『七年間の空白に思い出を詰めて』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:日影                

     あらすじ・作品紹介
 七年振りの友人と語り合い、過去の良き日を思い返す春野  個性的な旧友と語らって、彼女は懐かしい自分の過去を思い出していく ほのぼの感動系ストーリーです

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 私は部屋の仕切りの手前で偉く緊張している。
 とても間抜けな説明だ。
 簡潔に語ると、七年振りの知り合いから同窓会のお誘いが来たのだ。そして現在に至る。
 とても簡単な説明だ。
 聞こえてくる騒がしい笑い声に、遅れてきた私はどう入れば良いか躊躇っていた。七年といえば私はまだ中学生で、その頃は暗めだった印象の私。今は明るくて前向きに変わったけど、やはり人の脚光を浴びるのは慣れない。想像すると手に汗を握ってしまう。
 私の意志とは無関係に仕切りが自動でスライドする。
「あっ」
「あ!」
 眼鏡を掛けた男性と対峙して、一緒に声を漏らす。彼の方が若干驚いた様子で、私は体だけを、彼は表情ごと固まらせた。先に金縛りが解けたのは私で、一直線で見つめてくる彼の眼差しに今更ながら困惑する。一テンポ遅れて彼は我に帰り、
「春野だろ!? おぉー! 懐かしいなー」
 彼は疑問文、感嘆詞、強調を巧みに使い分けて、私を指差した。
 どうしよう、彼の名前を思い出せない……。
 視線を合わせようとしない私に、彼は眼鏡を外して何かのポーズを真似る。
「星の数だけ悩みはあるが、強いて一つを選びましょう」
 彼はどこかで聞き覚えのあるフレーズを腹から声を出して演じる。
 確か続きは――。
「一つだけとは言わないで……」
「何個叶えりゃ満足かい?」
 彼は一歩後退して私に恭しく手を差し伸べる。
「星の数だけ満たしておくれ!!」
 私は彼にそっと手を添えて応える。
 途端。心の底から沸騰する切なさが重蓋をカタカタと揺らし、僅かな隙間から蒸気を噴出させる。
「わああぁぁぁーーーーーっ!!  高杉君!? 外見すっごく変わってて気づかなかったー。大きくなったんだ!」
「春野は外見も変わったし、性格も変わったみたいだなー」
 しみじみと語る旧友は七年前の友人だった。ほろ苦い思い出と仄かに淡い思い出が同時に彷彿され、昔に戻りたい衝動に駆られる。高杉君に泣かされた日のこと、先生と笑い合った休み時間、毎昼恒例の給食ジャンケン大会。戻りたい、戻りたいな……。
「積もる話は中でしようぜ! 俺トイレに用があるんだわ」
 顔一個分高い高杉君は、私の横を会釈して颯爽と通り抜ける。廊下を曲る辺りで慌てて走り出しので、やっぱり高ちゃんは高ちゃんなんだねと、思わず笑ってしまった。
 部屋に踏み込まずにいる私のもとへ、目を細めて女性が近づいてくる。私は高ちゃんを見て笑っていたから、彼女に気付いた時には、鼻と鼻とが掠めるほど接近していた。見覚えはあるのに、顔と彼女の行動が一致しないので、名前を言い当てらない。
「雅か春野……。あんたがこんな素敵なガールになってるとは、私はビックリさー」
「そんなことないって」
 私は掌を左右に振って、胸に注がれたジト目のむず痒い視線を防ぐ。更に私の想像と彼女の言動が離れていく。
「冗談だよ! さ、皆待ってるから入りな。そこに居たら変に思われちゃうぞ?」
 このこの〜、と脇腹を小突かれくすぐったい。彼女はパッと明るくなると、目がパッチリで可愛くて、さり気無く私の肩に手を回し背中を押してくれる。ボケに磨きをかけたみたいだけど、私との約束は変らず忘れないでいてくれる。これは二人だけの秘密だから皆にも内緒だ。
「ありがとね結衣」
 私が小さく感謝しても、結衣は聞こえていたのか、いないのか、いつだって水臭い話は聞き流す。ただそこで口元をにやけさせる癖は直っていないみたいだった。
 中華料理店の和室の大広間を丸ッと借りたとは聞いてたけど、三十人も入れば広さを感じさせない。まるで学校のトイレから教室に戻ってきたのだと錯覚したくなる。この大広間も人が帰れば寂しくなるのかな。あの卒業式のように……。あの日は訳も分からず、無我夢中で泣いた。学校でも泣いたし、帰り道でも泣いたし、友人の腕の中でも、ベッドの中でも、仕舞には夢の中で泣いていた。
「そんで次の日鬱ちゃって、春野ったら家に引き篭もっちゃんだもんねー! 心配したんだぞ?」
「ゆ、結衣ー! その話は恥ずかしいから止めてよ……」
 私が尻声を弱らせたのをいいことに、お陰で私の赤裸々話は暫く続いた。私は一通り握手をし終えて、今はこうして女友達同士で花を咲かせていた。本当に選り取り緑のビックリ話の連続で、私は話の半分くらいに顔を赤く染めて聞いていた。クラスの誰々ちゃんが誰々君とあぁーー! のようなアダルトな話から、嘘か真か学校の七不思議を科学的に検証し合ったり(結局謎が多く残ったけど)。
 教室のベランダに乾燥させていた蜜柑の皮の行方を話し終え、喋り疲れた頃合に、また一人遅れて旧友が入室する。一際大きな歓声が巻き起こり、沈下傾向にあった雰囲気が再びシャッフルされる。
「えっ! 誰が入ってきたの?」
 牛乳ジャンケンでライバル的存在だった雪ちゃんが立ち上がる。
「そこまで慌てなくても、待ってれば挨拶しに来るでしょ?」
 落ち着きのあって物知りのゆうゆうこと優ちゃんは、ゆっくり立ち上がる。
「健太君だ!! ふへぇー格好良くなっちゃったなー……」
 既に興奮状態の結衣は、ラー油の付いた唇を色っぽく舐める。健太君と聞き私は予め結衣から視線を逸らすと、擦れ違い様に結衣が私の方を向いた。
「ほらっ! 王子様のご降臨にお姫様が行かないでどうするの?」
 結衣は諭すような優しい声で、私の視線の先に座る。雪ちゃんに優ちゃんに微笑まれ、私の顔はバーベキューが出来るくらい熱くなる。健太君に纏わる話題は墓の下まで持っていくつもりだったのに、こうもアッサリ発掘されるとは不覚だった。
 私はどう弁明すれば誤解を解けるのか悩んでいると、視界の外れから不意に手が伸びる。その手は私に握手を求めていた。
「久しぶり。元気だった?」
 私はぎこちない手で握手を握り返し、美声の本人を確めた。幼かった輪郭が整って、更に鮮明で男前になった桜井 健太君。中二の頃の忘れたい話だけど――友人たちが好き勝手に私と健太君の仲を盛り上げて、私は好きじゃなかったのに、健太君は本気になっちゃって……。
「うん、ぼちぼちに。桜井君はどう? 元気だった?」
 一線を敷いた常套句に健太君は、
「ぼちぼちに。それと桜井君じゃなくて、昔みたく健太君って呼んでよ」
 笑顔で私の手を軽く握って離すと、他のメンバーの所に行ってしまった。まだ健太君は握手周りの最中みたいだ。私の掌の温もりが酷く残留する。
 そうだった話の途中……。それで私は誕生日プレゼントと称して健太君に告白された。私は逃げ出して、結局お断りの返事は一ヵ月も後になった。その間も逃げ続け、今思い出しても最低だと思う。
 何時の間にか席を外していた結衣ちゃんたち三人組みが戻ってくる。
「どうだった? 何か話した?」
 私は気配り上手だった雪ちゃんをムッと睨む。
「変に気を遣われても、場合によっては迷惑だと思います」
 私は自分が酔ったことにして悪態付いた。そこで面白かったのが、三人揃って私のご機嫌を繕うとしたことだ。雪ちゃんは必死に謝ってくれて、優ちゃんは黙々とお冷を補充して、結衣ちゃんは決まって肩を揉んでくれる。
「そういう気遣いを健太君にもしてあげてよ……」
 私が愚痴ると肩の荷は突然重さを増す。結衣が親指に力を込めて押してきたせいだ。
「素面なくせして調子に乗らないのー。私たちなりに気ー遣ってるんだからね? 健太君との始まりは確かに動機不純だったけどさ、二人が付き合ったらお似合いだったと今でも思うよ、私は」
「それは私も思ってたかなー」
「そうね。ちょっと見てみたいかも」
 結衣の差し金に雪ちゃんも優ちゃんも直ぐ同調するだもん。とか不貞腐れる私も、今思えばあの気持ちは満更でもなかったのかも知れない。本当の本当の始まりは私だけが知っていて、健太君の鉛筆を偶々拾ったのが切っ掛けだった。あまり喋らなかった健太君に、どう手渡せばいいのか迷っていると、友人がそんな私を見て勘違いしたのだ。
「でも健太の奴、彼女いるんだって」
 優ちゃんがぼやいた。
「もぅ! ……えと、健太は結構一途な所あるから、少なくてもあの頃の気持ちは嘘じゃなかったはずよ! その……春野?」
 慌てて優ちゃんの口を揉み消そうとする結衣だけど、
「そっか」
 私は呆気なく返答した。因みに拾った鉛筆は、今も飾りとして勉強机にぶら下っている。
「なぁなぁそこの四人とも、折角だし一緒に写真取らない?」
 男性三人グループからのお誘いだった。私たちは顔を見合わせて無言のコンタクトを取る。私は高ちゃんがいるなら撮られても良い。結衣も賛成。雪ちゃんも賛成。優ちゃんも――優ちゃんは微かに首を横に振る。どうして? と、三人で眉を顰め合う。優ちゃんは顔を恥ずかしげに俯かせる。結衣と雪ちゃんは意図を汲み取れなかったみたいだけど、私にはその意味する内容が分かった。
「撮ろうよ皆で、良い記念になるよきっと!」
 ささやかな抵抗をみせる優ちゃんの手を、今度は私が気遣って引いていく。ちょっぴりの悪意は認めるけど、でも心から優ちゃんには幸せになって欲しい。もしかしたらあの頃の皆も、今のこの私と同じような気持ちで騒ぎ立てたのかな。だとしたら、私は一概に皆のこと憎めない。素直に受け止めておけば良かった……なんて今更ね。
「んじゃ撮るぜー!」
 『ぽっちゃり』から『たっぷん』に進化した哲っちゃんが、私たちのカメラ役を買って出てくれた。
「さーん! にー! いーち! たっぷんたっぷ〜ん」
 カシャリ!
 たっぷんたっぷ〜んの部分は周囲も爆笑の渦だった。口に合わせて豊満な贅肉を踊らされては、七年前とは比較にならない迫力に――なんでだろう、腹を抱えて笑っちゃってた。理由なんていい。例え本当は面白くなくても、それでも面白いから笑う。
「ありがとな哲夫!」
「何時でも任せなっ!」
 哲っちゃんは親指を立て歯を輝かせた。例によって格好悪いけど、皆を笑わせられる不思議な人だから問題ないんだと思う。
 男性グループは快活に去っていき、優ちゃんは寂しそうにお冷を嗜んでいた。
「優ちゃん、ごめん私……」
「なにが?」
 私は説明を促されて一瞬息が詰まる。口に出して説明するのは簡単だけど、私がそうであったように、辛いことを言葉にされると心に黒インクが沁みていく。染まりたくない色――優ちゃんには染まって欲しくない色。
「だから、なにがよ?」
「うん――。優ちゃん嫌がってたのに、私が無理に写真誘っちゃったから。ごめんなさい」
 私は出来る限り遠回しに伝えた。優ちゃんはお冷をグッと飲み下して、
「いいわよ。私も春野には余計な一言しちゃったし」
 結衣と雪ちゃんがお手洗いから帰って来ると、普段の優ちゃんに戻っていた。私の見間違いかも知れないけど、優ちゃんは大きく変ったと思う。大人っぽい雰囲気を帯びたし、利口で相談相手に選べば何でも解決してくれそう。なのに距離を感じてしまう……。
「大人の都合によりそろそろ一次会を終わりにしっま〜〜〜〜す!!」
 かしこから(主に男性陣が)クラッカーを飛ばして締めくくった。最後の締めの一言が、クラス代表委員の酔った内っちゃんなのは、とても我がクラスらしい終わり方だなと思う。

 七年の歳月に私たちは思っていた以上に多くのモノを奪われていた。知らずの内に落としたり失ったり磨り減らしたりしてきた。仕事に精を出せば、感情の波がどうしても私を貶める日もある。眠れない日があれば、寂しい夜もある。あまりに幸福な出来事があれば、幻なのではと疑う心を持った。生きる上では大切な能力だけど、なんかちょっと違う。生きるってことはそうじゃなくて、もっと楽しいことだと思う――いや、思ってた。それを私はここで思い出した。
 二次会に行くか否かで、意見が真っ二つ分かれる。私は仕事の残りを今日中に終わらせたいからと、後ろ髪を引かれる思いで退場する。
 玉田 結衣。近藤 雪子。柊 優実。
「ほんっとーにありがとね皆!」
 私は固く握手を交わした。
「私も今日は楽しかったぞ」
「変にからかってごめんね。でも、あぁ言う戯言話せるの皆くらいしかいなかったからさ。感謝してる」
「良い恋……なさいよ」
 皆思うところはあるみたいだけど、笑顔は絶対絶やさない。私も。
 今度会うのは生まれた歳から二倍の二十年後になる顔触れ。どんな性格になっているのかな。私の未来予想図に灯りが広がっていく。
 寂しいけど、もうお別れしなくちゃいけない……。
 夜の街灯に私は一人歩いていく。
「春野っ!!」
 咄嗟の結衣の叫びに振り返る。
「私はー! 春野と同じクラスになれて、本当によかったーーーー!! 幸せ者だよーー! ずーーっと昔だけどっ! ウサギのキンホルダー盗んだの、実は私なのっ!! 今も大事に持ってるからーー! 貰ってもいいかなーー!?」
 ウサギのキンホルダー。私が三日間探し回っても見つからなかった大切なモノ。
「いいよーー!!」
 わたし綺麗な笑顔作れてたかな――。

2008/03/10(Mon)07:03:08 公開 / 日影
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■作者からのメッセージ
日影です
もう卒業式の季節ですね。折角なので、卒業に纏わる(?)小説を書かせて頂きました
個人的には余韻を多く残せるような作品を目指しています

前回頂いた感想を自分なりに心がけて作った作品ですが、まだまだ足りないモノを自分でも感じているので、感想ありましたらお願いします

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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