『ごきげんようおひさしぶりな話』 ... ジャンル:リアル・現代 お笑い
作者:泣村響市                

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 セットがくるのを待つために席に着くと、隣に座っていた二人組みの青年の話し声が聞こえてきた。

 先ほどコンビニで買った雑誌を広げながら、何気なしに耳を傾ける。 

「ふと思ったんだがな」
「何だ? また禄でもない話か?」
「禄でもないとは何だ。他愛も無い雑談じゃないか」
「そういうのを禄でもない話というのだよ、赤鍵(あかかぎ)」
「いや、雑談と禄でもない話は全く違うぞ……って話を逸らすな」
「お前が勝手に逸れていったんだよ。俺はただお前が逸れていくのを見守っていただけだ」
「見守ってないで声をかけて正しい道へ戻そうとしろよ」
「正しい道なんて見えなかったんだよ。お前のふと思ったことに正しい方向なんて皆無だぞ絶対に」
「苦しくないか? 長い台詞をすらっすらと……。すごいな」
「敬うがよいよー」
「嫌だな……っと、また逸れていった。そうだ、ふと思ったんだがな」
「言葉をためるな。ちゃっちゃと言え」
「……いや、やっぱり止めとく」
「なんだよ、歯に挟まる野朗め。鶏肉か? お前は弁当の中に入っているもさもさした鶏肉か?」
「俺は鶏肉好きだから反論させてもらうがな、もさもさしているというのは鶏への冒涜だぞ。お前、あれはただ単にあの部分に脂が乗っていないというだけなのに安物だとか不味いだとか……それでも喰えば血や肉になるのに」
「いや、安物だから脂が乗ってないんだろうよ。高いのは美味いぞ」
「話が繋がっていない。三点だ。ちなみに最初にルートがつく。脂が乗ってないほうが体にいいじゃないか。この脂っこいジャンクフードに塗れた若者め。そんなにジャンクが好きなら瓦礫に埋もれてしまえ」
「分かり難い発言だな……。いいじゃねぇか、ジャンクフード。早くて美味い」
「本気でアレが美味いと言える人間が俺の目の前に居る……! この健康社会に置いて、あの不健康極まりない食物が何で消え去らないのか不思議に思っていたけど、こういう奴が消えない限り繁栄するのかあの赤いアフロのいる店は!」
「赤アフロ……」
「俺はアフロは嫌いだよ」
「アフロの話になってるぞ、赤鍵。幾らなんでも逸れすぎだろ。戻せ」
「お前が逸らしたんだろう……。兎にも角にも、……なんでごきぶりは怖いんだろうな」
「おいちょっと待てコルァ!」
「何だ。無駄な大声を食事中に上げるな、行儀が悪い。全くもって、どんな躾をうけてきたんだ。はん、此れだからジャンクフードが美味いとか抜かす人間は、根本的な所からそんなものか。果てしなく見下げたぞ、主後(おもしり)くん。食事中に胸糞悪い大声と上げ腐って」
「食事中にご、……の話をする以上に悪い事をしたのか俺……? なんでそこまで罵詈雑言言われなきゃならんのだ……」
「何が悪い? 食事中に蟲の話をするのがそんなに悪逆か? ということは君は食虫料理を一生口にしないのだな誓ったな誓ったな俺が証人になるからなもしもお前が食虫料理店に居たというアリバイがあっても其れは俺が否定するぞ!」
「そんな微妙なアリバイがあるか!」
「あるかもしれないだろ。なんで其処まであっさり否定できるんだ。世界の可能性をなんでそんなにあっさり否定するんだ」
「世界の可能性って何だ……」
「世界の可能性とは、あれだ。えっと、……ごきぶりが世界を救う可能性の略」
「絶対お前今無理矢理考えただろ。なんだよごきぶりが救う世界って。嫌だよ俺はそんな世界」
「いやいやいや、侮れないぞごきぶりは。例えばアレだ。今環境破壊の問題がメディアなんかでも大きく取り上げられているだろう?」
「難しい言葉を態々使おうとするなよ……。まぁ、確かにそりゃそうだ。こうしてる今も刻一刻と環境絶賛破壊中だろうな」
「その原因は概ね人間だろ?」
「否定はすまい。俺も破壊中だ」
「つまりは人間が居なくなれば環境は守れる……、と、そういうわけだ」
「物凄い暴論じゃねぇか? 環境を守ろうってのはそうしないと将来人間が住み辛くなるからだろ? そのために人間殺してどうするよ。吉本ばりに本末転倒じゃねぇか」
「まぁ其れについての議論は、えーっと、海にでも捨てておくがいい」
「環境破壊だ!」
「五月蝿い。でだな、それが駄目なら人間を圧倒的に押さえつけられる生き物が必要なんだ」
「で、其れがごきぶりか?」
「そうだ」
「お前、殺虫剤とかあるだろ。そんなんで圧倒されるのか? 脊椎動物でさえない生き物に屈服させられるのか俺たは!」
「まぁそうだな。今日この頃の殺虫剤の威力は恐ろしい。だがな、此処で優れた知能を持ったごきぶりの出番な訳だ。彼等は高い知能とともに巨大化し、人間を遥に上回る素早さ、脚力を駆使して人間を圧倒させるんだ」
「ちょっと待て。何故にごきぶりがいきなり巨大化する? 一体なんだ優れた知能を持ったごきぶりって!」
「ニ●ータイプ」
「ガノタめ!」
「脊髄なんて飾りです。偉い人には其れがわからんのですよ」
「止めろ! 分からん人が続出する!」
「まぁまぁ、主後くん、ちょっと黙るがいいよ。今はそんな話してないからな」
「っつうか既に本筋から逸れまくってんだよ! 最初の話はなんだったか正直俺覚えてないぞ!」
「……あぁ、何でごきぶりはこわいのか、だったな」
「お前も忘れてただろその反応」
「いや何を言ってるのかね俺は忘れてなんていないよ何を言ってるのかな主後くん。はっはっは、さてはジャンクフードの食べすぎで脳がジャンクになったか。ジャンクブレーンか。全く全く、かなわないね主後くんには。よくそんなものが言えたものだ。大丈夫かい? 海馬組織が磨耗したのかね。はぁ、とりあえず脳外科へ行く事をオススメするよ」
「長い長い長い。めっちゃ必死じゃねぇかお前」
「まぁとにかくなんでごきぶりは怖いのかっていう話に戻るか」
「もう出来ればどうでもいいんだが」
「あれだ、何で怖いのかっていうとな、俺の意見としては」
「……無視か」
「平らだから怖いよねって俺は思うんだ。お前は? 主後くん」


 ふぅ、と青年は椅子に踏ん反りかえって息を吐いた。

「ごきぶりなんて見たことないからわからん」

 もう一人の青年はからからと笑う。

「実は俺もだよ主後くん」


 ある北国のある街のあるジャンクフード店での会話。

 私は先ほど運ばれてきた食べる気の失せたセットをどうしようか考えていた。


2007/04/11(Wed)17:59:13 公開 / 泣村響市
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■作者からのメッセージ
只管泣村が楽しいだけというあれでした。

北海道にはごきぶりが出ないというのを聞いて「いいなぁ」と思って書いたものです。
あの黒い悪魔は巨大化したらほんとに人類破滅すると思うのは私だけじゃないはずです! です、よね?


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