『それは忘れていた真実』 ... ジャンル:ショート*2 リアル・現代
作者:そらこ                

     あらすじ・作品紹介
自分を傷つけ続ける少年と、自分を取り巻く全てがうっとうしく消し去りたい衝動に駆られる少女の話。

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「まどろっこしいんだよね。何もかもが」
 あたり間のことだけれど冬の風はひどく冷たくて、僕は隣に寝転んで気だるげな声を出す彼女を恨んだ。真冬の屋上で昼休みを過ごす羽目になったのは、こんな場所に急に呼び出した彼女のせいだ。
「何もかもって、何さ」
「だから、何もかもだって」
 呆れたような小馬鹿にしたような言い方をしながら、彼女は僕を細めた目で見据えた。
「終わってんなぁ」
 正直に思ったのでそう言う。
「それはあんたもでしょ」
 反論はできない。
 彼女は僕の右手首を握る。何本も付けられた線が、痛んだような気がした。
「いつまで続けんの?」
 彼女が問う。もう今までに何度もされた質問だ。
「そろそろ終わるんじゃない? 最近は減ってきたし」
 僕が返す。もう今までに何度も言った答えだ。
「嘘つき」
「うん、嘘」
 彼女はじとりと僕を睨んだ。僕は冬の空を見上げ続ける。 会話はただ流されていく。異常だけど日常。それがきっと僕。それがきっと僕ら。
「んで、僕に何の用? ここ結構寒いんだけど」
 話はもと来た道を少し戻って先へ進む。
 ひとつ強く吹いた風が、両目を髪の毛でふさぐのでなんだかうっとうしかった。
「だからさ、まどろっこしいわけよ。全部がさ」
「んで」
「あたしはどうすればいいと思うかを、イっちゃいすぎてる貴方様にお尋ねしたかったわけですよ」
「ふうん」
「それだけ?」
「それだけ」
「酷いやつ」
 訪れる沈黙。乾いた空を見上げるのは僕らだけ。
 握られたままの右手首が、『切ってくれ』と少しだけ疼いた。
「つまりはさ、このまどろっこしさを消し去りたいのよ、あたしは」
「うん」
「どうやったらできるかね。親とか学校とか友達とか社会とか規則とかもううんざり」
 はぁっと大きく彼女がため息を吐く。 それと同時に僕らの上を一羽の小さい鳥が飛んで行った。 そうして思う。彼女はまだ子供だ。そして僕も。だから一番手っ取り早くて一番簡単な答えを、子供でも出来る方法を、教えてあげようと思う。
「空でも飛んでみたら?」
「へ?」
 彼女らしからぬまぬけな声。無償に笑いがこみ上げるのを、僕は必死に堪えた。
「……あたしは鳥じゃないんですけど」
 そんなのは当たり前。だからと言って不可能じゃない。
「羽なんかなくても飛べるよ。そのフェンスを越えれば良いだけだ」
「うーん……」
 風は冷たい。空は青い。銀色の錆びれたフェンスがカシャリと鳴る。
「……それは遠慮しとくわ」
「なんでさ」
 そこで彼女はやっと僕の手首を離した。今まで彼女の熱に暖められたいたそこは、急に真逆の冷たさに晒されて、また線が痛んだ。気がした。
「あたしはあたしだけは大切なの。愛してるってわけ」
「そりゃまた、自己愛のお強いことで」
「そんで唯一の例外であんたも大切。愛してる―――かはわかんないけど」
「―――そりゃどうも」
 
 僕らはチャイムの音を無視してそこに寝転び続けた。
 結局彼女の答えは出なくて、風は冷たく空は青い。
 乾いている。
 僕らの心も。
 乾きすぎている。
 
 だけど、手首の傷跡は痛まなくなっていた。



 それは忘れていた真実。

 
 了
 

2007/11/28(Wed)11:46:49 公開 / そらこ
■この作品の著作権はそらこさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、そらこと申します。
昔はよくお話を書いていたのですが、最近めっきりそのための時間が減ってしまい、書こうと思っても書けない日々が続いていました。
今回のお話はリハビリを兼ねて書いてみたのですが、どうにもまだ自分のリズムを取り戻せていない感が……(汗)
タイトルもなかなかうまいこと思いつかず、最終的にこんなのになりました……。
アドバイスや何か正規表現との違いなどのご指摘がありましたら、バシバシ言ってやってください。
これからちょこちょことお世話になると思います、どうぞよろしくお願い致します。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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