『久しぶりだな、元気にしてたか?』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:六六                

     あらすじ・作品紹介
夢だった。

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 よう、田丸。久しぶりだな、元気にしてたか? なんだよつれないな。せっかく昔の先輩と再会したってのに、なあ? 目くらい合わせろよ、ほら。……何だよ、お前そんなオレのこと嫌いだったの。じゃ、いいよ。センパイせっかくお前の顔見に来てやったのに、お前って奴はそうやって、自分の過去とはオサラバしたいタイプだったんだそうなんだな。へーんだ、いいよいいよ。お前と仲良かったって勝手に思い込んでたバカな年増のお兄さんがちょっと顔のぞかせたくらいに思ってろ、このことは。忘れろもう、忘れちまえ、ほら! オレ今めっちゃ恥ずかしいから、今すぐ忘れろさっぱりと!
 


 それともお前……本当に忘れたのか? ホラ、お前が高校入学したての頃からさあ、散々世話になったろ。オレが。えへへ。
 帰り道、お前んちまで無理やりついてく途中で、はしゃぎすぎたオレが道路の側溝に足はめたの覚えてるだろ。いやあ、あの時は大変だった。丁度毛虫の季節だったもんな。足突っ込んだ先に毛虫が密集してたもんな。あれは堪らなかった。毛虫まみれの足でお前んちあがろうとしたら、お母さんに露骨に拒否されたしよ。冷てえな、おまえの母ちゃん。アレだ、いつも冷蔵庫の中にでも入ってるんだろ。毎日冷蔵庫の中で体育座りしてもちもちとマーガリン貪ってるから、あんな……おっと、やべーやべー。聞こえちまうな。
 

 ゲームとかもたくさん貸しただろ。しかもお前、五本貸したうち四本はオレのデータ消してるし。いつもうるさいくらい言ってたじゃねえか。データは上書きするんじゃなくて、新規作成しろって。その頃のお前、オレの中で「データクラッシャー」の異名を誇ってたぞ。自分でつけといてなんだけどちょっとカッコイイ名前だったから、正直羨ましかったんだぞ。いくら枕を涙で濡らす夜があったことか……あ、ゲームじゃなくて、異名の方な。一生懸命考えたんだけど、どうしても浮かばなくてさ、悔しくて悔しくて。オレの無駄なネーミングセンスを呪った日々。ゲームはアレ、どれも全クリしたことねえから、実は。飽きっぽくて。気にしなくて良いよ。でもやっぱ気にして。実は地味にへこんでたから。


 でもお前ったら、オレが遊びに誘ったら大抵断るんだもんな。家族とドライブに行くとか、家族との旅行があるからとかで。生粋のファミリーコンプレックス、略してファミコンだったもんな、お前。いっつも家族とどっか出かけやがってよお。センパイの誘い断るくらいだぜ、よっぽど大好きなんだな。もはやスーパーファミコンと言っても過言ではないぞ。スーファミだスーファミ。いや、多分良いことなんだろうけど……オレが寂しかっただけですすみませんね! 一方的でホントごめんなさいね! 以上、片想いする女子の気持ちがわかった高二の夏休みでした!


 ……まあね、そんなこといいつつ、オレらだって結構カッコイイ話とかさ、してたじゃん。友達の前じゃ絶対泣くな! なんて勝手に条約みたいなの作ってさ、盛り上がったなあ、アレ。お前辛気臭いの嫌いだったもんなあ。うん。ところで結局いくつ作ったっけ、条約。コッペパンはちぎって食べるな! から、鏡の自分に正段突き! とかわけわかんないことまであった気がする。鏡に正段突きは危ないだろ。本気で。コッペパンはえっと、ゴメン、オレやってたわ。女々しくて悪かったな。だってそのほうが食べやすかったんだもん。お行儀よく食べなさいって母さんに言われてたもん。マーガリンとジャム重ね塗りも許してくれないような母さんだぜ、コッペパンにかぶりつくなんて許すわけねえだろ。あ、オレマザコンじゃねえよ、言っとくけど。信じて。


 あ、そうそう、花持ってきたんだった。ほれ。変な意味じゃねえぞ。今日花買ってちょっくら愛の告白しようと思ったら、なんかそれもオレの勘違いだったみたいであれよあれよとストレートに撃沈して、せっかく買った花束ヤケになって駿河湾に投げ込もうと車を走らせたんだけど、どういうわけかここにたどり着いちゃったからもういいかってついでだついで。綺麗だろいいだろ。和むだろ。オレはなぜか涙出てくるけどな。おっといけねえ、泣いちゃいけないんだった。
 なあ、オレら友達だもんな。なぐさめてくれよ。そのために来たんだ。決して、久しぶりにお前の顔みたいなとか思ったんじゃなくて、悲しくて悲しくてたまらないこの傷ついた心を誰かに癒して欲しく……あれ、なんか視線が痛い。背後からものすっごい視線が。んー、空気読んでないオレが悪いんだね、多分。スミマセン皆さん。勘弁してください。もうちょいで話終わらせますんで。もうちょっと辛抱してください、ここは。オレまだ話したい事たくさんあるんです。あ、お母様まで。すみません。冷蔵庫でマーガリン貪ってるのはオレのほうです。大好きです、油脂とか。だからもうちょっと、もうちょっと待ってください。ね?


 ふー、なんとか落ち着いていただけた。でもそろそろ皆さんお怒りのようだから、もう思い出話とかもすっとばして、単刀直入に言うな。
 

 絶交するわ、オレ。お前と。
 

 腹括ってたんだよ、実は。もうね、お前にはオレ必要ない。オレには、じゃねえよ。お前には、だ。ほら、今だってお前、オレと目を合わせようともしねえじゃん。キライだろ、オレのこと。実は鬱陶しくてたまらなかったろ。ウザイもんなあ、オレ。会った人十人のうち九人は、あからさまにオレを「どっかいけよ」って目で見てくるもん。大丈夫、自覚はある。
 それにさ、オレお前の家族の皆さんにも嫌われてるみたいだし。お母様なんて、見てみろよ。オレを視線で刺し殺さんとばかりだぜ。いつか貫かれるよヤバイよ。もしこれでオレ死んだら、刺殺扱いなのかな。どうしよう。……と、また話がそれた。あっはは、オレウゼェ。



 いや実はだね、オレ明日海外に飛ぶんだよ。それがロスとかだったらカッコよかったんだけどな。残念ながらレソトだ。どこの国なんだろうな。オレもしらね。親父がよ、なんかそこでちっさい工場やってたらしくて。で、なんか知らない内に死んだらしくて。で、なんか知らんけどオレそっちに行くことになってて。いや、オレもわけわかんなくてな。正直。でも別に日本がそんな好きだったわけでもないし、新境地ってなんかカッコ良くね? って知らない人からの電話で冗談混じりに言ったら、いつの間にか行くこと決まってた。すげえだろ、このなし崩しっぷり。まあ行くけど。
 お前はもう十分大人さ。オレがいなくても。ていうか基本的にオレがいる必要ないわな。お前立派だった。出来る子だって信じてたよオレは。

 というわけで、ここ日本での唯一の親友……って思ってた田丸君だけが心残りだったので、そこだけ断ち切りに来ましたー! 以上!!
 





 ――よし、これでオレとお前はもう友達じゃねえな。はあ、やっとだ。これでやっと……――。







 思いっきり、泣ける。






 





 家族と行ったドライブで事故にあい、小さな妹を守ろうと身をはった田丸君の葬儀は、最初は静々と、その後部分的に明るく、最後は子供のように泣きじゃくる声で、結果的に中々にぎやかに終わりました。
 田丸君のお母さんは最後まで泣かないよう歯を食いしばっていたようですが、最後、男の人の言葉で涙が溢れてきてしまいました。涙を零さないようにと瞬きすらこらえていた瞳は、真っ赤になっていました。
 棺の一番上に置かれた花束は、とても質素で、他と比べたら少々見劣りはしていたけれど、とても暖かく感じました。
 自称、田丸君の大親友だった男の人は、最後、出棺のとき、がらがらになった声で叫びました。

「見送りに来て欲しかった。空港で恥ずかしげもなく抱き合って、わんわん泣いて、思い出話して、俺ら友達だよな、ああそうだとも心の友よ、みたいな会話したかった。ちっさな夢だった。だからこっちから会いに来てやったぞ。心の友よ。勝手に一人でわんわん泣いて、お前の棺抱きしめて、勝手に夢叶えたぞ。ごめんな、ありがとう。今まで一緒にいてくれて、ありがとう」
 
 田丸君には、聞こえていたでしょうか。ジャイアンか! とつっこんでくれたでしょうか。
 

 


 いつものように、目を真っ直ぐ見て、楽しそうな笑顔を浮かべて。
 


2009/05/09(Sat)12:34:43 公開 / 六六
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■作者からのメッセージ
こんにちは。またまた失礼します。六六です。
今回は書き方を変えてみました。あからさまに誰か様の影響みたいなものをひしひし感じますが……;;
お葬式でのセンパイの独白です。これくらいウザいひとが友達に一人くらい欲しいです。
いつも淡白な文ばっか書いていたので、たまにはと思いまして。そしてこれが面白いこと面白いこと。あっという間に勢いで書いてしまいました。
おかげで内容のぐちゃぐちゃっぷりったら。見直しに見直したのですが、自分では判断し切れなくて…;
今回もできましたら厳しくご意見くださると嬉しいです。自分で書いたものの判断をつけるのって、物凄く難しいのだと、今知りました。(遅

楽しく書けました。ちょっとでも楽しんでいただければ幸いです。

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