『良心』 ... ジャンル:ショート*2 リアル・現代
作者:コー                

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『よって、被告人に無期懲役を言い渡す』

 法廷はざわめきに包まれた。被害者の親は、不当な判決だと泣き叫んだ。
 裁判官は「閉廷します」とだけ言い残し、その法廷をあとにした。



 夜中2時、家のガレージに車を止め、そしていつものようにズボンの左ポケットから家の鍵を出した。それからドアを開けて、ただいまと小さく言った。

 こんな時間に妻は玄関まで迎えに来た。その理由は大体予想ができていた。
 案の定、今日、いや昨日の裁判がニュースで話題になっているということを、妻は私に話した。
「なぁ」
 私は妻の話をさえぎりそう言った。
「急にどうしたの?あなた」
 妻は心配そうに私に尋ねた。
「今日の裁判は、あれで本当に良かったのかな」
「あら、やっぱり気にしているのね。何言ってるの!裁判官であるあなたが決めたことなんだから、ちゃんと自信を持ちなさい」
 そういえば私は、自分の職について妻に話したことはほとんどなかった。妻は以外に良いことを私に言ってくれていた。しかし……。
「何を悩んでいるの?話してみなさい。私たちは夫婦なんだから」
 私の表情を察してか、妻は私にそういってくれた。話すだけ話してみよう、そう思った。
「そのとおりだな……。私が裁判官になって20年。殺人による遺族の悲しみをいっぱい見てきた。それで私はできる限り遺族の人のことを考え、被告人を死刑にしてきた。それはもちろん法律や証拠に基づいて、死刑となる論理的な説明ができると判断したときだ。だから私は法律にはきちんと敬意を示している。しかし、法律でもおかしなところはある」
 妻は、初めて心の内を話す夫の顔を真剣な表情で見つめ、それは何かと聞いた。
「未成年者の犯罪が、重大な罪とならないことだ」
 夫は息を荒くしながら話した。
「時代は変わるものだ!今では子供が親を殺す時代になっている。しかし昨日、私が扱った裁判では、金がほしかったからという理由だけで、少年が赤の他人を殺した事件だった。ただの自分の欲望のために、今までその人が培ってきた貴重な命をあいつは奪ったんだ。私は死刑にしたかった。遺族の人もそれを望んでいた。しかし少年は法廷でこう言ったんだ。『とても悪いことをしました。今は反省しています』、と。今まで弁護士にも言ったことの無かった謝罪を、聴衆の前であいつは言いやがった。法律上では、未成年者が罪を犯したとき、更正の可能性があると判断された場合は刑が軽くなる。それによって周りの人が見ている中、反省を述べた少年に公正の可能性が無いという論理的な説明はできなくなる。それで私は仕方なく、無期懲役を言い渡すことにしたんだ……」
 私は今までの不満を全部妻にぶちまけたようだ。妻は関係ないのに……。しかし、今回だけは許してくれるだろう、そんな思いが心のうちにあった。
「そう。でも少年に無期懲役は重過ぎない?」
 妻はそう言った。しかし私はすぐ反論した。
「よく考えてみろ。失われた命は、大人が殺そうが子供が殺そうが同じなんだ!ほかの裁判官も本当は死刑にしたいと思っているに違いないさ。だが法律という、見えないプレッシャーにより彼らは言えないだけだ」
 彼の意思はとても強かった。
「そう……。よく分かったわ。でも、もう答えは出てるじゃない?」
「答え……?」
 私は少し考えた。この疑問に答えがあるというのか?

 ――あった。

 ≫

『……ら裁判所の前です。少年犯罪の改正をするため立ち上がった運動によって、法律が改正された後、初めての少年による殺害の裁判ですが少年には懲役25年が言い渡されました。この判決による理由は、まだ少年には未来があり、反省の意思も述べているということで少年に死刑や無期懲役を言い渡すには重過ぎると、裁判官が判断したためです。しかし、一年前にも同じような事件があり、そのときの裁判では無期懲役という判決が下っており、法律の改正前よりも軽い罪という状況に――』





2006/08/30(Wed)00:41:03 公開 / コー
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■作者からのメッセージ
始めまして、コーと申します。

初作品です……。
コンパクトに分かりやすくまとめていったら、とても短くなってしまいました。
本格的に小説活動をしていきたいと思っています。ですので、ぎこちないとこばかりですがご指摘いただけるととても助かります。よろしくお願いします。

では!

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