『時計塔』 ... ジャンル:ファンタジー 未分類
作者:御伽人形                

     あらすじ・作品紹介
ハーネット・シャーレは、幼い頃から母はもう亡くなっていると思っていた。だが、吸血鬼退治の仕事を引き受けていく中で、ある吸血鬼の従者として母が生きていることをつきとめる。彼女は、その吸血鬼が住む城へと向かった。

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プロローグ 時計塔 一

「すいません。ここが時計塔ですか?」
「ええ。そうですよ」
 人間の子供か。そういえば、この職を継いでから人間の子供を見るのは初めてだ。まだ男か女か区別のつかない顔立ちで、かろうじて男性寄りだろうという判断しかできない。
「どんなご用件でしょう?」
「はい。『私を』十年後でお願いします」
 子供というものはたいてい、早く大人になりたがるものだ。この時計塔を訪れることができたのだから、面白いことでも言うのかと思ったのだが、結局はこの人間も例に漏れなかった。時計塔を使えば、確かに他者と違った人生を歩めるが、普通の考え方はあまり好きではない。もっと奇特な人生を歩もうとする者でないと、私は目が覚めた思いにはなれないのだ。
「人間の子供ですよね? 体だけ大人になるつもりかしら。その不幸はどんな物か知っている?」
 この子供が、どんな不幸を味わうかなんて実はどうでもいい。普通の考え方に興味はわかないし、他者の人生がどうなろうと私には関係ない。ただ、『奇特』という言葉に私は餓えているのだ。だから私は、この言葉が否定されることを願っていた。
「いえ、ただ……私は歳をとらないと聞いたので」
 その願いが通じたのか? 話はわからない方向へと進んだ。
「不老の病気ですかね」
 人間の世界で不老の病にかかることはそうそうない。人間のまま不老にさせることができるのは、蓬莱の薬ぐらいしか思いつかない。もしそれ以外でこんな病にかかるのなら、その話はぜひ聞きたい。
「それを試したくて、この時計塔を訪ねに来ました」
 なるほど、そういう客は歓迎だ。十年後にしてもまだ、その姿で居ることができるなら、そのときは話を聞かせてもらおう。もっとも、大人の姿になるようならもう興味はなくなるだろうが。それはそれで今は一興というものだ。
「自分の時間を戻す以外なら、もうここへの訪れ方を知ることはできません。それでもよろしいですか?」
 私は『おそらく』何万回と繰り返した、決まった言葉をこの子供にかけた。
私の手記は、すでに読みきれないほどの量に達している。『昔』の記憶がない私にとっては、もってこいの暇つぶしだ。それを考えると、この職を継いでから、人間の子供を見るのは初めてなのかどうか、分からなくなった。
「そうだったのですか。つまり、自分の意思で来られなくなる、ということですか?」
「ええ」
 この子供は、時計塔の抜け穴を見つけられるぐらいにはすでに頭が発達している。すぐに思いついてしまうあたりが、やはりここを訪れることのできる者とそうでない者との差なのだろう。
「確かに、そう簡単に死人を生き返らされても困りますしね。それに、まあ、別にかまわないですよ。私の体なんて」
「そういうことはあまり言わないほうが良いですよ」
 自虐的になろうとしている人には、この言葉を決まってかけることにしている。そこで、優しいんですね、と言い返さないこの子供の知性には好感が持てた。おそらくないだろうが、もしかするとすでに不老の病にかかっていて、数十年は生きているのかもしれない。少なくとも外見より精神年齢が高いということは明らかだった。
「この部屋にお入りください」
 所定の場所に子供を案内して部屋の中に入れた。
 子供のままでまた出てくることを期待したいが、そううまくはいかないのが世の常というものだ。期待はしない。いちいち期待を裏切られることは、正直疲れる。
「今からちょうど十年後でよろしいですか?」
 さっさと済ませようと、すぐに確認を取った。
 なんとなく今回は、私の願う結果にならない気がする。
 こういう直感は、昔からよくあたるほうだった。別にあまり期待していないというわけではない。ただそう感じるという、根拠のない曖昧なものだ。
「はい。お願いします」
 少し間をおいて扉を開けると、結局大人の姿をした男性の姿があった。やはり、私の直感はあたる。
「あれ、ここは?」
「時計塔ですよ」
 不老の病というのはそう簡単にかかるものではない。期待はしていないと思っていたが、どこかで期待していたのだろうか。出てきたのが大人の姿で、少し残念だった。
まあ、期待というのはそういうものだ。
期待していないと言うときは、たいてい一割ぐらいは期待している。それぐらいの期待を裏切られることは、そんなに疲れることではない。この男性から面白い話が聞けないなと思ったら、もともと薄かった興味でさえ急速に冷めていった。
「どうやら嘘だったみたいですね」
「そうみたいですね。よくあることですよ」
 私は決められたような言葉を即答する。興味のない者と話すことを、それほど楽しいと思ったことはない。
「これからどうしますか? 確認しておくと、もう時計塔は使えませんよ」
 一般のことに、興味はない。正直、早くこの男性との対話は終わらせたい。だから、そういう雰囲気を前面に出して、突き飛ばすように話す。
「まあ、なんとかなりますよ」
私の気持ちが伝わったのか、大人の彼はそう言って、すぐに時計塔を出て行った。
 もともと思考が老けていた子供だったから、言動が似合っていた。本当に老けた子供だった。やっとのことで体が精神に追いついたところだろうか。
それでも、まだ人間から逸脱したわけではない。

 数日後のことだ。
 白い羽根を持った一匹の吸血鬼がやってきた。


本編 第一章 演技

「ハーネット・シャーレ様ですか?」
「はい、情報売りの方ですね。どうぞお入りください」
 最近に父がなくなってから、私以外の他人が出入りすることのなかった屋敷に客人を迎える。少し太った感じの客人は屋敷に入るなり、顔や首の汗を手持ちのタオルで拭き始めた。その動作が珍しくて眺めていると、目が合ってしまった。
「今日は蒸し暑いですね」
「あ、はい。そうですね」
 人と話すことが全然なかったから、どう対応すれば良いかよくわからなかった。だが、どうしようかと考える間もなく客人が言葉をかけてきてくれたので、私はそれに答えるだけでよかった。他人と話すときは準備しておかないと混乱してしまう。客人の仕事は情報売りだ。流石だなと思う。だが頭の上にあるふけが、短い黒髪に目立ってしまっているあたりは、まだ一流とはいえない。
見たくないものを見てしまったと、無駄に残念に感じた。別に情報売りの背が低いわけではない。シャーレ家の女は代々、身長が二メートルを越えている。私も例に漏れず、優に二メートルを超えた女なのだ。
 気がつくと客人は、ちらちらと私の左目につけている眼帯を申しわけなさそうに見ていた。情報売りとはいえ先天性の魔眼持ちは初めてなのだろう。私と会う人はたいてい同じ反応をするから、彼にも決まった言葉を言うだけでよかった。
「病気みたいなものです。気にしなくて大丈夫ですよ」
 もう、気にしてしまうような年齢期はとっくに過ぎている。産まれたときから二十年も過ぎれば、流石に慣れてしまう。社交辞令のようなものでも、本心といえば本心だ。
「どうもすみません。……珍しい刺繍をしていますね。金の瞳でしょうか」
「ええ。家紋なんです」
 そういえば眼帯に瞳の刺繍か。なんてありふれたコメディだ、と心の中で笑った。
 それ以降世間的な会話もせず、私は客人を連れて応接室へと向かおうとする。人と世間話をするのは苦手だ。第一に私が世間に疎いし、そして、ころころと変わる話の流れを読みながら会話できるほどの技術もない。自分が少し無機質な人間だということは自覚していた。多分、この情報売りも、そんな私の性質に気がついたのだろう。正直、話をかけてくれないで助かった。
 応接室は、確か階段をのぼって左にある。天井高くに釣らされた、灯されることのないシャンデリア。正面にそびえた階段の奥は、夕方にでもなると見えなくなる。左右対称のこの屋敷も、玄関の上のステンドグラスから入る夕陽は、対象にはなりえなかった。今となってはただ広いだけのロビーは、栄えていた昔を私に思い出させる。
 建物にせよ名声にせよ、人のいないものはすぐに廃れていくのだ。
階段を上る足音は、どこか物悲しく、高い音をたてて響いた。振り返ると、客人と目が合いそうになったから、正面に向きなおした。客人の後ろは暗くてよく見えなくなっていた。
 応接室の扉は、ギィィ、と、錆びついたような音をたてて開いた。
「どうぞお座りください」
 長方形のテーブルを挟んで、ソファーが二つある。一つは裂けていたので、それじゃないほうの、比較的きれいなソファーに客人を座らせた。客人が座ると、片側の足が折れて傾いた。すいませんと言うべきなのだろうか、と思ったが、何も言わないでおいた。部屋の中が薄暗く、丁度窓から夕陽が差し込む角度だったので、明かりが欲しくてカーテンをあけた。夕陽に照らされた埃が、きらきらと舞って幻想的だった。
「これです。シャーレ様」
 私が座ると、客人は部屋の様子を無視して、一枚の紙を鞄の中から抜き出した。どちらかというと話題にしてくれたほうがよかったのだが、職種上で仕方がないことなのだろう。テーブルの上に差し出された紙には、森の中に二つの人影が映っている。
 人影のうち一方は幼い体つきで、本で見る悪魔のそれの形に似た、白い大きな羽根がよく栄(は)えていた。さらりと腰まで伸びた薄黄色の長い髪に、柔らかそうな眉。一見すると、細い体を際立たせる、白いワンピース調の服が良く似合っていて、悪魔のようとはいえ白い羽根も合わせて天使に見えるが、瞳は違っていた。妖しく赤に染まったその瞳は、黄色い髪に良く似合っていて、写真の上からでも私を魅了するようだ。
 もう一方は──。
 身を乗り出すまではしなかったが、反射的に紙を手に取った。
 男性として見たとしても背が高く、私と同じように猫背で、やや細長いと思ってしまうぐらいの体躯。きれいな目鼻立ちを壊すように、ばっさりと耳にかかるぐらいで切られた赤い髪に、特徴のない黒い服。そして決定的ともいえるのが、射影機に向いたからこそ映った、金の瞳が刺繍された、左目の黒い眼帯。
 ほぼ間違いなく、私が産まれたときに亡くなったはずの母、テレス・シャーレだ。
「ミイラ取りがミイラになった……ということですかね」
 客人のそんなぴったりの表現に、そうみたいですね、と軽く相槌をうつ。

 キャロル・ブランテ(吸血鬼)
 種別のわからない攻撃、防御方法が確認されている。運命操作という特異な能力を持つと噂されるが真偽は不明。確認された中での予想だが、最高位の吸血鬼だと思われる。
    (生還した各討伐隊の談による)
 詳細不明
 懸賞 未定
 ※付き人に対しては懸賞の対象としない。

 要するに、キャロル・ブランテについてはほとんどわからないということか。彼女の名は有名でも、写真を見たことはない。想像していたよりも、とても人間味がある。懸賞が未定というのは、どういうことだろうか。キャロル・ブランテを倒すことなどできないと言われているようで、「何だ? この紙は」と思った。もっとも、この吸血鬼を倒した時点でかなりの名誉は与えられるはずだ。それ自身が報酬といってもいい。それだけの実力と認知度をこの吸血鬼は持っている。母がこの吸血鬼とともにいるのも、それ故なのか?
 運命操作みたいな能力が本当にあるかどうかは疑わしいが、あるとしたら、可能範囲の程度によっては、母がキャロル・ブランテと一緒にいてもおかしくはない。シャーレの家系が持つ先天性の魔眼の珍しさや能力を考えれば、性格が合うなら、たいていの知性ある魔物は従者なりにしたがるだろう。こいつは、母のどのような性格が気に入ったのだろうか。この吸血鬼に少し興味がわいた。
「この仕事を引き受けられますか?」
「あ、はい。そう……です、ね。もちろん」
 情報売りの急な質問に驚いて、まともな返事ができなかった。それでも、結局は似た様な答えを出していただろう。この紙を見たときから、仕事を引き受ける以外の選択肢はなくなっている。
「それでは、大変難しい相手でしたので対象の居場所だけですが」
 彼は準備していたように封筒を鞄の中から出し、私に渡した。中を確認したあと金を払おうとしたが、彼は受け取ろうとしなかった。何かしら懸賞が頂けるはずですから、そのあとでいいですよ、と言われたから、とりあえず頷いておいた。正直、もう財政が厳しかったから助かった。今度のときは少し色をつけて払おうか。
 借りを作って自分の行動を制限されるのはあまり好きではない。というより、受けた義理は、返さないと気がすまない。
 夕陽はすっかり落ちていて、すぐ近くにあるはずの情報売りの顔さえよく見ることができなくなっている。私は、彼を屋敷から帰そうと席を立った。
「例えばの話です。尊敬すべき身近の人が亡くなったら、どう感じるでしょう」
 彼は席を立つと、突然質問をしてきた。
「別にシャーレさんのお父様のことを言っているわけではありません。単なる一般論で結構ですので」
 情報を扱っているのだから、私について調べているのは当然のことだ。初めて会う人に自分の素性を色々と知られているのは気分のよいものではないが、納得はするしかない。深追いして話をしないのだから、腹を立てる理由もない。むしろ、深追いしないのは気を使っているからなのだろう。そういう相手には腹をたてないことにしている。
「身近な人が亡くなったら、それは、……悲しいですよ」
 私は、父を最近に亡くしているからよくわかる。あまり話すことのなかった父でも、亡くなったら悲しくなるものだ。
 父は偉大な人だった。確かに対人能力は低い方ではあったが、それを埋めようと努力をしていた。この家系にはもうすでに人脈などはなかったから、たくさんの情報売りを呼んだし、そこから人脈をつくろうともした。必死に魔物退治を続けた父はもういない。私の父は、何もかもなくなっていたはずのシャーレの家に、『魔物を退治する』という印象を情報売りに残してこの世を去ったのだ。そのおかげで、面白い情報を持った情報売りたちは、まずこの家に連絡を取ることが多くなった。
「それでは、その方が生き返るかもしれないとしたら、どう感じますか?」
唐突な質問の変化に、はてな、というような感じだ。まず質問の意味がわかりにくい。そして、意図もわかりにくい。少し時間をかけて意味を理解したとき、とりあえずの無難な答えを言うことにした。実際のところ、自分でも納得のいかない答えだとわかっていたから、答えるのは少し嫌だった。それでも、尋ねられたからには答えようと思うほうが強かった。
「さあ、どうでしょう。そういう経験はありませんから。それに、その時点でもう一般論なんて出ないと思いますよ」
「ああ、それもそうでした」
こんな問いがでたということは、この客人が何かおかしなことに巻き込まれているということか。そしてなぜか、私から何らかの助言を期待している。さて、どう言ったものか。先ほどの答えでは自分も納得できない。何か答え直すべきか。
私は客人を連れて応接室を出た。屋敷の中は真っ暗で、足元すらよく見えない。私は大丈夫だが、この客人は大丈夫なのだろうか。ここで一応尋ねるべきかもしれないのだが、言い出すことができないまま、玄関へと向かう。対人能力が低いな、と思った。
私と客人の、階段をおりる足音が静かな屋敷の中に響く。今回の沈黙は、対人能力のせいだけではない。女というものは言葉を発しながら頭の中で別のことを考えられると聞いたことがあるが、少なくとも私はそうではない。話をすることに頭を使うから、考え事をしながら話をするなど、できるはずがないのだ。
玄関につくと、帰りを促すように扉を開けた。ありがとうございます、という彼の足は、若干進みが遅いように見える。やはり、私に何か答えを求めているのか。恥ずかしくも思ったが、私は彼に言葉をかけた。おそらく、負けず嫌いだとか、そう言う感情がこれにあたるのだろう。
「……その時も、尊敬する人が身近な人ならば、亡くなって欲しくはないですね。生き返るのが確実というわけではないし、なにより、生理的に死んで欲しくないと思ってしまうんじゃないでしょうか」
 死ぬというのはそういうものだと思う。生き返ることが確実でなくてもあっても、死ぬということに感情を抱かなくなるのはどこか間違っている気がする。生理的で合理的でもなんでもないのだが、それが、私の満足した答えだ。
「そうですか。ありがとうございます」
 彼は満足したように礼をして、屋敷から帰った。
 キャロル・ブランテ……か。吸血鬼の付き人が、私とよく似ていると聞いて情報売りを呼んだが、思わぬ収穫を得た。
 しばらくして、ばちばちと暗い夕暮れの仲で雨が激しく降る。外がうるさくて扉を閉めると、対照して屋敷の中は寂(しず)かになった。部屋に戻る途中、階段を上る音や廊下を歩く音が耳に入るが、耳障りにはならない。
 むしろ、より思考に耽ることができた。


閑話の題 時計塔 二

 数日後のことだ。
 白い羽根を持った一匹の吸血鬼がやってきた。
「キャロル・ブランテさんでしたでしょうか」
「ええ。よく知っているわね」
 知る限りでは白い羽根を持った吸血鬼は他にはいない。それに、この吸血鬼には前から目をつけていたから顔は覚えている。人間を従者にした最高位の吸血鬼だから興味があったのではない。いや詰まるところそこに落ち着くのだが、どうして千年もの間、一人も従者を持たなかった吸血鬼が、今になって二人も従者を持つのか、それが疑問なのだ。
「貴女の名前を知らない者なんて、早々いませんよ」
「そう。ありがと」
 そんなことなどどうでもいいかのように、彼女はさっさと礼を言った。生まれながらの貴族というのは、たいていこのようになってしまう。自分の持つ権力の強さなど、意味のないもののようにぞんざいに扱う。なくなったあとになって、必要だったと気がついても、元に戻すことの難しさを知らないのだ。もっとも、キャロル・ブランテがその『普通の貴族』にあてはまるかは疑問ではある。
 彼女はすでに亡くなった女性を差し出した。この人間が、キャロル・ブランテに選ばれた従者か。確かに魔眼持ちではあるらしいが、それ以外はいたって普通。特に人間の域は出ないように見える。彼女は、この人間のどこを気に入ったのだろうか。
「こいつを生き返らせに来たわ」
 やはり、こういう風なことを言うんだな。彼女が亡くなった女性を持ってきたからには、それしかすることがない。ただ、人間に比べて永く生きてきた彼女は、その無意味さを知っているはずだと思ったのだが。
「……貴女が、この人間にそこまでする必要はあるのでしょうか」
 いなくなればまた新しいのを探せばいい。どうせ生き返らせても、すぐに死ぬ。妖怪と人間の関係とはそういうものだ。私は、ずっとそのような関係を見てきた。寿命の長いものは寿命の短い物をないがしろにする。それが一般事象なのだ。
 この職は面白い。奇特な人生を歩む者を直に見ることができる。そして、その声を聞くことができる。
 私にとって、これ以上の幸福はない。
「面白い話でも聞けると思った? だとしたらごめんなさいね。そんなに面白くないわ」
 彼女は私の考えていることを見通しているようだった。流石は運命を操る吸血鬼、というところだろうか。並大抵の嘘つきでは、言い負かされてしまうだろう。そんな気がする。
キャロル・ブランテは、覚悟をするように、差し出した女性を睨んでいた。きれいな顔が台無しだ。いや、きれいな顔といえば、それでもとてもきれいな顔だった。
「ねえ、運命とかって信じてる?」
「……貴女がそういう事を言うなんて、どうかしたんでしょうか」
 冷静に話を進めようとするが、内心ではびっくりしている。彼女のいう面白くない話は、私にとって極上の話に違いない。この吸血鬼が、どのような運命論を話すのか。奇特に反応して活性化しつつあった私の頭が、一気に覚めた。運命を操る者の運命論。なんて皮肉だ。
 これだから、私はこの職を喜んで継いだのだ。循環した永遠に縛られようとも、この職を手放す気などない。そんなものは苦痛のうちに入らない。何万回と奇特に触れることができる。循環した永遠は、私にとっては苦痛ではなく、むしろ、なんとしてでも手に入れたい代物なのだ。この職を継げて、本当によかった。
 私が他から逸脱しているのはよく知っているつもりだ。こんな考え方などそう簡単にできるものではないのだから、この時計塔の後継者もそう簡単に現れない。もっとも、現れたところで私は断るだろう。私の先代が、この職に嫌気が差していたのも、また幸運だった。
 永くここに住めば、今みたいに面白いこともある。キャロル・ブランテは、独り言のように話し始めた。
「私は、運命を信じないわ」
想像は少しできたが、意外な言葉だった。
「私は、……運命など操れない。実力としては他と劣らないまでも、それでもそんな特異な能力があるわけじゃない。私はそんな特別な能力を持った吸血鬼ではない」
 栄誉の重みに押し潰される者は何度も見てきた。押し潰されない者はたいてい、栄誉を重みに感じていない者だった。千年もの間、他を圧倒するほどの力と栄誉を持っていたから、後者の側だと思ったが、どうやら前者なのだろうか。それにしては千年はながすぎる気がする。
 誰もが羨む栄誉を、千年間持ちながら生きた者でも、自虐的になるものなんだな。意外だな、と思っても、こう言う者にかける言葉は決まっている。
「そういうことはあまり言わない方が良いですよ」
 この言葉に相手を思いやろうという含みはない。たんに対する私の感情は、たいていが無関心で、使う言葉はいつも似ている。その真意に気がつかない者は、優しいんですねと返して自虐を止めるし、気がつく者は、さっさと会話自体を終わらせようとしてくれる。
 ただ、例外もあるんだと思った。
「中途半端にね、人間の世界と関わると、ありもしない身分に振り回されて疲れるの。無意味に期待された能力を、使えないと公言したところで誰も信じない。何も考えないで暮らすことができない。貴女にはわからないでしょう?」
「…………」
 彼女は私に注意するように言った。
人間の世界に知られることのない時計塔、知られたとしてもその効力が保障されている時計塔、そこに住む私は、いつも気楽に、自由に過ごせるのだ。そんな者に理解できると言われたくはないだろう。奇特な人生を歩んだ者を多く見てきた私は、確かにキャロル・ブランテのような例を見たことはある。だが、理解というのは、自分自身で体験してでしか得られないと思う。第三者からだと心配しているように見えてしまうのは癪だが、納得のいかない言葉をかけることの方が嫌だった。
「それでも誰かに負ければ、そんな身分なんてなくなるんじゃないですか」
 無言に代わるように、言葉をかける。
「貴女の持つ栄誉は、他者に負けない故でしょう? それなら、負けてしまえばすむことだと思うのですが」
 私は、栄誉に困った者が、どのような対処をしていたかをよく見ている。それに私自身、もしこの吸血鬼が敗北したなら、ただの吸血鬼として認識されるだろうと思った。断言はできないが、敗北すればおそらくはこの身分は消える。敗北という言葉は、それほど強力な意味を持っているのだ。
「ええ、そうね。確かに、負ければ自由になれるわ。だけど私はね、……そこいらの奴に負けてあげられるほど心が広くないのよ」
 キャロル・ブランテは笑った。何らかの賭けに勝とうとするようにも見えた。いや、もうすでに勝った気でいる。こういう勘はよく当たる。おそらくその賭けは、彼女の思う結果になるだろう。
 このあたりが、運命を操れると噂される所以なのかもしれない。
「こんな身分は捨てたいけど、そこいらの雑魚に負けたくはない。だから、丁度よかったのよ。……次また会うだろうから、その時もよろしく頼むわ」
 キャロル・ブランテは、生き返った女性を抱えて時計塔を出た。


本編 第二章 従者

 いつになったら着くのか。キャロル・ブランテの住む城がある森へと入って相当進んだが、一向にひらける気配がない。歩いても、歩いても、周りが同じ景色に見える。結界の中に城があると思ってはいたが、それらしい魔力がない。
 この情報にはお金を払っていないし、もしかしたらガセなのだろうか。いや、そういうわけでもないか。あの場で私にガセをつかませる理由が見当たらない。私はお金を払おうとしたのだ。そのお金を受け取らないあたり、ガセと捉えるのは難しいだろう。
 そういえば、意識をずらす結界というのを聞いたことがあるな。結界使いは、最終的にそれを扱えるようになるまで研究を続けているらしい。その研究を成就させた者は確認されていない。だから、そんな結界のことは意識の外にあった。もし誰かが研究を終わらせていれば有名になるだろう。外に疎い私でも、流石に世界が動くことなら、風聞も耳に届くはずだ。
奇妙な噂を思い出した。噂というより都市伝説の一つと言うべきだろうか。
鬼才の結界使いが行方不明になって、彼の研究を頼りにしていた者達は必死になって捜し求めた。彼がこの森の中に入るところまでは突き止めたものの、それ以降の手がかりが何もない。数年がたち、結界使い達は彼の捜索を諦めた。
まさかな。もしそうなら、私の手には負えない。むしろ、勝負というか試合というか、それ以前の問題だ。
 私は、森へと行く前に情報掲示板へと向かった。情報売りの言ったことが信じられないというわけではなかったのだが、とにかく自分の目で確かめたかった。掲示板に張り出された、キャロル・ブランテに関する紙の文面は、情報屋に渡されたものと同じだったが違うところがひとつ。写真がなかった。情報売りにとっては、あのような写真ぐらいなら簡単に渡してしまっていいものなのだろうか。仕事を引き受けるとは言っていない状態なのに、写真を渡してきた。もっとも、お金を払わないままであの情報売りを屋敷から帰したのだが。
 私は人付き合いが苦手だし、だから自分から情報を集めるのも苦手だということは、自分でもよくわかっている。誰も彼もが「元貴族」を避けていた。話をするときも、どことなく距離を感じてしまう。単なる思い過ごしなのかもしれないが、気がついたら私は、人と話すこと、人といることが嫌いになっていた。
 情報売りは便利だ。
 情報を知っているものを探す手間が省けるし、話す言葉も最小限にすむ。私が嫌いなことを避けながら、必要なものを手に入れられる。情報に詳しくなければ意味のないことではあるが私みたいなものもいるからこそ、この商売も儲かるのだろう。
 森の中の景色が変わらない。魔力も見当たらない。あの噂もあながち間違いではないのだろうか。周りの景色が変わらないままで歩き続けるのが、鬱になってくる。紙に写された写真を見ると、わざわざ城まで進まずとも、こうして森にいればいつかは出会えるかもしれない、と思った。そんな簡単に出会えるものではないとはわかっているのだが、なぜかそんな期待をしてしまう。
 横着なことを考えるこの頭は遺伝かな。もしそうなら、シャーレ家が衰退した原因のひとつかもしれない、とありそうもないことを考えた。実際の衰退理由は、三代前の頭首が倒すべき妖怪を助けたからだ。その頭首は屋敷を離れ、もうすでに亡くなっているだろう。別に怒りはない。一族を裏切ったとはいえ、頭首は頭首なのだ。シャーレ家に対する他者の信頼がどれほどのものかは理解していたに違いない。一族と一族に対する信頼、それを捨ててまで、妖怪を助けた。迷った末の決断にとやかく言えるほど、私は賢者ではない。それに第一、繁栄させたのは私ではないのだ。筋違いもはなはだしい。
とは言っても、以前は栄えていたという証の屋敷も、今ではただの一人も使用人がいない。名誉を得るのはどうでも良いが、何かを失うのは寂しい。失って初めて気づく何とやら、というやつか。
 森の中で歩を進める足は、そのままで、自嘲するように一息を吐いた。
 そういえば最近の夜、屋敷の廊下を歩いているときに、子供の頃を思い出したことがある。子供の頃の私は、薄暗くて無機質な廊下を気持ち悪がった。大人になった私が、子供時代を思い出すのは憧れだろうか、と自嘲気味の台詞が頭の中で出来上がって、やはりその時も一息を吐いた。その、息を吐いてすぐ、特に耳に入らなかった声が耳に届いたのだ。その時は父が吸血鬼退治の仕事で話し合っているのだろうと、特に気にも留めずに自分の部屋へ戻った。
 今回もそれによく似ていた。一息をつくと、まるでそこで話の段落が変わるかのように、今まで感じなかったはずの視線を感じた。見張られているというより、見られている。不可解な視線だった。殺意も戦意もない、ただ、見ているだけ。そんな奇妙な視線に、感覚がきりかわる。一歩一歩、いつでも対応できるように慎重に歩いた。
 相手は、私に何の用があるのだろうか。いや、それとも単に同業者か? それなら、なぜ私を見る必要があるのだ。それも、気配を殺して。私に見つかったところで相手に害はないのだから、気配を消す必要はない。ずっと私に視線を向けていたのなら、やはり私に用があると見るべきだろうか。
 埒が明かないな。
歩いても、歩いても、周りの景色は変わらない。それに、相手が誰であるかの予想もつかない。仕方がない、か。私は、視線に戦意がないのを確認してから振り返った。
「そろそろ出てきたらどうですか?」
 茂みの影から出てきたのは、意外な人物だった。意外すぎて、一瞬思考が止まってしまった。なぜ彼がここにいるのか。なぜ。
 私はどこからはめられていた?
おそらく、最初からか。でも、なぜ私をはめたのか、何に私をはめたのか、理解できないことは多い。
彼は、悟られないように気を配っているのはわかるが、不愉快そうに見えた。いや、おかしい。不愉快になるべきは私のほうなのだ。
「何の用でしょうか?」
 私はさも不機嫌そうな様子で尋ねた。不機嫌になるのは得意だった。そして、相手が不機嫌になる言葉もよく知っている。というより、私は普通に話すと相手を不機嫌にさせる。準備をしないとまともに相手と会話を成立させられない。困った性質だが、今はそれでもかまわないと思った。
 相手は、私のそんな言葉を無視して返答した。やや、戸惑いがちではあった。意外なことには意外なことが続くものだ。その返答の言葉は、意外だった。
「キャロル・ブランテ様の命により、ハーネット・シャーレ様をお迎えにあがりました」
 茂みの奥から出てきたのは、つい先日、キャロル・ブランテに関する情報を持ってきた客人だった。


本編続き 第三章 主従

「ブランテッドの城へようこそ」
 情報売りに案内され、重苦しい扉を開けると一人の少女が礼をした。十にも満たない幼い外見、背からはえた白い翼、さらりと腰まで伸びた薄黄色の髪。そして、魅了するような赤い瞳。一目見ただけで彼女がキャロル・ブランテとわかる。
「貴女が最初に挨拶をしてくれるとは、なかなか都合がいいものですね」
ここに来る途中、情報屋に何を聞いても「私はブランテ様の命に従うだけです」の返答だけで、話らしい話がまるでできなかった。
どうして貴方がここにいるのか。
どうして私がキャロル・ブランテに呼ばれているのか。
どうして、私をはめたのか。
 不満をぶつけるように、私は皮肉を言った。
「あら、貴女もまず私に挨拶をしたいと思っていたのかしら。嬉しいわ」
そんな私の皮肉が通じたのか、彼女の返答にも皮肉がこもっていた。
今まで、話をすることは気を使うことと同義だと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。彼女の皮肉は、どちらかというと私を安心させた。性質が似ていると気の合うことが多いと聞くが、それなのだろうか。
 目が合うと、にやりと笑ってきた。私よりも数十倍歳を重ねているとはいえ、生意気なやつだ。外見が幼いだけに、妙に錯覚をおこしてしまう。
「ごめんなさいね。『私も』なかなか外に出ないから、『私も』誰かと話すことはあまりなかったの。私の発言に少し気に入らないところがあっても、目を瞑ってくれるかしら」
「それは、別に構わないですが……」
 挑発しながら話しかけてきたが、私はその挑発に乗らず質問にだけ答えた。この手の挑発というのは、たいてい相手を罠にはめるためのものだ。すでに罠にかかっている私が言うのもおかしいかもしれないが、これ以上罠にかかる気はない。
それに、挑発より気になったことがある。キャロル・ブランテは私の身上を知っている。やはり、キャロル・ブランテはシャーレ家と何らかの接点を持っていたのだろうか。それとも、情報売りを介して呼んだのだから、それなりに私のことを調べたと言うところだろうか。確かに、家族の居ないシャーレ家の人間は、従者にするなら、能力的にはもってこいだろう。母がなくなって代わりが欲しくなったのかもしれない。幾つもの可能性がありえるように思えてきて、言葉を続けることができなくなった。
「どうかした?」
「いえ、ただ……」
 母がこの城にいるとしても、彼女にいないと言われてしまったらどうしようもない。私から最初に嘘をつくのは癪だが、好奇心には勝てない。
 考える時間は一瞬だ。嫌いなことの割には、考えつくのは早いなと思う。
「ただ?」
「以前母が、大人の女性の姿をした吸血鬼が城の主、と言っていたのですが、ここ数年の間に世代交代でもしたのでしょうか」
「……意味がよくわからないわ」
 その通りだろう。私自身、ブランテが世代交代をした話は聞いたことがない。そして、なによりもまず、私には母がいない。
 だから、彼女の答えには、まだ二重の意味がある。
 私は確認を取るように繰り返した。
「え。だから、以前に私の母が」
「そういうことを言っているんじゃない。どうしてありもしないことを話すのかと言っているの」
 彼女の小さな唇が、私を正すようにはっきりとした調子で動いた。その言葉には威圧させる何かがあった。これが、永く歳を重ねたものの特徴なのか。だが、私はキャロル・ブランテの言葉には威圧されないで、むしろ収穫に満足した。
私の言葉が嘘とわかるあたり、やはりキャロル・ブランテは少なくともこのシャーレ家と接点があるのだろう。ということは本当に、母がここにいる可能性が高い。
 私は、嘘をつくことが嫌いだ。でも、得意だった。もったいない才能だ、と思った。どうして嫌いでないことが得意でないのか。
もしかすると、得意だから嫌いになってしまうのかもしれない。他者に勝つことが分かっていると、急速にそれに対する熱が冷めていく。そういえば、子供のころは人をはめるのが好きだったな、と思い出した。
「どうして私がありもしないことを話していると思うのでしょうか」
 母が従者になっていると答えるのなら、それで私の質問は一段落が終わる。
 もし、母が死んでいると答えたときは、母に関する質問は諦めるしかないだろうが、まだ聞けることはたくさんある。なぜ私の素性を調べたのか。なぜシャーレ家の中で私の素性を調べたのか。
 負けたことのない吸血鬼が、私を従者にでもするというのか?
 数々の質問が、私の頭の中で出来上がる。
「あなたの母は、あなたを産んだときに亡くなったでしょう? 間違いないわ。だって私が」
 あれ? 最後が聞き取れない。いや、聞き取った。ただ、予定と違う。キャロル・ブランテの返答にそんな言葉はあるはずがない。そのメリットが、彼女にはないではないか。思考が止まった。聞き取った言葉を反芻して意味を取ろうとするが、結局は訳が分からない。
「意外だった? あなたの母は、私が看取ったの」
「貴女は……前から、シャーレ家と何かしら接点があったのでしょうか」
 キャロル・ブランテの一言で、私が優位にたてていたはずの会話が、一瞬にして逆転した。なるほど、こういう切り返しの仕方もあるのか。
他者と話していて、はじめて、勝てそうにないなという気分になった。
「嘘よ、嘘。これでおあいこでしょう?」
 私の認識はおこがましかった。勝てそうにないのではない。完全に言い負かされた。優位にたてていたと、単に思わされていただけ。彼女は、カマをかけられていると知った上で、それに乗った。
 格が違うな。
「疑っているようだからはっきりと答えてあげる。貴女の母が、貴女を産んだときに亡くなったのは、紛れもない事実よ。嘘だと思うなら、あなたの自慢の腕で確かめてみたらどうかしら。殺し合いは得意でしょう?」
 そうだった。私は、キャロル・ブランテを殺しに来たのだ。確かにはめられたとはいえ、キャロル・ブランテは賞金首にかかっている。懸賞が未定でも関係はない。彼女を殺せば、それを無視してもいいくらいの栄誉が手に入るのだ。
 まさか、殺す相手からそれに気づかされるとは。
「その方がよさそうですね。言い負かされたから殺し合い、という構図になってしまうのは少し嫌ですが」
 双方から仕掛けた殺し合いは、殺し合いとはいえないぐらいに一方的に、それも一瞬で終わった。まさに、気がついたら終わっていた。
 私の圧勝だった。手ごたえなどない。
 「これが本当の実力ではないでしょう?」
 キャロル・ブランテからの返事はない。彼女はすでに息絶えていた。
 側に控えていた『情報売り』は私に時計塔の効果と行き方を教えた。
 ああ、なるほど。
 そういえば、父が死んで人がいなくなったからとは言っても、屋敷の廃れようは異常なものだったな。


エピローグ 時計塔 三

 やはり、キャロル・ブランテの賭けは彼女の思う結果になったようだ。
「このごろ客が多いわね」
 確か、彼女の名はハーネット・シャーレだったかな。正直、キャロル・ブランテが彼女に入れ込む理由は良く分からない。
 寿命の長い者は、短いものをないがしろにする。
 そう思っていたのだが。
「この前は誰でしたか?」
「貴女が抱えているその子よ」
 彼女の言う言葉は分かっている。義理を重んじる人間は多い。キャロル・ブランテが入れ込んだからには、と思ったがいたって普通。この人間も例に漏れず、そこいらの人間とかわりはしない。
「この吸血鬼を生き返らせに来ました。一週間前でお願いします」
「時間を戻す対象が貴女じゃなかったら貴女はもう時計塔に来られなくなります。それでもよろしいですか?」
 想像できすぎて面白くない。
 私は奇特に飢えているのだ。
「ええ、おかまいなく。……どうかしましたか?」
「いえ、どうもしませんよ」
 どうして、人間はいつもこうなのか。
 奇特な人生をこいつが歩んだのは分かる。だがどうして、もっと奇特な発想をできないのか。キャロル・ブランテの話を聞いて、無意識にそれと比べてしまっているのか?
 確かにキャロル・ブランテは極上だった。当分は彼女を上回る奇特は現れはしないだろう。今はキャロル・ブランテの奇特に満足すべきなのだ。
そう、例えるなら今は、素晴らしいご馳走の代金を支払うとき。

 シャーレ家は最高位の吸血鬼を従者にしたとして、数年後には栄えていた。もっとも、当初は受け入れられなかったのだが。
 キャロル・ブランテがどのようにして受け入れられたかは、また別のお話。まあ、彼女の能力を持ってすれば簡単なことだろう。単に街に寄る妖怪を退治していけばいいのだ。
 どこまでが操られた運命かは、白い羽根の吸血鬼にならわかるのだろうか。

2007/08/20(Mon)22:51:23 公開 / 御伽人形
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(修正一回20070820)

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