『風の溜まる場所』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:TAKE(17)                

     あらすじ・作品紹介
日常のどこにでもある小さな「大切」を寄せ集めました。

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 おばぁーが死んだ。
 明日の七月四日に葬儀があるから。通夜はさっき終わった。時間が作れたら、帰って来てくれんか?

 海の見える故郷の実家から、親しくしていた友達に電話を掛けた。
 小、中学校の同級生だった。沖縄の来間島という、歩けば半日もかからずに一周出来る島にある、島で唯一の小さな学校だった。小学生と中学生が、それぞれ六人ずつ。卒業後は、宮古島に幾つかある高校で二つか三つに分かれた。電話を入れたのはその中でも同い年で、番号を知っている相手だった。

 おばぁーは、学校で校長をしていた優しい先生だった。僕達が生まれた時から「おばぁー(おばあさん)」だった。
 母子家庭だった僕は六歳の時に母を亡くしてから、おばぁーが家で育ててくれた。つまりは義理の祖母になる。
 四日前の夜の事だった。中等部の担任だった先生から、切羽詰った様子で電話が掛かってきた。
『瑠璃さん(おばぁーのこと)が倒れたば。一旦こっちに戻って来ぃ』
 次の日の朝、僕は飛行機とフェリーを乗り継いで宮古島に着くと、そこからレンタカーで来間大橋を渡り、里帰りをした。
一晩おばぁーの布団の隣に居た。
「ちゃぬぐとぅなちかさんくとぅがあてぃん、ちゅくー生きよーさい(どんなに悲しい事があっても、強く生きなさい)」おばぁーは声を搾り出して、そんな言葉を紡いだ。
 弱気になっちゃいかんねと、僕は言った。ずっとおばぁーのしわがれた手を握ったまま、いつの間にか朝が来た。日が昇ると同時に、僕はおばぁーが呼吸を止めた事に気付いた。
 悲しみよりも先に、空虚な感覚が押し寄せてきた。例えばそれは、故郷のこの場所に広がる明るい海に潜った時、突然海底が深く、暗くなっているのを見たような、そんな恐怖感にも似ていた。2年前から東京の平凡な大学に通っていて、社会に出るか出ないかの中途な位置に居た僕は、自転車の補助輪を外した直後の少年も同然だった。これから先、おばぁーがサドルの後ろを持っていてくれることはない。
 諸々の式の費用に貯金をある程度下ろしたけれど、金額はたかが知れていた。通夜は最低限のコースと人数、葬儀は葬議場ではなく、おばぁーの願いにより自宅で行う事になった。

「ハイサイ」
 4人が来た。
 高校卒業までずっと同じクラスで、よく一緒にイタズラをしていた大樹(ひろき)。琉球大学に通っているという敬之(たかゆき)。ヤーマス御願の時、いつにも増して人の多い島の活気が好きだった由紀、学校で飼っている犬が死んで、誰よりも長い時間泣いていた、僕の初めての恋人である美里も。
 皆で居間のテーブルを囲んだ。
「久し振りぃ、ちゃーがんじゅー(元気)?」
「勿論。いやー(お前)大学どこ行ったば?」敬之が言った。
「東京さぁ。まあ大して有名でもない平凡なとこば。確か大樹は営業マンで、由紀と美里は、どっちも神奈川の大学だったね?」
「そう。よー二人でご飯食べたりしてんね。なー?」美里は由紀に言った。
「洋二の方の調子はどうね?」
「上手くいってると言ったら、嘘になるば。楽しい事は楽しいけども、正直なとこ、卒業してからの道も曖昧で……」
 ここに戻ると、都会で気を張って話していた標準語を忘れ、皆うちなーぐちの訛りに戻る。
 玄関で音がして向かうと、おばぁーと昔から仲が良く、僕と並んで喪主を勤めてくれる千代さんが来ていた。
「二時ぐれーにしこーいがたが整うぬぐとぅやさからね(二時ぐらいに準備が整うみたいだからね)」彼女は言った。
「あぃー」僕は答えた。

「平気か?」敬之が心配げな顔をした。
「ああ、まあ大丈夫。いつ何があっても不思議じゃないって、前から覚悟しとったば」想いとは裏腹の嘘が口をついた。
「まあ、俺らが生まれた時でもう還暦過ぎとったしなあ」大樹が言った。そして鞄の中を探り始め、何かを取り出した。
「持って来なかったば? これ、二着セットで安かったからさぁ。Lでよかった?」
 喪服だった。確かに、こっちに来る時には考えもしなかった事だったし、買いに行く事すら思いつかなかったので、僕は持っていなかった。
「ありがとう」
「うんやー」
「それに、わざわざ来てくれてさぁ」
「何言ってんね」由紀は笑顔を見せた。
 美里は、笑っているのにどこか泣いているように見える、複雑な表情を浮かべていた。

 自宅の門に佇むシーサーの隣にある塀の前には、大きな花輪が置かれていた。
 島民の殆どが参列していた。島全体をひとつの家族の様な感覚で過ごしているのに加え、皆おばぁーにはうちなんちゅー(地元民)の鏡として世話になり、慕っていた人々だった。
 喪主の僕は、何度も考えて書き、暗記した答辞の言葉を紡いだ。小さな頃にくれた沢山のもの、今も机の中にしまったままのビー玉に、枕元でキジムナーと遊んだ話をしてくれた事、教えてくれた島唄。おばぁーが僕に授けた事柄は、いつでも命そのものだった。そういった事だ。
 棺の中で、よく着ていたお気に入りの服に身を纏い、胸で手を組み、花や島民からの千羽鶴、いつも使っていた食器などに囲まれたおばぁーの顔は、上京する時よりも皺が少なくなっていた。死に化粧のせいだ。

 これは、おばぁーじゃない。

 そう思っている自分が居た。
 目の前に見えているのは、生涯の出来事一つ一つが皺に刻まれ、威厳も愛嬌も醸し出していたおばぁーの顔ではなかった。
いや、そのせいだけではない。ここにあるのは、ただのおばぁーの肉体でしかないのだ。
「じんとーぬいなぐや、てぃーだになてぃ、くぬ島ぬ空と海んかいなてぃ、土と草花に、ひるさんうるに、とぅなかいーじゅん鯨に、在るびちあたらさーなむんむるに姿けーてぃ、いやー見守ろうんでぃさーにうぃが (本当の彼女は、この島の空と海に、土と草花に、広い珊瑚礁に、沖合いを泳ぐ鯨に、在るべき大切なもの全てに姿を変えて、あなたを見守ろうとしているの)」千代さんはそう言った。

「いい式だったな」大樹が言った。実家の縁側から、日の沈みゆく空を眺めていた。嗚咽する人も無く、皆静かな涙を時折頬に伝わせ、そこには悲しみはあったが苦しみは無く、終始穏やかな優しさに包まれていた。
 おばぁーの体も、聳える煙突から煙や灰となって世界に溶け込んでいった。今はただ桐箱の中で、小麦粉のような軽い固体として残っているだけだった。
 電話をくれた先生が、土地と家の権利書を僕に渡した。
また東京に戻らんといかんので。そう言うと、どうするかはお前ん自由さぁ、とにかく持っておけ。そう先生は答えた。
「海でも行かん?」泡盛の入っていたコップを置いて、僕はそう提案した。湿っぽい空気のままでいるのも、そんな雰囲気を何よりも倦厭していたおばぁーに悪いと思った。「花火やら買っていってさぁ。せっかく夏に集まった事だし」
「そうね、いいんじゃない?」美里が言った。他の三人も、すぐに賛成してくれた。

 観光客の来ない秘密の浜辺は既に暗くなり、波の音だけが響き渡っていた。
 買ってきた手持ち花火を分け合って、ひとしきり白砂を照らしていた。
「どうするば? 家の事」大樹は空中に光の円を描きながら言った。「大学もあるだろ?」
「正直、迷ってるば」僕は言った。大学なんて惰性で通っているようなものだし、部屋で話していた通り、就職の事も殆ど考えれていなかった。このままじゃ生きる道が見つからないのは、分かり切った事だ。だからこっちに残ってもいいとは思っているけど、それでもやはり葛藤は起こる。
 こっちに戻ったからといって、何をするのか。結果も残せず都会から還ってきて、顰蹙を買わないか。
 考えながら、波打ち際を歩いた。
 波に削られて、不規則な多面体になった硝子が落ちていた。花火の光に翳すと、あらゆる方向に反射した。子供の頃からなりたかった自分を例えるなら、丁度こんな感じだったと思う。少し歪な形をしているが、だからこそ何処から見ても輝いていられる人。
 見上げてみると、満天の星空の中、くっきりと浮かび上がる白鳥座が全てを寛容に包み込むように翼を広げていた。見つめる内に、今日一日抑えていた感情が喉元までせり上がる感じがして、僕は足元の一枚岩に腰掛け、体を丸めた。
「洋二?」美里が近くに寄り、声を掛けた。嗚咽を聞かれたくなかったのに、彼女は背中から包み込むように腕をまわしてきた。学校に居た犬を弔った日の夜、彼女に僕がした事だった。その時はつくづくキザな事をしたと思って、一人顔を赤らめていたが、実際にされる側になってみると、スッと気持ちがほどけるのを感じた。暫くその状態で居るのを他の三人も気付いていたが、気を利かせてくれたのか、近付かずに花火を続けていた。
 宮古島で高校が別になり、それぞれの進路を歩む事になってからも、僕と美里ははっきりと別れの言葉を交わしたわけでもなく、離れた場所ながら、たまに連絡を取り合っていた。僕は今日までの間、新しい恋愛はしていなかった。夕方にそんな話を二人でしていると、彼女もまたそうだと、少しだけ頬を染めて言っていた。僕達はまだ、切れていないのだろうか。
 やがて気持ちは落ち着き、僕は胸の前にある彼女の手に触れて、戻ろうかと囁いた。美里は頷いて、体を僕から離した。

 砂を浅く掘って、空になった紙のパッケージを入れて火を付けた。乾燥した小さな木の枝なども加えて、焚き火にした。炎は小さく音を立てて、語らう友を柔らかく照らし出した。
「中学の時って、将来なんになりたかった?」敬之は言った。
「よくは覚えてないけど、テレビで見た刑事とかに憧れとったと思うよ」大樹は風で飛ばされてきた新聞紙を更にくべた。少し火が大きくなった。「洋二はあれね、ダイバーになってみたいて言うてなかった?」
「確かそうだった」僕は、よくこの海で素潜りやシュノーケリングをしていた事を、虚ろに覚えていた。
「そういえば、一回皆で遠く行ってみようって、座間味辺りに行った事無かった?」美里が言った。
「あーあったあった。この五人でな。フェリーに乗って着いたんはいいけど、またすぐに引き返したば」
「そう。何か、皆怖くなって。それで帰ると案の定、港でおばぁーやら親やらが待っとって、皆こっ酷く叱られて。敬之とか貯金箱空にして、かなり絞られてたゆうとったば?」
「二針縫う傷が出来たさぁ。引っ叩かれた拍子に窓突き破って」今となっては、全て笑い話だった。

 未来の僕は何をしているのか、そう夢見て意気込んでいたのがいつから、あの頃の僕はと、振り返って語るようになったのか。それは成人したとか、酒や煙草と関わるようになったとか、異性と体の関係を持っただとか、そういう具現的な意味で「大人」になったからではない。境界線は、目の前に広がる海へ引かれている夜の水平線のように、至極曖昧なものだった。
 そうはいっても、僕達は世間から見れば若者で、ロッキングチェアに体を沈めてぼんやりと海を眺める昼下がりを過ごすのにもまだまだ青く、どっちつかずの時を歩いている。徐々に小さくなってゆく火をただ見つめながら、そんな事を考えていた。
「皆、いつ戻るんね?」僕は言った。
「俺はもう明日昼のフェリーで帰るけど、タカは?」
「俺も、午前中に講義あるば。橋を車で転がして来た。洋二とおんなじさぁ」
「そっか」僕は行きしに自販機で買った水を飲んだ。
「私は明後日。バイト先に無理言って休み取ったんだし、折角だから親にも会っときたいば。美里もそうね?」由紀が言うと、彼女は笑った。
「――僕、考えたんだけどさぁ」
「何ね?」言いながら、敬之は汗で貼り付いたTシャツの腋の生地を伸ばした。
「一旦戻った後、またこっちに帰って暮らそうと思うんさぁ」何だか気恥ずかしい事を言っている気分になって、膝をさすった。
「あの家は、おばぁーの祖父さんが買ったやつで、もうすぐ百年経つんよ。勿体無いば? 放っといたら、すぐに汚くなるし」
 皆の顔を見てみると、やはり驚いているようだった。
「別に、都会の生活が上手くいかん事からの逃げとかいうわけじゃないんよ」
 中身の無くなったペットボトルを、ベコベコと鳴らした。
「僕にとって、おばぁーを含めて一緒に暮らしてた人や、この島っていう場所ほど大事な存在っていうのは見つからなかったば。東京に居る間も、いっつもここで暮らしていた日々が頭にあって。おばぁーが居んようになって、自分の存在留まらせてくれるもんは、あの家と島と、ここに居る4人の他にはねーらん(無い)ね。……結局、逃げになってるんかね」
沈黙が起こり、波の音が一際大きくなった。
「……民宿開いてみようと思うんね。さっこー(かなり)大きな家だし、こっちの料理はずっと好きで、離れてた間も、ここの食材で料理したかったりさぁ。富やら名声やら、背負い切れんほどの大きい未来とか、よおけ(たくさん)の女付き合いにも興味は起こらん。ただ生きる意味だけは常に持っときたいば。まあ、今更かって感じかも知れんけどね」
大樹が口を開いた。
「でも料理だけ売りにしとったら、やっぱアレさぁ? なかなか客は集まらんよ」
「うん。だからCカード取って、体験ダイビングのサービスもしてみようと思うば。この辺も、僕ら中学の時に本土と契約して、観光客も少しずつ集まってるみたいだし、その時橋も通ったし。なるべくこの島そのままの雰囲気を保てる環境で、そういうのやっていきたい。だあんかい(それに)、ダイビング続ける内にそっちを仕事に出来るかも知れんしね」
「いいね、それ。洋二のウェットスーツ姿って、何か面白そうさぁ」
 美里が言った。
「あれぇ、そんなの見たいば? 彼氏のピチピチファッションとか」
「ふらー、由紀!」
 もしも、美里が一緒にやってくれたら、きっととても楽しいのだろう。ふとそう思った。
「まあどぅー(自分)で決めた事やっさぁ、ちばって(頑張って)みりゃーいいと思うけど、じゅんに(本当に)出来るば?」敬之が言った。
「――なんくるないさぁ(何とかなるさ)」僕はそう答えた。

 真夜中も近付き、友はそれぞれの家へ久し振りに帰る事にした。体に付いた砂を払い落とし、わざと遠回りした帰り道にある分かれ道で、皆ゆっくりと離れ、名残り惜しむように手を振り合いながら、それぞれの家路に着いた。
翌日とその次の日、旧友は皆元の生活に戻った。僕も計画を実行に移そうと、台風の迫る沖縄を後にした。

 おばぁーの死により不意に開かれた同窓会から、一年。
 僕の人生の歯車は、思いの他調子良く回っていた。
 僕は大学を中退して、来間島へ戻った。実家を民宿にする事に、近所の人々は快く承諾してくれた。
 ダイビングの講習と試験を受けて、Cカードを取得した。必要である食品衛生責任者の役割を千代さんに頼み込んだ後、保健所と消防署で正式に許可を貰い、家の修復作業も完了して、21歳の僕は故郷で第二の人生を送り始めた。
看板には、あの日の浜辺の焚き火の絵と海。宿の名前は、「風の溜まる場所」。いつまでもここに変わらない風を、来る度に懐かしめる空気を。そんな願いの意味で付けた。

 台風との戦いの日々が過ぎ去ったある日、一人の来客があった。
「うんなげー(久し振り)」
「ハイタイ。まだ一年しか経っとらんさぁ」
「僕にとっちゃもう一年ば」
 美里だった。
「今日は潜れるの?」
 いつもは午後1時〜3時、土日はそれに加えてのナイトダイブと、時間は決まっている。
「今11時半でほかに客は二組居てるんやしが、今日のところの希望者は君だけば。いちんだ(行こうか)?」
 僕は自分の、彼女はレンタルしているウェットスーツを着て、荷台にボンベを乗せたワゴンを走らせた。到着したのは、見慣れた青い海。
 ウェイトとエアベストを付けて、波打ち際から美里の手を取って進んでいった。
 点々と見受けられる白化した珊瑚に少し胸を痛めながらも、子供の頃は行った事の無かった深さの海底に広がる、色とりどりの岩や魚の織り成す景色と独特の浮遊感を、彼女は存分に楽しんでいるようだった。

 ダイビングを終えると、家に戻って昼食を作った。テーブルを挟んで向かい合い、僕も食べる事にした。
「あぃー、あんしぇー(どうぞ)。かまんね(食べて)」
「いただきます」照れたように美里は言った。そういえば、彼女には一度だけ、料理を作った事があった。確か彼女はシャワーを浴びた直後の艶やかな髪を背中に垂らして、ソーミンチャンプルーやあしてびちを口に運んだ。
「仕事を手伝いたいんよ」ふと彼女はそう口にした。
 僕は彼女の目を見た。
 3月に卒業したら戻って来る決心をしたと、彼女は言った。
「でも、なんでまたそう急に?」
「就職先の内定が全然決まらないくてさぁ。私昔っからせかせかしたのが苦手だったから、オフィスの雰囲気なんかは合わないし、接客の仕事しようにも、未だに訛りが直らんね。やっぱり、こっちでのんびり生きながら働きたいって思ってさぁ」彼女は照れくさそうに笑った。「贅沢な悩みだって、分かってるんだけど」
「……」
「何ね?」
「いや。でもおじさんとおばさん、そんなん許してくれるか?」
「もう先に話しといたさぁ。そしたら戻って来ればいいって。父さん達にしても、目の届く所に私が居る方が安心ってさぁ」
「そうなん?」
 彼女は頷いた。
 素直に嬉しかった。あの中学校の卒業式で彼女と付き合ってから、7年。曖昧ながらも、途切れる事無く繋がっていられた。そしてこれから先は、いつも傍に感じていられる。そういう事なのだ。
「でも、朝も早いば? 僕は海産物とか仕入れに行くから5時前には起きるし、その後でいいにしても6時ぐらいだし」
「その位は大丈夫さぁ。早起きは得意だし」
「せかせかしたん苦手て言ったば?」
「起きるぐらい出来るさぁ」
「そっか。それじゃあ後は、美里もCカード取らなならんね」
「えー、洋二がダイビングのサービスして、私が料理じゃ駄目ば?」そう言って、彼女はふくれっ面を作った。
「そりゃやっぱり、一人より二人居る方がいいさぁ。大きな団体で来るお客さんとか居たら大変ば」
「そんな大人数は来ないでしょ?」
「分からんさぁ? 美里が看板娘になって宣伝とかしたら、どんどん忙しくなる」
「なーいない」
 そう言うと、彼女は笑ったまま俯いた。

 いつもと変わらない空に、いつものように白い雲が流れる。
 それでも、人の姿や心は移り変わる。
 でも、僕の奥底にある生きる意味が、消える事は無い。


 風の溜まるこの場所で消し忘れた小さな火は、今もまだ、静かに燃え続けている。

2008/08/17(Sun)03:18:25 公開 / TAKE(17)
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■作者からのメッセージ
二作目になります。前作の「待ち合わせ」よりも前に書いたものなのですが、大幅に改稿しました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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