『君を失う二秒前。』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:杏子                

     あらすじ・作品紹介
命の尽きる『2』秒前。そんな儚い時間の中にはきっと、数え切れないほどの重思いが散りばめられている。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
君を失う二秒前。たったの二秒で言えることなんて、たかが知れていた。



『煙草減らせ、飯を食え。リップクリームちゃんと塗れ。袖から手ェ出せ。
 ベッドで寝ろ、夜に寝ろ。床で寝るな、朝に寝るな。
 たまにでいいから笑え。笑った理由が、俺に全く関係ないことでも構わないから。笑っとけ。
 あとはでっかい犬とか飼えば良いよ。少しは気が紛れると思うんだ。だけど、ぬいぐるみはだめ。動かないし鳴かないから、お前に向いてない。
 熱帯魚もだめ。馬鹿みたいに綺麗な生きものってだいたい薄命だから、お前が飼ったら、きっとすぐ死んじゃうから。
 猫だって向いてない。似たもの同士はうまくいかないって言葉があるから、多分お前と猫はうまくいかない。
 本当はでっかい犬だってなんだって、お前には向かねえんだよ。だって、お前の隣にいて一番さまになるのは俺だったりしたりしませんか?』

 君を失う二秒前の、この運命、どうにかこうにか方向転換できやしないだろうか。

『ねえ、俺と逃亡しちまったりしませんか?
 追っ掛けてくる運命に中指立てて、逃げて逃げて逃げて、適当に借りたボロアパートに逃げ込もう。部屋の壁紙は全部、すみれ色に変えちまおう。半端に可愛くて綺麗なすみれ色が、もしかしたらお前に一番似合うんじゃないかってだけの理由で。恋愛してる馬鹿特有の脳内麻薬が、俺にそんなこっ恥ずかしいことを言わせていやがるに違いない。
 それでそれでとにかく、朝にはおはようのチューして。夜には酒飲んで、よった勢いでなんだかとんでもないことして。クリスマスにはちゃんと七面鳥を一匹、ぶっ殺そう。
 駄目になるくらいに甘やかして、社会適応力ゼロにして。俺にしか通用しないようなわがままばっかり言ってれば良いんじゃねえの? 

 だから神様、君を失う二秒前のカウントダウンなんか、止めちゃってください。世界中が君を失うそのときだって、俺だけは君を失わないつもりだから、』

 ――――そんな、散々考えた言葉のひとつも言えずに、君を失う二秒前。

 ただ立ち尽くして、一秒、二秒。

2009/03/14(Sat)19:44:53 公開 / 杏子
■この作品の著作権は杏子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、杏子というものです!
この作品は、“二秒”の短さとか喪失感とかを出せたらなーと思って、短く短く唐突な感じに書きました。
死んでしまう彼女、です。死にに行くのを見送る感じ。
別れ際、ドアが閉まる寸前の一秒、二秒だったり。
立ち尽くす自分の横を擦り抜けて“君”が去ってくときの、すれ違う瞬間の一秒、二秒だったり。
そんな別れ際の、失う寸前の一秒二秒の感覚を、読み手の方がそれぞれ想像できたらいいなと思いました(あれ? 願望?

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。