『PRESENT FOR...』 ... ジャンル:SF ミステリ
作者:SAKAKI                

     あらすじ・作品紹介
西部で暴れ回る強盗団が、ある神父との出会いをきっかけに不思議な力を得た。彼らはしだいに、兄弟・友人どうしで醜く争い始める。謎の神父に宿る不思議な力の秘密とは……?

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 アメリカ西部開拓時代。カリフォルニア州のハックマンというイギリス系移民の家で、彼らは『仕事』をしていた。
 女性の悲鳴と共に銃声が聞こえて、音は何も聞こえなくなる。
「へへへ……」
 革手袋に包まれた手で『ピースメーカー』と呼ばれるリボルバー拳銃を一回転させて、ホルスターに収めた長身のハンサムな男――ドイツ・オーストリア系だろうか――に、もう一人の男が後ろから近づいて話しかけた。
「ジュアン、そろそろ……」
 ジュアンと呼ばれた男は驚いて振り向く。二人共、テンガロン・ハットを被っていた。
「ああ、ジーク。そろそろ行くのか?」
 安堵の溜め息をもらした彼は、自分の弟に聞いた。ジークと呼ばれた男も、拳銃をホルスターに収める。
「おう、急ごうぜ」
 グレーの瞳を輝かせて、端整な顔のジークは先に走り出した。

 がら空きの馬小屋に繋いである、自分達の茶色い愛馬に飛び乗った彼らは、ジュアンを先頭に馬を急がせた。
「結構あったな……、あのジジイの家はよ」
 金の擦れる音を聞いたジュアンは振り向いた。馬の尻に鞭を打つ。
「ああ、これで何日かは仕事しないで済むな、兄貴!」
 ジークは満面の笑み。
「おうよ!」
 ガッツポーズに腕を固めたが、危うく落馬しそうになってしまった。
「危ねぇ……」
 額の冷や汗を拭った彼だが、前に突然現れた人影に驚いて急停馬。
「おい、邪魔だ。どけよ!」
 ジークが大きな口で叫ぶ。くせのためか、高い鉤鼻が更に高くなる。
 彼らの前に現れたのは……

 だいぶやつれ気味の神父だった。
 彼は二人に話しかける。
「黙れ。少しは聞き分けのありそうな、前の男に聞くがいいか?」
 しわがれてはいるが、妙に迫力のある声の老いた神父は囁く。
「何だ?」
 大きな目を見開き、威圧するかのようだった。
「お前達は、何のために略奪を働く?」
 ジュアンはきょとんとした顔をする。
「何を言いやがる、俺達は――」
「いい、ジークは黙ってろ」
 手を彼の前に出し、制止する兄。
「俺達はな、生きるためにこんなことをしてるんだ。人を殺し、金目の物は全部頂く。それを売り捌いた金で、何日も何日も生き延びてきた」
 それを聞いた神父は、手を口に当てて一瞬、考えた。
「では、そのために、こんな力はいかがかな?」
 神父は目を見開いた。そして、その目が白い輝きに包まれた。視線の先には、大木がある。
「そんな……バカな!」
 ジークが叫ぶ。
 だが、叫ぶのも無理はない。
 何てこった……木が、木が根こそぎ消えちまった。
「どんな細工しやがった?」
 ジュアンがピースメーカーを抜き放ち、撃鉄を引きながら神父に向けた。
「ふ……ちょっとした超能力さ。ちゃんと覚えさえすれば、君達にも使いこなせる」
 神父は彼らと目を合わせた。なぜか、威圧的な感じがする。
「これが……欲しいか?」
 手を差し伸べる。二人共、黙ったままだ。だが、拳銃はホルスターに収めていた。
「何かの……罠じゃないだろうな」
 彼は弟と話し合いを始めた。神父は、冷厳そうな目を彼らに向けている。
「ああ、俺もそう思うぜ」
 ジークは、無精ひげを撫でていた。
「そうだな、でも……」
「あの力が手に入れば……」
 二人は拳を突き合わせる。
「その能力……俺達にも分けてくれ」
 それを聞いた神父は微笑んだ。怪しく、北叟笑むかのように。
「では、私の手に君達の手を乗せろ」
 差し伸べられた手に、彼らは自分の手を乗せた。
「これでいいか?」
 神父の目は、ジュアンの目と合った。
「いいぞ。それでは、目を閉じなさい」
 神父の言に従い、彼らは目を閉じる。神父の目が再び輝き出し、彼らの手も輝き始めた……
「終わりだ。これで、私の力の一部が使えるようになったはずだ」
「一部?」
 ジークが聞き返す。
「そうだ」
 神父は答える。
「何でだ?」
 彼の問いに、神父が答えることはなかった。
「さて、試しにやってみるか」
 それを聞いていなかったかのように有頂天のジュアンは、神父の向こう側にある三本並んだ大木のうち、真ん中の大木を見つめる。ジークがその後を追って、神父を追い越した。
 目に力を込める。神父がやったように。
 目の前が真っ白になり……
 再び視界が戻ると、左側の木が消えていた。
「まだ訓練が必要、ってことか? 神父さんよ」
 彼は振り向いたが……そこに神父の姿はない。だが、森の中で轟くような声が響く。
『それを上手く使えれば……人間の真価を試せるぞ』 
 意味がわからない、ジークは思った。
「何だったんだ?」
 弟もわけがわからないようだ。
 神父も、あの大木と同じように消え去ったのだろうか……


 二人は気付く由もなかった。
 この能力こそ、滅びの門への鍵だったということに……


                      ――グッバイ、マーシャル――


 とある街に二人は立ち寄った。西部劇さながらの街風景だが、どこか寂しげだ。
「おうおう、誰もいないじゃねぇか」
 ジークがゆっくりとホルスターに手を置き、馬から下りた。
「俺達がいるからだろ」
 兄はピースメーカーを抜き出す。路地裏にたむろす彼らの仲間が出てきた。
「おう、メルと……そいつは?」
 大男といった風体の男が、メルと呼ばれた軍人ような男の後ろにいた。
「こいつぁ、俺がこないだ見出してきた新しい仲間だよ。これで――」
「九人だ」
 ジークが遮る。
「俺の名前はファリスだ」
 大男は名乗った。片言の英語だが、聞き取れないわけでもない。
「ファリス……悪魔みてぇな名前だな」
 ジュアンがクックと笑う。
「あ……くま?」
 意味がわからないようだ。
「まぁ気にすんな」
 メルが大男の肩を叩く。肩を叩いたつもりなのだが、ほとんど二の腕。
「わかった」
 彼らがしばらく談笑していると、誰かが近寄ってきた。
「おい、貴様ら」
 両方の腰にホルスターを提げて、それには大柄の拳銃が一挺ずつ収められていた。
「保安官さん、ごきげんよう……」
 メルはテンガロン・ハットを手に取り、恭しくお辞儀する。
「ふざけるな。貴様らのお蔭で、町民が家から外に出れないんだ。今すぐここから立ち去れ」
 保安官は、抜き放った二挺拳銃をその両手に握っていた。
「そんなこと、すると思って――」
 気付けば、周りにはショット・ガンやリボルバー拳銃を手に取った町民が集まっていた。
「町民も、限界に来ているんだ。もう一度言って、立ち去らぬというのなら……」
 両手に握られたリボルバーの撃鉄を、保安官は引いた。
 またジュアンがクック、と笑う。
 顔色を変えた保安官とメルが、彼に目を移す。
「どうした?」
「俺が……滅ぼしてやるよ」
 大きな口が更に広がるかのようだ。目が……輝き出す。保安官はくぐもった声を上げた。自分の首に手を当てる。
 ジュアンがゆっくりと保安官に近づくが、彼の動きに合わせるかのように、町民もゆっくりと後ずさった。保安官は動かない……いや、動けなさそうだ。
 彼の手と腕も輝き出して、その手が保安官の身体を……通過する。筆舌に表しがたい断末魔と共に、保安官の姿は吸い込まれるように消えてしまった……
「グッバイ、マーシャル」
 ジュアンがキザったらしく呟いた。
「う……うあああ!」
 発狂した男の町民がリボルバーを発砲したが、狙いが定まっていないためか、銃弾はジュアンの身体を逸れていく……
 彼の高笑いが、町中に響き渡り、自分愛用のピースメーカーをホルスターから抜いて、銃弾を放った。その銃弾も、奇妙な輝きに包まれて、白い弾道が見えるくらいだった。
 それなのに、メルやファリスに驚いた様子はない。
「やっちまったな」
 メルは呟く。
「ああ……やっちまった」
 ジークが呟いたが、友人の盗賊の中性的な顔を見る。
「何で……?」
 彼の顔は、まさか、という恐怖にすり替わった。
 メルの視線が大きな小屋に注がれ、彼の目も輝き出した……

 

                     ――トレジャー――

 大雨が降りしきる中、彼ら盗賊団は宝目当てに新たな屋敷に乗り込んだ。警備は誰もおらず、老いた夫妻が住んでいるだけだった。
「バアさん、覚悟してくれ。俺達も仕事なんでな」
 引金を引いたファリスは、血の飛び散った寝室を見渡した。
「ここかな……」
 他の同業者の話によれば、夫妻の家には地下室があり、そこに多くの財宝が保管されているらしい。

2007/01/13(Sat)12:30:28 公開 / SAKAKI
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■作者からのメッセージ
今度は戦争モノから一転して、ミステリに挑戦してみました。
あなたの想像を超える、奇怪なストーリーになるかもしれません(嘘つけ

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