『欲張少女』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:湖悠                

     あらすじ・作品紹介
欲にまみれた少女の物語。

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 ある所に、欲張りな少女が居ました。
 裕福な家に生まれたわけではありませんでしたが、彼女はとても欲張りでした。
 3歳の頃、親がおもちゃを買ってあげた所、彼女は言いました。
「なんでいっこなの? もっとちょーだい、ちょーだい」
 その頃は彼女も小さかったので、親はただの可愛い我がままだと思い、もう一個おもちゃを買ってあげました。少女は喜びましたが、欲が埋まることはありませんでした。だから、彼女はもっと頼みました。
「なんでにこなの? もっとちょーだいよぉー」
 親は、その日から二個目のおもちゃを買ってくれなくなりました。


 やがて彼女も大きくなり、小学生になりました。
 彼女は運動神経もよく、頭もよかったのですが、欲張りだったため、友達は一人も居ませんでした。
 彼女は寂しくなりました。欲張りだったので、友達が欲しかったのです。一人友達ができるのでは満たされません。全員と友達になりたくて、彼女は毎日様々な事を考えていました。
 お菓子を皆に作ってあげる事を考えました。でも、作ったお菓子を全部自分が食べてしまい、失敗しました。
 誰かを笑わせる事を考えました。でも皆を笑わせたくなり、全員が笑えるギャグを考えている内に彼女は眠りに落ちていました。
 

 時は過ぎました。
 欲張りな少女は、自分の性格を変えることなく、中学校に入学しました。
 初めこそ友達は出来ましたが、時々ボロが出て、すぐに友達は少なくなってしまいました。
 図書室に行った時、何故本が二つしか借りれないのか、もっと借りちゃいけないのか、と先生と口論したら、皆に引かれました。
 少女は見た目が良かったために彼氏ができましたが、おごってくれると言われた時に遠慮なくおごらせすぎて、貢がされる女という悪い噂が広がりました。
 修学旅行の時、回る場所が少なかったため、もっと回りたいと言っていたら、いつの間にか話を聞いてもらえなくなっていました。
 少女は孤独でした。
 そこで少女は初めて変わりたいと思いました。自分を変えよう。もっと好かれる自分になろう、とそう思ったのです。しかし今からでは難しいと思い、高校から変わろうと決意しました。
 そして、塾で猛勉強した三年の秋の帰り道でした。少女は、ボロボロの服を着て、ボロボロのリュックを背負った男の子に出会いました。男の子は5、6歳に見えました。
「おねえちゃん、ほんかってくれない? ぱぱのほんなんだけど、ぱぱしごとがないからおかねがないんだって。だから、ほんをうらなきゃならない、ってそういってた」
 男の子の目は純粋無垢でした。「おねえちゃん。ほんいっさつかって。そうしたら、ぱぱやさしくしてくれるから」
 少女は――やはり欲張りでした。
「なんで私が一冊の本を買わなきゃならないの?」
 男の子の表情が暗くなりました。
 少女は腕を組み、男の子に言いました。
 「一冊じゃ足りない。だから全部買うわ。あなたのお父さんの本、全部買うから」
 男の子の背負ったリュックに入ってた古本を、彼女は全て買い取りました。欲張りだったので、リュックサックも買いました。欲張りな少女のお小遣いは全部なくなりましたが、彼女は満足感にひたっていました。
 翌日、その光景を偶然見たクラスメイト達が彼女に話しかけました。
 その日、少女に友達ができました。

 
 彼女の高校が決まりました。
 その頃、友達は前に出来た子たちだけでした。少女は少し不満な気持ちもありましたが、居るだけ素晴らしい事だ、と自分を納得させました。 
 合格通知が届いた翌日、学校に不審者があらわれました。不審者は前々から学校に忍び込んでいたらしく、爆弾を何か所かに設置していました。
 不審者は言いました。「可愛い女の子を体育館倉庫に集めろ! そしたら爆弾は解除してやる」
 恐怖に怯えた生徒達の一部が、可愛いと評判の女子を集めました。先生たちは、それを止めようともせず、ただただ黙認していました。集められた少女の中には欲張りな少女も居ました。
 不審者は、飢えた顔で、集められた女子達を舐める様に見ました。女子達は、これから自分が受けるであろう痛ましく惨たらしい事への恐怖で涙を流していました。
 しかし、欲張りな少女は全く動じていませんでした。
 むしろ、彼女は笑っていました。
「よ〜し、皆服を脱げ。そうすればお前達は殺さないでやる。まぁ学校は爆破させるけどな」
 皆、悲鳴を上げ、体育館倉庫から出ようとしました。しかし、外側から鍵が掛かっており、逃げられませんでした。
「オラオラ!! 抵抗するとお前らも殺すぞ! 早く脱げって言ってんだよ!」
 不審者はナイフを取り出し、女子らを脅しました。皆凍りつきました。
 その中で、欲張りな少女だけが服を脱ぎはじめました。
「おっ、素直で良い子だな」男は汚い笑みを浮かべます。「君は絶対に殺さないであげるよ。君だけはね」
 欲張りな少女はその言葉を聞いた時、眉をぴくりと動かしました。
「私だけ?」
「そうだ。君だけだ。まぁ他の子も脱いだら殺さないであげるが……」
「嫌だわ」
「あ? ――おわっ!」
 欲張りな少女は、脱いだブラウスを不審者に投げつけました。不審者はブラウスで顔を包まれ、一瞬隙を見せました。
「私だけじゃ足りない。全員助けなさいよっ!」
 少女はやはり欲張りでした。
 近くにあったバスケットゴールを出す時に使う棒状の器具を手にとり、思い切り振りきりました。Yシャツをやっとこさ顔から取った矢先、不審者はフルスイングで放たれた棒で頬を殴られ、その衝撃で壁に勢いよく頭をぶつけ、気絶してしまいました。
 ブラウスを拾い上げ、着直す少女に、女子達が涙ながらに笑顔を浮かべて駆け寄りました。皆、目を輝かせて欲張りな少女を称え、感謝していました。
 体育館を出て、事情を先生に説明すると、先生たちは皆身勝手ながらも感動し、他の生徒達もその話を聞いて、欲張りな少女にねぎらいの言葉を投げかけました。いつの間にか、少女は胴上げされていました。
 

 少女は高校生になりました。
 しかし、欲張りな性格は依然として変わっていません。変えるつもりもないようです。
 恐らく、神様が「君一人だけの願いを叶えてあげよう」と言ったら、彼女は言うでしょう。


 ――私だけじゃ足りないわ。
 
 ――全員の願いを叶えなさい。

2009/11/03(Tue)23:56:07 公開 / 湖悠
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■作者からのメッセージ
 珍しくライトな感じです。こういうのもありかなぁ、と思って書いてみました。とてもしつこいです。“欲張り”って言葉何回使っただろう(汗) 
 祭りムードはまだ続いてますね。こういうのは大好きです^^

 11月03日:訂正。

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