『魂はオナジ』 ... ジャンル:時代・歴史 ファンタジー
作者:千尋                

     あらすじ・作品紹介
同じ顔、同じ心__二つの魂は、時を、時代を超え突然出会った。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
       序


「私と同等の魂を持つ者…… 早く見つけなければ」

 一人の少女はそう呟いた。
見た目は十六歳程度。さらに滝のように流れる黒髪は座っていると床に届くほど長い。そして前髪から覗く大きな黒い瞳。
彼女は見とれてしまうほど美しかった。さらに襖の隙間から入り込む満月の月光に照らされ、より、彼女の美しさは増していた。
彼女が居る部屋は木造で部屋一面お香の香りが包み、彼女が座っている前には二本の大きな蝋燭と透明な器に入った水と鏡があった。
今この部屋に聞こえる音は蝋燭が燃え盛る音だけ、後は物音一つ聞こえなかった。
わずかに開いた襖の間から注ぎ込む満月の光はしっかりと彼女の後ろ姿を照らし続けていた。
そして彼女が覗き込む水面に写っている者、それは彼女とそっくりな顔をした少女だった。
その時だった襖の開く音が部屋に響いた。
今まで静かだったため、この音に彼女はすぐに気づき音の方向を見た。

「碑夜月殿…… 準備が整いました」

「鷹久、ご苦労でした。 後は自分でやります、下がっていいですよ」

 開いた襖の向こうに居たのは長い黒髪を後ろで一つに束ね、腰に長剣を付けた鷹久という青年だった。
鷹久は碑夜月と言う少女の前で跪いていた。
碑夜月は優しく微笑むと立ち上がり鷹久のを追い越し部屋を出て行こうとした。
すると鷹久は碑夜月を止めるように腕を掴んだ。碑夜月は驚いたように足を止め、鷹久のほうを見た。
その時の鷹久の表情は碑夜月を心配すると共にどこか悲しい顔をしていた。
鷹久ははっとすると碑夜月の腕を放し、その場で俯いた。
碑夜月は自分から鷹久の手を取りその冷たい手を両手で包み込み優しく微笑んだ。
碑夜月の行動に鷹久は驚いたのかゆっくり顔を上げた。

「鷹久、私を心配してくださる気持ちだけで十分です。 それと、あともう一仕事頼まれてくれますか?」

「もちろんです。 全ては碑夜月殿の望みのままに……」

 碑夜月は鷹久の手を握ったままもう一度優しく微笑んだ。そして手を放すと立ち上がり部屋から出た。
一歩部屋から出ると、満月の光がとてもまぶしく感じていた。
時刻は真夜中、屋敷の人々は寝静まり虫の鳴き声も聞こえなかった。
そんな中、碑夜月はただ一人満月を見つめていた。誰にも邪魔されることなく、その満月をただ一人で。
この世界を照らしているのは、空に浮かぶ大きな満月だろう。
鷹久は後ろで碑夜月を見守っていた。しばらくすると、ある場所に向かい歩き始めた。
碑夜月が向かっている場所、そこは屋敷の一番奥にある祈り場。
祈り場は、碑夜月と鷹久しか入れない神聖な場所。
しかし、最近は二人とも入っていなかったので四隅にはくもの巣が張られ、扉を開けると黴の臭いが空気に混じり出てきた。
古く腐りかけた床は軋んでいた。
祈り場の中には、赤い星型の紋章がかかれその角には蝋燭が立てられていた。
そして星の中心には葉のついた枝と水が置かれていた。そして碑夜月は星の中心に立った。
すると鷹久は祈り場の扉を閉め、見張るように扉の前に座った。
しばらく扉の閉まった音が部屋に響いていたがいずれその音はやんだ。
碑夜月は音が止まったことを確認すると、枝を取り構えた。

「我と同等の魂を持つ者…… 我の前に姿を現せ」

 碑夜月がそう言った直後だった。地面が大きく揺れ始めた。そう、地震が起こったのだ。
建物や木々は大きく揺れ、古い祈り場は軋み、今にも崩れそうだった。さらに天井からは木屑が落ちて来ていた。
しかし碑夜月は動じずただ目を閉じていた。不思議なことに大きく揺れているのに水面は揺れることなくおいてある。
鷹久もじっと目を閉じ扉の前に座っていた。
鷹久の手に握られている刀はこの世界の異変に気づいているかのように音を立てていた。
しばらくし、揺れが大きくなると共に碑夜月の目が開いた。
その時、水面が輝き始めた。そしてその光は部屋中を包み始めた。

「過去と未来の道が繋がる…… 魂が一つになった」










       其一



時は変わってここは現代。
碑夜月の屋敷はまだ同じ場所に立っていた。しかしもう四百年近くも経ったので誰もよりつかず、今は肝試しスポットとして使用されている。
四百年前の木々に囲まれていたときの風景は跡形もなく、工事が進み自然は殆どなくなってしまった。
最後の名残は、桜通りと名づけられた春になると桜が舞う綺麗な通りだ。
今の季節は丁度春、桜が見ごろな時期だった。
碑夜月と同じ魂を持つ者、その者は桜通りを抜けたすぐそばの一軒家に住んでいた。
表札には、碑夜月と書かれていた。碑夜月の名前と同じ苗字、これは偶然ではなかった。
今は丁度午前七時。家の玄関から一人の少女が飛び出してきた。
碑夜月と同じ顔…… この少女が碑夜月 知代。碑夜月と同じ魂を持つ者。

「いってきます!」

 知代は高校一年。スポーツも勉強も得意な優等生。
玄関の扉を閉めると黒髪を靡かせながら高校へ向かう。知代の学校は家の反対にあり、桜通りを通り抜けため、毎年春になると桜を見ながら通学できるのだ。
そしていつも一緒に通学するのは、隣に住んでいる幼馴染の架座峰鷹史。おそらく鷹久の子孫だろう。
鷹史はいつも桜通りの一番大きな木の前で知代を待っている。そして今日もいつもどおり笑顔で知代を迎えていた。
智代は鷹史の姿が見えると大きく手を振って大急ぎで鷹史の前まで行く。

「鷹史、ごめん待った?」

「いいや、俺も今来たところだ」

 この会話が二人が最初に出会ってする会話だった。
毎年桜が見ごろになると二人はこうしていつもより早く家を出て舞う桜を見ながら登校するのだ。
そして、最後は二人しか知らない最高の見所…… 碑夜月の屋敷から見える桜だった。
二人は屋敷の前まで来ると、壊れかけた門をくぐり、中に入る。
毎年入っていたので慣れてはいたが、やはり薄気味が悪く、風が吹くと背筋が凍る。
桜が一番綺麗に見える場所、その場所は祈り場だった。
ほかの部屋はもう崩れ、底が抜けているところもあった。しかし、一番古びているはずの祈り場が一番綺麗に残っていた。
知代と鷹史は突然好奇心にとらわれ祈り場に入ることにした。
祈り場の扉に手をかける、腐りかけた木の湿った感触が手を通して伝わってくる。
さらに扉を開けると簡単な力では開かなく、鷹史の力でも思い切り引かないと開かなかった。

「ねぇ、ここって何かの儀式のためにでも作られたのかな? 何かの魔方陣みたいな星が書かれてるよ」

「本当だ、この模様、どっかで見たことあるような……」

 智代は床に書かれている星を指差した。
するといきなりその星は光だし、智代と鷹史を包み始めた。
そして二人の脳裏に現れた映像。それは、もう一人の自分、碑夜月と鷹久の姿だった。
二人が見た映像、それはあの時の…… 碑夜月が儀式を行い始めた時だった。

『我と同等の魂を持つ者…… 我の前に姿を現せ』

「……え?」

 二人が我を取り戻したときは脳に流れた映像は終わっていた。
だが、星の光は収まってなかった。
二人は顔を見合わせ、知代は不安そうに鷹史を見つめていた。

「鷹史、今の人たち……」

「俺たちに似てたな…… まるで、俺たちの先祖みたいに」

 鷹史の考えはあたっていた。鷹史は鷹久の子孫。知代は碑夜月と魂が同じ……簡単に言えば生まれ変わりと言ったところだ。
その時四百年前のあの時と同じ、地震が起きはじめた。
前よりも揺れは大きく古くなった祈り場はあの時よりも大きく揺れた。
知代はあまりの揺れに立っていられず近くの柱にしがみ付いていた。
鷹史は知代をかばうように知代の近くに居た。さらに揺れが増したとき、光が部屋を包んだ。
その光に碑夜月が写った。二人は目を見開いてその姿を見ていた。
目の前に自分と同じ姿をした人が居ると思うと背筋が凍った。

『どうやら、全ては必然だったのですね…… ようやく長い時を超え貴方たち二人に会えました』

「私と同じ…… 顔」

 碑夜月は悲しそうに微笑むと目を閉じた。
また後でと言い残し、眩しくなっていく光が二人を包み込んだ。
そして二人の意識は遠のいていった。






    




其二



登校途中にたまたまよった古い屋敷で意識を失ってしまった知代と鷹史の二人。
白く眩い光に包まれた瞬間、目の前は暗闇に飲まれた。
おそらく、目を閉じているためだろう。しかし、瞼が重くうまく開かない。
目の前の暗闇の中で知代はもがいていた。ただ考えていたこと、鷹史は無事なのだろうか。
鷹史に対しての心配と、自分の生死に対する不安で知代の頭は埋め尽くされていた。
その時突然に掛けられていた鎖が解き放たれたように瞼が軽くなった。
そしてゆっくりと目を開ける。しばらく視界はぼんやりとぼやけていたが、意識がはっきりしてくると共に視界ははれてきた。
知代は見慣れない屋敷の布団の中で眠っていたようだ。周りを見回しても鷹史の姿は見えない。
しばらく天井を見上げ、体が楽になってくると上体を起こし再び部屋の中を見回す。
室内は蝋燭が灯っているため明るかった。部屋の出入り口となる襖は閉まっており、今が朝なのか夜なのかは分からなかった。

「ここは…… 何処?」

 知代はようやく声を出した。すると、襖がゆっくりと開き始め外から日の光が入ってきた。
あまりに眩しいため知代は目を細めた。
すると強い風が吹き灯っていた蝋燭の火は消えた。しばらく蝋燭の白い煙が黙々と立っていた。
襖の向こうには誰かが居るようだが太陽の光が照りつけ影になってうまく顔が見えない。
だが、その影からして二人の人だと思われる。その影は部屋の中に入ると再び襖を閉めた。
襖が閉まったことにより、光が遮断され、人影がはっきり見てきた。
知代の目の前に居たのは、自分とそっくりな顔の女性と鷹史に似ている男性。そう、碑夜月と鷹久だった。
知代は目を見開いた。碑夜月は優しく微笑み知代の前に座った。

「驚かせて申し訳ありませんでした、私の名は碑夜月と申します。 そしてこの者は鷹久です」

「碑夜月…… 私と同じ苗字」

 碑夜月はゆっくりとうなずいた。最初は戸惑っていた知代も少しずつ状況がつかめてきた。
鷹久は碑夜月の後ろで知代を見つめ立っていた。
鷹久は碑夜月以外にはとても無愛想で子孫の鷹史とは正反対の性格だった。
碑夜月は一度目を閉じ、しばらく黙り込むと再び目を開いた。そして、決意を決めたように口を開いた。

「どうか落ち着いてお聞きください。 私が知代様と同じ顔をしている理由は……」

 碑夜月は名乗る前に知代の名を知っていた。
碑夜月はそこで言葉を切り、そして話し始めた。
自分と知代が魂の同じ存在だと言う事。そして鷹久が鷹史の先祖だと言うことが。
全てを聞いた知代は意外と落ち着いた表情を見せていた。
知代の表情をみた碑夜月は知代の手をとり微笑んだ。

「来てくれてありがとうございました。 本当に感謝しています」

「いいえ、それより…… 鷹史は」

 その言葉を聞き、碑夜月は下を向いた。しばらく考え込むと顔を上げ鷹久の方を向いた。
鷹久は頷くとようやく口を開いた。

「鷹史に関しては今警備隊で探している所だ、見つけ次第伝える」

 鷹久はそう言うと部屋から出て行った。碑夜月は鷹久の後姿を見つめながら悲しく微笑んでいた。
鷹久が部屋から出て行き、襖が閉まった。
碑夜月は振り向き再び口を開いた。

「申し訳ありません…… 鷹久は無愛想ですが、根は優しい者なのです」

「気にしないで下さい、でも本当に鷹史とそっくりで驚いちゃいました!」

 知代はうれしそうに微笑んだ。碑夜月は笑う知代の姿をじっと見つめていた。
碑夜月の視線に気づいた知代は不思議そうに首を傾げた。

「不思議ですね…… 魂は同じなのに、時間が違うとこうまでも性格が異なるものなのですね。 私も、鷹久も」

 碑夜月はまるで襖の向こう側に話す様に言った。実は、扉の向こうには鷹久が座っていたのだ。
鷹久は襖に頭を寄りかからせ碑夜月の言葉を聞いていた。
さすがの鷹久も主と同じ顔が二人もいるとなると戸惑っていた。
鷹久はただ黙って晴れ渡る雲ひとつない空を見上げていた。
その時、庭のほうから騒がしい物音が聞こえた。鷹久は刀を持つと音がした方に向かっていった。

「今の音は何でしょうか…… 行ってみましょうか」

「はい、行きましょう」

 あまりの騒がしさに碑夜月たちも気になったのか部屋から出て鷹久の後を追う。
音の正体、それは屋敷の警備員たちがなにやらあわてた様子で騒いでいた為だった。

<其二途中保存 続く>

2007/07/22(Sun)16:34:19 公開 / 千尋
■この作品の著作権は千尋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、ここでは始めて小説を書かせていただきます。

読みやすくなるように努力しますので、どうぞよろしくお願いします。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。