『救いきれぬもの』 ... ジャンル:ショート*2 ホラー
作者:もげきち                

     あらすじ・作品紹介
少年の顔は苦痛で歪み、ただ自分を救ってくれる「お兄ちゃん」の存在を待ちわびていた

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 嘘つき。僕はもう大丈夫だって言ったじゃないか。
 なんだよ、そんな不思議そうな顔をして僕を見たってそうはいかないからな! 覚えが無いなんて言わせないよ。
 ほら、見てよこれ。僕、また怪我してるじゃないか。もうこんなに血が流れてるじゃんか。
 ほら、僕の腕、また捻じれて訳が解んない形になってるじゃん。
 ああ、なんだか顔まで引きずられたような痛みが走ってきたじゃないか!
 あああ痛い。痛いよ。痛みが止まらなくなってきたよ。
 ああ、ほら今度は足が千切れちゃった。酷いよ。
 このままだとやっぱり僕は死んじゃうよ。
 思い出したかい? 思い出したよね?
 この前お兄ちゃんは僕の怪我を治せるっていったよね? もう絶対に大丈夫って言ったよね?
 じゃあなんで、また僕はこんな大怪我をしているの? どうしてまた僕はここに居て、僕の下に真っ赤な血の水溜りが出来上がってるの? 
 ねえ、やっぱり僕はこのまま死んじゃうの?
 それは嫌だな。絶対嫌だな。
 もし死んじゃうんだったら……
 うん。もし死んじゃうんだったら、僕は死ぬ前にいろんな人を道連れにして――
 え? 何? 解った? また治してやるって?
 なんだよー、初めからそう言ってくれればいいのに。治るんだったら僕だって大人しくしてるよ。
 ああ良かったー。これでもう安心だね。
 なに? すごく嬉しそうだって?
 うん、そりゃそうだよ。この怪我が治るんだったら嬉しいに決まってるじゃないか。
 明日にはいつもどおり学校行って、ナオトやカズノリと消しゴム飛ばしの決勝戦やるんだ。僕の防御型消しゴムの鉄壁の守りで全部弾き返して優勝してやるんだから!
 他にも妹と約束してたゲームの攻略方法教えてあげないとな。お母さんには――
 なんだよ、僕が話してるのに急に遮って。
 あ、ああ。そっか傷薬を塗ってくれるんだね。ごめんごめん。
 ああ、温かいなぁ。この傷薬。あ、すごい。腕が元に戻った! 顔もいつもどおりだし、足もくっついたよ! 
 よーし、これでもう大丈夫なんだよね? 
 なんだよ、お兄ちゃん。そんな自信の無い顔して。
 大丈夫。やっぱり僕はお兄ちゃんを信用するよ。
 え? そろそろ行った方が良いって? うん。そうだね! 本当お兄ちゃん怪我を治してくれてありがとう! 
 じゃあねー! バイバイ☆ お兄ちゃんこそ頑張れよーっ!
 


 あれー? ここは何処だろう? 
 ああ、ここはまたあの道路じゃないか。
 僕はなんでまた此処に立っているんだろう? さっき怪我治してもらったのに……
 あああ、ああああああっ
 何で? 何で? 腕が。腕がまた捻じ曲がって来たよ?
 わ、また血が一気に噴出してきちゃった。
 ああ、顔が引っ張られて――痛い。痛い。足が、足が千切れちゃう。
 お兄ちゃん、お兄ちゃんはどこ? 痛い。痛いよ。
 お兄ちゃん! お兄ちゃんどこいったの?
 嘘つき! 僕、また怪我しているじゃないか。
 酷いよ、また騙したんだ。出てきてよお兄ちゃん。
 早く僕の怪我を治してよ。
 何処にいるの? 出てきてよ。
 出てこないと……でテコないト……このまマだトぼくハ――

 ミンナヲノロイコロシチャウヨ?

――――――――

「おい。お呼びが掛かってるぞ、お兄ちゃん」
「ええ……」
「でどうするんだ? お兄ちゃんはまた優しく介抱してあげるのかい?」
「すみません……師匠の言う通りでした。もうダメです。限界です。俺が希望見せるたびにどんどん要求が強くなり悪霊化してきているのを素直に認めます。強引に浄化するしかもう手立てが有りません」
「そうだな。やっと自覚したか。ならこれ以上悪化する前に消すべきだ。躊躇うなよ? お前が躊躇うと、結局生きている人々に害を及ぼすからな――って、ほらお前、口では厳しいことを言ってるがまだ強引な浄化に迷ってるな。だから初めから甘ったれた感情は捨てろとあれほど言っただろうが! この原因を作ったのはお前だと自覚しろ!」
「解ってます。言われるまでも無く解ってますよ! あーもうっ、気分が悪い。あいつ、ただ認めたくないだけだったんですよ? トラックに跳ねられて自分が死んだことを。そして普通にダチと遊んで、妹の世話して――そんな日常に戻ることを期待しているだけだったんですよ? それを俺が……俺が生半可な同情で悪霊化させてしまって、しかも手に負えなくなってきたからって、今度は手の平を返して無理やり浄化だ? 何やってんだ……俺は……俺は自分が情け無い」
「ただ悪いだけの存在だったら気が楽なんだろうがな……残念ながら、お前はそんな単純なもんじゃない、因果な稼業に足を踏み入れているんだ。業を背負い、苦しみながら、それでも前をしっかり見て行くしかない」
「はい」
「さぁ、理解したならとっとと行って来い。後味が悪かろうが、気分が悪かろうが、それが俺達の――お前の選んだ仕事だ!」
「……はい。行って来ます……」

――――――――

 あ、お兄ちゃんだ。やっときたね、遅いじゃないか。待ってたんだよ。
 ほら、見てよこれ。
 嘘つき、また僕はこんなに大きな怪我しちゃったよ? 
 どうしてくれるの?
 ――って、あれ? どうしたのお兄ちゃん。
 そんなに怖い顔して? 
 大丈夫? 




2009/06/15(Mon)09:36:45 公開 / もげきち
■この作品の著作権はもげきちさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
おひさしぶりでっす。気がつけば前回の投稿から2ヶ月近くの歳月ががが。
では最初にお礼を! 読んで下さってありがとうございますーっ!
「読もう」というエネルギーを割いて頂けた事だけで感動大激情です。

今回はショート、そしてちょっと実験的な書き方を試してみました。
これぞ台本的という感じになってしまい……小説の形態として読んでいただけるか心配ではありますが、冒険しすぎたかな(汗
話は、かなり断片的です。やるせない、因果なものを出せていたらいいなぁっと思ってます。

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