『くま』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:満月欠ケル                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
 ぼくはくま。
 ぼくはみんなにあいされるためにうまれてきたの。
 ねえみんな、ぼくとあそぼう。

 さいしょにぼくはちいさなおんなのこにかってもらった。うれしかった。ただただぼくをひつようとしてくれたのがとってもとってもうれしかった。
「おかあさん、あたし、このくまさんほしい」
「いいの? 今日は誕生日なんだから欲しいもの何でも買ってあげるのに」
 ぼくはそのこのおかあさんにひつようとはされてなかった。
「うん!」
 でもおんなのこが。
 おんなのこがひつようとしてくれたから。
 ぼくは、うれしい。

 ぼくは、そのこといつもいつもいっしょ。
 ねるときも、ごはんのときも。ずっとずっと。
「そんなに気に入ったのかしら」
 そのこのおかあさんはぼくをにらんだ。ぼくはなにもいえなかった。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくまぼくはくまぼくはくま
 なんだかすごく嫌なきぶんになった。
「あたしはくまさんだいすきだよ。ねっ?」
 そのこはぼくをなでてくれた。ぼくはなにもいえなかった。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくまぼくはくまぼくはくま
 なんだかすごく嫌なきぶんになった。

 ぼくにはこわいことがある。それは、おかあさんにせんたくされること。
 くらいところ。こわいところ。ぼくはいきたくない、嫌だ。
「お洗濯するから、邪魔しないで」
「えーーっ」
 ぼくはそのこにたすけてもらえない。ぼくはうごけなかった。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくま。ぼくはくまぼくはくまぼくはくまぼくはくまぼくはくまぼくはくまぼくはくま
 なんだかとっても嫌なきぶん。

 なにもいえない。
 なにもできない。
 嫌々々々々々。
 うごきたい。しゃべりたい。
 そうすればおはなしできる。
 そうすればおあそびできる。


 ぼくはくま。ぼくはじゆうにうごけるようになった。はなせるようになった。
 だからおかあさんにこっそりいった。
「ぼくがきらい?」
 おかあさんはうごかなかった。
「ぼくとあそぼう」
 おかあさんはうごかなかった。
「ぼくをあいして」
 おかあさんはうごかなかった。

 くびをしめた。
「ぼくをあいして」
 みんなにあいされたかった。
「ぼくをあいして」
 おかあさんはきらいだった。
「ぼくをあいして」
 だけどあいしてほしかった。
「ぼくをあいして」
 おかあさんはしんじゃった。



 嫌。
 いたいいたいいたいいたいいたいいたい。
 くるしい。
 おんなのこがぼくをにぎってる。

 あいして――――

「ぼくとあそぼう」
 きしっ。
「ぼくとあそぼう」
 みしっ。
「ぼくとあそぼう」
 ぎしぎし。
 ぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくとあそぼうぼくと




 ぼくはにぎりつぶされちゃった。
 ごめんなさい。

2008/02/29(Fri)12:04:24 公開 / 満月欠ケル
■この作品の著作権は満月欠ケルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 読んでいただきありがとうございます。
 あまり考えずに勢いでやってしまいました。後悔はしてません。
 感想や評価、待ってます。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。