『四季』 ... ジャンル:ショート*2 恋愛小説
作者:てんてこてん                

     あらすじ・作品紹介
四季を題材にした短編。

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 春

 春。といっても春休み前だが、僕は転校した。長く付き合った故郷と友人と別れ、全く知らない小さな村へと移った。名前は四季村。地図にも載らない、“村”と名乗っているだけの区域。

 
「では名前をどうぞ」
 転入した学校は、とてつもなくオンボロだった。木造で、さらにところどころ朽ちている。前に居たコンクリート製の頑丈で真っ白な校舎とは遠くかけ離れていた。
「三井 慶介(みつい けいすけ)です。よろしくお願いします」
 ざわ、と小さな音を1度だけたて、静まり返った。
 好奇の視線が僕にさらに降り注ぐ。
 が、その中で全く僕の方を見ず、窓の外ばかり見ている少女が居た。窓際の一番後ろの席にその子は座っていた。抜けるように白い肌と、肩まで下ろした黒髪と、悲しそうな表情とを身に纏い、物体のように座っていた。
「じゃあ三井君、どこか座りたい場所とかある?」
 老齢のメガネをかけた先生が聞く。はっと我にかえり、あまり大きくない教室全体を見渡した。
「じゃあ、窓際でお願いします」
 反射的にそう答えていた。
「じゃあ、あの子の後ろに座ってくれるかな」
「はい」
 先生に呼ばれた生徒が隣の教室に山積みになっているらしい机と椅子の山から、なるべく新しい椅子と机を運んでくれ、あの子の後ろに置いた。
 その後は何処にでもあるような状態となった。どこから来たの、とかの質問攻めだ。

 授業の開始を告げるベルが鳴り、僕の周りに集っていた生徒は各々の席に戻っていった。
「はいじゃあこの問題を――田中、やってみろ」
 田中と呼ばれた少年が前の黒板に行き、数学の問題を解いている。前の学校ではすでに習っていた内容だ。
 僕は前に座り、窓の外の青い空ばかり見ている少女に声をかけた。
「ねぇ、君」
 授業中なので邪魔する者は居ない。幸い、僕の席は新しく作られた席なので、隣の人は居ない。前の子と話すとすれば、今しかない。どうせ授業が終わればまた質問攻めだろう。
「ねぇ、君」
 もう一度呼ぶが、返事をしてくれない。
「ねぇったら」
 肩を叩くと、やっと振り向いてくれた。
「何?」
 流れるような髪と、アーモンド形の目。そして、悲しそうな表情が、僕の目の前で振り向いた。
「えっと、あの、名前教えてくれますか」
 いつまでも 君 じゃ悪いからな。
「永春 唯(ながはる ゆい)です」
「永春って呼ぶけど構わない?」
「構いません」
「窓の外に何かあるの?」
「空があります」
 そりゃあるだろうけど…。
「空は楽しいですよ。雲もあります」
「そんなものかなあ」
 くるりと首を回し、窓から顔を出した。
 前に居た学校では、四角く切り取られた、ガラス越しの空しか見えなかった。絵画のような、写真のような、死んだ空。いくら青くても、ただ青いだけだった。
 だが、ここで見る空は、生きていた。透き通るような蒼と、比較するように浮かんだ白い雲。空が、僕の眼の前に広がっていた。
「うわぁ」
「楽しいでしょう」
 久しぶりに見た、本当の空。まだ冷たい大気を顔で受けながら、大きく深呼吸をする。少し田舎が好きになった。
「凄い」
「でしょう」
 楽しそうな表情が視界の横に。
 が、その途端。その少女は床にうずくまった。
「どうした!永春!」
 田中に問題をやらせていた先生が事態に気付いた。
「おい、誰か保健室運んでやれ!」
 傍に居た僕を除く数人の生徒が彼女を保健室に運んで行った。
 その日はもう2度と永春と名乗る少女と出会う事は無かった。

 次の日。昨日の質問攻めでほとんど聞き果たしたのか、僕の周りに来る人は少なくなった。そして、僕の前の席には誰も座っていなかった。
「じゃあテスト配るぞー」
 えー、という声があちこちで聞こえた。
 そして、学力診断テスト、という名のテストが配られる。だが、今の僕はテストより、前の空席が気になって仕方が無かった。
 簡単な問題を解きながら、ふと空を見た。昨日と変わらないはずなのに、どこか寂しげだった。遠くに見える飛行機雲は、蒼いキャンバスに綺麗な白線を描きながら、山の向こうに続いていた。
 そして次の日も、永春は学校を休んでいた。
 二日も学校を休むのには、何かわけがあるはず。そう思い、職員室を尋ねた。
「え?永春の家?」
「はい、お見舞いしたいんです。……一応前の席の人なんで」
「そうか、近くに人が居ないと寂しいもんなあ。よし、地図を書いてやるから待ってろ」
「ありがとうございます」
 あの子は大丈夫なのだろうか。元気だろうか。
「はい、どうぞ」
 手渡された地図は、学校からの道のりを描いていた。存外に解りやすかった。
 地図を辿り、ついた家は、ごく普通の民家だった。庭は綺麗に手入れされていて、緑の芝生が敷かれていた。
 チャイムを鳴らすと、二階の窓が開き、永春が顔を出した。
「帰って」 
 彼女は短く、小さくそう告げると。
 小さなガラス窓を窓を閉めてしまった。
 わけがわからなかった。何か気に障るようなことをした覚えはない。直前まで笑っていたはずだ。なのに、何故僕を拒否するのだろう。

 それから毎日、学校が終わると彼女の家を尋ねた。いつ行っても「帰って」しか言われなかった。なぜか、やつれていっているようだった。
 
 春休みの初日。午前中で授業が終わり、永春の家を尋ねた。
「おーい。永春ー」
 いつものように窓が開いた。
「入って」
 一瞬、耳を疑った。
「入って、いいのか?」
 窓から出した顔がこくりと頷いた。
 
「私、病気なの」
 永春の外見とは似つかあわぬ、ファンシーな人形で囲まれたメルヘンチックな部屋。
「病気?」
「そう。“幸せな気分になると苦しむ病気”」
「幸せな気分になると苦しむ?」
 こくりと頷いた。
「そのお陰で、私は幸せな思いをしたことなんて数えるほどしかないわ。それも、全部その後に苦しみが待っているの」
 そんな重病を抱えていたとは。この少女は、そんな重病を華奢な体で支えてきたのだ。幸せを感じない事がどれだけ辛いだろう。推測でしかないが、僕だったら、一日ほども持たないだろう。
「そうとは知らずに、悪かった」
「いいの。言わなかった私が悪いんだから」
「外、出る?」
「いい。ここからでも空は見えるから」
 窓のある方向を指差すと、先程僕が見ていた小窓が見えた。前に居た学校と同じ、四角く切り取られた、死んだ空。

 その次の日から僕は、彼女の家に行かなくなった。あのときの永春は、悲しそうだったが、かすかに嬉しそうな表情をしていたから。
 もし自分のせいで永春が苦しむのなら、僕は居ない方がいいだろう。きっと彼女は苦しむから。うぬぼれでは無いが、そんな気がした。

 春休みも終盤に差し掛かった頃、僕の家の電話が鳴った。
「はいもしもし。三井です」
「もしもし?三井君?」
「…永春、か?」
「そう。お願いがあるの。今から、教室に来て。嫌ならいいけど」
「嫌なもんか、今行く」
 電話を切るなり学校まで全力で走った。冷たい大気とともに早咲きの桜の花びらが宙を舞う。
「永春!」
 勢い良く教室のドアを開けると、小さな教室の中に、席について空を見ていた少女が駆け寄った。
「私、決めた」
 目の前に着てそう告げた。
「どうせ死ぬなら、幸せを感じないように死ぬより、目いっぱいの幸せの中で死ぬのうがいい、って」
「ちょっとまて、お前、幸せだと苦しむだけでなく、その、何だ、…死ぬのか?」
 こくりと頷いた。
「三井君…」 
 僕の気持ちは揺れていた。死なせたくないという気持ちと、願いをかなえてあげたい、という気持ちと。
「永春」
「唯、って呼んで」
「じゃあ、唯」
「なあに?」
 永春が一歩近づく。
 それを抱き締めた。
「大好きだ」
 いつから好きだったのだろう。この教室に入った直後からだろうか。それとも、初めて声を交わした時からだろうか。
 とにかく、いつのまにか僕は永春のことが…好きになっていた。
「…私も」
 永春も強く抱き締めてきた。軽く、口付けを交わす。
 しばらくすると、力がだんだん弱くなった。
 ほぼ無くなった力とともに、耳元でこう囁かれた。
「…私今、一番幸せ。ありがとう。…三井君は、今、幸せ?」
 ああ、幸せだ、と答えようとしたが。
 永春はもう力が入っておらず。
 涙が込み上げてくる。
 永春があけていた窓から、風が吹き込んだ。その中に、桜の花びらも混じり、永春と僕を包んだ。
 目から涙があふれ、抱き締めたままの永春の華奢な体の背中へ落ち行く。
 恐らくこの世でもっとも辛い病を背負った少女の瞼は、もう二度と開く事は無かった。


 春部 完


 夏

「夏は、好きですか?」
 それは、高校2年生の夏休みのことだった。学校の宿題の歴史学習のため神社に訪れた僕の前に、その子は現れた。短く切られた髪が風に踊った。
「夏?」
 唐突な問いに、思わず聞き返してしまう。
「はい。好きですか?」
 声の主は僕より少し背丈の低い少女だった。浴衣というか着物というか、純和風の服装をしていた。
「そうだなぁ。まぁ、好きかな」
「やっぱり」
 どういう意味だろう。僕がそんなに夏が好きに見えるのだろうか。
「……お願いがあります」
 少し笑っていた顔が、真剣な顔になった。
「…お願い?」
「はい。…夏を、探してください」
 ……はい?
 …夏を探す?
「夏って目に見えるのか。ってそうじゃなくて、夏って見つかるのか。じゃなくて、なんだ、その…」
「どうして探すのか、ですか」
「うん、たぶんそう」
 自分で何を言っているのかわからない。
「それは、私が夏だからです」
 頭が痛い。
「じゃあわざわざ探す必要無くないですか」
「そうじゃなくて、夏を意味するものを探して欲しいんです」
「夏なのに、夏がわからない、ということか?」
「そうです」
 だんだんわかりかけてきた。ただ、どうしてこの子が夏なのかはわからないけど。
「要するに、自分探しってことか」
「そうなります」
「じゃあ、あのあたりで鳴いてるセミとかでも」
 社殿の向こうの鎮守の森を指す。
「構いません。ただ…5つ、今日中に」
「わかった。見つけよう」
「ありがとうございます。…本当にありがとうございます」
「ただ、見つけられなかったら?」
「…来年、この村にちゃんとした夏は着ません」
「……」
「……」
「…わかった。あと、名前を教えてくれ」
「名前?」
「はい、僕は真田 健(さなだ けん)といいます」
「…私に名前は無いんです」
「じゃあ何か呼んで欲しい名称は?」
「そうですね…。葉月と呼んで下さい」
 

 夏らしいもの、といえばまず思いつくのが入道雲とかセミとかだろう。
 入道雲は無理だがセミなら何とかなりそうな気がする。
 まぁ、だからこうして木に登っているわけだが。
「よし、あと少し…」
 木の幹に止まったセミに手を伸ばす。あと少し、ほんの3センチくらいだ。
「それっ…!」
 思い切って手を伸ばした瞬間、体勢が崩れた。
 近づく地面。遠ざかる太陽。
 次の瞬間、僕は思いっきり地面に腰を打ち付けていた。
「大丈夫!」
 葉月が駆け寄り、僕の顔を覗きこむ。
「平気です。それより、はい」
 手の中には黒く大きなアブラゼミが握られていた。じたばたと暴れるセミを押さえつける。
「やった…!」
「わ、大きい」
 そういやセミ取りなんて久しぶりだ。最後にやったのはいつだっただろう。それにしても、よくまあこんなに大きいのが取れたもんだ。 


 夏といえば海だが、この村は山間部にあるので海まで行ってたら時間がかかる。なので、川に来た。
 川面に煌く光が眩しい。水面下に魚が泳いでいるのが見て取れる。
「じゃあこの水でも」
「はい」
「いいのかよ」
「まあ、夏ですから」
「ずいぶんと範囲が広いんだな。まあそれでいいのなら助かるが」
 あと3つか。けど、実は5って多いんじゃないか?
「早くしないと今日が終わりますよ」
「わかってるよ」
 わかっている、でもまだ半日もたっていない。急がなくてもいいだろう。
 それよりも、重大な事が一つ。
「…腹減ったな」
「はい」
「なんか食ってくか」
 とはいえ、このあたりに食堂とかそういったものの類は無い。
「いえ、お昼ごはんならありますよ」
 予想しなかった葉月の答えに、思わずそちらを振り向いた。
 何処から取り出したのか、葉月の手のひらの上に、笹の葉にくるまれたおむすびが載っていた。
「食べましょうか」
「…ああ」
 草むらの上に直に座り、葉月からおむすびを一つもらう。笹の葉をはずし、かぶりつく。
 丁度いい塩加減だった。
「いただきます」
 丁寧に食事の前に「いただきます」という葉月に、すこし僕は恥ずかしくなった。
「おいしいですか?」
 一口食べた僕に葉月はそう聞いた。
「ああ、美味しいよ」
 嘘ではない。具は入っていなかったものの、とても美味しい。むしろ具が無い方がいいだろう。
「よかった」

「なあ葉月」
 道の先には駄菓子屋が氷旗をだしていた。
「はい」
「氷でも食べるか」
 炎天下の道の上、僕は隣に居る葉月に声をかける。
「かき氷…ですか?」
「そうだ。暑くて死にそうだ」
 現に僕のシャツは汗でぐっしょりと濡れて重さが数倍になっている。
「食べましょうか、私も食べたいです」
「イチゴでいいか」
「イチゴ…?」
 氷旗がだんだん近くなってくる。
「シロップだよ。かき氷の上にかけるやつ」
「シロップ…?」
 ああ、もう、埒があかない。イチゴでいいや。
「おばちゃん。かき氷二つー。イチゴでー」
 店から出てきたのは老齢のおじいちゃんだった。
「…あいよ」
 不機嫌そうな顔で氷を取り出し、削り始めた。
 白い細かな氷が皿に積もってゆく。
 がりがりという小気味良い音が止み、赤いシロップがその上にかかる。
 うず高く積まれた氷の上にシロップがかかり、その部分だけとける。
「わぁ」
 隣で見ていた葉月がため息と同時に感想をもらす。
「はい、二百円」
「どうぞ」
 まだ少し不機嫌な店主から氷の載った皿を二つ受け取り、一つを葉月に渡す。
「きれいですね」
「氷だけどな」
「すこし削るだけでこんなに変わるなんて、不思議」
「そんな事言ってるととけるぞ。早く食べろ」
「はい。いただきます」
 先の丸くなったストローを氷の山に突き刺し、すくう。
 舌の先から冷たさが広がり、ついでイチゴの味も広がる。
「ああ冷たい」
 アイスクリームもいいが、僕はかき氷の方が好きだ。
「おいしいですね」
「だろ」
 葉月のストローがせわしなく動き、どんどん氷が消えていく。
「あんまり食べ過ぎると知らんぞ」
 頭を抱えている葉月に僕はそういった。

 時刻はもう遅い。朝の間に来た堤防を歩きながら、僕は“夏”を探していた。
「あと2つか…。もう日暮れだし、急がないとな」
「そうですね」
「夏といえば…。探してみると無いものだなあ」
 夕焼け空に浮雲が映える。
「期限は今日中ですよ」
「わかってるよ」
 もし見つからなければ、来年は夏が来ない。
「夏…か」
 夏ってなんだろう。
 ふと横を見ると、えんじ色に染まった葉月の横顔があった。
 葉月…。夏…。
「あ!」
 葉月が何かに気付いたように川の近くの草むらを指す。
「どうした」
「見て。ほら」
 よく目を凝らすと、草むらの陰に黄緑色の光が見えた。
「蛍…」
「きれい」
 しばらく蛍を楽しんでいると、あることに気がついた。
 時間がない。もうすでにあたりは真っ暗だ。
「夏らしいもの、夏らしいもの…」
 必死にあたりを見渡すが、この村に街灯はほとんど無く、月明かりのみで探さなければいけない。
 急げ、俺。

「結局、見つかりませんでしたね」
 神社の階段を登りきり、葉月は振り向いてそういった。
「……」
 ぐっと唇をかみ締める。
「来年、この村に夏は来ません」
 葉月がそう告げる。
「なあ葉月」
「なんでしょうか」
「来年、また来るのか」
「……来ません」
 うつむきながら葉月は言った。
「私は夏です。夏は季節です。季節は過ぎるものです。過ぎるものは、……二度と帰ってきません」
「……」
「……いっしょに見たかき氷、とてもおいしかったです。冷たかったですけど。…いっしょにみた蛍も、きれいでした」
 目に涙を浮かべながらぽつりぽつりと呟く。
「……川の…水面も…涼しげ…でした。セミ…も、…元気でした」
 声が震えている。
「…今日…一日、…一緒に…過ごして、…楽しかった…です」
「葉月…」
「できれば…ずっと…一緒に…」
 僕の頬から涙が流れた。
「一緒に居れないのか」
「私は、…季節ですから。…ずっとかわらない季節なんて、…嫌でしょう?」
「僕は嫌じゃない。むしろ、大好きだ」
「そういってもらえると嬉しいです。…でも、ここに居れるのは今日だけです」
「どうしても…?」
「はい。来年の夏は私です。もしかすると、夏らしくないかも知れません」
「……」
「……」
 思い沈黙。先に口を開いたのは葉月だった。
「…ありがとうございました。…もう行かないと」
「…葉月」
「はい」
「…来年の夏がどんなであっても、…夏は夏だから。葉月は葉月だから」
「……」
「…夏、大好きだから」
 その途端、葉月の目からも涙がこぼれた。
「…さようなら」
「葉月!」
 徐々に足先から透明になってゆく。突然、何かに気付いたようにポケットに手を入れた。
「…最後に、これ、もらって下さい」
 ポケットから取り出されたのは、小さな首飾りだった。
 ひまわりをかたどった、十円玉くらいの大きさの首飾り。
「いくら季節が過ぎても、いくら夏が過ぎても、…私を忘れないで下さい」
「……忘れるものか、絶対に」
 別れ際、彼女はどんな顔をしているのか、涙がにじんで見えなかった。

「おい真田ー」
 次の年の夏、僕は無事3年になり、 友達と一緒に夏休みが始まったのを楽しんでいた。
「なんだよ」
「いや別に何も無いけどさ、空が綺麗だな、と思って」
 ガラにでもない事を言いやがって。
「どうした、病院でも行くか」
「だってほら見てみろよ」
 言われるままに空を見ると、確かに綺麗だった。そのとき、ずっとポケットにいれている首飾りがチャラ、と鳴った。
「夏だなー」
 遥か彼方に浮かぶ入道雲を見ながら、僕はそう呟いた。

 
 夏部 完
 

2008/08/24(Sun)11:14:15 公開 / てんてこてん
■この作品の著作権はてんてこてんさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、てんてこてんといいます。

楽しんでいただければこの上なく嬉しいです。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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