパートが揺れ、天井からつり下がった蛍光灯がブラブラ揺れているのをチラリと見ながら、ピシャリと窓を閉めた。
「あてて……っ 効いた〜っ!」
 首をさすりながらゆっくり起きあがる羽堕。地球人より若干丈夫に出来ているらしい。が、今はそんなことどうでも良い。
「ふざけんなよてめぇ! ここに住めなくなるじゃねぇか! 俺にそっちの趣味はねえっ!!」
「書いてくれる気になった? 僕書いてくれないと帰らないよ。たたき出したら、外で無いこと無いこと言いふらしちゃうよ」
 そう言って、真剣な顔で俺を見る羽堕。あのな、それを言うなら『有ること無いこと』だろ。
「わかった、わかったよ。書きゃいいんだろ、書きゃあっ!」
 俺がそう言うと「うんうん」とまた頷いた。なんか犬みたいだ。しっぽくっつけてぱたぱた動かしたら似合いそうだな。俺はそんなことを考えながらPCを起動させた。
 それから一気にラスト2話分を書き上げ、データをディスクに焼き落とした頃には、窓の外がうっすら過軽くなり始めていた。
 羽堕はいつの間にか俺のベッドでいびきを掻いている。この野郎……
 俺は羽堕の顔面に踵落としをお見舞いして奴を起こした。
「痛〜いっ! もう少しソフトに起こしてよ……」
「起こす以前に、人に物頼んでおいて寝るんじゃねぇ! ほらコレ。ラストまできっちり書いたぞ。それ持ってさっさと帰れ!」
「わおっ! さっすが甘ちゃ〜ん。コレで地球は救われたね。甘ちゃんヒーローだよ!」
「やかましいっ! 栄養失調と寝不足でへろへろなヒーローがどこにいるんだよっ! もういいからさっさと帰れ! それで2度と来んなっ!!」
 もうダメだ…… 普通に死ぬ。しばらPCの画面は見たくない。それ以上にコイツの顔も見たくないけど。
「そんじゃ、まいど〜」
 といそいそと帰っていく羽堕の後ろ姿を薄れかかる視界で眺めていた。プロの小説作者と担当者ってきっとこんな感じなんだな…… 俺、小説家にならなくてヨカタヨ……
 そんなことを考えながら、俺の意識はゆっくりと暗い穴に落ちていった……



コンコン

 何かを叩く音で、俺の意識はほんの少し覚醒する。が、気のせいだと考え、また意識を暗い穴に戻す。先週羽墜に渡した分は完結した物だ。あれでおしまい。ラストは連合軍が枢軸軍をうち破り、長かった戦争に終止符が打たれる。そして新政権が発足して平和が訪れるハズだ。50年後にまた新たな戦争が始まるつー伏線も貼って置いた。後50年は安泰なはずだ。

ゴンゴン

 さっきよりも少し大きな音でドアを叩く音。あの野郎……
 俺はまだ寝ようとする意識を奮い立たせ、ベッドから起き上がると大股で玄関に歩いていった。
 まず始めにドロップキック、続いてDDT。そしてとどめはチョーク無しのスリーパーホールドだこの野郎! って心の中で撃退プランを考えながらドアを開けた。すると……

 あれ? どちら様で?

 スーツ姿の眼鏡を掛けた、若い女性が立っていた。その手に持っているマイクは何に使うつもりだったんですか?
 マイクを構え「さあ、これから歌うぞ」みたいなポーズで固まっている。俺の視線にちょっぴり恥ずかしそうに頬を染める彼女。
「おほんっ…… わ、わたくし、プレアデス・バトライン社の上野文子【ウエノ フミコ】と申します。甘木様にお仕事の依頼を持って参りました。尚、今後私のことは『上ちゃん』ではなく『文ちゃん』と呼んでください」
 そう言ってペコリとお辞儀をしながらポケットにマイクを仕舞う。
「はい? いや、だって先週……」
「はい、あの物語は最高でした。ですが実は、あまりにも大好評で、次回作の要望が我が社に大量に来てしまい、我が社も熱狂的なファンの鎮圧に乗り出したのですが、何せファンの9割が軍上層部なんもので、ほとんど内乱状態で手が付けられません。ですので…… 今度は『クーデター篇』でお願いします」
 そう言ってにっこり笑う文子女史。眼鏡の奥に光る知性を含んだ瞳が、全く笑ってねぇっ!!
 また眠れない日々が続きそうだ…… どうでも良いけど、何であんたらいつもこんな真夜中に来るんだよまじで。 

おしまい

2009/12/03(Thu)20:02:04 公開 / 鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後まで読んでくださった方ゴメンナサイ。
甘木殿、羽墜殿、猫殿、クラウン殿、中村殿、文殿マジでゴメ―――――ンっ!!
いや、ギ、ギャグですよ……(汗、怖)
みなさんに洒落が通じることを祈ります…… 痛っ、痛たたっ! 石投げないでっ!!
甘木殿のブログで『鋏屋』つー小説のネタが浮かんだってあったので、考えてたらこんなの書いちゃったよ…… 特に甘木殿&羽堕殿には普通に殴られるの覚悟で書きました。他の方もお名前勝手に書いちゃってゴメンナサイね。
この物語に登場する人物団体は実際のものとは一切関係ございません。つーかあったら怖いです。当然皆さん地球人(なハズ)ですしw
まったくもう…… 甘木殿がしまにゃんであんな事書くから……ブツブツ
感想は…… 見るのが怖いけど入れてくれたら嬉しいかな。
鋏屋でした。

羽墜→羽堕に修正

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。