『リトル・キラーズ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:コーヒーCUP                

     あらすじ・作品紹介
 小学六年生の米沢來は後一週間で死ぬ、彼は七歳の頃にあることをした、彼の母親のせいで。 來の同級生の佐川留美は虐待をうけていた、ある朝にとうとう母と兄を殺害してしまった。 この二人は警察から逃れるためにある山の中の小屋に逃げ込んだ、らいが死ぬまでの一週間、そこで生活することに。 来の過去の秘密、警察の動き、留美の気持ち、来の母親の息子への愛。いろんなものが交わる、人を殺した二人の十二歳の少年少女の死ぬまでの一週間の記録。

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第一話【少年少女】

「米沢君、明日皆にあなたの病気のことをいうね」
 気の弱そうな女の担任教師が校門の前で僕に尋ねてきた、僕は彼女の質問に一回だけ頷いた。
すると女教師は、分かった、それじゃあサヨナラ、と言って校門から学校は入っていた、僕は女教師の立ち去る背をみながら校門を出た。
 僕は後一週間で死ぬ、女教師はそれをクラスのみんな言うといっていたのだ、まだ小学六年生だというのにあと一週間で死ぬのは悲しい。

『ついに殺っちゃった! お願い、急いできて!』

 校門を出たところで携帯を開くと、こんなメールがきていた、僕は一先ずあたりをキョロキョロと見渡した後、校門に戻って、小学校に入り体育館裏に走ってきた。
 走ってきたのですこし汗をかいたのでそれをぬぐい、再び携帯に目を戻した、やはりメールは間違いなく彼女からきていた。
 彼女とは同級生の佐川留美(さがわるみ)という現在十二歳の女の子だ、それほど親しいわけではない、それでも、お前ら仲いいな、と言われると否定はできない。
 彼女からのメールを読み替えず、ついに殺っちゃった! お願い、急いできて!……そうかとうとう限界にきたか、と僕は思った。
「仕方ない、よく十二年間も我慢したものだ」
 僕は携帯の液晶画面を見ながら呟いた、しかし……彼女と話すようになって一年、この一年の間になんども僕が言っていたことをもう実行してしまったか、中々行動力の人だったんだな。
 僕は携帯の返信ボタンを押し、彼女に返信をうつ……『分かった、すぐいく』と。
 彼女から返事が返ってくることは無いだろう、僕は携帯の電源を消し、ポケットにしまうと深呼吸をした、そして一気に彼女の家に向けて走り出す。
 同級生と何度もすれ違ったが誰も声をかけてくることは無かった、クラスでは地味なキャラを演じていて良かった、こんな時に声をかけられると殺してやろうかと思うくらい腹が立つであろう。
 彼女が『殺っちゃった』と言って来たという事は少なくとも彼女の母親は死んでいるだろう、後は彼女の兄と義父が生きているかどうかだ、生存者がいるようじゃダメなんだけどな。
 僕は走り続けた、普通の小学校六年生のスピードではなかったであろう、よこにベンジョンソンでも並べるといい勝負かもしれない、なんて思いながら走っていた、そして彼女の家が見えてきた。
 彼女の家は古びたマンションだ、外見は汚い、葉っぱが壁にまきついていて甲子園球場を連想させる、他にも大きなひびが目立つ、これじゃ震度五強で倒れても不思議ではない。
 僕はは走っていた足をとめた、走っているとどうしても揺れてしまうランドセルも止まった、そして歩きながらマンションの入り口に入っていった、何度かマンションには来ているが彼女の家へは始めていく、僕は入り口の近くに貼ってあった誰が何号室に住んでいるかがわかる大きな掲示板を見て『佐川』の苗字を探した、ボロマンションで住人は少ないので『佐川』という苗字は一つしかなかった、家は七階の七○二号室だ。
 掲示板の近くにあった三つあったエレベーターのボタンを全て押した、そしてどれかが来るのを待ちながら頭の中を整理していた。
 これからどうすべきか、正しい人のやり方では彼女を警察に突き出す、というのが一番であろう。
 しかし、そんな理不尽なことがあってたまるか、元々彼女が警察に突き出すべき人物を十二年間許してきたのだ、それなのに彼女を警察に突き出すのは気が引ける。
 そんなことを考えている内に三つ並んでいたエレベーターの真ん中のエレベーターの扉がゆっくり開いた、下りてくる人はいないようだ、僕は素早くそれに乗り込んだ、そして七○二号室がある七階のボタンを押した後に『閉』と書いてあるボタンを押した、ゆっくりと扉が閉まっていく。
 一人になったエレベーターの中でまた頭の中の整理をする、本当にどうしよう? やはり彼女には少しだけ自由を与えてやりたい、どうせ僕もあと少ししか生きれないんだ、少しは人の役に立とうか。
 となると、逃亡の準備が要るな、そう思って電源を切っていた携帯をポケットから出し電源を入れた、すると新着メールが一通届いていた、彼女からだった、メールを開いてみる彼女がどれだけ焦っているか分かる文がかかれていた。
『まだなの?』
 彼女とはメールはよくするがこんなメールは始めてた、彼女とメールをしていても僕のほうから急に会話をやめても彼女が怒ったことなどは無い、だからこんあメールがくるのは初めてだ。
 僕は今から返信しても仕方ないと思い彼女のメールを無視して、僕の母親あてにメールを送来ることにした、メールをうっているとエレベーターが七階についた、一先ずエレベーターからでた、そして七○二号室に向かって歩きながら母にメールをうつ……うち終わった、僕はメールの内容を確認した。
『母さんへ、僕のおいさき短い人生は人の役に立てようと思います、佐川という女の子の話を何度かしたことがありますね? 彼女がとうとう殺ってしまったらしいのです、僕は今から彼女と逃亡します。
 ですから、この後に書いてあることを実行してください、まず駅のロッカーに女の子用の服と僕の服を一週間分と一週間分の食料、あとは生活費地需品と暇つぶしのできるものを詰めた紙袋を入れといてください、ロッカーの番号は後でメールをください。
 もし指示に従ってくれないなら警察にあの事をバラします、僕が死ぬまでにする最後の脅しです、従ってください。    薄情な息子より』
 そう書いたメールを母に送信した、母はきっと何も思わずに従ってくれるだろう。
 気づけばなん○二号室の前まで来ていた、佐川と書かれた表札がある、ココで間違いなさそうだ、僕はドアノブを握って回した、そして音を立てないように扉を開けた。
 血の匂いが開けた部屋の中からした。


 *


 彼にメールを送って二十分が経過した、私は目の前に広がる光景を荒い呼吸で見つめていた、狭いリビングに転がる二つの死体、部屋は畳で今朝までは畳の匂いがしていた部屋も今は異臭が漂っていた。
 転がる死体は私の母と兄だ、母は首から、兄は左胸から血を流して倒れている、まさかこんあにモロイものだったとは。
「……むくいだ」
 私はそうつぶやいた、胸についている小学校の名札、小学校一年生のときから大切にしていた、名札には汚い字で『さがわるみ』と書かれている、私が持っている中で唯一兄のお古じゃないものだ、この名札をつけて小学校五年生のときまで毎日学校に行っていた、しかし、小学校五年生の十月から同級生のイジメと言うやつのターゲットにされた。
 いじめられた理由は『毎日長袖を着ていて暑苦しい』というものだった、だがイジメ始まったのは十月、長袖の奴は他にもいた、その一人が彼だった。
 彼とは同級生でさきほどメールを送った人だ、名前は米沢來(よねざわらい)という男の子だ、彼も小学校五年生の十月は長袖と登校だった、しかし同級生は彼には何もしなかった、正式にはできなかったのだ、彼はみんなに恐れられていた。
 小学校四年生の頃、彼をからかった一人の男子生徒がいる、廊下を歩いていた彼に対してからかった奴は『お前んち、父ちゃんいないから貧乏なんだろう?』と挑発的に言ったのだ、その後に彼はからかった奴の髪を鷲づかみにしてそのまま廊下のガラスに顔面をつっこませた、ガラスが割れてからかった奴の顔は血まみれになった、しかし彼は何事も無かったかのようにからかった奴を無視して廊下を再び歩き始めた、後で大問題になったが彼がからかった奴とからかった奴の両親に謝り、そして治療費を全額払うという事で問題は解決した、その後彼に近づこうとする人はいなかった、私以外は。
 いじめれ始めた頃、私は学校の帰り道に彼に文句を言ったことがある『あなただけズルイわ』と、すると彼はキョトンとした顔で私を数秒間見つめた、そして笑いながらこう言った『君も人でも殺してみたら? 誰もが恐れて近づかないよ』と、これが彼との始めての会話だった。
 それからすこしだけ彼と話すようになった、同時にイジメも激しさを増していった、だから段々不登校気味になってきたのだ。
 しかし、家にいても同じだった、私は生まれたときから虐待を受けていた、ハサミで耳たぶを少しだけ切られてこともある、その虐待は私の家族全員がグルだった。
 母も仕事のストレスで私を殴ったり蹴ったり、中学三年の兄も学校のストレスを私にぶつけ、毎日働きもしない義父も私を虐待する。
 そんな生活に十二年が過ぎた今日、とうとう我慢の限界が来た、朝起きると無性に腹が立った、だから部屋に隠していた包丁でリビングにいた母親を殺害した、続いて兄も殺害した、義父も殺してやろうかと思ったがその前に我に帰った、そして転がる二つの死体を見つめた。
 そしてその二つの死体の前にひざまずいた、死体からは血液が川のように流れていた、それを見ながら寝てしまった、起きたら丁度学校が終わる時間だった、私はそこで彼にメールをした。
 少しすると『すぐいく』という返信メールが届いた、彼には私の家庭内事情を話している、だから『殺っちゃった』といえばすぐわかっただろう。
 私は彼に『まだなの?』とうらしくないメールを送った、返信は来なかった。
 さて彼が着たら何をしてくれるだろう、私はないかを期待していた、彼は凄いのだ、私は十二歳で二人殺した、しかし彼は七歳のときに十人以上殺している、凄い方なのだ、期待しても仕方ない。
 なんてことを考えていると限界の扉が開く音がした、そして閉まる音がして足音が近づいてきた、黒い半ズボン、黒く長いロングコートを着た彼が私の目の前に現れた。
 彼は二つの死体を指さした、そして私に笑顔で尋ねてきた。
「気分はどうだい?」
 私は彼の質問に迷い無く答えることができた。
「最高」
 短くそう返事をすると彼はコクッと頷いた、分かった、ということだろう。
「米沢くん、これからどうしたらいい?」
 私は尋ねた、彼は死体を見つめたまま立ちながら言った。
「どうしたらいい……か、準備はできている、それより義父はいきているのかい?」
 準備はできている、流石は彼だ、しかし彼が頼りになるのも後一週間くらいだ。
「義父は生きてる、隣の部屋で寝てる」
 私が言うと彼はロングコートの中に手を入れてある物を取り出した、ナイフだ、それを私に手渡した。
「さあ、殺ろう」
 かれは言った、私は力強く頷いた、もう二人殺したんだ、三人殺してもそんなに変りはない。
 私は隣の部屋につながるふすまをあけた、暗闇の中で酒瓶をかかえて義父がおきないびきをたてて寝ていた。
 私は隣にいる米沢君をみた、彼はまた頷いた、彼の手にもナイフが握られていた、彼は自分の持っているナイフを見ながら言った。
「僕も手伝うよ」
 彼はそう言ってくれた、しかし私は首を振った。
「手伝いなんて要らないよ」
 すると彼はナイフをロングコートのポケット中に入れた。
 私は義父の顔の前で座り込んだ、そして彼にもらったナイフを高々と振り上げて、そして勢いよく下ろす!
 次の瞬間、義父の顔面にナイフが突き刺さり血が吹き出た、その生暖かい血にすこしだけかかった米沢君は私を見ながら笑顔で言った。
「気分はどう?」
 間もおかずに私は笑顔で返した。
「最高」


第二話【絶望希望】


「こいつは苦しめて殺したかった」
 彼女は返り血で血まみれになりながら義父の前に座り込んで弱弱しく言った。
「苦しめて殺すか……窒息死? 溺死? それとも生きたまま解体する?」
「……あなたが言うとリアリティがあるわね」
 失礼な、苦しめて殺したかった、なんて君が言うから僕がどういう殺し方が良かったか? と訪ねただけではないか。
「溺死とかそんなんじゃなくて……こう生まれてきたのを後悔させるような殺し方がいい」
「怖いね」
「あなたに言われたくない」
 彼女はそういうと立ち上がって転がっている義父の顔を軽く蹴った、相当憎かったんだろう。
「シャワーでも浴びてくるといい、血まみれじゃくさいし、これから逃げるのに目立つよ」
 僕がそういうと彼女は首をかしげた。
「逃げるって……どこに?」
「僕に任せといてくれ、準備はできてると言ったろう?」
 彼女は複雑な表情で部屋から出て行った、しばらくするとどこかの部屋の扉が閉まる音がした、浴室だろうな。
 彼女が立ち去ったあと僕は近くで死んでいた彼女の義父に近寄る、寝転んでいる義父の顔面には丁寧にナイフが刺さっていた、辺りは地で真っ赤である。
 僕はしゃがみ込んで死体を見つめる、当然だが呼吸はしていない、この男に彼女は苦しめられてきたのだ、憎むべき男だ。
 しかし……五年前もあの死体を見つめたときも思ったのだが。
「なんてモロイだろう」
 僕は呟いていた、本当にモロイ物だ人間なんて。
 死体の顔面に突き刺さったナイフを握った、血まみれのそのナイフはヌルッとしていた、それを一気に引っこ抜く、また血が吹き出してきたが顔にかかるほどではない。
 引っこ抜いたナイフは血まみれだった、僕はその血を丁寧にロングコートでふき取った、黒いのロングコートなので目立たない。
 血をふき取って綺麗にしたナイフをロングコートの内側のポケットに忍ばせた、そして別に持っている僕の護身用ナイフを取り出した、少し刃先が長いそのナイフは綺麗に光っている、僕の趣味はナイフコレクト、つまりナイフを集めることだ、そしてこのナイフは今まで僕が集めてきたナイフの中でも一番のお気に入りだった。
 しかし後一週間で死ぬ僕には不必要だ、最後ぐらいは人のやくに立てよう。
 僕は彼女が義父を刺したところにそのナイフを入れた、そして深く刺しこんだ、吹き出した血で腕が赤く染まる、それでも構わない。
 刃先が全て死体の顔に刺さったところで僕はナイフから手を離した、このナイフには当然だが僕の指紋しかない、この死体の死亡した時間に僕はこの部屋にいた、この死体の死亡推定時刻は警察が割り出すだろう。
 その時間の直前に僕はマンションのエレベーターに乗った、その姿が監視カメラに残っているだろう、そしてこの部屋で僕の指紋しか着いていないナイフで刺された男の死体があった、義父の殺害犯人は僕になる。
 彼女は虐待に耐えれなくなって兄と母だけを殺害した、これだけなら彼女には『正当防衛』が適用されるかもしれない、つまり逮捕はされてもすぐに施設に入れられると言うことだ、彼女にとってはこの家よりマシなところなはずだ。
 僕が罪を着ても後一週間で死ぬ身だ、構いやしない。
 立ち上がり僕も死体の顔を軽く蹴った、そして部屋を出る、部屋を出たら異臭がした、そういうえばこの家には朝死んだ二人の人間がいたんだ。
 あまりの匂いに僕は鼻を手の甲でおさえた、この部屋は部屋は六畳ほどでベランダに繋がった部屋でリビングなのだろう、テレビにエアコンにテーブルがその部屋にはあった。
 彼女の母親の死体は首から血を流してテーブルの上にのって死んでいた、彼女の兄はテレビにもたれかかり心臓から血をだして死んでいた。
 彼女は僕がくるまで何を考えていたんだろう? そんな疑問が頭をかすれた。
 この二人の死体を見つめながら彼女は何を感じていたんだろうか、自分を虐待していたものを殺せた達成感か? 
「……あの時、俺は何を感じていた?」
 かすれそうな声で僕は呟いた、その質問には誰も答えられない、僕自身もだ。
 五年前のあの時、僕が死んだあの時に、僕何を感じていたんだ?
 回答のかえってこない質問が僕の頭の中を行き交う、そんなこと考えてどうする? もう過去のことだ。
「……忘れよう、あの時のことは……」
 五年前のあの日から何度も自分に言った言葉を再び自分に言う、ふい自分の手が彼女の義父の血で真っ赤だったことに気づいた。
 このリビングは台所とつながっていた、僕はその台所の洗面台にむかった、そこで手を洗ってまたリビングに戻った。
 彼女が殺した母親の近くでしゃがんで死体をみつめる、異臭が凄いだけで後はなんにもない。
 なんてモロイものだ、こんなモロイ物に彼女は十二年間も苦しめられてきたのか? 哀れだな。

『生物はいつか必ず活動を停止します、それは避けられないのです』

 ある知人が言っていた言葉、生き物は必ず死ぬ、当たり前のようだがそれを受け止めるのは中々度胸のいることである。
 僕が死ぬのは『罰』なんだ、五年前に多くの命を奪った『罪』に対する『罰』なのだ。
 だからこの母親達が死んだのも『罰』なんだ、十二年間も彼女を虐待し続けた『罪』にたいする『罰』なんだ。
 生物はいつ必ず活動を停止する、避けられない未来、彼女は母親達の避けられない未来を今日にしただけだ、僕の避けられない未来が一週間後になっただけ。
 それを受け入れるのは度胸がいる、僕はまだ受け入れられない、心のどこかで必死に自分が死ぬことを否定している。
 十二年前、ある事をしたことで僕の人生は変った、五年前に僕は多くの命を奪い、同時に僕自身死んだ、しかしまだ生きている。
 死ぬのが怖い。
 まだ生きていたい。
 幸せになりたい。
 それは誰も感じることだ、それを僕は感じれない、感じちゃいけないのだろう、それもまた『罰』なんだろう。
 こんなことを考えていても仕方ない、僕はそう心の中でつぶやき立ち上がった、そして二つの死体を見つめる。
 彼女はきっとこの二つの死体を見つめながらこうおもっただろう、モロイ、と。
 彼女は今日までの十二年間は何を考えて過ごしたんだ?
 憎かっただろう家族全員が、恨んだだろう自分の運命を、助けて欲しかったろう誰かに、望んだだろう幸せを、涙がかれるまでかれるまで泣いただろう。
「つれかったろう……呼吸を続けることが」
 そんな絶望の渦の中を彼女は十二年間何を感じて生きたんだ? どこに希望があったんだ?
「教えてくれないか?」
 僕も知りたいんだ、底知れぬ絶望の渦の中にある希望を、それを感じたいんだ、ただそれだけなんだ。
 感じれないことも『罰』なのか?
 それとも感じる事が『罪』なのか?
 どちらにしても酷すぎないか。
 僕の右目から冷たい雫が一粒こぼれた、その雫は頬をつたっていった、この涙の意味はなんだろう?
 回答は返ってこない。
「生物はいつか必ず活動を停止する、さけられない。そんなの知っている、それでも怖いんだよ」
 僕の声は涙声だった、それでも流れた涙は一滴だけだった、僕の涙は枯れたんだ、五年前のあの時に。
「母さん……父さん……」
 一度でいい、死ぬ前にあってみたい。


 
第三話【逃亡開始】



 私がお風呂から出てきてリビングに行くと彼がいた。彼は母の前でしゃがみ込んで片手で頭を抑えて何か必死に痛みをこらえてるようだった、怪我などはしていないはずだ。
 私は彼の隣にたって彼見下した、彼は私に気づかずに頭を抑えながら母の死体を見ていた。どうしたたんだろう? 気が狂ったのかな?
「どうしたの?」
 私が声をかけると彼は我に返った。ビクッと体を震わせた後に頭を抑えていた手を頭からどかし、私を見上げた。この眼……は? 彼は何か怯えているような目をしていた。
「大丈夫、少し気分が悪くなったんだ。ほら、異臭が酷いだろう?」
 彼はそういうとゆっくり立ち上がって笑顔を見せた。
「なんか苦しそうに頭を抑えてたけど」
「異臭のせいで頭が痛くなったんだよ」
 彼は明らかに話をそらしたがっていた、それにあの何かに怯えた目は尋常ではなかった。
 立ち上がった彼はロングコートのポケットから携帯を取り出した。そして電源をつけて、しばらく携帯を操作をした、しかしすぐにため息をついて携帯をポケットにしまった。
 彼は、まいったな、と呟きながらあたまをかいた。何がまいったのだろうか?
 不思議そうな顔をする私を無視して彼はリビングを出て原価陰のほうに歩き出した、あまりに突然のことなので反応が遅れてしばらく彼の歩く背中を見つめていた。
 そして彼が限界に向かうことに気づくとすぐに彼の後を追った。
「ねえ、どこいくの?」
 彼は私を無視して玄関に向かって歩いた、玄関に着くとすぐに靴をはいて扉を開けて部屋を出て行った。どうしたんだ?
 私もすぐに靴をはいて部屋を出る、部屋の前で彼が待っていてくれた、私が出てきたのに気づくとまた無言で歩き出す。どこに行くかくらいは教えろ。
 彼が次に立ち止まったのはエレベーターの前だった、彼は三つあるエレベーターのボタンを全て押して真ん中のエレベーターの前でエレベーターを待った。
 エレベーターが車で沈黙が続く。なんだこの空気は? 
 彼は今日始めてあった時は何かを期待させる空気を持っていた、しかし今は何か違う。
 何かに怯えている彼は今にもう、許し下さい、と叫びそうだ。私がお風呂に入っている何があったのだ?
 そんなことを考えている右側のエレベーターの扉が開いた、彼は迷わずそれに乗り込む。私も後を追う、彼はエレベーターに私が入った直後に『閉』とボタンを押す。扉がゆっくりと閉まっていく。
「すこしばかり寄り道が必要となったから」
 扉が閉まりきったところで彼が呟いた。寄り道?
「実は母さんに逃亡の準備をするように頼んだんだけど、返事が来ないんだ」
 ああ、なるほど。だからさっき形態を見ながら参ったと呟いていたのか。
「じゃあ、どうやって逃げるのよ?」
 私の声が少し焦っていた、早く逃げなければならない、それが焦りに繋がっている。しかし彼は落ち着いたものだった。
「落ち着いて。君が焦るのも分かるが今は冷静になるのが一番だ、逃げる手段は僕が準備しよう」
「どうするのよ?」
「寄り道とは僕の家のことだ、すこしばかり荷物をそろえなければならない」
 ああ、そうですか。
 エレベーターが1階について扉が開いた、先にエレベーターを出たのは私だった。
 エレベーターのすぐ近くにあるマンションの出入り口の扉、先に出た私を追い抜いて彼がその扉に向かって歩いていた。素早い奴だ。
 出入り口を出たところで私は立ち止まってボロマンションを振り返った、もうココには帰れない。そう心で呟いた。 
 彼に目を戻すと彼は直立不動でなにかをまっすぐに見つめていた。
 彼の目線を追うとしこには女がいた。青い車のまで片手に大きな紙袋を持った女は車から離れて私達に近づいてきた。誰だ?
 女は彼の目でとまった、彼と女がしばらくにらみ合う。彼は女を見上げて、女は彼を見下げて。
「駅のロッカーに入れといてと頼んだはずだよ。母さん」
 女とにらみ合っていた彼が口を開いたが、母さん!? 彼は今確かに女に向かって母さんと言った。じゃあ彼女は彼の母親なのか?
「……あなたが佐川さん?」
 女は彼の言葉を無視して私に尋ねてきた、私は一回だけ頷く。
「そう」
 確認が取れた彼女はまた彼とにらみ合う。そして私の目の前で少し驚くべきことが起きた。
 パシンッという乾いた音がした、女が君袋を持っていないほうの手で彼の頬を叩いたのだ、いつも自分はあんなことをされていたのか、なんて考えていた。
 叩かれた彼は頬を赤くして女に手を差し出す、その手に女が紙袋を渡した。
「例の別荘に逃げ込むつもりでしょ? 私の車で送って上げるわ」
 女はそういうと青い車の元に歩いていった、私たちはしばらく女の背中を見つめていたが彼が歩き出した。
「行こ」
 彼は私の手を掴みながら引っ張って車のところまで無理やり連れて行く。ちょっと待て。
「ねえ、離してよ。あの女は何者なの?」
 私が聞くと彼は無表情で無視をした。
「ねえ聞いてる?」
「母だ」
 今度は即答された、うっとうしかったのだろうか?
 彼の母親は車の後部座席の扉を開けてくれた、私が先に入り後から彼が入った、それを確認した母親が扉を閉めた。
 母親は運転席に座るとエンジンをかけた、鈍い音が車内に響いた、そして一気に走り始めた。
 さて、私はこれからどこに逃げるのか? 離れていくボロマンションを見ながら私は考えていた。
「君に一つ言っておかないこといけないことがある」
 私の隣で腕を組んでうつむきかげんの彼が話し掛けてきた。無視してやった。
「……さっきは無視をして悪かった」
 彼が素直に謝ったので許してやろう。
「で、はなしていけないことって何?」
 彼はバックミラーで私を見ているのか、それと自分の母親を見ているのか、とにかくバックミラーを見ながら話す。
「ご存知の通り僕はあと一週間で死ぬ」
 それくらいは彼か何度も聞いている。なんでも原因不明の謎の不治の病にかかっていたらしい、彼はそれを『罰』と言っていた。
「だから僕が君を逃亡させれるのも一週間だけだ、できれば一週間後には自首して欲しい」
 ああ、そういうことですか。
「自首するかしないかは君しだいだ、僕の死後に勝手に決めてくれ」
 あからさまに他人事のよう言う、まあ、実際に他人事だからいいだろう。
「僕らは今、ある山の中にある家を目指している、その山には人はほとんど入らない、そこなら逃亡にもってこいだ」
 ある家? さっき母親が言っていた『例の別荘』というやつか?
「そこでなら一週間くらいは不便なく使える、だいたいの生活必需品はココにある」
 そう言って彼は持っていた紙袋を私に見せてきた。
「それと……これから言うことが一番大切なんだ。君にある一つの質問をさせてくれ」
 質問? 一体なんだろう。
「答えはできる限り僕の生きているうちに聞かせてくれ」
 そりゃあ死んだ後にこたえる気は無い。
「……君にとって、生きる希望はなんだ?」
 そう質問してきた彼はバックミラーから私を睨みつけていた、その目は何かを必死に求める目だった。
 欲望で満ちた目だった。


第四話【別荘到着】


 僕の質問に彼女は困ったような顔をした、首をかしげて、少しだけ僕から目をそらした。解答が見つからないのだろう。
 ふざけた質問をしてしまったと後悔している、こんな質問したところでなんの役に立つ? 僕は死ぬんだぞ? 忘れたか?
 彼女は完全に僕から目をそらして窓から移動していく外の景色を眺めていた。
「……変な質問をしてしまった。気にしないでくれ」
 僕は適当にごまかして彼女とは反対側の窓の景色を眺めた、町を歩く人や建物、道路沿いに植えられた花や植物、それらすべてが車の猛スピードのせいで高速で視界から消えていく、それでもそんな平和な外の景色がうらやましい。
 僕の心が平和だったことはあっただろうか? いや、あったのはあった、僕が真実を知るまでは平和だった。
 それでも真実を知ったとの僕には平和なんてあったか? ない。
 なくていいのかもしれない、平和や穏やかさやぬくもりなんて物を知った僕は、きっとそれにしがみついて生きることしかできなかっただろう。そんなのは嫌だ。
 希望なんてものは自分にとって邪魔なだけだ。
「……質問の答えだけど、すこしだけ考えさせて」
 社内に響くエンジン音のせいで危うく聞こえないところだった。彼女が小声でそう返答してくれた、今の僕にはそれで十分だった。
「ありがとう」
 僕も小声でそう言った、聞こえたかどうか知らない、ただ多分聞こえただろう。
 また窓の景色を眺める、高速で視界か開きえていくすべての物が何か別世界のように感じた、実際に別世界のものなのかもしれない。
 しばらくすると信号で猛スピードで走っていた車が止まった、横にも前にも後ろにも車に囲まれている、妙な緊張感を感じた。
 冷や汗がこめかみから流れていく。僕は何を緊張している? 
 冷やせは次々と流れていく。原因はわかっている、彼女の母親の死体だ、あの年代の女性の死体を見るのは二回目だ、一回目がトラウマになっている。
 信号が変わって車が動き出す、すこしだけ楽になった。呼吸を整えるために軽い深呼吸をする。
 冷や汗をふきとりまた窓を眺めようとするとあることに気づいた、彼女が僕の顔を覗き込んでいた。正直に言うと驚いた、そして怖かった。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
 どうやら顔色まで悪かったらしい、僕は愛想笑いを浮かべて大丈夫と言って彼女をごまかした。彼女は僕の返事を聞くと心配そうな顔をしながらまた反対側の窓を眺めた。
 人に心配されたのは何年ぶりだろう?
 僕はまた窓の外の景色を眺めた、高速で視界から消えていくすべてのものが僕にとっての敵に見えた。
 そんなことを感じながら僕は眠りについた。



「おきなさい」
 母さんの声で僕は目を覚ました。外を見ると真っ暗で夜だった、辺りは気に囲まれた森だった。
 隣に座っていたはずの彼女がいなくなっているのに気づいた、そうか別荘についたのか。
 窓の外を見ると別荘があった、森軒に囲まれた家だ。白い壁で作られたその家は一階建てだ、ここにくるのは五年ぶりか。
「……佐川さんは先に別荘に入っているわ」
 母さんが教えてくれた、よく見ると別荘から電気の光が漏れていた。
「あなたに最後に……謝っておきたくて」
 母さんが申し訳なさそうに途切れ途切れな口調で言った。タジタジである。
 いまさら遅い。それが素直な感想であるが、それでも育ての親だ、心のそこから恨む事ができない。
「もう……いいよ、母さん」
 僕もタジタジな口調で答える。
「もう……過ぎたことだから、もう取り返しがつかないから……もう過去には戻れないんだ」
 僕の言葉に母さんが涙を流した。もし過去に戻れるなら僕は十二年前に戻り母さんを止めていただろう。
「ごめんね……雪」
 雪、僕の本当の名前。十二年前に僕が失った名前、來という名前がつく前に持っていた名前。
「それは僕の名前じゃない、母さんがそうしたんじゃないか」
 僕はそういうと車の扉を開けて車を出た、そして扉を閉めた。車の中で母が泣いている、泣いてくれ、僕が流せない涙を代わりに流してくれ。
 しばらくすると車はゆっくりと発進していった、山道を下っていった。サヨナラ、母さん。
 僕の右目から涙が一滴だけ流れた。


 別荘に入いると広い玄関に彼女が立っていた、立ち尽くした彼女は玄関でただ別荘中を見渡していた。
 僕が入ってきた事に気づくと彼女は突然、右手を差し伸べてきた。
「これから一週間、よろしく」
 彼女が無表情で言った、しかしその無表情にはうれしさがこめられている。十二年の地獄からやっと抜け出せて自由にクララセルのだうれしいに決まっている。
 僕は彼女の右手に左手を差し伸べて握手をした。これからよろしくと心の中で呟いた。


 *


 來の母親は自宅に帰るとすぐにリビングに向かった、そして近くにおいてあったカッターナイフを握り締めた。
 來と分かれたあとに決意した、死ぬことを。
 リビングの真ん中に立った彼女はポケットから二枚の写真を取り出した。
 一枚の写真は自分と夫が可愛い赤ん坊を抱えている写真。もう一枚は自分と來がたって並んでいる写真、來が七歳の時の写真だ。
 彼女はそれを顔に当てた、そすてゴメンネと呟き続けた、そして二枚の写真を再びポケットにしまった。
 そして両手でカッターナイフを握り締め、それを自分の首に突き刺した。
 意識が段々と遠くなっていく。自分の首から血が噴出のを見ていた。
「ゴメンネ……來」
 彼女はつぶれた喉から声をだした、同時に床に倒れこみ、生物としてのすべての活動をとめた。
 

 


2006/09/12(Tue)00:55:44 公開 / コーヒーCUP
■この作品の著作権はコーヒーCUPさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 このHNでは二作目です、作品は『リトル・キラーズ』となっていますが第一話以降は恐らく人は死にません。
一話だけみるとミステリのようにもみえますが、一応ヒューマンドラマみたいにしていく予定です。
 感想などを書き込んでください。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。