『星のうさぎ』 ... ジャンル:ファンタジー ショート*2
作者:カルデラ・S・一徹                

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 うさぎのピョンは思いました。なんて星座はすばらしいのだろう。
 彼らは毎日毎日、とんでもないジャンプを見せてくれる。
 東から西へ、大地の始まりから終わりへととんでいく。それだけの距離だというのに、彼らはまったく疲れたそぶりも見せず、余裕をもって悠然とした態度でとんでいくのだ。うさぎは星座にあこがれました。
「あぁ、僕も星座になりたいなぁ」
「へぇ、ピョンは星座になりたいのか」感心したようにうなずくのは、ピョンの友達のヒュンです。「でも、星座になるのは大変だぞ? おれも星座になりたいと思っていたが、なるには大変だと母さんがいっていた」
「どれくらいたいへんなの?」
「さあな。具体的なことはわからん。しかし、偉大なるおれのじいさんが星になったあたりを考えると、それはそれは難しいことなんだろう」
 ピョンはそのことを母親に話しました。
 すると母親は、優しい声でこういいます。
「あなたのおじいさんもお星さまになったのよ」
「へぇ、そうなんだ。ボクも星になりたいんだけど、どうすればなれるかな」
 しかしピョンの母親は微笑むばかりで詳しいことは教えてもらえませんでした。
 ピョンはジャンプの練習をしました。
 ですがどれだけ練習しようと星のようにはとべません。
「どうやったら星になれるのかなぁ、早くなりたいなぁ、なれないのかなぁ……」


 ピョンは、そんなことを考えながら雪道を帰っていました。
 もう夜もふけて、森はしんと寝静まっています。
 そのとき、ピョンはいやな音を聞きました。
「なにか……何かが近寄ってくる……!」
 足音の間隔から四本足で走っているのだとわかりました。
「たいへんだ! 狼だ! 狼がきたんだ!」
 ピョンは走りました。全力で全力で跳ねて跳ねて狼から逃れようとしました。
 ですが狼は風のように速く、ぐんぐんぐんぐんピョンを追い詰めていきます。
「どうしよう、どうしようか、あぁ、僕も星座のようにとぶことができたら……」
 とその時、ピョンの目の前に崖が近づいてきました。
 絶体絶命のピンチに陥ったピョンは、うさぎの神に祈りをささげながら、決死の覚悟で崖へととびこみました。
「お願いします、どうか地面にやわらかい雪をたくさん敷き詰めておいてください……!」
 果たしてピョンの心配は、杞憂に終わりました。
 いつになっても落ちた衝撃がないことを不思議に思ったピョンは、ぎゅっとつむった目を、おそるおそる開いてみました。
「え、あ……僕、とんでる……僕、とんでる!」
 うさぎのピョンはうれしくなって空中を縦横無尽にとび回りました。まるで流れ星になった気分になりました。
 ピョンはこのことを母親に話そうとしました。
 ですが、話さないことにしました。
 心配性の母親のことですから、危ないといって空をとぶことを禁止するに違いないからです。
「こんなことができるのは僕ぐらいだろう。ヒュンにも見せてやりたいな……でもあいつ、口が軽いからなぁ……」
 ピョンはこのことを誰にも言うまいと思いました。


 それからしばらくして、ヒュンの姿が見えなくなりました。
 どこにいったのだろうとピョンはヒュンを探しましたが、どこにもいません。ヒュンが好んでいく雪原や、風が反響して不思議な気分になれる穴の中にも、ヒュンはいませんでした。
 夜な夜な空をとんでヒュンの行方を捜しました。
 それでも、ヒュンは見つかりませんでした。
 あるときピョンは自分の母親に、ヒュンがどこにいったか知らないかと聞きました。
 するとピョンの母親は難しそうな顔をした後、
「彼は星になったのよ」といいました。


 なんとなく、ピョンも分かってはいたのです。


 ピョンは、空を目指しました。
 星になるためです。
 星になって、先に星になったヒュンに会うためです。
「ヒュン……勝手に偉いやつになるなよ……僕が星になりたいって言い出したんじゃないか……」
 ですがいつも途中で力尽きてしまい、大地へと舞い降ります。
 ピョンはとぶ練習をしました。
 ずっと練習し続けました。
 ずっとずっとずっと練習を続けました。









 長い時間がたって、ピョンは気づきました。
 それはピョンの母親も星になったから気づいたというのではなく――きっと初めから気づいていたことなのかもしれません。
「この方法じゃ……星にはなれないんだ……」
 ですがピョンは諦めませんでした。
 ひょっとしたら、なれるかも知れない。
 そう信じてとび続けました。
 立派なお嫁さんをもらって、子供ができて、子供に子供ができて、家族から尊敬されるような立場になっても、ピョンはとぶのを諦めませんでした。






































「遅かったじゃないか、ピョン」

2007/04/22(Sun)22:17:48 公開 / カルデラ・S・一徹
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■作者からのメッセージ
 お久しぶりです。カルデラです。Sです。一徹です。
 またも掌編になってしまいました。前作と同じく、絵本を意識して作りました。テーマは、こういう作中じゃないところでいうのもアレなんで、各人勝手に解釈してくれればOKじゃないかな、と。

 では。

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