『月夜のフィナーレ、君はいない』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:せれん                

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               漆黒の空に浮かぶ月からの光が、己の部屋を照らし。
                  固い万年筆が、優しく指に沈んでいた。





『お元気ですか。 私は、昔と変わらず……』

そこまで書いた途端、視界が滲んだ。ああ、まただ。
彼に手紙を書こうとすると、どうしても泣いてしまう。心の中で小さく弱虫、と己を罵った。
目から雫が零れ落ちて、白い便箋を濡らしていく。
未だ零れ落ちる涙を拭いもせず、その紙を両手でクシャクシャにして、部屋に放り投げる。
ああ、これで何回目だろう。

ふと振り返ると見えるのは、白い、便箋の山々。
どれも、二、三行程しか書いてなく、所々に己の涙が染みている部分があった。
情けない。本当に、情けない。

彼が見たらなんて思うだろう、云うだろう。吐き捨てるように、無様だと云うだろうか。
いや、そんな筈が無い。
私は、彼がとても優しい事を知っている。

だから、離れた時も、そして今も涙を流し続けているのだ。
メールアドレスや電話番号、聞いておけばよかった、なんて今更後悔して。
知っているのはお互いの住所のみ。
だって、逢おうと思えばいつでも逢えたから。今は逢えない、けれど。

ふかふかのイスから降りて、フローリングの床に座り込む。
途端、冷たい感触が脚を刺激する。
何度も何度も涙を拭った手で、白い紙を掴んで広げた。

『最近、逢ってないけど、どうしたの? よかったら、連絡』

そこまでで、文字は終わっていた。
連絡先を教えて貰いたい、とでも書こうとしたんだろう、きっと。
でも、やっぱり字は途切れている。紙には当然、涙の染み込んだ跡。


「ばかみたい……」


違う。
ばかみたいなんじゃない。
ばかなんだ、本当に。
私は彼の恋人でも友達でも無いし、仕事仲間なだけ、で。
彼の居場所を知る権利も、何も、無い。


だけど、どうかどうかお願いです。
今だけでいいから、彼のことを、想わせて。


そう、月に祈りながら、私はまた涙を流した。


  

2009/02/26(Thu)02:19:50 公開 / せれん
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■作者からのメッセージ
こんにちは、初投稿のせれんと申します。

一応見直しはしたのですが、直さなければいけない点が多々ありますと思うので、
よければ誤字指摘や、アドバイスをお願い致します。

文章中の『云う』はわざとですので、ご了承下さいませ。

 

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