『結婚してください -please marry-』 ... ジャンル:ショート*2 恋愛小説
作者:紫華                

     あらすじ・作品紹介
結婚をどのように4人の女性が考えるか。オムニバス形式でショートです。

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-I'll be there-   葛城 雛の場合

1.

忘れられない人がいた。忘れられない時間の存在があった。忙しい日々の中にほんの少しでも余裕が出来るとあの瞬間がフラッシュバックされる。それは、初初しい恋の様な可愛いイメージじゃなくて、思い出されるのは大切な人の血まみれな姿。

「夜って綺麗かも」
 午前二時を回った空に窓から手を伸ばす。酷い過去が浄化していく。散乱した部屋の片付けをこんな夜中にしていた。小さい頃から思ったことはすぐに行動してしまう性格で夕食後にあまりの部屋の汚さに気づき、行動してしまった。片付いた部屋を見渡すと片付いていない物がある。
 血がこびり付いて錆びかけた包丁。


カーテンを開けっ放しにしていたから日差しが直接当たっていた。その日差しで朝が来たことを目覚まし時計よりも実感する。午前十時。ガタガタッ とガラス作りのテーブルが声を上げた。ベットから起き上がるとその音の原因は携帯のバイブだった。面倒くさそうに応答に答える。
「もしもし……」
「もしもーし! どうせ今起きたんでしょ! 」
 声の主で分かった。声の主は高校時代の友達の深雪で電話の内容は合コンの誘いだ。
「また合コンでしょ? 行くから何時? 」
「お、話分かってますねぇ。じゃあ明日の午後七時駅前の新しく出来たmarry'っていう店に集合」
「はーい……」
一つ返事で電話を切った。いつからだろう。無意味に軽く合コン何かに参加する様になったのは。特に出会いを求めているという訳ではない。むしろ、合コンとかナンパとか軽いチャラチャラした出会いは好きじゃない。でも、そこまで嫌いなのにそんな場に参加してしまうのはやっぱり過去を消したいからなんだろう。こんな事してて過去が消えるのなら人生は容易い。
 私は葛城 雛 二十五歳。平凡に地元の高校を卒業した後、東京に越してきた。バスガイドをやっている。昔から人と接したり触れ合う事が好きだったし、お節介を焼いたりするのが好きだった。だからこの仕事は最初は適職だと思っていた。今は、人と触れ合う事が好きだと言った自分が夢の様に思える。

ベットから出て癖のように手馴れて背伸びをする。空はからっと晴れていて昨日ニュースで梅雨明けを報道していた事は事実なんだ、と実感した。ガラス作りのテーブルの上の『退職願』が日に当たって輝いている。出そう出そうと思って出せない届。永遠に出せない気がする。いつの間にかこんなに優柔不断になっていた。いつの間にかこんなに弱気になっていた。
「……死にたい」
 口癖になっている言葉は空には似合わず仕舞だけど部屋の片隅にある血の着いた包丁にはとてもお似合いなのだ。そんな感傷的な気分に浸っていた時、

ピンポーン

滅多に鳴らないチャイムが鳴った。一瞬あの人かと思った。私を一緒にあっちの世界へ連れて行ってくれるかと思った。ドアを開けると当たり前だけど期待は外れた。でもその客人は予想外の人物だった。
「こんにちは。」
 嘘だと思った。予想外の人物。
「…………」
「俺、昨日で釈放されました。でもどうしても葛城さんに謝りたくて。 」
男は言った。ホストみたいな容姿で背丈が結構あるから小さめな私は見下ろされた。
「今更、いいですから。 」
ドアを閉めようとした。すると男が心にもなく愛想笑いをして、
「また、来ますんで。 」
と言い去り去っていった。どうしてもこの男の言動が分からなかった。今更すぎてどうしようもない怒りをぶつけた。あの血まみれの包丁を掴んでしばらく黙り込んだ。テレビのニュースが耳に入った。

「昨日、五年前に東京駅前であった未成年による暴行、及び殺人事件の主犯、根本 奏汰が五年に及ぶ少年院生活を終え、釈放されました。」

もう五年が経っていた。まだ昨日の事の様に覚えている。あの日の記憶は合コンで誤魔化しても、拭いきれないだろう。
根本 奏汰は私の彼氏を殺した。

2006/07/22(Sat)00:24:13 公開 / 紫華
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■作者からのメッセージ
結婚は華やかに見えるかもしれないけれど、陰があるかもしれない。
一緒に家庭を築く、という事だけが結婚ではないかもしれない。
色々な愛を4人の女性の視点で書きたいと思います。

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