『せいぎのてっつい』 ... ジャンル:リアル・現代 リアル・現代
作者:Sひかり                

     あらすじ・作品紹介
平凡な日常を送っていた少年。しかし、ある事をきっかけに少年の周囲は一変し、住みなれた街を離れることを余儀なくされた。その出来事とは……。

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  関東地方のとある街。
 今日、この街である一軒の家が引越しの準備をしていた

「はぁ……、やる事が多すぎてもうクタクタだ」
 そこには荷物を運びながら愚痴をこぼす少年がいた
「これで荷物は全部ですね、残りはこちらで処分しておきます」
「はい、お願いします」
 ツナギ姿の男に向かって少年は軽く返事をした
 彼は持っていた箱をトラックの荷台に下ろすとそのままトラックの助手席に乗り込んだ
「さっき言った通り、駅までお願いしますね」
「はい、それでは出発しますね」
 そう言うとツナギ姿の男はトラックの運転席に乗り込みトラックを発進させた

「……これでこの家もこの名前の生活も今日で終わりか……」
 少年は窓からだんだん小さくなっていく家を見てそうつぶやいた
「…………アイツのせいだけどな、こうなったのも。
 でも今になると怒る気にもなれないな」




――1ヶ月前

  少年は海野渚(うみの なぎさ)と言う名の小学6年生、
 その家には少年とその両親と2歳離れた弟の甲一(こういち)と4人が暮らしていた
「渚、甲一、ちょっと来て〜」
「は〜い」
 母親の呼ぶ声で渚と甲一の二人が階段を駆け下りて来た
「なあに? 母さん」
「これ、近所の人から貰ったんだけどよかったら行ってらっしゃいよ」
 母親はそう言って二人に一枚の紙を手渡した、
 その紙には『市民プール割引券』と記されていた
「やった〜! 兄ちゃん、早速行こう!」
「そう急かすなって、母さん今すぐ行ってもいい?」
「いいわよ、お金は渡すから事故のないようにね」
 二人はプールバッグを背負って家を後にした
「さてと、そろそろいいかな」
 母親はさっきまでやっていた洗濯物を片付ると、そそくさと携帯電話を取り出した



  その日の夜、
 夕食が終わり家族で居間で談笑していた
「それにしても、最近ウチの会社も大変なんだよ」
 父親が酒を飲みながら愚痴っていた
「近々、九州の方に支社を作るらしくてよ。中間管理職はあまってるからヘマでもしたら飛ばされるかも知れん」
「あら、そうなの」
 母親は食器を片付けながら素っ気無く返した
 すると甲一は渚にそっと耳打ちした
「最近、父さんと母さん仲悪いね。ケンカでもしたのかな」
「そうか? いつもあんな感じだろ」
「だって、前はよく喋ってたのにこの頃は少し返事するだけじゃない、
 今日も日曜日なのに父さんは朝からゴルフに出かけたし、母さんも何も言わずに行かせてるし」
「そりゃあ長年暮らしてたら受け流すようになるだろ」
「それに、昨日は発泡酒で今日はチューハイだし。父さんはビールが好きなのに」
「たまたま安かっただけだろ、あんまり考えすぎるなって」
 そう言って渚は自分の部屋に戻っていった
「そうかな〜、なんかありそうな気がするけど」

 甲一が首をかしげていると
「あら、誰からかしら」
 居間の電話が鳴り響いた
「もしもし、海野ですが……ちょっと、甲一に電話よ」
 母親は甲一に受話器を手渡した
「もしもし……どうしたのジュンちゃん? ……え? またタムのオッサンにやられたの?」
 甲一は少し面倒臭そうに返答した
「うん、わかった……」
 甲一が受話器を切ると渚が傍に駆け寄った
「どうした」
「タムのオッサンがゲーセンでジュンに説教したんだってさ」
「タムってあの体育の多村先生のことか」
 多村とは渚と甲一の通う小学校の教師のことである
 甲一の説明によれば同級生がゲームセンターで遊んでいると外出中だった多村に見つかり説教されたそうだ
「やられたって、もう8時半じゃないか。
 こんな時間に小学生だけでゲーセンにいたら普通は叱られるだろ」
「でも、他の先生は軽く注意するだけなのにタムは店から引っ張り出して説教したんだよ?」
「まあ最近は親もうるさくて黙ってる教師多いからな。
 でも、ジュンにも非があるしそう目くじら立てるなよ」
「でも……」
「甲一、明日は学校なんだからさっさと風呂に入って寝なさい」
「は〜い」
 父親の一言の後、渚は再び部屋に戻り甲一は風呂場に向かった

  次の日、
「やっぱりここにいたか、甲一」
 放課後に渚は甲一の教室にやって来た
「うん、またタムのオッサンがうるさくてさ」
 渚は数名の同級生と一緒にプリント問題を解いていた
「全く、宿題やってなかったからって放課後に無理やりやらせるんだから……」
「そう愚痴るな、昔はバケツ持ちだの雑巾掛けだの大変だったらしいけど、
 今はその程度で済むんだからいいじゃないか」
「兄さんはそういうけどさ、俺は帰って早くゲームの続きやりたいんだよ」
 二人が話してると同級生の一人がふと気付いた
「そういえば、肝心のタムは何してるんだろ」
「あれ? いつもはちょくちょく見に来るのに今日は来ないな」
 その発言に甲一達もペンを止めて話し出した
「いっそこのまま帰っちゃおうか? 今日はタムも忙しいって言ってたから帰ったんじゃない?」
「そうだな、他の先生は何にも言わないし」
「でも、後でバレたらタムの奴うるさいぞ」
「さっき職員室の前で外回りするとか聞いたぞ、夏休み前だから気を抜いて変な事する奴がいないかって」
 渚の発言に甲一達は発言を止めた
「ちぇっ、逃げるのも計算済みかもしれないな」
「しょうがない、ちゃんとやってタムの机に置いて帰ろうか」
 愚痴る甲一に渚は一枚の紙を取り出した
「そうそう、母さんにお使い頼まれたからお前行ってくれない?」
「え〜、兄さんが先に行けばいいじゃない」
「そう言うな、荷物多いから終わるまで待ってんだよ」
「わかったよ、もう少しだから待ってて」
 その返事を聞いて渚は教室を後にした

 しばらくして甲一は渚の待つ生徒玄関にやってきた
「遅かったな、何やってたんだよ?」
「……どうしたらタムに一泡吹かせるかみんなで考えてた」
「あっそう、まあしょうもない悪戯してまた叱られるのがオチだろ」
 話しながら二人は商店街にやってきた
「えっと、マヨネーズとボックスティッシュとトイレットペーパーとアルミホイル徳用醤油ビンと……これで全部だね」
「最後はよくわかんなかったけど全部あってよかったね」
 二人が両手に荷物を持ちながら商店街を出ようとすると
「兄ちゃん、ちょっとトイレに行くから持っててくれない」
「何だしょうがないな、さっさと行けよ」
 渚が甲一の荷物を両手で抱えた
 すると、
「それじゃあ、先に帰るね!」
 甲一は一目散に裏通りを走っていった
「あ! この野郎、待ちやがれ!」
 渚も後を追いかけるが荷物のおかげで上手く走れなかった

「よ〜し、いつもより10分早くついたぞ」
 甲一は裏道を通って家の前を走っていた
 その時、
「……ん? 誰の声だ?」
 甲一が家に近づくと家の中から家族とは明らかに違う声が聞こえた
 しかし、甲一にとっては聞きなれた声であった
 甲一は窓の下からそっと顔をのぞかせた
「母ちゃんと…………、え?!」
 甲一は窓の中を見て驚愕した
「何で? 母ちゃんと一緒に?!」

 しばらくして渚が荷物を抱えて家に帰ってきた
 渚は家の裏に座っている甲一を見て不満そうにつぶやいた
「甲一、てめぇ人を出し抜きやがって……」
「しっ! 兄ちゃん静かに!」
 渚はその発言から何かに気付いて黙った
「兄ちゃん、アレ見て」
 甲一は裏口を指差した

「それじゃあ、またの機会に」
「ええ、体に気をつけてね」
 そこには母親と親しそうに話しながら裏口を出て行く多村の姿があった

「あらお帰り、買ってきてくれてありがとう」
 母親は渚の手渡した荷物を受け取って台所に入っていった
 二人は自分たちの部屋にそそくさと戻った
「さっき見た時は母さんとタムが抱き合ってたんだ、
 最近母さんはよく出かけさせるし怪しいと思ってたのに何でタムなんかと……」
「知ってたよ、前から」
 甲一が興奮気味に話すと渚はしれっと返した
「……え?!」
 甲一はその返答に驚いた
「お前の言うとおり前から怪しかったからな」
「な…ならなんで黙ってたの?!」
「何でって誰に言う必要があるんだよ、余計な揉め事は起こしたくないだろ」
「だけど……!」
「二人ともご飯よ〜」
「は〜い、甲一、メシ行くぞ」
 渚は甲一を連れて階段を下りた

「お父さんは残業で遅くなるらしいわ」
 母親は食器を並べながらそう言った
「……そうなんだ」
 甲一はいつもより覇気のない声でつぶやいた
「どうしたの? 甲一」
 母親が不思議そうに問いかけると
「甲一、お前に持つ押し付けて自分だけ逃げたこと今更悔いてるのか」
「そうだったの? しょうがないわねぇ」
「違うよ、そうじゃなくて……」
「うるさい! 言い訳は聞かんぞ」
「全くしょうがないんだから」
 甲一は渚の発言を受けてそれ以上は喋らなかった

「許せない……」
「……どうした?」
「ううん、何でもない」
 甲一は小さな声でつぶやいた


 翌日
「珍しいな、今日は誰も居残りなしなんて」
 渚と甲一はいつもより早く帰宅の途についていた
「うん、今日はみんなで約束したからさ」
 そう言うや否や甲一はおもむろに駆け出した
「先に帰ってるね」
「……ふ〜ん……」
 渚は神妙な表情で小さくなっていく甲一を見つめていた

 甲一は自宅の手前で駆けるのをやめて近くの公園の遊具に入った
「よお、やっと来たか」
「ごめんごめん、さっそく最終確認しようか」
 遊具の中には同級生が数人すでに待機していた
「それじゃあ、改めて役割をチェックするぞ」
「うん、タムの野郎を懲らしめてやるんだ」
「そうだ! アイツいつもギャアギャア説教しやがってなぁ」
 一人が悪口を言い始めると他の連中もそれに続いて愚痴り始めた
「本当だよな、俺なんて授業中にゲームやってたらケータイ取り上げられたんだぜ」
「俺も授業に遅刻したからって用具の片付け一人でやらさせたしよ」
「アイツがいなけりゃ学校もまだ楽しいのにな」
「そうだよな、それに……」
「おい、早くしないとアイツ学校に戻っちゃうぞ」
 甲一が声を抑えて発言した
「そうだな、バレると無駄になるしさっさと始めようか」
 甲一達は数分ほど話し合った後こっそり遊具を出た
「よ〜し、作戦開始だ!」

 一方その頃
「来週からは難しくなってきますね」
「そうね、でも何とかあの二人を撒けばいいんだから」
 海野家では昨日と同じく母親と多村が話していた
 するとその時
「ただいま〜」
「え?! 今日は早いわね?」
 玄関から甲一の声が響いた
「とりあえず、隠れて! 多分すぐ遊びに行くだろうから……」
「は、はい!」
 多村はあわてて押入れに隠れた
「お、お帰り……早かったのね」
「うん、ジュン達と約束あるから行ってくるね〜」
 甲一は母親に目もくれずカバンを投げ出して家を飛び出した
「ちょっと!まったくあの子ったら」
 声がしなくなったのを見計らって多村が押入れから顔を出した
「早いですけど今日は帰ります」
「ごめんなさいね、今度は余裕のある時に呼ぶから」
 多村は押入れから出て裏口を出た
 その瞬間
「今だ!」
 多村に向けて大量の水がかけられた
「ぶわっ!」
 甲一とその同級生たちが一斉にバケツの水をかけたのだった
「て、てめぇら! 待て!」
「行け! 第2作戦開始!」
 甲一の叫び声と共に同級生達が次の行動に移った

 数分後
「家の辺りが騒がしいと思ったら……まったくバカバカしい」
 渚が家に帰ると居間にずぶ濡れの多村と正座させられた甲一達がいた
「全くこの子ったら! ろくな事しないんだから」
「それで? コイツらは何をしたのさ」
 激怒する母親を抑えて渚が聞いてきた
「えっと……、まずバケツの水をぶっ掛けて、追っかけてきた所を小石ばら撒いて転ばせて、
 スキをついて公園にあった犬の糞のついた雑草を混ぜた水を口に突っ込んだの」
 甲一はたどたどしくそう答えた
「え? アレあの辺の雑草混ぜたのか?」
「うん、たまたまあの時目に入ったからやってみようと思って」
「本当どういうつもりなの!」
「じゃあ聞くけど、何で今日タムがいるのさ」
 その質問に母親は一瞬ためらった
「それはね……、アンタがこんな事ばっかりしてるから話に来たのよ」
「じゃあ何で昨日は抱き合ってたの?」
「ちょ……あんた何を言い出すの?!」
「昨日見たんだよ! 裏口の窓から!」
 母親と甲一が言い合ってる最中で渚はあることに気がついた
「そういえば、何で多村先生はさっきから黙ってるんだ?」
 その言葉に甲一達も多村の方を向いた
 多村は一言も喋らず下を向いていた
「あれ? さっきまではすごく怒ってたのに……」
「……多村先生?」
 母親が軽く肩をたたいた
 すると
「……はぁ……はぁ……」
「タム……? どうしたんだよ、その汗!」
 多村は滝のような汗を書きながら呼吸を荒げていた
「おい! 救急車呼んだ方がいいんじゃないか?」
「た、大変!」
 その場は一気に騒然となった

 数日後
 渚は甲一の連れて行かれたある部屋に足を運んだ
「あ、兄ちゃん! いったいココはどこなの?
 朝早く急に母ちゃんに起こされたら車に乗せられて……」
 甲一の問いかけを無視して渚が喋り始めた
「多村先生は明後日にも退院するそうだよ
 処置が早かったのが効いたらしいから」
「そうなんだ……急に倒れてどうしたかと思ったけど……」
 安堵した甲一の前に渚は無言で一枚の紙を差し出した
「……公園の植物の注意?」
 甲一は不思議そうに紙のタイトルを読み上げた
「お前、学校のプリントはろくに読まずに溜めてたろ。
 しかも、思いつきで何でもやろうとすんなよ」
「え……これって、さっき僕が混ぜた雑草?」
 甲一は紙に描かれた絵を見て絶句した
 その紙は公園に自生した毒草に注意を促す内容だった
「お前が混ぜた雑草はそんな感じだったんだろうな」
「……そうだけど、知らなかった……」
 状況が掴めていない甲一に渚は言い放った
「もう当分お前とは会えないだろうからな」
「え……? たしかに悪い事はしたけど会えないって?」
「警部さん、さっきの件お願いしますね」
 渚はドラの向こう側にいた男に話しかけた
「ああ……まぁ状況が状況だし大目に見てやろう」
「警部? え、まさか……」
 言い終わる前に渚は甲一の頬を殴った
「……ぐはっ!! 兄ちゃん?!」
 突然の衝撃に甲一は目を丸くした
「まだ気付かないのかよ。
 ココは警察署だぞ、そしてお前の家はもう無いんだよ!」

 甲一はすでに喋る余裕も無かった
 渚は甲一に淡々と事情を説明した
「病院側が警察に通報してな、お前と一緒にやったジュン達がきっかけになった浮気の事を話したんだ。
 そしたら母さんの実家の連中が怒って離婚させられて青森に引き戻されたんだよ」
「り、離婚……?!」
「しかも、浮気された上に子供が事件まで起こしたんだからな。
 父さんは会社での評価がた落ちで、この間言ってた九州支社に転勤第一号として飛ばされるそうだ」
「…………そんな」
「あの家はガタ来てたからな、住む奴がいなくなったから取り壊されるそうだよ。
 お前の荷物は父さんの実家に行くらしいから出てこられたら土下座して住まわせてもらうんだな」
 渚はそういいながら部屋のドアに手をかけた
「待ってよ!会えなくなるってのは何で?!
 兄ちゃんはどこへ行くの? 兄弟だから一緒に住むんじゃないの?!」
 必死に問いただす甲一を見ずに渚は部屋を出て廊下に足音を響かせた
「兄ちゃん……家を守りたかっただけなんだ……」
 渚の足音が止まった
「今更何言ってやがる……お前が家をぶっ壊したくせに。
 正義感気取ったとんだ勘違い野郎だ」
「…………兄ちゃん」
 捨て台詞を吐いて渚は再び歩き出した
「お前……、次男なのに『こういち』か?」
「……え?」
 その言葉を残して渚の足音は次第に小さくなっていった

 トラックは次第に駅前の繁華街に向かっていた
「家族の写真ですか?」
 運転手は渚の持っていた写真を見てつぶやいた
「ええ、元から本当の家族じゃないんですけどね」
 渚は窓の外の空を見つめていた
「これから……、本当の家族がいた場所へ帰るんですから」
 青く広がった空に入道雲が大きくそびえていた

2008/07/16(Wed)16:40:18 公開 / Sひかり
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■作者からのメッセージ
初めまして、Sひかりです。いきなり明るくない話ですがいかがだったでしょうか?
初投稿で未熟な点もあると思いますが、出来れば続編も書こうと思っているのでよろしくお願いします。
ちなみに、人名に関しては展開や同名の方がおられた場合を考慮しています。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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