『貴方のせいで私は死にかけた』 ... ジャンル:リアル・現代 未分類
作者:風神                

     あらすじ・作品紹介
人の人生はたった一言で大きく変わる。少女の人生は、運悪く悪い方向へと……?

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 今日は気持ちの良い日だ。天気は快晴だし、暖かい。こういう良い天気が毎日続いてくれれば、嬉しいんだけどな。 
 教室でのんびりと欠伸をしていると、何やら女子の怒鳴り声が聞こえる。怒鳴り合っているのは赤城結花と成本裕子。
「ねぇちょっと裕子! 少しは私の話聞きなさいよ!」
「もういいよ! 誰にも私の事なんかわからないんだから」
 女のヒステリーほどに恐ろしいものはない。ここはおとなしく試合観戦しているのが得策かな。俺は関係無いし、止める必要はないだろう。
「だから裕子、私の話少しは聞いてよ! そんなに私が信じられないの?」
「もうほっといてよ!」
 おうおう、何やらヒートアップしてきたじゃないか。しかし、赤城に口で勝てるとは思わないが。
 ……ていうか、この二人が喧嘩とは珍しいな。小学校からずっと同じクラスで、現在も仲良く一年E組。
「ねぇ、水山君」
 俺の目の前に現れたこの少女は、藤崎奈実。香水は付けてないけど、シャンプーの良い匂いがする。
 セーラー服が、良く似合っている。藤崎は、かなりモテる。実際、今だって男子が藤崎を眺めている。……いや、違う。藤崎の、短いスカートから見える太ももを眺めているだけだ。ただのエロ野郎だった。
「なんだ、藤崎」
「結花が、怒ってるよ」
「あぁ、怒ってるな」
「と、止めようよ。ね?」
 面倒だな。しかし、藤崎が泣きそうな顔で俺を見つめてくる。そ、そんな目で見ないでくれ!
「でもな、藤崎。あの二人のバトルに俺は関係ないだろ。あの二人のリングに、俺は上がれないんだ。俺は所詮、ジュースを飲みながら試合を見守る観客なんだよ」
「じゃあセコンドになって白タオルでも投げてよ!」
 と言いながら、両手で俺の右手を掴み、ブンブンと振り回す。
「わかった! わかったからブンブンすんな! ブンブンすんな!」
「有難う、水山君!」
 さて、依然赤城と成本は激しい戦いを繰り広げている。セコンド水山健吾は、なんとかせねばならない。
 どちらのセコンドかと言われれば、当然友人の赤城だ。俺は二人に近づく。
「相談事なら、私が聞いてあげるって言ってるでしょ?」
「まぁ、お前ら落ち着けよ」
「結花にはわからない事なんだよ!」
「俺にはわかるかもしれないぞ」
「裕子、言ってよ。最近、学校休みがちで心配だよ」
「でもでも、無理だよ言っても……」
 相手にされない。
「おい、赤城。どうしたんだよ」
「は? あぁ、何よ」
「いや、だからどうしたんだよ」
「うるさいあっち行け!」
 その瞬間、俺は床に倒れていた。見事に腹を蹴られてノックアウト。

「大丈夫だった? 水山君」
 放課後の教室。藤崎は俺の前に立ちながら話し掛けてくる。
「本音を言うと、凄い痛い」
「私がなんとかしてって言ったから。ごめんね……」
 泣きそうな顔で藤崎は言う。
「そんな顔するな。お前、何も悪い事してないんだから」
「結花が怒っててね、困った顔してたからなんとかしてあげたかったの」
「あぁ、お前は優しいな。……けど、赤城どうしたんだろうな」
 普段冷静な赤城があそこまで怒る事は珍しい。それぐらい、成本裕子が心配だったのだろう。
「おい、水山!」
 俺の名前を教室のドアの方から呼ぶのは、井出達哉。
「なんだよ。用件ならさっさと済ませろ」
「もしかして、藤崎との時間を邪魔されてキレた?」
「あぁ、キレた。お前なんかもう絶交だ」
 冗談で言ったのだが、顔を紅潮させる藤崎。
「まぁそれはいいとして、赤城が呼んでたぞ。中庭に来いだって」
「わかった。今から行くよ」
「私も行く」
 赤城のご命令が下ったので、俺は藤崎と達哉と一緒に中庭へ行く。
 中庭に着くと、赤城がベンチに座っていた。
「よう、赤城。なんの用だ。告白?」
「あのね、相談があるのよ」
「ん、何?」
「あのね、裕子の事なんだけど」
 なにやら面倒な話になりそうだな。俺はなるべく、面倒な事は避けて、楽な人生を送りたいんだけどな。
「裕子って、頭が良くて、前の定期テストなんか、学年八位だったじゃない」
 この琴別高校は中堅の高校だ。成本は、なんで琴別にいるんだって思うぐらい、頭が良い。進学校の推薦を受けたが、落ちてこの琴別高校に来た訳だ。ちなみに、赤城は推薦で入学。成本よりも頭がちょっと良い。その赤城よりも、藤崎の方が頭が良い。実際、藤崎はもったいないと思う。進学校でもトップになれるぐらいの頭を、あいつは持ってる。なのに、あいつは琴別に入学した。
「あぁ、凄いよな」
「でもね、あの真面目な裕子がね、最近夜遊びばっかりしてるらしいのよ」
 なんと。あの成本が、夜遊び?
「私の友達が、夜の十一時頃に、男の人と街を歩いてるのを見たんだって」
「結花、それ本当なの?」
 藤崎が真面目な顔で聞く。
「まず間違いないって。だからさっき、裕子を問い詰めたら、やっと言ってくれた。最近、両親の仲が悪くて、毎日喧嘩ばかりで、家にいたくないっていうのよ」
 なんだ、ありがちな理由じゃないか。そんな事、どうしようもないじゃないか。成本の家に両親がいるのは当然で、それはどうしようもない事だ。世の中はどうしようもない事で溢れてるという悲しい事実がある。そのどうしようもなくて、時には理不尽な事があって逃げ出したくなっても、逃げ出せないのが世の中だ。その世の中を、どうやってうまく生きるかが、人生なんだ。
「家の事情なんだろ? 俺達には、どうしようもない話だと思わないか?」
「……本当にアンタは心が冷たいね。」
「あぁ、水山は冷酷なんだよ」
 冷酷とは酷いじゃないか、達哉。
「アンタ、なんとかちゃんと学校に来るように言ってくれない?」
「ちょっと待て。何も学校に来る事が絶対に正しいとは言えないだろ。あいつの今の精神状態なら、学校に来ないで、休む事だって必要だろ」
「でも、裕子は学校が大好きな子なの。友達だって多いし。あの子、学校に来たいのよ。でも、どうしても家の事が頭から離れなくて、行く気になれないの。可哀相じゃない。どうにかしたいの」
 さて、どうしたものか。面倒な事は嫌いだが、ここまで言われたら、何か行動に移さなくてはダメなのかな。
「それは親友のお前が説得するのが一番なんじゃないか?」
「……親友以上の存在がいるのよ」
 親友以上の存在というと、恋人? こいつは何が言いたいんだ。
「いいからなんとかしてよね! じゃあ明日、午後六時に緑塚公園に行きなさいよ! そこで裕子待ってるから」
「え?」
「もう裕子には言っといたから」
 なんたる行動力。最初から俺に拒否権は無かったのか。
「あぁ、わかったよ……」
 話が終わった気配がしたので、俺はじゃあな、と一言残し、家に帰ることにした。藤崎と赤城と達哉はまだ残ってる。
 面倒な事になった。成本とはあまり話したことがない。説得? なんだそれ。そんな事、俺に出来るか。それに、友達でもない男からいきなり説得されたら、成本が困るだろ。……つーか、なんで成本は律儀に公園で待ってるんだよ。
 頭の中で色々と考えてるせいで、後ろで話している藤崎と赤城の言葉は、聞こえなかった。
「ねぇ、結花。どうして水山君なの?」
「裕子はね、水山の事が好きなのよ」

 今、俺は緑塚公園にいる。
 昨日、学校で赤城に緑塚に行けと言われたし、今日だって十回ぐらい緑塚に行けと念を押されたから、行くしかなかった。
 時間は五時五十分。丁度良い時間かな。
「あ、水山」
「おう」
 こうやって二人きりで話すのは初めてだ。
「ごめんね、私の話なのに、関係無い水山を巻き込んで」
「巻き込まれるほどの事は出来ないと思うけど」
「いいの。話を聞いてくれるだけで」
 なんだ、聞くだけでいいのか。
「……あのね、私の両親が喧嘩ばっかりしてね、もう凄いの。昨日の夜なんか、リビングをドアの隙間から覗いてたら、灰皿が飛んで、ビールの缶が飛んで、コップが飛んで、お父さんの汚い唾が飛んで……。あんな家、一秒でも居たくないよ」
「そんなに酷いのか」
「そんなに酷いのよ」
 それ以上、特に言葉が思いつかない。
「……ねぇ、私、どうしよう。もう、全部が嫌になってきたの」
「家に居るのが嫌でも、居るしかないだろ」
「まぁ、そうだけどさぁ」
 ふてくされた声で言う成本。俺にはどうする事も出来ないと思う。無理な話なんだよ。人の家の事情なんて。
「そんなの、しょうがないだろ。他に家族は?」
「いないよ。両親と私の三人家族なの」
「じゃあ、お前が説得するしかないだろ」
「怖い」
 更にふてくされた声で言う成本。
「世の中はな、そういうどうしようもない事があるんだ」
「……うん」
「諦めろ」

 酷いとは、思った。
 他の奴なら、もっと気の効いた事を言えたと思う。でも、俺は無理だ。口下手なんだよ、俺。
 それに、やはりこれは赤城が話しを聞いてあげるのが一番だろう。なんで俺なんだよ。理解出来ない。赤城が俺を推薦した理由はなんなんだろうか。
 と、そんな事を授業中に考える。
 昨日の成本は、どこか変だった。悲しそうな顔をしていて、憂鬱そうだった。でも、どことなく、嬉しそうな感じでもあったのだ。
 一時間目の授業が終わると、赤城が俺の方に駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ水山! 昨日どうだった?」
「あぁ、昨日の俺の一日か? そうだな、まずまずの一日だったと思うが」
「今日はちゃんと裕子、学校来たの。説得、うまくいったの?」
「たまには突っ込んでくれよ。……説得は出来なかったけど」
 こいつ、勘違いしてる。
「でもでも、裕子今日元気だもん! アンタ、結構良い事言ったんでしょ? さっすが水山。大好き!」
 有り難いお言葉だが、考えてみると、俺は成本に冷たすぎる態度だった。あの発言も、暴言に近いかもしれない。何か言おうと思ったのだが、「偉い偉い」と言いながら俺の頭を撫でるなり、さっさと成本の所に行ってしまった。
「困ったな」
「どうして困ったの?」
 藤崎が、頭を右に傾けながら聞いて来る。
「いや、俺は成本のためにはなってない」
「……別に、ならなくてもいいんじゃない?」
「え?」
 いきなり、何を言い出すんだろうか、藤崎は。
「いや、なんでもないの」
「健吾! 健吾ったら健吾!」
 教室のドアの方から声が聞こえる。声の主は飯島佳織。小学生と見まちがえるぐらいに小さい佳織は、小さくて細い手で手招きしている。
「なんだ? 佳織」
「ちょっとこっち来てよ!」
 藤崎がふてくされた顔をしているのが気になる。後で構ってあげないとな。
「どうした」
「結花から聞いたよ。裕子の事」
「あぁ、そうなんだ」
「結花は成功したとか言ってるけど、絶対アンタ大失敗でしょ」
 完全に見抜かれている。やはり、小学校からの付き合いだと、簡単にわかるのかな。水山健吾という男は、友達の相談なら頑張って受けるが、友達じゃない人には冷たいという事を熟知している。
 だから、俺が友達じゃない成本の相談を、親身になって聞いてあげることは絶対にしない事をわかっている。
「あぁ、失敗だ。ていうか、なんで俺なんだろうな。無理だろ。話した事なんか、ほんの少ししかないんだぜ?」
「あーもー。ほんっと相変わらずバカ山ね。奈実とイチャついてる場合じゃないでしょ。もっといえばその右手に持ってる蒸しパンよこしなさいよ」
 と言って、俺の蒸しパンをむしって口に入れる。背が小さいので、頑張って背伸びをしてパンをむしる姿が面白い。
「アンタね、奈実だろうが友達だろうが他人だろうが、相談っていうのはちゃんと聞いてあげるもんでしょーが」
「そうだけど、苦手なんだよ。あぁいうのは、俺は向いてない」
「鈍感だなぁ、もう。口止めされてたけど、裕子はアンタの事が好きなのよ」
 信じられない。成本が、俺の事を? そうか、だから赤城は俺を推薦したのか。
 これって、どうなんだろうか。赤城は成本のためを思って俺を推薦したとすれば、それはおかしいんじゃないか。本当に成本に少しでも元気になってもらいたいなら、普通に赤城が相談に乗ってあげればよかったんだ。
 赤城だって、俺が友達じゃない成本の相談を、親身になって聞くとは思ってないはずだ。……いや、考えてみたら、俺と赤城は高校で仲良くなったんだ。まだ半年程の付き合いだから、俺の性格を深く理解していなかったのかもしれない。
「それは知らなかった。でも、俺は成本の力にはなれないな。何回も言うけど、俺は成本と話した事なんか全然無いんだ。何も知らないんだよ。何言っていいか、わかる訳ないじゃないか」
「まぁ、そうなんだけどさ。少しは気の効いた事、言えた?」
「……いや、全く」
「ほらね。何も知らなくたって、頑張れとか、せめて夜遊びと男遊びはやめろとか、それぐらいは言えるでしょ?」
 実際、面倒だった。何故、他人の相談に乗らなければならないのか。俺の出る舞台じゃない。
「アンタ、優しい性格なんだけど、どうも他人に冷たいのよね。あんまり、結花の事怒らせちゃダメだからね」
 そう言って、佳織はパタパタと自分のクラスに戻っていった。

 放課後、まだ数人の生徒が教室に残っていて、だらだらと雑談に励んでいる。
「藤崎」
「……」
 反応が無い。なんだ、さっき途中で佳織の所に行ったからすねてるのか。
「奈実?」
「……何?」
 ずっと椅子に座って俯いていたが、やっとくるりと顔をこちらに向けた。
「一緒に帰ろう」
「……うん!」
 暗い顔から一転、ニコリと笑顔になる。
 帰ろうと後ろを向いたら、恐怖の赤城女王が立っている。
「バカ山、そこに座れ」
「はい」
 またお説教か。今回のテーマはなんだろうか。特に悪い事をした記憶無いんだけどな。
「さっき裕子に聞いたけど、アンタ何やってるのよ!」
「何と言われても」
「もうバカバカ、バカ! やっぱアンタはバカ山なのよ。どうして励ましの言葉の一つもかけられないの? アンタは、性格が良いの。それは認めてるの。私がブレスレットを無くした時、ずっと探してくれたし、これまでも私の悩み聞いてくれたしさ。でも、これは佳織も言ってる事だけど、アンタは他人に冷たいの。もうね、それはそれは冷たいアイスクリームのようなの」
 一向に止まる気配の無い赤城マシンガン。
「もう、呆れた!」
「一方的だな。俺に押し付けといてなんだ。一番適任なのは赤城だろ」
「何開き直ってるのよバカ。励ますだけでいいのよ。裕子は、アンタが好きなんだから、それで十分なの」
 そんな事、後から言われても困る。
「ていうかね、裕子がアンタの事を好きでなくても、なんだろうとね、誰でも普通は励ましの言葉、言うでしょ」
「まぁ、そうだけど」
「裕子、傷ついたんだからね。ボロボロなんだからね。とにかく、今回のアンタは、あまりにも冷たすぎ」
 こんなに怒ってる赤城は初めてだ。凄まじい剣幕で俺を睨んでくる。
 言いたいだけ言って、スタスタと赤城は帰って行った。
「あの、えっと、うんと」
 動揺する藤崎。
「なんか大変な事になってきたけど、頑張ろうね」
 俺は、嘘でも良いから、成本に頑張ろうと言えば良かったのか。そう、嘘でも良いから。
 後になってから、さすがに不味かったと後悔する。やはり、俺は冷たい人間なんだな。

 俺は赤城マシンガンでダメージを受けた後、藤崎と一緒に帰って、藤崎と別れた後に、なんとなく達哉の家に寄っていた。
「なぁ、水山」
「なんだ?」
「お前って、藤崎と付き合ってるのか?」
 面倒な話題が来たな。
「いや、付き合ってないけど」
「嘘だ! ちょっと前、放課後に中庭のベンチで二人きりで良い雰囲気で雑談してたじゃないか羨ましいなこの野郎!」
 興奮しながらスナック菓子をバリバリと食べる達哉。
「だからなんだ。おい、お前食べカス落としすぎ」
「一年生でもトップクラスに美人で、しかも前の定期テストでは学年四位! 素晴らしいじゃないか。それをお前、なんだよ。なんなんだよ!」
「いや、お前がなんだよ」
 達哉の菓子を食べるスピードがどんどん上がっていく。
「藤崎、当然モテるだろ? でも、あまり男は寄ってこない。それは何故か、水山健吾がいるからだ」
「俺か」
「あぁ、お前だ。イチャつくんなら外でやれよバカ山。羨ましくて死にそうになるぜ」
「死にそうに、か。それは大変だ」
 気づくと、達哉の顔が真剣になっていた。
「まぁ、冗談はそこらへんにしといて。いや、冗談でもないけど。……お前、成本はどうするんだ」
「赤城に言われて色々と考えたら、さすがに冷たすぎたかなと」
「それで?」
「……謝って、励ましの言葉でもかけるよ」
「うん、それが良い。じゃあ、明日ちゃんと言っとけよ」
「わかってる」

 翌日、いつものように自転車で学校に行く。
 そして、いつものように教室のドアを開けると、赤城が凄い勢いで駆け寄ってきた。
「バカ山!」
「どうした、顔真っ赤にして」
「裕子が、消えたの!」
 消えた? 教室を見回すと、確かに成本はいない。
「昨日ね、裕子が堀田と一緒に遊んでたんだって」
 堀田、か。堀田真奈美。一年E組で不良といったら、堀田だ。その堀田と、真面目な成本が一緒に遊ぶなんて、珍しい。
「それでね、夜の七時頃に街で別れたんだって。それでね、昨日裕子の親から電話来たの。裕子が帰ってこないんだけど、何かしらないかって。裕子、どこか行っちゃったのよ。ねぇ、どうしよう水山」
「それは洒落にならないな。警察には言ったのか?」
「裕子の親が言ったよ。それでね、裕子にもちろんメールしたんだけど……」
「何も返って来ないのか」
「そうなの。ねぇ、どうしよう」
 どうしたものか。
「裕子のアドレス教えるから、水山から送ってよ」
「……わかった」
 俺は赤城に成本のアドレスを教えてもらい、今どこにいるんだ? とメールを送ってみた。
 少し待つが、返って来ない。
「返って来ないな」
「あぁもうじれったい! 貸しなさいよ」
 乱暴に俺の携帯を奪うと、神がかり的なスピードで文字を打っていく。
「……よし」
「なんて送信したんだ?」
「心配なんだよ、今どこにいるか教えてくれって送った」
 それって、成本を騙してる事になるんじゃないか。いや、確かに心配は心配だけど、今の行為には、少し疑問を感じる。
「あ、来た! 今、漫画喫茶だって」
 やっぱ、家に帰りたくないんだな。まぁ、成本の安全は確認できたから良かった。赤城が俺になりすまして説得した所、もう家に帰る事にしてくれたらしい。

「ねぇ、健吾」
 昼休み、また佳織が会いに来た。
「あ、佳織やっほ」
「あら、奈実。私、邪魔だった?」
「え、えぇ?」
 明らかに動揺する藤崎。
「冗談よ。ねぇ、健吾。アンタさ、裕子迎えに行ったら?」
「俺が?」
「うん」
「……あぁ、わかったよ」
「本当? 偉い健吾! かっこいい!」
 佳織が俺の後ろにサッと回りこんで、思い切り背中を叩く。
「いてーな!」
 後ろを振り向くと、佳織がすぐ目の前にいる。可愛い子が目の前にいるっていうのは、悪い気分ではない。
「何、ジロジロ見てるのよ」
 佳織が上目遣いで睨んでくる。つい見とれてしまった。
「佳織の胸?」
 藤崎がさりげなく俺に聞いてくる。口調は普段通りおっとりしているが、目は違った。いつもの大きくて、はっきりとした目が、俺を凄い勢いで睨んでいる。
「いや、佳織の胸見てもしょうがない。お前、全然無いだろ」
「うっさい!」
 佳織の強烈な膝蹴りをもらった。
「アンタ、失礼な男ね。佳織怒ったぞ。絶対に触らせてやらない」
「なにっ! 悪かった佳織、許してくれお願いだ!」
「許さないもん。奈実の触らせてもらえばいいじゃない」
 藤崎の顔がみるみる真っ赤になっていく。くるりと後ろを向いて、自分の席に戻ってしまった。
「やっほ」
 赤城が話し掛けてきた。よかった、いつもの冷静で、どことなくクールな赤城だ。
「何の話してるのよ」
「胸の話」
 俺は本当の事を言った。
「あら。幼なじみはやっぱ進んでるのね。……って、なんか奈実が席で俯いてるけど、アンタ達、エロ話はあんまり奈実の前でするんじゃないよ」
 そういう話をしてきたのは、藤崎だったと思うが。
「それは置いといて、成本はどこの漫画喫茶にいるんだ?」
「緑塚公園の近くにあるの、知ってる?」
「あぁ、あそこか」
「そう。ちゃんと迎えに行きなさいよ」
 そして言うべき事を言わないとな。
「ちょっと、いい?」
 いきなり姿を現したのは、堀田真奈美。茶髪の長い髪が目立つ。
「あのさ、水山。迎えに行かないで」
「なんで?」
「だって、アンタは藤崎と付き合ってるんでしょ。おかしいじゃない。何、のほほんと女の子迎えに行く気でいるのよ?」
「いや、付き合ってないけど」
 堀田は顔色一つ変えずに喋りつづける。
「どっちにしてもさ、アンタは裕子の事好きじゃないんでしょ。迎えにいかないでよ」
「堀田うるせーよ。水山が迎えに行けば裕子喜ぶし、ちゃんと家に帰るだろうから、いいじゃない」
 赤城が声を張り上げて言う。こいつ、最近怒ってばっかりだな。
「話聞いてたけど、漫画喫茶でしょ? 今から早退して会って来るよ。つーか、迎えるって何? 普通に裕子が家に一人で帰れば良い話じゃない」
「健吾は、裕子に色々と言わなきゃ駄目な事があるのよ」
「知らないわよそんなの。どうせ会っても、傷つけるだけでしょ。アンタらは黙ってなよ。ていうか、水山が酷い態度するから、こんな面倒な事になったんじゃない。役立たず」
「ちょっと、そこまで健吾の事悪く言わなくてもいいじゃない」
 こういうちょっとした事でも、人間の取る行動は大きく変わるものなのか。とすると、やはり人生はわからない。たった一言や、誤解や態度などで、人生は右に左にと傾くんだ。それが良い方に傾き続ければ良いのだが。
「とにかく、私は今から裕子と会ってくるから。水山達は黙ってろ」
 堀田は鞄を持つと、さっさと早退した。

「水山君、帰ろう」
 放課後、藤崎が俺の方に駆け寄ってくる。
「ねぇ、どこかお店寄ってこう、いいでしょ?」
「いいよ。どこ行く?」
「琴別センター!」
 琴別高校の目の前にあるのが、琴別センター。何でも揃っている、大型スーパー。
「何か買いたい物でも?」
 藤崎は、笑顔で人差し指をビシッと俺に向けて言った。
「新しい服、買う!」
 俺と藤崎は琴別センターで楽しく買い物をするはずだったのに、なんだよもう。
 俺たちの目の前には、成本裕子。堀田が会いに行ったんじゃないのか?
「あ、水山……」
「成本か。堀田はどうした?」
「さっき、会ったよ。少し話して、真奈美帰っちゃった」
「そうか。……前は、冷たい態度で悪かったな。謝るよ」
「いいの、別に。私もごめんね。家に帰らないで」
「家の事情があるんだから、しょうがないさ」
 作り笑顔で、俺は喋り続ける。
「ちゃんと、家には帰るんだろ?」
「まだ、帰りたくない」
「どうして」
「嫌なもんは、嫌なの。それに、誰も心配してくれないもん。好きな人は冷たいし、友達も、親身になってくれない。心配してくれるのは、結花だけ」
 堀田は、成本の事なんかどうでもよかったんだろうか。ただ、遊ぶ人が欲しかっただけなんじゃないのか。
「ずっと帰らないのか」
「知らないよ。何、今更心配してるのよ。どうせ、結花に説教されたから、嫌々謝ってるんでしょ。何、隣に可愛い女の子連れて、私に謝ってるの? 何、あのメール? あのメールさ、水山じゃないでしょ。メール送ったの、結花でしょ」
 やっぱ、バレてたか。
「赤城は悪気は無かったんだ」
「わかってるよそんな事。結花は私の事が心配で、騙すような事でも、水山を装って私にメールしたんでしょ。結花の気持ちは、嬉しいけど悲しかったな」
 成本も赤城と同様、止まらない。喋り続ける。
「最悪。本当に全部嫌になった。もう嫌だ!」
 成本は走ってどこかに行ってしまった。
「水山君」
 藤崎が、真剣な顔で俺の顔を覗き込む。
「水山君は、悪くないよ。成本さんは、気にしなくていいんだよ。結花に任せればいい」
 最初から、無理な話だったんだ。赤城は、成本の事を思って、俺と相談する場を作ったんだ。自分で言うのは嫌だが、好きな人が自分の悩みを聞いて、励ましてくれたら凄く嬉しいだろう。
 俺はモテないので、女子が自分の事を好きだというのはもちろん嬉しい。だが、俺はやはり冷酷なんだろうか。どうにかしてやりたいとは、あまり思わなかった。
 でも、考えてみると、あまりにも俺は冷酷すぎた。同じクラスメート。同じ人間。励ましの言葉の一つもやれなかった俺は、最悪な人間なんじゃないか。そんな事に今更気づく時点で、終わってるんだ。

 翌日、起きてはならない事が起きてしまう。
 あの後、成本は家に帰らずに、男友達とずっと遊んでいたらしい。そして夜の十時頃、一人でふらふらと歩いてると、酔っ払い運転の車が成本にぶつかって来た。成本は運動神経が良かったのが幸いした。抜群の反射神経で避けたため、軽い衝突で済んだ。
 しかし、言うまでもなく、軽い衝突と言っても相手は車だ。大怪我は免れないだろう。
 俺は強い罪悪感に包まれた。
 真面目で成績はトップクラスで、運動も得意。愛嬌のある顔をしているので、男子にだってモテる。明るいから、友達は多い。そんな人生を楽しんでいる人が、家庭の事情というくだらない理由で、楽しい毎日が消えて、楽しい学校生活という日常から、夜に街をふらふらするという日常に変わってしまったのだ。
 そして、俺はどうだろう。
 藤崎という仲の良い女子がいる。付き合っているか、付き合っていないかは、はっきりしていない関係だけどさ。そして、赤城、佳織、達哉という大事な友人がいる。地味かもしれないが、ごく普通の、そこそこに楽しい学校生活を送っていた。
 そしてある日、赤城の友人の成本裕子の相談に乗ってくれと頼まれる。普通なら、励ますんだろう。
 でも俺は、違った。面倒と感じ、適当に流してしまった。こんなにも冷たい男は、普通に日常を送っているのに、俺よりも人格の良い成本は、どんどん崩れていく。これって、理不尽なんじゃないか。
 俺は、どうすればいいんだろうか。もう、全てがわからなくなって来た。

 何日か経って、俺は赤城と一緒にお見舞いに行った。病室に入り、成本と目が合うと、成本はニヤリと笑った。
 そして、成本は笑顔でこう言った。この言葉は、一生頭から離れない事になるだろう。



「貴方のせいで私は死にかけた」

2006/10/15(Sun)20:37:25 公開 / 風神
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