『イチョウが綺麗な公園の横』 ... ジャンル:リアル・現代 ショート*2
作者:nazo                

     あらすじ・作品紹介
下校途中の一人の少年。イチョウが綺麗な公園の横で、彼は運命の出来事に遭遇する。

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 俺の名前は西本竜太。14歳の中二。
 現在下校してる途中だ。

 俺の家は、学校からはちょっと遠い。
 校門から出て、駅を左に通り過ぎて、しばらく進んだあと、
 公園があるから、そこを右に曲がる。
 そこからまた進んでいくと、坂があって、
 その坂を進んだ先に団地がある。
 その団地の中に俺の住んでるマンションがある。

 今日は期末テストがあって、だから午前中に帰れた。

 今は12時ぐらいだろう。
 腹が減ってきた。早く家に帰ろうか。

 
 今、俺は駅を通り過ぎていった。
 あと200mぐらい進んだら、公園がある。
 小学校のときからこの道を通って下校している。
 何年も歩いてきた、馴染みのある道だ。

 昼飯は何にしようか。
 近くのパン屋で何か買おうか。

 
 そういえば俺は母親がいない。
 父親と俺の、父子家庭だ。
 俺が4歳ぐらいの時に離婚したらしい。
 全く、迷惑な話だ。


 今、公園を右に曲がった。
 公園の中にあるイチョウの木が、鮮やかな黄金色に色づいている。

「もう秋か…」

 そんなことを思いながら、公園を横目に、進んでいく。


 前から、女の子が進んできた。
 小学五年生くらいだろうか。
 小学校はどうしたんだよ。サボりか。

 彼女と目が合った。
 身長が低めな彼女は、少し顔を上に上げて、上目使いで俺の顔を見てきた。
 二重の大きな目、体形は細め。

 そういえばどこかで見たことがあるような気がした。
 確か、同じマンションの下の階の家族の子供が、こんな顔だったような。
 …いやその子じゃないな。

 まぁいいか。

 二人はすれ違った。


 公園のイチョウの落ち葉が、路面を覆っている。
 何だか綺麗だ。
 ふと右を見れば、小さな公園の小さなブランコが、風に揺れている。
 寂しい光景だ。 

「はぁ…」

 何故か憂鬱な気分になった。


 公園をもうすぐ通り過ぎる。
 ただそれだけなのに、何となく、虚しいというか。


 ふと、何となく後ろを振り返った。
 さっきの少女が、歩いていく。
 
 と、その少女が立ち止まった。
 そして、後ろを振り返った。


 こっちを見ている。
 何だか気まずい雰囲気になった。

 すぐに後ろを向いてまた帰っていこうかと思ったが、
 何となくできなかった。
 彼女が何か言いたそうに見えたからだ。

 彼女が口を開いた。
 どうせ「何ですか?」とかそんなことだろう。
 
 だが、彼女の口から出た一言は、意外な、というか、ありえないものだった。



「お兄ちゃん…?」



 え…!? 今なんていった?
「お兄ちゃん」だよな?
 俺妹いないんだけど。
 間違えてるのか? その兄貴と俺を。

 彼女は困惑した目つきで俺を見ている。
 何でそんな目つきなんだ?
 俺の思考は、混乱しだした。
 何か聞き返すべきか、無視するべきか。

 何でそんな目つきなんだ?
 まるで向こうも確信を持ってないように見える。
 何故だ? 何で確信が持てない?


 そんなことを考えているうちに、あることを思い出した。
 

 そうだ、俺には妹、もしくは弟がいる。
 ちょっと前に親父が言ってた。
 母さんと離婚するときに、実は母さんは妊娠していたらしい。
 
 そしてその子はお父さんの子供じゃないらしい。

 何だか聞いてはいけないことのような気がして、
 何も聞き返さなかったけど。

 だけどその子がこの今目の前にいる少女のはずがないだろう…?
 それに、その子も俺が兄かどうかは分からないはずだ。

 だが、確信を持てなかった。
 この少女が何を思って俺に「お兄ちゃん」と問いかけたのか。
 その理由に。


 何か、この子に聞き返さなければいけない気がした。


 何て聞けばいいんだろう。
 とりあえず「え?」でいいだろう。


 

 そして、何か言おうと、口を開いた瞬間だった。
 


 
「お兄ちゃん…!! やめて!!!!」




 彼女が悲痛に叫んでいる。
 そして、同時に何かが背中に当たった。
 その何かは俺の着ている制服を破って、そのまま背中の皮膚へとあたった。
 そしてそのまま押し込まれた。
 激痛がする。
 何なんだ、これは。
 ゴリゴリと、変な音がした。どうやら、肋骨が欠けたようだ。
 異常な程の痛さに、気が朦朧とした。

 今起きたことを整理する間もなく、俺は地面に倒れこんだ。
 イチョウの黄色い落ち葉が、すぐ目の前にある。

 段々と目の前が滲んできた。
 俺の目の前は、黄金色になった。



 薄れてゆく意識の中で、俺は段々と理解し始めた。



 なるほどな。
 俺の後ろにこの子の兄が立ってた訳だ。
 俺が後ろを向いたときに、横の通りから出てきたんだろう。
 ナイフか何かを持って。
 そいつに対して「お兄ちゃん」って、問いかけたんだ。
 そりゃあ、自分の兄貴がナイフ持って通行人の後ろに立ってたら、
 しばらく状況を飲み込めないだろうな。
 だから言い方が変な感じだったんだ。
 
 それを俺が勘違いして、彼女が自分の妹なんだとか、
 変な思考を俺が張り巡らさせてたんだな。

 そして、今も俺の後ろにいる奴が、俺を刺した。
 殺人犯め。
 憎んでやる。
 顔を見せろよ。


 ああ、痛い。
 血が、流れていく。
 異常な量だ。
 恐らく、心臓の近くの、太い血管が切れたんだろう。

「もう、無理なんだな」

 俺は、そう悟った。


 最後の力を振り絞って、顔を上げた。


 ぼんやりと、一人の少女が駆け寄ってくるのが見える。

「何やってんのよ!!!」

 そんな事を言ってるように聞こえた。
 誰かの足が見えた。
 黒い革靴を履いている。

 こいつが、この子の兄貴か。
 殺人犯め。





 あーあ。
 何でもいいから、昼飯食いたかったなぁ。









          『イチョウが綺麗な公園の横』

          (サブタイトル)『狂った兄貴と通行人』



                          完



2007/12/07(Fri)22:15:14 公開 / nazo
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■作者からのメッセージ
最後まで読んで下さって有難うございます。
昨日急に思いついて書いたものです。
誤字脱字、ストーリーなど、見苦しい点はありますが
感想・批評など頂けると嬉しいです。

あと、初投稿です。
よろしくお願いします。


追記:一部誤字修正しました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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