『プラン11フロムアウタースペース』 ... ジャンル:お笑い SF
作者:犬神                

     あらすじ・作品紹介
感動のSF超大作

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 春といえば桜、桜といえば花見、花見といえば日本酒である。
 僕らは満開に咲き誇る桜を前に、梅美人という銘柄の、爽やかな香りのするやや辛口の日本酒を飲んでいた。僕らは少しばかり飲みすぎていて、皆ろれつが回っておらず、お互いにまったくかみ合っていない話を大声でしながら笑っていた。
 空には月が出ていたが、それは暗い雲に覆われ、あたりはひどい暗闇に包まれていて、そのうえ春とは思えない寒風が吹いていたが、僕らは少しも気にすることなく騒いでいた。まったく酒の力というものは偉大だ。
 周りには僕ら以外に誰もいなくて、僕らの笑い声だけが響いていたが、それは突然すさまじい地響きによってかき消された。
グレイはその音を聞くと「ついに来たか」と言いながら立ち上がり、僕らもふらつきながらもなんとか立ち上がった。そうしてそれぞれ武器を構えると一斉に奴らに向かっていった。
 さて、どうしてこんなことになっているかと言うと少しばかり説明をしなければならないだろう。事の発端は僕らがグレイと出会ったことから始まる。

 その日も僕らは飲んでいた。僕らというのはつまり、僕と山口と河野のことだ。その日は誰かの誕生日祝いだったかもしれないが、よく覚えていない。僕らにとって重要なことはそいつの誕生日を祝うことではなく、酒を飲んでバカみたいに騒ぐことだったからだ。
 僕らは居酒屋で軟骨のから揚げや、チーズカリカリや、カキフライを食べ、そしてカルーアミルクを飲んだ。僕らはガチャピンの身体能力について白熱した議論を交わした。そしてガチャピンの身体能力の高さの秘密は彼の手のイボイボ――エネルギーボールというらしい――にあると山口が熱く語ったところで、続きは僕の部屋ですることになった。
 僕らは僕の住んでいるアパート――音霧荘という――に向かう途中でコンビニにより、缶チューハイと、スナック菓子と、人類の偉大なる発明の一つであるタコわさびを買った。
 アパートに着き、ドアのノブに手をかけたが鍵が掛かっていない。僕は確かに鍵を掛けた覚えがあったので不審に思ったが、お酒の入っている僕らは構わずに入っていった。まったく酒の力は偉大である。お酒が入った僕らにはたとえ神といえども僕らには勝てはしまいという妙な自信があり、ましてや泥棒など瞬きするよりも早く、指先一つでダウンさせることができる気がした。
 中に入ると居間のほうからテレビの音が聞こえた。確かに誰かがいる。僕らは台所に買い物袋を置くとおそるおそる居間の引き戸を開けた。
 テレビには僕が昨日借りてきた「プラン9フロムアウタースペース」という絶望的につまらない映画が映っていた。内容は宇宙人が攻めてきて自らの科学力をアピールするために、なぜか墓荒らしをして死体をよみがえらせるといったものだった。
この映画はビデオ盤に「ザ・ワーストムービー・オブ・オールタイム」というサブタイトルが入っており、僕はあんまりツマラナさすぎて逆に面白いかもしれないぞ、と淡く切ない期待を抱きながら借りたわけだが、その期待は見事に裏切られ本当に最悪だった。
 僕はその映画を見ながら腹が立つより死にたくなり、五回ほど人生について考えさせられ、見終わった後には、人というものはこれほどつまらない映画をつくれるのだと別の意味で感動した。
今日僕が山口と河野をアパートに誘ったのも、この映画を見せるためというのが理由の一つだった。もちろん嫌がらせで。
 そしてその映画を楽しそうに見ながら、さけるチーズ(しかもスモーク味だ)を片手にビールを飲んでいる奇妙な生物がいた。
 異常にでかい頭部に、黒目だけの大きな眼、体毛のないひどく青白い体、それはよくオカルト雑誌の「ムー」などで見かけるようなグレイというタイプの宇宙人の姿をしていた。
 そしてグレイは僕らの方を向くと右手で自分の胸の辺りをトントンと叩きながら、「ワレワレハ宇宙人ダ」と震えた声で言った。
 僕はピコピコハンマーで脳天をブチ破られたかのようなひどい衝撃を受けた。なにせ本物の宇宙人(らしきもの)がいわゆる宇宙人喋りをしたのである(しかも上手い)。僕はこの宇宙人喋りの元ネタが、我らが東宝特撮映画「地球防衛軍」からきていて、俳優の土屋嘉男が考えたということも知っていたし、伊藤家の食卓でもそう言っていた。
 そう、宇宙人喋りは言うまでもなく地球人が考えたものなのである。だから本物の宇宙人が宇宙人喋りなどしないはずだ。それがいったいなぜ? 僕の脳髄の中をさまざまな考えがグルリグルリと駆け巡った。
 ひょっとしたらこのグレイは宇宙人などではなくて、ちょっと変わった地球人なのかもしれないぞ。だから宇宙人喋りを知っているのだ。きぐるみを着ているのかもしれない。それともよく訓練された新種のサルだろうか? いやいや裏をかいて土屋嘉男が宇宙人なのでは? こいつは新発見だ! 今度「ムー」に投稿しよう。っていうか何で一人しかいないのにワレワレハとかいうのだろうかこのグレイは? きっと故郷ではいじめられて友達がいないのだろう。なんて可哀想なやつなのだ。僕がそんなことを考えていると、
「はじめまして、地球のみなさん。私の名はエドワード・クリストファー・フィリップ・セイヤー三世。見てのとおりM81星雲からやってきた宇宙人です」
とグレイが流暢な日本語で言った。お前、普通に喋れるじゃんか。まあ、言葉が通じるなら話は早い。
「ふむ、それでそのエドワード……えっと、めんどくさいからグレイでいいかい? 地の文でもそう呼んでるし。さて、グレイ君はいかなる理由があって、我が聖域(サンクチュアリ)に無断で侵入し、あまつさえ僕の貴重な栄養源であるさけるチーズ(スモーク味)を喰らい、そんなくだらない映画を嬉々として楽しんでいるのだね?」
僕はグレイに向かってそう言い放った。
「申し訳ありません。これには深いわけがあったのです。単刀直入に言います。今あなた方が住んでいるこの町は悪の宇宙人に狙われているのです!」
「なっ、なんだってー!」
 僕らはその衝撃的な発言に思わず一斉に叫んでしまった。グレイはなおもさけるチーズをむさぼりながら話を続ける。
「実はですね。私の星に収容されていたポンエウスという犯罪者が脱走してしまったのです。彼は以前宇宙征服をたくらんだこともある恐ろしい男です。そしてそいつがターゲットに選んだのがこの地球であり、あなた方の町なのです。私は彼を追ってきた警察官です」
「それでそのポンエウスはどこに?」
山口がタコわさびをつまみながら聞いた。
「はい。私の調査によると三丁目にある公園にいるようです。ほら、あの公民館の近くの。彼はあるおそろしい計画を立てていてそれを実行するのがどうやら今日らしいのです。それで実はですね、ポンエウスを倒すのにあなた方も協力してほしいのです!」
「なっ、なんだってー!」
僕らはまた一斉に叫んだ。
「本当は何人かでやるのですが、私は友達がいなくて……。あっ、武器ならあります。銃と剣とカイザーナックルが」
「そんな、いきなりそんなこと言われても」と僕は躊躇したが、河野と山口はすでに武器を構えてやる気満々だ。やれやれ、と僕は言い結局グレイの手伝いをすることになった。

 僕らは公園に行き、花見をしている人たちをグレイの持ってきた人間が嫌がる超音波を出す機械によって追い払い、花見をしながらポンエウスを待つことにした。
 日本酒を飲みながらしばらく騒いでいると、突然凄まじい地響きがした。見ると桜の樹が動いているではないか! しかも幹のあたりには顔まである。それを見てグレイは、
「あれがポンエウスの恐ろしい計画です。彼はこっそりと桜の樹を自分がつくった桜そっくりのモンスター・ラクサと取替え、花見でうかれている地球人たちを脅かそうとしていたのです!」
 ラクサたちはその枝そっくりの触手をうならせながら僕らに向かってくる。
「さあ、みなさん戦闘開始です。作戦名『いのちだいじに』!」
 グレイのその言葉を合図に僕らは武器を構え――僕はカイザーナックル、山口が銃、河野が剣だ。ちなみにグレイは斧を装備している――ラクサに向かっていった。
 僕に向かって無数の触手が左右上下から襲ってくる、それを紙一重でかわしながら一気に飛び込む。左足を大きく踏み込み、膝、腰、肩を回転させ、その勢いを右拳に伝え、思いっきりラクサの顔めがけて叩き込んだ。
 ラクサはひでぶっと叫びながらシューっと溶けていった。横を見ると山口がすさまじい早撃ちでラクサに的確に弾丸をうちこんでいる。
「やるね、腕は落ちてないみたいだな」
「フフ、俺を誰だと思っているんだ。尼崎の早撃ち山ちゃんとは俺のことさ」
会話をしながらも僕と山口はラクサを倒していく。河野もがんばっている。
 まあ、そんな感じで僕らは次々とラクサを倒していったが面倒なので戦闘シーンは少し中略する。そしてめでたくラクサを全滅させた。
 しかし、なんと突然あらわれたポンエウスによって倒されたはずのラクサ達が合体し一つの巨大なラクサになったのだ!
 巨大なラクサには僕らの攻撃が全く通じなかった。まずグレイがやられ、河野がやられた。僕は河野のもとにかけよる。
「大丈夫か、河野! 河野恵子! 近くの大学に通う十九歳、乙女座の少しサドっ気のある小柄の女の子! チャームポイントはくりくりとした大きな瞳!」
 河野が弱々しい声で言う。
「フフ、読者のみんなに紹介してくれてありがとう! でもまさか自分の最初のセリフが最後のセリフになっちまうとはね……ガクッ」
 そのまま河野は意識を失ってしまった。すまない河野……けっして作者が忘れていたわけじゃないんだ。安らかに眠ってくれ。
 次に山口がやられた。
「ジーザス。俺もヤキがまわっちまったもんだな。尼崎のビリー・ザ・山ちゃんと呼ばれたこの俺が……ガクッ」
 山口……お前の死は無駄にしないぞ。死んでないけど。
 僕は右拳を思いっきり握り締めた。そして巨大ラクサに向かって走る。そしてその馬鹿でかい顔に叩き付ける、
「これが河野のぶん!」
そのままもう一撃。
「これが山口のぶん!」
そして最後に思いっきり力をこめて、
「これが俺のぶんだ! 必殺! ギャラクティカマグ○ム!」
まあ、そんなわけでこうして僕らの戦いは終わった。
 そして、グレイはポンエウスをめでたく逮捕し、そのお礼として僕らにタコわさび一年分をプレゼントし、お礼をいってどこかに行ってしまった。
 僕と山口と河野はそのあと、僕のアパートにいき、「プラン9フロムアウタースペース」を見ながらビールを飲んでそのまま寝た。
 そして目覚めるとすでに昼になっていた。するとポンパーンとチャイムが鳴ったので、ドアを開けるとグレイが立っていた。
「いやあ、実は宇宙船がこわれちゃって。宇宙船を修理するまでしばらくお世話になります」
 そういうわけで僕の部屋には宇宙人が住んでいる。

2006/04/11(Tue)07:59:18 公開 / 犬神
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■作者からのメッセージ
途中からやる気がなくなりましたが、友人にはその力の抜けてるところの方が良いと言われました。

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