『「僕の不思議な体験記」』 ... ジャンル:異世界 リアル・現代
作者:南子並                

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夏と言えば何? 怪談、肝試し、プールに夏祭り。
どれをとっても楽しいものばかりだけど世の中そんな楽しいものだけじゃない。
怖い物だってある。学力の成績? そんなもんじゃない。
じゃあ、どんな物かって? そうだな、例えば死者の蘇り。

夏場は色々と楽しいこともあれば暑さで幻覚を見ることもある。神社の周りや踏み切りは特に。
心霊現象といえば学校の怪談の七不思議は勿論、開かずの踏み切りや東京タワーのエレベーターに現れると言う幼い子供の霊などがある。
前に僕が田舎のほうへ遊びに行ったときに聞いたのは写真を撮るとその人の魂が取られるとかいう噂。本当なのだろうか…。

ここはその東京都にある中学校。

 キーン、コーン、カーン…

午後を知らせる鐘が鳴る。
それを合図に昼を終えた生徒たちがざわめき教室に各自戻りはじめる。
そんななかジャージ姿の者が教室に入って来た。午後の授業の始めは保健体育。
体育と言えば、夏場定番のプール開きの授業。それにしては、様子が変だ。生徒たちは着かえることもなく、指定の制服姿のまま席に着席している。
担当はクラス内に入ると、軽くクラスの全体を見回しつつ教卓に向かう。
教卓の側に着くと周りの様子を軽く伺ったところで少し俯いていた顔を上げて担当は少し微笑みながら口を開いた。
「皆さんお待ちかね、今日は楽しいプール開きなんて軟弱なことはねぇんだよ。というわけで今日は自習でーす、保健でーす」
「えーーっ」

予め分かっていたことを改めて言われるとなぜか、頭にくるのは何故だろう。
あまり時間割変更で動かない体育が保健に変わっていたことを生徒たちは了知の上で望むこの授業。ただえさえ暑いのに、涼しむことを許されなかったことに不満を持った少し淀んだ空気の中、始まる。
担任は軽く生徒たちに背を向けると、なにやら下のほうでゴソゴソとし始めた。
しばらくして、ゴソゴソしていた動きが止まったかと想うと今度は大きな紙を黒板に張り出した。白い大きな紙には黒い太字ででかく「自習」と書かれているのが窓際からでもよく観える。

 だから、もう…それは分かっていることなんだ。

そしてまた、生徒たちの方を振り向き微笑み
「えーっ…じゃ、ありません。では教科書の…」
講師に飛びつくのは多人数の生徒が放つブーイングの嵐のなか、窓際の一番、後ろの席なのになぜかひときわ目立つ男子生徒が座っていた。
目立つと言っても彼は普通に黒髪だし、何処からどう見ても日本人の子だし。
少し気になるとしたら髪が少し下に垂れ下がってるってことくらいで後は物静かに机の上に広まる教科書やノートを何をするわけでもなくぼんやりと軽く捲り捲りしているだけの男子。だけど、こうやって黙ってる子に限らず頭の中はイラついている。
(……ぅんな、叫ばないでくださいよ…。怨むのならば担任ではない。天気と季節を怨め…)
何もいわずに黙ってて、まったく関係のないページを眺めつつ軽く担任の話に耳を傾けるくらい。
結局、クーラーの設備もない狭く暑苦しい教室という箱の中でみんな一緒にお勉強。
「……と、いうようにこの場合を…」
担任が教科書を片手に黒板に記した言葉の意味やら説明やらを補足して読み始める。
一時間、同じ時間の中で全ての時間を過ごしていると言うのにぼんやりしている時間は長くて、急いでるとその時間は短く感じる。
(…授業なんてやって居ても、それが真実なのか、世の中そんなに簡単に教科書どおりにことは進んでいるのか…なんて誰も知らないのに…。ていうか、教科書に真実なんて誰もかかないだろ、ほぼ嘘はったりが多いのが教科書だろ。)
周りはノートを書いていたり、手紙のやり取りをしていたりするが窓際の男子生徒一人だけが違う空気の中に居るような目をしていた。
(…ふぁ〜…眠い。なんでこんなことしなきゃいけないんだろう)
そうやって、一人で退屈にしているのが僕。
世の中がそんな上手くいくわけないって考えてたら今の義務教育でして居ることが面倒になって、現実から少し離れた思考で出来た世界を自分でいつも想像してる。今日もいつもと同じことをしていた。

 キーン コーン カーン…

終わりを告げる鐘が鳴る。同時に、号令係の合図と共に一日が終わろうとしていた。
「起立、礼っ」
「それじゃ、異世界に気をつけて…生きて来いよっ! また明日!」
ホームルームを終えた教室はガタガタと騒がしくなる。
机を後ろに運んだり、ホウキやちりとりも出したり、他のクラスの子の帰りを待ってるだとか、放課後の楽しみは皆、それぞれで。
一日がやっとのことで終わり各自自分の通学路を通って別れる。
相変わらず平凡なこの世界を眺めつつ家へと続く道順を辿っていく。いつも僕の帰りは一人だ。
そんななか、ふと頭の中をよぎるのは昨日読んだ週刊誌の漫画。
この漫画の主人公も平凡な毎日を過ごしていたのにひょんなことからエイリアンが襲来してきたり、「神」と名乗る二頭身キャラが出てきたりと…なんとも破茶目茶な成之の世界。
現実離れしたそんな話の成之に少し憧れていた自分がそこに居た。
「今日も今日で眠い…。つまらない日常を繰り返して、なにがいいんだろう。…幸い、この町は特別だが…」
有りえる訳のない、非現実的という漫画の世界に少し影響されていたせいか、溜息雑じりに言葉を吐く。
僕が想うのは漫画の世界みたいにこの現実が面白くならないかなってことくらい。
「ぁー、エイリアンが地球を征服しに来ないかなぁ…」
なんて呟いて顔をふと上げたらそこはいつの間にか異世界、とかいう出来もしないこの思考を僕はどうしようと想った。
「…ぅんな訳、ないよ」
少し俯きかけた顔をあげて見ると、そこにはいつも見ている風景とはまったく違う世界が広まっていた。いつもならばこの辺は人々でにぎわう商店街どおりを通っているはずなのにおかしい。
「……ね、…ぇ?」
この世界はにぎわうどころか、人影すらなく見上げる空は黒ずんでいて、周りの木々は枯れ果てている。
「…嘘? 嘘だろ、…ぇ」
辺りを見回してみても、そこは見慣れた景色でないことに気付く。少し焦りかかる心が見せた幻覚だと思いたい。
ひとまず手持ちの携帯電話をズボンのポケットから取り出して、念のため家族に連絡を取ろうと考えたのだが『お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません』とのことだ。おかしい、ますますおかしい。
そしてもう一つ。普通、携帯の表示は「公衆」「圏外」となるはずなのに可笑しい。
この携帯の表示は「天魔界」と表示されている。僕はこの表示を見て微かに気付いた。
「もしかして…ここって、異世界…?」
まさかね、漫画じゃあるまいしこの手の成之なんて早々起こるはずがない。いくらなんでもそれはない。
あるはずがない。…とは言い切れなかった。
なぜなら、今この現状で見るはずのない携帯の表示が記されているし、最近ニュースとかで同じ出来事を見たことがあるし。内心少し焦り気味に僕は苦笑いをする。
「あはは… そんなまさか「そのまさかだヨ」
「……ぇ?」
ふと、声を誰かにはさまれたような気がして辺りを見回してみるがそこには誰も居なかった。
きっと、野生の動物か何かが木の間を移動したのだろうと思い気にもとめず、気のせいか…、と心で言ったあとに深呼吸を一つ漏らす。
「だぁーかぁーらぁ、まさか如何様そのカミサマ…だヨ〜」
が、気のせいでないことが数秒で判明。聞けば、5歳くらいの幼女の声がまた一つ。
「……!? …誰っ?」
周りを見回していた僕の周りを今まで静まっていた木々が僅かな風に揺れてざわめく。
そんな強い風など吹いていないのに、木々は激しくゆれ葉は宙を舞う。
瞬間に、がさっと木々の葉間から何かが飛び降りるような音がして、その音に耳を傾けると同時に身体を少し捻って振り返ってみた。
すると、どうだ。
僕の目と鼻の先にいつの間にやら立っていたのは暗い風景には不似合いな水色の髪に、白い着物と青い袴姿の幼女だった。
幼女は僕を見上げるなり、くすくすと小さく笑いをこぼす。
「…アナタ迷子ね? くすくす…」
とたんに、迷子ね?と訊かれても僕にはどうしようもなかった。迷子はどっちなんだろう、と思うばかりで言葉に詰まった。だが、これだけはいえる。
「……あの、ここは何処ですか?」
「……」

「何処ってここは…」

体験1話『天魔界へようこそ』

 僕はなにをどう間違えたのだろう。

思っても居なかったことに遭遇し、焦りと同時に不安が積もる心。
「もう一度 言ってもらえますか?」

先ほど、幼女は僕の問いになんて答えたと想う?
「…あの、ここは何処ですか?」
「アナタのほら、それ。…その鉄くずが示しているとおり。ここは天魔界だよう心棒」

 幼女の言う鉄くずとは携帯のことか、…失礼な。

「だから…何度言わせるの? ここは天魔界なの。アナタの言うトウキョウとかいうところじゃないの」
幼女が言うのが正しいのか、そんなことなど知ることはなく、とりあえず焦っていても何も始まらないので話を続ける。
「どうやら、行く道を間違えたみたいなんでよかったら、帰り道を教えてくれませんか?」
 ……あれ?
 違う成之だけど、なんか似たような物は見たことある。
 なんだっけ…?
 何処かで見たことがある。
 そうだ、不思議の国のアリス…幼い頃、母さんに読んでもらってたっけ?
 懐かしいな…。

なんて思い出に浸かってる場合ではない。

 確か、彼女は時計ウサギの後を追って、穴の中に落ちて…それから不思議の国に迷い込んで…ぃや、そのまえに猫だったけかな…?
 なんとか猫…。

「そんなの知らないジェリア。」

 そうしたらこの猫はイジワルだ。
 …あれ? あの猫もだっけ…?? まぁ、いいや。

気のせいだろうか、幼女は腕組をして僕を見上げてるはずなのになんだか見下ろしているような気がしてきた。
「アナタが勝手にこっち来たんだからさァ、私が知るわけないンティナイン」
少し呆気に思いつつ、しばらく幼女を眺め
「君は一体、誰なの? そしてここは何処?」
「……ぅん、私? 私はカミサマだヨ? ぅんでもって、ここは何度も言うけど天魔界。いわゆる天国と地獄の間の世界だヨ」
カミサマと名乗る幼女はなんの迷いもなくさらりと言ってみせる。

 …ぇ? ちょっと待って。
 天国と地獄の間って?? ていうことは、まさか僕は死……!?
 嫌だよ、この若さで死だなんて…。

唖然とした表情の中、いろいろ思考を張り巡らせる脳内。
「ま、頑張れ。アナタは死んじゃいないから、多分大丈V型!」

 大丈夫って…。全然 大丈夫じゃないです。
 しかも、大丈夫と言い切っているわりには結構不安定なお言葉が…。

「何を頑張るのですか。…死んでないというのは幸いですけど…僕はどうしたらここから現世に帰れるのですか?」
「知るか、ボケェ」
このとき幼女はなんとも愛らしい微笑みを向け、ストレートに言い放つ言葉に僕の心は一瞬、砕けた気がする。僕は相手に背を向けて、反対側を目指そうと左足を軽く前へ突き出す。
「…そうですか、では自分で探します…」
あまり関わりを持つとこういうのはろくなことが起きない、と誰かが最近言っていた。
これ以上、関わりを深く持つ前に退散しようとしたのだがとたんに、少し重みがかる。
「…ぅん?」
振り返るとそこには僕の右足をズボンごと掴んだ幼女がちょこんと座って、重りにでもなっているのか掴んだその手を離さない。
これはそう、幼児が親にお菓子をねだる体勢か、または親から離れたくないと言う愛らしい表現か。
「それは無理だヨ、アナタ」
それはまるで、片足に重りでも付けられたかのようで、実に動きにくい。
何度ももがいてみたが、駄目だった。だって、幼女の癖に意外と力があるんだもん。
仕方なく、動くのを諦めて少し疲れきった声で相手を見下ろす。軽く周りを見回してみると今の時点で僕と幼女以外誰も居ない、少し寂しい世界観が伺える。
「だってもう、アナタ逝っちゃってるもん。」
「……ぇ?」
幼女はにやりと笑いながら僕を見上げて言う。

 いっちゃってる…?

「あの…よく言ってる意味が解らないのですが…」

 知ってる?
 この世界には二つの自分が入るってこと。

幼女は一度着いた靴裏のガムのごとく僕の足から離れることなく、まだまだ引っ付いていた。
(いい加減にしないとそのまま引きずり道連れにするぞ。コルァ)
「解らなくていいよ。解っても何にも得しないしー。…長時間、ここでは生きれないし…」
ふっと笑いながら幼女は言うが、いつの間にか足と言うよりは足首に幼女の手は絡まり地べたに張り付くような体制になって、なんというかゴキブリ?
「……」
一瞬、僕は言葉を失った。この先、なんていえばよいのやら解らなくなってきた気持ちとこの人は何を言っているんだという呆気とがあった。

しばらく沈黙。

それはいいが、いい加減足から離れてほしい…。
はぁ…、と深く溜息をついて俯いていた顔をさらに俯かせる。
「…あの、ゴキブリさん…」

自分が起こした過ちも知らずに。

「僕って本当にこのままどうなっちゃうのですか? ねぇ…」
自分では気付いていなかったが、いつの間にか足は軽くなっていて相手は数歩離れた場所で僕に背を向けたまま立っていた。
「あら…?」
俯きすぎた顔を上に上げると、暗い世界のはずなのにオレンジ色の夕陽の光が逆行となり相手が陰となって見える。相手には声が届いたのかないのか解らないが僕の方を振り返り、よくは見えなかったが確かに何か企んでいるような笑いをしていた。
「さ〜て、アナタ。もう帰る時間ダヨ」

 帰る時間…? 出来れば帰りたいけど、帰り方が解らないのですが…。
 そのときはどうしたらよいでしょうか?

「あの、帰る時間って…?」
僕は少し疑問に思いそっと相手の近くに行きながら問いかけてみる。
幼女はさも、それが当たり前のことのように
「…ふぇ? 帰るって‥、帰るんだヨ。アナタの世界にんにく」
「僕の世界に…、ですか…?」
今もなにやら頭の中が追いつけない中、目を丸くして僕は幼女の言う言葉に耳を傾ける。
「そうだヨ。それ以外、帰るところなんてあるアル大辞典?」
言いかけながら幼女は僕に近づき、顔を顰める。
「てか、もう時間がないから。ほら、さっさと帰った帰った」
そのまま僕はぐっと背中を押されて相手に動かされるがままにたどり着いたのは神社でよく見かける鳥居。
「……ぇ、…ぁの…?」

 ここって神社なの? ていうことは、ここは風上神社…??

などと、考え込んでいたのもつかの間。
「それじゃ、バイバイ。……」
ふいに僕は幼女の言葉に振り返ってみた。
すると、自分の目の前には大きなハリセンを構えている幼女の姿が映った。
「‥ て、ぇ? ‥‥君、なにやってるんですかっ!? ちょっ‥」
言葉を言い切る前に幼女は自分の身体の数倍もの大きさのハリセンを思い切り振り始める。勢いよく振り下ろされたハリセンは見事、僕の頭部に命中。
ふっと目の前が暗くなる瞬間、幼女は僕に向かってなにやら呟いている。

「…それじゃ、………し、……」

僅かにだったが、わずかに聞こえたその声は確かにあの幼女のものだった。

2006/07/24(Mon)11:01:08 公開 / 南子並
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