『レン』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:蘭                

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第一章
『繰り返し』

「おはよ〜!」

私の名前は宮崎恋(ミヤザキレン)。中学三年生。
クラスメートの山口浩太(ヤマグチコウタ)に三年間恋しています。

「おはよ〜。恋は朝から元気だねぇ」

先に来ていた親友の藤堂沙希。私の浩太への想いを知っているのは彼女一人です。

「今日こそ告白するんでしょ?てか、しなさい!」
「なに〜?!沙希こそ人の事言えないじゃ〜ん!」

沙希は隣のクラスの富田裕次郎に恋をしていた。

「で?真剣に応えなよ。告白、決意したのいつよ?」
「去年…」
「早くしないと。もう十一月だよ?繰り返してても意味ないよ。頑張りなよ!」
「だってさぁ〜」

二人が話していると、山口浩太が教室に入ってきた。

「おっはよ〜!」

「ほらほら。浩太来たよ?」
ニヤニヤしながら、沙希が言う。

「おっ…おはよう…」
沙希の言葉を無視して恋が言った。
すると浩太が、自分のつくえに乱暴に鞄を置き、
恋に近付いてきた。
「なぁなぁ!今日、おまえんち行っていい?」
「うんっ…いいよ!」
恋の家にいる犬を目的に、たまに浩太が遊びに来る事があった。

-帰り道-

沙希は恋を気遣って、恋と家が隣なのにもかかわらず一人で帰ってくれた。

「でもいいよなぁ…。恋んちは!俺の母ちゃん犬嫌いだもんなぁ…」
「あははっ。いいじゃん、うちに来れば。ポチも喜ぶし。」
「それにしても、ネーミングセンスないよなぁ…ポチってさぁ。誰が考えたん?」
「私…」
「ぶっ!あはははは!ほんっとにネーミングセンスねぇよなぁ〜。あはは」
「はぁ〜?じゃあ浩太だったらなんてつけるんよ?!」
「ミケ。」
「猫じゃん!」

こんな他愛もない話をするのが、恋の一番の楽しみだった。
浩太が恋の家に遊びにくると、大体は、犬をつれて恋の部屋で遊んでいた。

「それにしても、最近の犬用おやつは、ほんっとにうまそうだよなぁ…」

浩太がポチのおやつを眺めて言う。

「食べんなよ(笑)」

恋が言うと、浩太はポチにおすわりをさせて、エサをあげた。
それから一時間くらいたっただろうか。
ポチの散歩がてら、浩太の家にかしていたCDを返しにもらいにいく時だった。
なんとなく、沙希の声を思い出す。
“今日こそ告白するんだよ”

「ちょっと待ってて」
浩太の声にハッと気付き、玄関で浩太を待った。
階段から、ドタドタとおりてくる浩太を見て、恋は胸がキュンとした。
「ハイ。サンキュウな。CD。」
「ううんっ…じゃあ、私帰るね。」
「うん。また明日な。」
恋が帰ろうと、ポチの綱を持ちドアのぶに手をかけた。
またしても沙希の言葉を思い出したが、恋はドアのぶにかけた手に力をいれて、浩太の家から出て行った。

第二章
『告白』

教室に夕日の光が差し込むのとともに、チャイムの音が響き渡った。
いっせいにがたがたとイスから立ち、イスを机にしまう皆。
「ありがとうございました」
声をそろえてクラス全員が言う。
すぐさま沙希に駆け寄る恋。
「沙希…」
「ん?」
「頑張ってね。教室で待ってるから。」
「うん!頑張るよ〜!
だてに四年、裕次郎に恋してないからね。」
今朝、沙希からの突然の報告。
それは、沙希の片想いの相手…裕次郎に告白する事だった。

「いってきます!」

「いってらっしゃい」

-三十分後-
満面の笑みで帰ってくる沙希の隣には、なんと裕次郎がいた。
恋は、ほっとして沙希達に駆け寄る。
「沙希っ!」
「恋〜」
言葉で交わさなくてもすぐにわかった。
告白は成功したんだ。
二人は喜んで、それをみる裕次郎の表情も嬉しそうに微笑んでいた。

-翌日-
「はぁ…でもすごいなぁ…沙希、告白成功させちゃうんだもん!」
「まぁ、告白寸前に裕次郎から告ってきてくれたから、告白成功かはわかんないけどねっ」

嬉しそうに言う沙希に、恋はだんだんと勇気をもらっていった。

第三章
『大好きな先輩』

恋は今日、“一緒に帰ろう”と誘われた。
その相手は、一つ上の先輩で隣の高等学校に通う都築純(ツヅキジュン)だった。
恋は純に、何度か恋の相談をしていた。
だが、純からの誘いははじめてだった。
「先輩!今日はどうしたんですか?先輩から誘ってくれるなんて」
校門で待ち合わせをした、二人は、恋の家にむかって歩いていく。
「ちょっと、話したい事があってさ。」
「なんですか?聞きますよっ。毎回、私が相談しちゃってますもんねっ。」
恋は純の想いに気が付かなかった。

-公園-
「恋ちゃん…」
「なんですか?」

「俺…さ……。前からずっと、恋ちゃんの事が好きだった…」

思い掛けない言葉に、恋は戸惑った。
「恋ちゃんが、誰かに片想いしてるのは知ってた。
けど、いつからか俺は…その片想いの相手が俺だったらいいのにって思い始めた。」
「純先輩っ…」
恋は無理です、と言わんばかりに涙を浮べていった。
「いいよ。ただ、俺の気持ち、伝えたかっただけだったからさ。」
純が苦笑して言うのを見て、恋の頬に涙が流れた。
「ごめんなさいっ…」
純は抱きしめたい気持ちをおさえ、こぶしに力を入れた。
「純先輩っ…本当にごめんなさい…」
「…もう、いいよ。恋ちゃんは何も悪くないからさ。」
「先輩…私、先輩の事大好きですっ…でも…」
「もういいよっ…!もう…やめてくれ…」
純が悔しそうに言うと、恋は「ごめんなさい」と言って走り去った。

「純先輩っ…」

恋は涙を制服でぬぐいながら、家に走って戻り部屋に駆け込んだ。
数十分して、落ち着いた恋は鏡を見て言った。

「純先輩の想いも、大切にしなきゃ…。
私も…浩太に告白しないと…」


第四章
『星空』

純から告白をされた三日後の夜、浩太からメールが届いた。
[空見てみ!星がすごい綺麗!]
恋はすかさずカーテンを開き、ベランダに出た。

「わぁ……」

二階のベランダから見上げた空は雲ひとつなく、オリオン座が光り輝く星空だった。
恋はポケットから携帯を取り出し、浩太に返事をし始める。
[ホントだ!やっぱり田舎はよく見えるね]
“Eメール送信しました”の文字が、携帯の画面にうつし出されたのを確認した恋は、
携帯をポケットに戻して、再び空を見上げた。

「純先輩…」

月を見て思い出したのは、優しく微笑んでいる純だった。

「純先輩…一年の時からよく相談に載ってくれたな〜…浩太の事意外も、友達の事とか…沢山。」
恋はしみじみ純の事を思い出す。
苦笑を浮べて“もういいよ”と言った純を思い出し、あらためて告白された事を実感した恋は、一筋の涙を流した。
「これからは…もう、相談にのってもらえないのかなぁ…。」
すると、ポケットから携帯の着信音が聞こえた。
「もしもしっ…?」
恋はあわてて涙をぬぐい、誰からの着信か確認せずに出た。
「あ、もしもし?俺。」
相手は純だった。
「純先輩……」
「出てくれないかと思った。
俺さ。色々あの後考えたんだけどね。やっぱ、まだ恋ちゃんの事好きだわ。」
「先輩っ…私…」
「わかってる。けど、好きでいるくらい良いでしょ?迷惑かけんから…
これからも相談してほしいし…。恋ちゃんは俺の可愛い後輩だから。」
恋はあらためて純の事を“いい人だ”と思った。
思わず瞳から涙が溢れ出す。
「もしもし?」
返事がない恋を心配して、純が話しかける。
「先輩っ…先輩は…私の大好きな先輩ですっ…!
わがままなのは、わかってるけど…でも、これからも先輩に…相談とかのってもらいたいです…。」
恋の泣きじゃくる声にまぎれて聞こえる言葉に、純もまた涙した。
「…俺も…そういうのぬきでも、恋ちゃんは本当に大切な後輩だよ。」
「先輩…」

「恋ちゃんもさ!頑張って告白しなよ。」
「えっ…?」
急に話題がかわり戸惑う恋をよそに、純は放し続ける。
「俺のぶんまで頑張ってよ。」
「………はい。」
その時の恋は強い決意をしたような目をしていた。



第五章
『友達』

「沙希っ…なんで…?」

十二月はじめ…雪の降り頻る中、
恋の親友は交通事故で亡くなりました。
それが昨日の事で、しらされたのは今日だった。
恋の横では、沙希の親や裕次郎が涙を流していた。

-沙希の部屋-
恋と裕次郎は、沙希の母親に案内された沙希の部屋にいた。
「俺さ…」
重い口を先に開いたのは、裕次郎の方だった。
「俺…ずっと、沙希の事好きで…
でも、告白する勇気がなかった…。」
「うん…」
「沙希が…俺を呼び出して、これは告白でしかないな。って思ったら、急に勇気でた…。
沙希が“好き”って言う前に、俺から告白した…。」
「知ってるよ…。」
「沙希はさ…いつから、俺の事好きだって言ってた?」
「…四年前」
恋が裕次郎に“恋の期間”を告げると、裕次郎は涙を流ししゃがみ込み、床を強く叩いた。
「裕次郎…」
恋が言うと、裕次郎はスクッと立って言った。
「おまえ…浩太が好きなんだろ?」
「えっ?!」
「…図星だな。」
「何が言いたいの…?」
「後悔しないうちに告白しなよ。俺は、小四の時から沙希が好きだったっ…」
裕次郎は、ギュッとこぶしを握り締め、沙希の部屋から出て行った。
「そんな事…今はできるわけないよ…。」
恋がしゃがみ込み、沙希の死を実感した。
急にドアが開き、驚いた恋は急いで立って涙をふいた。
「恋ちゃん、はい。」
沙希の母親が来て手紙をわたし、出て行った。

[Dear.恋 2002.12.2

やっぱり、告白したほうがいいと思うなぁ…私は。
私が告白成功したから言ってるんじゃなくて、
後悔する前に、素直になった方がいいよ。
私が告白したのも、成功するためじゃなくて…
まぁ、成功するのが一番だけど、
ケジメをつけるためだったんだ〜。
それで、あきらめようと思った。でも、両想いになってよかった。
そう思えるのも、恋が応援してくれたおかげだし!
私も恋の事応援してるから!ガンバレ!

From.沙希]

「沙希っ…」
手紙の日付は、沙希が亡くなった日だった。

「沙希ぃ……!」

恋は沙希の部屋で、何時間も泣き続けた。


第六章
『告白』

沙希が亡くなってから、丸一年経った。
ようやく、“告白”を考えられるようになった恋は、
浩太への告白を決意した。
浩太とは、運良く同じ高校へ上がれて、
純が通う高校だった。

[今日、放課後屋上に来て下さい。]

このメールだけを送って、恋は屋上で待った。
突然、バタン!とドアをあける音とともに、真冬にも構わず汗だくの浩太が立っていた。
浩太は、息を整え口を開く。
「来てって、どうしたん?」

恋は、純の想いや沙希、裕次郎の事を思い出して口を開いた。

「浩太…
中一の時にさ。私が男子にいじめられてるの、浩太が助けてくれたの覚えてる?」
「うん…」
恋は小さく深呼吸をし、空にむかって大声で叫んだ。


「浩太が好きだーーーーーーー!!」


恋はすぐさま浩太の瞳を見て、微笑んだ。
浩太が考えている数分が、恋にはとても長く感じた。
急に眉間にしわをよせて浩太が恋を見る。

「俺…
恋の気持ちには応えられない…」

一瞬にして恋の表情がくもり、涙が溢れ出してきた。

「俺、恋の事好きだったよ。中学卒業するまで…
ちょうど一年くらい前まで、中一の時からずっと好きだった。」

恋は顔を覆った。

「でも、恋は都築先輩の事、好きみたいだったし、
都築先輩も恋の事すきだって言ってたから、あきらめた。
今は、今の彼女が一番好きだ。」

ハッキリと言い切る浩太に、恋は両想いの時期があった事を確信した。


最終章
『もらった物』

浩太に告白してから、数ヶ月が過ぎた。
恋は今、純と付き合っていた。
ある日、恋は中学の卒業式に浩太と二人で撮った写真を見て、思った。

「浩太。
私も今は、純先輩が一番好き。純先輩を愛してる。
もっと早く告白してたら…って後悔してた。
…でも、浩太に恋した事は後悔してないよ。
浩太は私の大切な友達だし、それは沙希も一緒だよ…」

それから一年し、恋は高三に…
純は社会人になった。
それでも二人の付き合いは続いて、
今では浩太と浩太の彼女…恋と純の四人で遊ぶ事も多くなった。
さらに時は経って、なんと恋は六十八歳になった。

「おばあちゃんは、その浩太って人が好きだったけど、おじいちゃんと結婚したの?」

六歳の孫が問いかける。

「ううん。おばあちゃんはね。
中学生の時、浩太に恋した事がすっごくいい思い出だからね。
美衣ちゃんにも、おばあちゃんみたいに恋してほしいんだ。」

「美衣ね!
一緒の組の、タイキくんが大好きだよ!」

恋は微笑んで言った。

「その気持ちを大切にしなさい」

2006/09/05(Tue)18:07:58 公開 /
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