『Vampire−0−』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:ウィッチ                

     あらすじ・作品紹介
殺されそうになった記憶の無い少女と、御伽噺に登場するバンパイアの少年を中心に紡がれる狂気と別れの物語

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 世界とは理不尽の塊であると、何かの本に書いてあった。
昔に読んだ本なのだから、少し曖昧なのは仕方がない。
人生という局面において、世界というものは、私達生物にとって
少し意地悪で理不尽な事を押し付けてくる。
そう本には記されていたのだ。
真理だと思った。
だから、そういった昔の思い出や出来事が今、走馬灯のように
頭に流れ込んでくるのは必然的。
私の頭に走馬灯が流れ込んでいるという事実は。
そして、走馬灯のように流れているのに、私自身には
過去の記憶が、無いということも。
だって、どうして目を開いたら、
私は十字架に縛り付けられている状況なのか説明を欲しい。
 
 Vampire−バンパイア−

さぁ、これは実に現実から逃げ出したい気分だ。
何故私は十字架に縛り付けられている?
此処は何処、私は誰、何故体が痛む。
色々と思考を巡らせ、ふと気づけば私の体はお世辞にも
少ないとは言えない量の傷があった。

「痛っ…」

傷というものは、自覚すると痛みが走る。
それは脳が傷が出来ていると感知してしまうからだ。
確か、そうだった気がする。
どうも記憶が曖昧で困った。
周りを見渡せば、頭に黒い袋なのか覆面なのか、よく分からない
被り物をした大男が2人。
手に持っている大きな斧はきっと気のせいだろう。
そして広場の真ん中に立っている、エメラルド色の綺麗な髪の色をした
綺麗な女性。
服装を見ると、何処かの教会に居そうな人だ。

「(…状況が、全く読めない)」

女性の服装からして、此処は信仰がある場所だろう。
しかし、では大男の説明は?
つくはずがない。
神に仕える者が何故大きな斧を持たなければならないのだ。
というか何故上半身が裸なんだ。

「苦しまず、殺してあげて、下さい」

か細く女性が小さく呟いた。
女性の言葉を合図に、大男が斧を片手に近づいてくる。
私は、殺されるのか?
何故私が、殺される?
何故私の命があの女性に行く末を決められているのだ。
待て、待て。
私は記憶が無いんだ!
声は、既に枯れ果てていた。
記憶が無くなる以前の私は、随分と喉に負担が大きい
叫び声を上げていたらしい。
だが、そんな冷静な分析をしている間にも大男は近づいてくる。
だんだん、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

「(私は…死ぬ、のか?)」

体全身から力が抜けていて、抵抗も出来ない。
本当に、少し待ってくれ。
誰か、説明をしてくれ。

「ごめん、なさい」

謝るくらいなら、何故殺す?

「来世では、神のご加護がありますように」

どうして、今その神とやらのご加護がないのだ!

「死にたく…ないっ…!」

そんな私のありったけの叫び声すら、掠れ過ぎて
声になったのかすら疑問だった。
嫌だ嫌だ。
脳が危険信号を発している。
息が荒くなっていく。
体が、頭が、死にたくないと伝えている。
視界がチカチカしてきた。
嗚呼、死にたくない。
私は死にたくないのだ!

「ぃやっ…だ…?」

ふと、視界が金色に染まった。
まさか、月が目の前にやって来たのか?
なんてぶっ飛んだ思考に走った自分が激しく恥ずかしい。

「…写真と同じ人物、か」

耳に何処か心地よいテノールの声。
よく見ると、私の目の前に居るのは人だったようだ。
少し濁ったな色をした金色の、少し痛んでいる髪。
かなり前髪が長く、見えるのは口元だけ。
病気的に白い肌。
服装はラフな感じで、動きやすそうだが、どこか品を感じる。
開いた口から見えた、少し鋭い歯。
風に吹かれて見えた、赤い血の色をした、瞳。

「バンパイ、ア…?」

昔読んだはずの、御伽噺の登場人物。
少女の血を吸って生きる、醜い生き物。
何故物語のキャラクターが此処に居る?

「世間知らずって訳でもないのか」

否定しない所から、彼は本当に御伽噺に登場するバンパイアなのだろうか。
しかし、物語と容姿の特徴が同じ。
金髪に赤目、雪のように白い肌。
本当に、実在していたのか。

「…話聞いてるのか知らないけど、ちょっとお前の身柄確保するから」
「えっ」

どうして、とか何で、とか色々聞きたい事はあるが、生憎と
喉は私の思考に反して機能してくれない。
バンパイアの彼は私の腕と足と十字架を繋ぐ鎖を器用に外していく。
今更だか、どうやって彼は宙に浮いてるのだろうか。
羽根は、生えていない。
色々と考えたが、今は関係無いだろう。
一瞬、彼に抵抗して此処に残る道を考えたが、それは無理だろう。
寧ろ彼は理由は分からないが、殺される所だった私を助けてくれたのだ。
信じても、良いのだろう。表面上は。

「チッ。外れにくいし、おいでなさったか」

舌打ちと共に彼は一瞬のうちに鎖を何かで破壊し、
私は横抱きにして一気に空中を上昇する。

「!」
「…危なかった」

彼の言葉に釣られて下を見ると、そこには今まで私が居た場所に
斧を振り下ろした跡があった。
それは凄まじいもので、彼に助けられなかったら私は潰されていただろう。
何と儚く脆い命なんだろうか。
今更、ゾクリと背中を寒気が襲ってきた。
音で駆けつけてきたのか、ゾロゾロと大男が姿を現す。
やはり私が思っていた通り、此処は信仰を司る場所。

「きょう、かい」

もう大男などどうでもいい。
此処に私が居ては、私は死ぬ。
それだけだ。
そしてその危機的状況から救ってくれた、救ってくれるのはきっと
今私を抱きしめている彼だけなのだろう。

「しっかり捕まってろ。まずは、この教会から脱出しなきゃな」

そう言って、歪んだ笑みを浮かべた彼の笑顔と共に、
風に吹かれて見えた赤い瞳から、何故か私は目を逸らせなかった。
思えば、これが始まりだったのだろうか。

2009/05/01(Fri)21:11:34 公開 / ウィッチ
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■作者からのメッセージ
今晩は、そして初めまして。
ウィッチと申します。
ちゃんとした小説は今回初めて書かせて頂きました。
見苦しい点や、表現として不適切な言葉があったりすると思いますが
指摘して貰えれば幸いです。
そして少しでも楽しんで頂けたらと思います。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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