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『死神商売』 ... ジャンル：未分類未分類 作者：杏子: １２３４５６７８９101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
　ああ。貴方、死んじゃったんですかそうですか。あの、一応仕事のうちなんで言っておきますね。ご愁傷さまでした。

　それにしても、こんな早くに死んじゃって残念ですね。貴方もお若いんだから、浮いた話のひとつやふたつ、あっても可笑しくなかったでしょうに。なんてったって、向こうは『浮き世』ですからね。どうせなんでもかんでも浮かれてるんでしょ？　ああ。そうでもないんですかそうですか。
　浮いた話ねえ。まあ、あっても可笑しくないってのは、裏を返せばなくても可笑しくないってわけでして。別にどうってこたァありません。話を振っておいて恐縮ですが、死人の思い出になんか興味ありません。　
　え？　ひどいって？　馬鹿言っちゃいけませんよ貴方。そのくらいドライに仕事しないと、死神なんてやっていけませんよ。
　ああ。申し遅れました。わたくし、死神でございます。あの、でっかい鎌はちょっとメンテナンスに出してるもんで、手元にありませんが本物の死神です。

　そんでもってここは、あの世とこの世の隙間です。
　あっちがあの世、死後の世界の扉でして、ほら、いかにもあの世って感じの扉でしょ？　あ。まだ開けちゃ駄目です。ドアノブ外れやすいから、気を付けて下さいよ。後で怒られるのはわたくしなんですから。
　それであっちの扉がこの世、貴方がさっきまで生きてた世界に繋がる扉でございます。どんな扉に見えますか？　え？　至って平凡な扉に見えますかそうですか。そりゃ貴方の、この世に対するイメージが具現化して見えてるんです。
　へえ。平凡ですか。くそつまんねえ生き様だったんでしょうね。おっといけない。失言でした。そうですね、アレですね。平凡が一番ですよハイ。

　え？　あれですか？
　あれはお土産売り場です。冥土の土産ってね。純然たるブラックジョークです。はーい笑ってくださーい。
　ああ、機嫌損ねないで下さいよ。なんならペナントくらいなら買ってあげますよ。あ、いりませんかそうですか。

　この世への扉を開けるとどうなるかって？
　生き返れますよ。扉の鍵はわたくしが持ってます。鍵が閉まってるんです。
　ほら、フグの毒にあたって死んじゃった人、たまに生き返るでしょ？
　あれは扉開けて、この世に帰ってきたんですよ。フグで死んだ人のみをあの世に誘導する、通称『フグ係り』の死神が大変おっちょこちょいでして。しょっちゅう鍵を盗られて扉開けられちゃうんです。あいつはそろそろ左遷ですね。ざまあみろ。
　ああ。わたくしに限ってそんなヘマは致しませんので、観念して成仏して下さいな。

　え？　天国？　そんなのあると思ってたんですか。貴方も存外、可愛らしい人でございますね。
　六道輪廻ってご存じですか？
　地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上、の六つの世界がございまして。さしずめ貴方がさっきまで生きてたのは人間界です。ラッキーですね。六つの中じゃマシな部類の世界でしたよ。
　生きとし生ける輩はみんな、この六つの世界をぐるぐる廻ってるんです。
　ここに死んで、かしこに生まれて、巡り巡って窮（きわま）りない。なんて、どこのどいつが言ったものだか知りませんが。

　あの世の扉を開けたら、すぐに来世に生まれ変わります。
　先程言った六つの世界のうちの、どこの世界に生を受けるかはダーツ投げて決めます。『地獄』に当たれば地獄にいきます。『天上』あたりを狙えばいいと思いますよ。
　本当は、貴方のこの世での業で決められるんですがね。来世の貴方は今の貴方の業なんて覚えちゃいないでしょ？
　そんなの理不尽だから、今年度からはダーツで決める方法が採用されました。提案したのは、わたくしです。
　得意ですか？　ダーツ。ああ、やったことない？　まあ、なんとかなるんじゃないですか。知った話じゃないです。

　あの、決して身の上話が聞きたいわけじゃありませんが。死人の身の上話なんて大嫌いですが。
　その指輪、結婚していらっしゃるんですか？
　へえ、お子さん生まれる予定もあるんですか。顔見れなくて残念ですね。
　あ。いけね。身の上話は聞きません。情が移るとやっかいですから。いえいえ、こっちの話。
　へえ。奥さん、身体弱いんですか。じゃあ出産のとき心配でしょう？
　あっ。やめてください。もう身の上話は聞きません。わたくし、血も涙もない死神ですから。こないだ血尿出しましたが、血も涙もない死神でございます。だから、そんな身の上話聞かしたって無駄ですよ。こっちも生活かかってんだ。生き返らせてなんてあげません。
　
　え？　貴方たち駈け落ち結婚なんですか？　親とも縁が切れてる？　頼れる知り合いとか、いないんですか？　アンタ、お腹の大きい奥さん一人残してどうするんですか。本当人間ってやつはこれだから。
　いや、生き返らせてはあげませんよ。この世への扉の鍵は渡しません。断じて渡しません。
　もうやめましょう。こんな話。わたくしプロの死神ですからね、こんな情に流されたりしませんよ。でも、ちょっと、もうやめときましょう。

　あの、最後にひとつ聞いていいですか？　お子さん、いつ生まれる予定なんですか？

　今日！？　アンタそんな大事な日に何くたばってんだ！　馬鹿が！！　こんなときに、奥さんの傍にいてやらないでどうすんですか！？
　いや、生き返らせてなんかやりませんよ。死神だって商売です。甘いこと言ってられません。鍵は渡しません開けません。絶対渡しません。

　あ。トイレに行きたい。ちょ、膀胱炎なんでトイレ近いんです。すみませんがトイレ行ってきますね。

　

　あの、便器に落っことすといけないんで、鍵、預かっててもらえますか？

　　ＥＮＤ．; 2009/03/30(Mon)21:40:02 公開 / 杏子
■この作品の著作権は杏子さんにあります。無断転載は禁止です。; ■作者からのメッセージ
どうも！
御無沙汰しております、杏子です♪

えー、今回はですね、一度はやりたいと思っていた死神ネタでした笑。
いつか続編が書きたいくらいに、自分でも気に入った設定なのです実は笑。
死神やつは左遷されてしまうんでしょうか？ ^ ^
フグ係りはともかく、主役の死神さんは普段はやればできる子だから多分大丈夫です（今更何設定？笑）

あの世の話を書くなら、とことんバチ当たりな感じにしようと思って書いたらこうなりました。本当は、『冥土喫茶』とかのくだりもあったけど、なんとか思いとどまりました^^笑
ではでは！いつもながらに、バカらしい作品ですが、どうか感想を頂けたら嬉しいです^^; 作品の感想については、登竜門：通常版（横書き）をご利用ください。