『短文集』 ... ジャンル:ショート*2 リアル・現代
作者:優麗                

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SS:見てる世界が違いすぎて

「あの高速道路はほんとうにだめだね」
 そう言うとわたしの隣にいた友人は、目を丸くしてわたしの顔を見た。
「なんでだめなの?」
「だって、景観を損ねるだろ?」
 カメラを構えた手に力を入れて、わたしは言い返す。
 あの高速道路さえなければ、きっと水平線まで続く田んぼが撮れただろうに、本当にもったいない。そう暗に込めて言ったつもりだったが、友人はまだ不思議そうにしている。
「高速道路なんて数えるほどしかないんだから、珍しいと思うけどね」
 思わず力が抜けた。たしかに高速道路の通っている街は少ない、移動にも便利だろう。しかしこれはそんな話ではない。
「この田んぼが水平線に続くからこそきれいなんだろう?」
「は?」
 友人は今度こそ理解できないかのように声を出した。なぜ理解できないのだ、彼女も一介のカメラマンのはずなのに。
「じゃあ後ろを撮れば?」
「後ろは家がある、田んぼじゃない」
 わたしの言葉に、それでもやっぱり納得しない顔をして、友人は高速道路をみやる。
 なんでこんなわからずやなのに、わたしの友人なのだろう。
 それは本当に十年くらい前だ、わたしが友人に出会ったのは。
 カメラを持ったのはわたしのほうが少し早い。友人はそんなわたしの真似をしてカメラを持つようになっただけだった。
 しかし世の中に最初に認められたカメラマンはわたしではなく、この友人だった。
 わたしも、友人も、いつも写真を撮るときは一緒にいたから、被写体や、見ているものは同じはずなのに。
 なぜか、友人だけがみとめられ、そしてわたしのものはそれの模写となるのだ。
 わたしはきっと歯がゆそうな、ねたましい目で見ていただろう。
 当時中学生だった自分たちも、大人になって。きっと友人も気づいていたのかもしれない。決定的な視点の違いに。
「あのね」
 多くは語らずに、いつもわたしの後をつけていた友人は、珍しく、本当に珍しく、語り始めた。
「高速道路だって、風景の一部なんだよ。
 それに田んぼは家の周りを取り囲むように派生したものなんだから、家があって当然なんだ」
 少しずつ、紐解かれてゆく、違った視点。
「わたしたちは確かに写真をきれいにみせるのも仕事だけど、同時に写真をみる人はその世界のありのままをみたいとも思っているんだ。
 排気ガスはなんで臭いというの?好きな人だっているかもしれない。
 バイクはなんでうるさいというの?心地良いという人がいるかもしれない。
 いくら写真でも、絵でも、文章でも、自分がきれいなものだけで作られた世界は、やっぱりそれは現実じゃないんだよ。
 わたしは子供のころ、タバコの吸殻の匂いが好きだったんだ。
 でも家に喫煙者がいなかったし、学校では体に悪いというし、みんなが臭い臭い言うから、長い間その匂いをかがないようにしていた。
 この前偶然喫煙所に行く用事が会ってね、あ、わたしはあいかわらず嫌煙者だよ、そのときにかいでみたんだ、タバコのにおいを……やっぱり、臭かったよ」
 よくわからないね、友人はそういって笑った。

2008/07/12(Sat)11:43:11 公開 / 優麗
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■作者からのメッセージ
出来るだけやわらかい文章を意識して書きました。
ひらがな部分がすこし多くなりすぎた感はありますが、どのあたりを漢字にすればいいのか……(^^;
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