『ザ・テレパシー第一章』 ... ジャンル:ファンタジー ショート*2
作者:夏冬春秋                

     あらすじ・作品紹介
相手のココロを読めるハナは知りたくない事まで知ってしまい、人と接するのが恐くなってしまっていた。人が隠している本当のキモチや悪い計画。普段は笑っている友達がハナに言う悪口も聞こえてきてしまう。気味悪がられ自分の殻にこもったハナは次第に無視されていった。ある日、ハナは自分の心に語りかけてくる声を聞いた。そして自分と同じ能力を持つ中学生と出会うのだった…。

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 空の青は深い色合いになり
 大きかった入道雲はちぎれてそらにちらばる。
 夏休みのおわり―秋がしずかにやってくるこの頃

 桜ヶ丘小学校では新学期が始まりました。
 私、佐々木華は五年生です。今日から新学期なので早起きしました。顔を洗って歯を磨いて。朝ごはんは私の好物の目玉焼きトーストでした。いつか映画で見たように、パンにのせためだまやきをずるっとすってたべるのがすきなのです。でも、今日はなんだかあまり嬉しい気持ちになりません。今日から学校へ行かなければならないからです。
 私は夏休みの間はほとんど山にあるおばあちゃんの家で過ごしました。山はほんとにきれいで、暑くて、気持ちが良いのです。山の緑は濃くて川はほんとうに冷たく、毎日虫をとったり、木に登ったり、やまびこをしたりでした。おばあちゃんはとてもやさしくて一緒に古い歌をうたったりしましたがたいていは一人で遊びました。山の子供たちとは遊びませんでした。ともだちができなかったのです。
 実は私は特別な力があります。 
 相手がなにも言わなくても、相手の考えている事が心に伝わってくるのです。たとえ、相手の気持ちをしりたいと思わなかったとしても。
 その能力に気付いても最初は楽しかったのです。友達の誕生日にはほしがっているどんぴしゃのものをあげられましたし、人の気持ちを当てるなんて、皆から珍しがられ、尊敬されて人気者だった時期もありました。
 でも、次第に、友達の思っている悪いことが見えてきてしまったのです。ねたみや憤怒、恐れやなやみも全部が全部分かってしまうのです。
 そして四年生の春のことでした。その時、私にはミクというともだちがいました。ミクは同じクラスの翔太君に恋をしていました。悪いことに、私も翔太君がスキだったのです。もちろん、翔太君のキモチは読むことが出来ました。翔太君はミクが好きでした。
 私はなんとかミクと翔太君を一緒にさせないようにと必死でした。でも、翔太君とミクは出席番号も近いし、家も近かったんです。おとなしい私と違って明るくかわいらしいミクに勝ち目はありませんでした。
 そして冬になるととうとうミクは翔太君にバレンタインデーのチョコレートをあげてしまいました。ミクはチョコと一緒にカードを贈りました。『ずっと前から好きでした。』と書かれたカードを。
 翔太君はホワイトデーに、言いたいことがあるから来て、とミクを呼び出しました。ミクは恥ずかしがって、翔太君から直接返事がきけなかったので私に代わりに聞いてきてとたのみました。翔太君はミクが好きだとはっきり言いました。私は泣きそうでした。そして返事もせずに帰ってきました。
 ミクは目を輝かせて待っていました。そんなミクを見ると悔しさがこみ上げてきました。翔太君からのお返しのキャンデーをかくし、私はミクに、翔太君は他に好きな女のこがいる、とうそをつきました。ミクがどんなにショックを受けたかなんて、わたしには知る由もありませんでした。嫉妬に燃え上がっていたからです。
 うそなんて、すぐにばれてしまうものです。
 翔太君とミクはめでたく付き合い始めました。周りから見ても本当に仲が良くて、かわいいカップルでした。うそがばれた私は翔太君から嫌われ、ミクには絶好を言い渡され、うそつきハナの評判はあっというまに皆まで回りました。私は惨めでした。皆に近寄ると陰口がきこえてきてしまいます。軽蔑の気持ちやなるべく話しかけないようにしたいという気持ちは、楽しいあかるい気持ちよりも強く私に伝わってきます。教室の席に座っているだけでも胸がつまってしまいます。その事件を忘れてくるとだんだん、皆は私のことを人の気持ちを盗み見る気味の悪いやつとして認識しだしました。先生までがこまった愛想笑いのような目で私を見るようになりました。私もあまり人としゃべらなくなりました。

 

2006/04/29(Sat)19:32:27 公開 / 夏冬春秋
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