『CROW』 ... ジャンル:異世界 ファンタジー
作者:デン                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
 第一話 クリスタル

 はるか昔の時代、2つの神にこの世界は創られた。2つの神の名は大地の神 デーヌ 天空の神 クウラ。大地の神は何も無い無の空間に大地を創った。天空の神は空を造り、雨を降らせて海を創った。この世界は雨によって大きく5つの大陸 帝国アノーバル 聖都イニシャン 辺境グバローラ 光都市セルバーナ そして、聖地ゴッドラウンド。聖地には人は住んでいない。神の住処だ。


 辺境グバローラの南の外れにあるアトナル村

 辺境の村らしく、村の中心には広場と思われる場所があった。村自体大きくないので、広場も無茶苦茶広くは無い。
「えいっ! やぁ!」
 黒髪の15,6歳程度の少年クロウは細身の黒い刀身の剣を素振りしていた。
「せいがでるな」
「父さん!」
 クロウが向いた先には、茶色い髪で背の高い男が立っていた。
「将来の夢は姫様の護衛隊の隊長だったか?」
「ああ! 絶対になってやるんだ!」
 そう言った後、クロウは再び素振りを始めた。
「クロウ〜!」
 透き通る様な声が響いた。
「ん? リディア!」
 クロウはこちらに向かってくる栗毛の髪に可愛い顔立ちのクロウと同じ歳くらいの少女が走ってくるのを見ていた。
「来たか!」
「ええ、勿論!」
 2人はその後に微笑みあう。
「じゃぁ、私は家に居るから、暗くなる前に帰るんだぞ、クロウ、リディアちゃん」
「はぁ〜い! ランデルさん!」
 クロウの父親の名はランデルらしい。ランデルはさっと背を向けて、一際目立つ、他の家よりも少し大きい家に入っていった。この村の子供はクロウとリディアのみだ。
「よし、始めるか! 護衛隊隊長と王宮魔道将という夢を叶えるための訓練!」
「ええ!」
 2人の声は日が暮れるまでずっと、響いていた。

 次の日
「おい! クロウ、ちょっといいか?」
「何?」
「アデルナさんの所に行って傷薬を買ってきてくれないか? 今気付いたんだが、無くなってる。お前、使ったのか?」
「えあ…うん」
「まぁ、いい、はいお金」
 ランデルはクロウに100R渡して台所へと向かう。この世界の通貨はR(ラウン)(1R=1円)、アデルナとは、リディアの父親で、この村の司祭だ。
「うぃ〜っす」
 クロウは家を出て、西の方向にある教会に歩いていた。夕方だったので、人は広場で話し込んでいた。広場を抜ける途中、村人の幾人かに挨拶される。この村はとても小さいので、クロウとリディアにとって全員が知り合い、家族の様なものだった。クロウはささっと広場を抜けて教会に入った。教会の中は入った所から淵は黄色く、真ん中が赤い絨毯が続き、少しの段差の様な場所で絨毯は途切れていて、絨毯の左右には木製の椅子、段差の上にはカウンターの様な物がある。絨毯の終りから左に行った所と右に行った所の両方に扉がある。扉の向こうは住居なのだ。入口から入って一番奥の壁には何の絵だか解らないステンドグラスがある。
「こんにちは〜」
 クロウは教会に入ってそれなりに大きな声で言う。
「は〜い」
 右側の扉から出てきたのはリディアだった。
「あら、クロウ」
「おぉ、クロウ君」
 左側の扉からはアデルナとアデルナの妻ディーデアが出てくる。
「どうしたんだい?」
 アデルナは微笑みながら問う。
「ポーションをください。」
「解った、1つ100Rだが、1つサービスしてあげよう」
「じゃぁ、1つください」
 そう言ってクロウは100Rを手に乗せて差し出す。
「承知しました」
 アデルナは100Rを持って、左側の扉に行くと、スグにポーションとオマケ分のポーション(計2個)を袋にそして、紙を持ってきた。
「はい、ポーションだ。そしてコレはランデルさんに渡しておいてくれ。」
 そう言うと、小さいポーション2個入りの紙袋と、手紙の入った封筒を持って教会を出た。そして、そのまま広場を抜けて、家に着く。
「ただいま〜」
「お帰りなさい。」
 返事の後にすぐ、いい臭いがしてきた。
「今晩はカレーか!?」
「そうだ」
 ランデルは微笑んだ。
「はい、これポーション。リディアの父さんが1つ分まけてくれたんだ。あとこれ、父さんに渡すようにって。」
 クロウは紙袋と封筒を渡す。
「あとでお礼をしなければな…」
 紙袋を近くのテーブルに置いて封筒の封を開ける。
「…ふむふむ…」
「?」
「そうか…」
「どうしたの?」
「リディアちゃんが首都の魔法学校に留学するそうだ。出発は明々後日の昼らしい。」
「そっか…」
「悲しそうだな?」
「そりゃぁ――」
 クロウが続きを言おうとした瞬間、村の門辺りで大きな稲妻が聞こえた。
「何だ!?」
 クロウとランデルは急いで外に飛び出た。

 門付近には村人の全員が出ていた。勿論、リディア達の姿も見えた。
「どうしたんですか?」
 ランデルはアデルナとディーデアに聞いた。
「魔物です」
 ディーデアが即答した。
「何!? よし、家からスグに剣を持ってこよう!」
 ランデルは家へと走った。
 クロウの剣は常に腰の鞘に収めてあるので、すぐに魔物に向き合えた。
「このぉ! 村を襲うな!」
 クロウは村の前に居る黒く、割と大きな体格の魔物に向かって叫ぶ。その魔物の手には何やら、紅い宝石の様な物がついていた。
「やぁぁぁぁ!」
 クロウは考えるより先に前に出ていた。相手は振りかぶったが、図体がでかいので動きは鈍く、クロウは容易に避ける。
「はぁ!」
 クロウが横一閃に切り払うと、いとも簡単に魔物は真っ二つになり、後には紅い宝石のみが残った。
「…? 何でこんなにもあっさり…。」
 クロウは一瞬、目を瞑る。残った紅い宝石はクロウの手が触れた途端、眩い輝きを放ち、蒼くなる。
「――!」
 そして、宝石はクロウの身体の中へと入っていった。その光景はクロウの父親、リディアの父兄、そして、村人全員が見ていた。
「父さん?」
「クロウ…」
「クロウ君…クリスタルを身体に宿すとは…君は?」
 その後、再び、突然、稲妻が落ちる。
「あら…この辺りに魔物は来なかったしら?」
 其処には紅い髪で、白いフード、白いローブを羽織った女と、鎧をつけた黒髪の男が立っていた。
「誰ですか?」
 アデルナは聞いた。
「私はユーナ、こっちは相棒のグレン。もう1回聞くわ、魔物は来なかった?」
「来ましたが、この子が倒しました」
「…、君、名前は?」
「クロウ…」
 クロウは無愛想にそして、簡潔に答える。
「クリスタルはどうした?」
 グレンが口を開く。
「クリスタル?」
「惚けるな、司祭!」
 グレンは怒鳴る。
「…クリスタルをどうする、おつもりですか?」
「……」
 グレンはずっとアデルナを見ている。
「!!」
「念話か。王宮のまわし者め」
 ランデルが吐き捨てる。
「念話って?」
「魔法だ。特定の相手にのみ会話を伝える」
「! そんな事は出来ません!」
「明日のこの時間、また来る。」
 そういうと、2人の足元に魔方陣が現れて消え去った。
「…、ランデルさん、あの者達はクロウ君の身体に宿ったクロスタルが狙いです。クロウ君を殺してクリスタルを取り出すようにと、それが出来なければ村に火をつけると。私には正確な判断がわかりません」
「…よ」
 クロウが何か言う。
「俺は別に…いいよ。俺が死ぬことで、この村人全員が助かるなら…」
「何をいっとる!」
 村人が声をあげた。
「お前さんは、まだ20年も生きとらん! 私達はもう何年も生きておる。クロウとリディアは逃げなさい!」
「ディーノさん…」
「そうじゃそうじゃ! あやつらはワシ等が何とかする。絶対にこの村を護る。それまで、西の小屋に隠れてなさい!」
「でも…」
「いくのじゃ!!」
「クロウ…私達なら大丈夫。明日の夕方、リディアちゃんと小屋に行きなさい。大丈夫、皆生きてるから。」
「…うん」
 その日の夜はクロウにとってあっという間であった。


 第二話 人生が変わる瞬間


 次の日
 この日の村は王都から来るユーナとグレンを迎えるためにかなり忙しかった。しかし、この村は20年前、傭兵が集まって出来ただけ有って、この村の男は幾つもの戦を勝ち抜いた猛者ばかりだ。中でも、クロウの父親ランデルはとある傭兵団の中でも団長と副団長の次の位つまり、上から3番目の 1st という、他の者を寄せ付けない圧倒的な強さ。現に、副団長や団長とほとんど互角の戦いをしたという。リディアの父親アデルナと母親ディーデアはこのセルバーナの魔導将であった。相手はアノーバル最強の戦士と魔導師である。
「さぁ、準備は整った。クロウ、リディアちゃん、ここから西にある小屋で少し、待ってるんだ」
「うん…」
 真昼間、クロウとリディアは剣と杖、袋に少数の食べ物とポーション、火打石を入れて西の小屋へと歩いた。

 小屋はパッと見、森の中に隠れていて、外見からじゃ見当がつかないが、森の中に入ってそのまま数分歩くとスグに小屋は見えてくる。
「よし、入ろう」
 クロウとリディアは小屋に入った。小屋の中は広く、ほとんど物置状態で、中には海が近いこともあって漁師道具である地引網や網が無造作に、そして、この小屋の隣には今は荒れているが、そう広くない畑があったので、クワが数本、種の袋が少し、テントもある。また、小屋の外には水道もある。
「火を焚くか…」
 森の中なので木には困らない。小屋は木造だが、小屋の中の真ん中が広く土になっているので火は十分に焚けた。外から燃えやすい木を数本、そして、焚き火の周りを少し土で盛り上げる。
「よし…」
 クロウは小屋から網を取って外に出る。
「俺、ちょっくら川に行ってくる」
「はぁ〜い。沢山取ってきなさいよ? じゃないと、死刑だからね?」
「はいはい…」
 クロウは呆れる。川は小屋から北に行った場所にあり。そう深くない。クロウの膝程度だ。
「そこっ!」
 キラリと水面が光ったので素早く両手を水に突っ込む。激しい音と共に水しぶきがクロウに降りかかる。両手にはマスが確りと掴まれており、そのマスを水に浸してある網に入れる。
「この調子でバンバンいくぜ!」
 クロウとマスの戦いが本格化してきた。クロウは無茶苦茶に手を水の中に突っ込む。一見、考えずに闇雲に手を突っ込んでるようだが、3回に1回程度の割合で、マスが掴まれている。そのマスはすぐ横の網に放り込まれる。クロウがマスを捕まえたら、今度はリディアの番だ。
「沢山捕まえたのね〜…」
 網には10匹程のマスが詰められていた。
「よしっ! じゃぁ、早速料理ね!」
 リディアは常時装備の短剣を取り出してマスのはらわたを取り出して、クロウがマスを捕まえてきた時の為に、木を削って串を作っておいたのだった。マスの臓器類は取り出され、串を刺す。
「よいしょ…」
 それを盛り上げておいた土にさして、木を置き、火打石で火を点ける。
「はぁ〜、疲れたわ〜」
「お前はマスを取ってないだろ!」
「うるさいわね!」
 リディアはその後、短剣を洗いに水道に行った。クロウはマスをずっと見て、そろそろ食べごろという頃にリディアが帰ってきた。
「わぁ〜美味しそう!」
 2人は串に刺り、コンガリと焼けたマスを食べ始めた。夜の事を考えて、焼くのは4匹、1人2匹だった。そのマスを速攻でたいらげた2人は暇そうに寝転がった。
「はぁ〜、心配ね…」
「何でクリスタルは俺を選んだんだろう…?」
「アンタ…私達、魔導師にとってクリスタルに選ばれるってのは最高の名誉なのよ?」
「スイマセン…」
 2人はいつの間にか眠っていた…。

「はっ!!」
 クロウは突然目を覚ました。隣ではリディアも眠っている。
「リディア…!」
「まだ、眠い…」
「……」
 突然、甲高いビンタ音が聞こえる。そして、リディアの右頬は赤くなってる。
「何すんの!? バカ〜!!」
「それより、村を見に行こう?」
「え…あ、うん」
 クロウは完全に不意をつかれた。リディアが落ち着いたと思って、立とうとした瞬間、ビンタを喰らった。
「おかえしね?」
 舌を出して可愛く微笑む。

 ――アトナル村
「…よし、来い」
 クロウとリディアは大人達に絶対に小屋から出るなと言われたが、言い付けを破って出てきた。どうしても心配だったらしい。
「……」
 クロウとリディアの眼前には恐ろしい光景が広がっていた。女も含めて大人が皆殺しにされている。
「父さん!!」
「お父さん!!」
 2人はそれぞれ父親の元に駆けつけた。
「クロウ…」
「父さん…」
 クロウの目には大粒の涙が湧いていた。
「最後に…お前に会えて…私は…うれ…しい」
「父さん!」
「あいつ等は強い…」
「うん…、うん…」
 クロウの顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。
「いいか…? 復讐はかんがえ…るな。終っても虚しいだけ…だ」
「でもっ!」
「……い…いか? 剣には…1つ…1つに能力があるんだ。どんな剣にも…」
「え…?」
「お前…の…剣もそうだ…剣が…持ち主…と…認めれば…能力…は解放…される…。…つよ…く…なれ…で…も、復讐を…かんが…え…ない…でく…れ…。そう…世界に…名を…とど…ろか…せてくれ。そ…うだ、今から…この…ペンダントをも…って、セルバーナの王……に…」
 ランデルはかなり苦しそうだったが、ついに事切れた。クロウはしばらくその亡骸にすがって涙を流し続けた。リディアも同じだ。目の下が赤くなるまでに泣き続けた。
「リディ…ア?」
「何…?」
「俺はこれからセルバーナに行く。父さんがこれをセルバーナ王に渡してくれって言ったから」
「私もついて行く…」
「そうか…仇は必ず…父さん…復讐するななんて…無理だよ…」
「セルバーナへはこのグバローラの首都 ゼンデルン から船で行けるわ…」
 2人は村を出た。それぞれの想いを胸にしまって。

 ゼンデルンへは南のスエトロの町から船で行ける。2人はスエトロを目指して旅に出た。秋なので桜の樹に桜の姿は無い。ただ広い平野に、道だけは土で整備されている。夜なので鈴虫やコオロギの鳴き声がとても綺麗だ。土で整備されている道をひたすら南に歩けば、自然とスエトロに着く。歩くと、1時間程度だ。しかし、今は真夜中だ。
「よし…、今スエトロに行っても船には乗れないからな…この辺りで休むか…」
「そうね…」
 クロウは予め小屋で集めた焚き火の薪を少し持ってきていた。一度やった事もあって、段取りは早く、10分程度で火は点いた。
「…さて…、地べただな…こりゃ」
「え〜〜…」
「しょうがないだろ?」
「アンタは良いかもしれないけど、私は嫌なの!!」
「何だと!?」
「何よ!?」
「……止めよう。止めてくれる人は居ないんだ」
「…そうね…、おやすみ…」
 リディアは素直に地べたに寝転がった。クロウは火の番を1時間程頑張ったが、結局は睡魔に勝てず、寝てしまった。

「ロウ…」
「う〜〜ん…」
「ロウ…クロウ…クロウ!!」
「うわぁ!」
 クロウが目を開いた直後リディアの顔面が目前にあったので思わず叫ぶ。
「失礼ね!?」
「ゴ…ゴメン…」
「まぁ、いいわ、さぁ、さっさとスエトロに行きましょう?」
「え…ぁ、うん」
 2人は再び歩き出した……。







 



2007/10/04(Thu)18:58:02 公開 / デン
■この作品の著作権はデンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
これから壮大な物語が幕を開けます!
頑張って更新するので最後まで楽しんでください!

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。