『気付いてしまった。』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:修羅場                

     あらすじ・作品紹介
お盆になると魂が帰ってくると言われている。

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気付いてしまった。


今更ながらこんな事に気付いてしまった自分が不思議で仕方ない。

気付いてしまった。

というより、気付かされた。


【気付いてしまった。】

 皆さん、こんにちは。お元気でした? あ、すみません。挨拶が無いですね。
初めまして、俺は陸生健二(みついけんじ)と言います。
日本女児に生まれ、両親の愛を一身に受け、とてもよい環境で育ちました。
名を授かり、ここまで成長を遂げた事に感謝しています。
そして周りの皆様には、凄くお世話になっています。
でも、学校には行っていません。
学校に行く分のお金が無かったからです。

貧乏? そうなのかもしれません。
家庭内暴力も耐えない家庭でしたので…。
でも、俺はこんな家庭でも我慢しました。

愛されていたから。

今生きているのは両親のおかげです。
だから今こうして我慢をしています。

いくら叩かれようがゴミ捨て場に放置されようが、それが毎度の事です。
愛されています。仕方ないといわれても、愛されています。
両親はそれはそれは心が広く、俺の我侭さえも聞いてくれました。
恵まれてました。

いつの日か、捨てられてしまうんじゃないか。
見放されてしまうんじゃないか。
絶えず泣いて、孤独の身と成るんじゃないか。
口々に言われました。
でも、いいんです。

それでも俺は愛されていたから。


でも、今では両親と呼べる存在も無ければ、食料もありません。

家庭放置? あはは。
それもありうるかもしれない。だって、現にそうなのだから…。
子供一人を家に放置して、飢え死にさせる。
あはは。凄い計画的ですね。
ご利用は計画的に。これはいつも両親が俺に言っていた言葉。
確かに計画的ですよ。

俺は長い長い旅をしています。

本来ならば高校三年生なんでしょうか…。
旅に出てお金を集めるんです。
色々な人とふれあい、交し合い…。
でも、食べるものはありません。
飲み物も、守るものもありません。
絶えず泣く日もありました。
哭する日も、別れを惜しむ日もありました。

あ、そうそうあの時は別れを惜しむ事は一瞬もありませんでした。
それくらいに一瞬だったので。
惜しむ暇もない嘆きの唄を歌いました。

さあ、遥導く広い先へ。
旅路は続いています。


俺は長い長い旅をしています。


そして、長旅を終えた俺は久々に家に帰ってきました。
でも、誰も迎えてはくれません。
なのに、両親は今日も不在です。別に「死んだ」という事ではないです。
ただ居ないだけです。
あ、そうそう両親が旅行好きというのは一部の方が知っていました。
それで今はひとりなんだねって、そんな軽い嘘に両親の知り合いは騙されてます。


だから、俺は気付いてしまった。

気付いてしまった。


今更ながらこんな事に気付いてしまった自分が不思議で仕方ない。

気付いてしまった。

というより、気付かされた。





俺は、もう…




”ここに居ない ”という事に、気付いてしまった。





そしてまた、旅に出ます。


生身ノ肉体ヲ手ニ入レル為ニ……。
お父さん、お母さん。
待っててください。


今まで、見守ってくれた方々。
今まで、育ててくれた皆さん。


俺は言い残します。
ここに居る皆さんに、別れを告げます。


さいごに言うなら
『さよなら』
 ――そして…

  『ありがとう』

2007/03/31(Sat)12:15:00 公開 / 修羅場
■この作品の著作権は修羅場さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんだろう…主人公は幽霊?(聞くな)所謂お盆ネタです。
2007/03/31 ご先祖様とか魂とか灯篭に流して送るというお盆。
主人公の魂は灯篭に乗って、また長い旅を始めました。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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