『Cyclone curve』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:とっしー                

     あらすじ・作品紹介
女性選手を主人公にした野球モノ小説です。実況パワフルプロ野球系統になると思います。

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 「4番、ショート小田切」
 ウグイス嬢のコールとともに威風堂々と左バッターボックスに向かって歩み寄る。
 最後のユニフォーム姿だと押し寄せたファンたちの歓声が響く。そして、バットを寝かせる。彼特有のバッティングフォーム「ハリケーン」。
 相手のピッチャーはエース美濃。彼のウィニングショットは、驚異的なノビそして、スローカーブのようにおおきく曲がる「サイクロンカーブ」だ。
 小田切は、バットを肩に乗せ力を抜くために深呼吸する。この打席がプロ野球生活最後の打席。そして、相手の美濃も最後のマウンドに立っている。小田切は、美濃の女房役、清水にこう言った。
 「美濃には悪いけど、この打席デカイの狙ってるからな」
 微笑してピッチャーを見つめた。美濃もブツブツと呟いている。
 「悪いけど三球三振だ」
 お互い微笑みあった。観客は息を呑んだ。清水がサインを出し、美濃がセットポジションに入った。
 足を上げる。それと同時に小田切が構える。足を後ろにけって投球モーションに入った。そして、真横からリリース。それと同時に小田切も足を上げ、一本足打法の体制をとった。
 うねりをあげてせまってくるボールに小田切がバットを出した。

−Cyclone curve 「継承者」−
 
 引退してはや10年。プロ野球は、合併や改革やらで大きく変わってしまった。
 美濃は今、マウンドに立っている。自分の母校のマウンドだ。相手は、小田切ではない。自分の弟子だった。美濃は昔と変わらないサイドハンドのフォームでモーションに入る。左打席に立っている弟子もバットを構える。
 
 相手は女−
 
 そんなムダなコトを考えるなと力いっぱいあの「サイクロンカーブ」を放った。
 「きゃぁっ!?」
 バットが風をきる。いい音だ。美濃は笑顔だった。あのときと同じ。彼女ならこの球をマスターできるかもしれない。そう考えていた。
 「やっぱり、打席でみると全然違うなぁ…」
 彼女は難しい顔をして打席に戻った。そして、バットを構える。小田切と同じ左打者。
 「勝負だ小田切」
 美濃は、昔を思い出している。あの血が騒ぐような名勝負を思い出している。キャッチャーは、インハイのサイクロンカーブを注文した。
 だが、美濃は真っ直ぐを放った。鋭い打球がセンターを襲った。彼女は、ツーベースヒットを放った。
 「ははは…。さすが、エースだな」
 「エースだな、じゃないですよ!サイクロン要求したじゃないですか!」
 キャッチャーが監督の美濃に向かって叫んだ。
 「スマンスマン!次は、しっかり投げるからな!佐藤!よ〜く見とけよ!お前はこの球の継承者なんだからな!」
 「はいっ」
 佐藤 美由紀(さとう みゆき)17歳。彼女のポジションはピッチャー。美濃と同じサイドハンドだが、左利きだ。そこだけ美濃と違う点がある。速球は、平凡だが、鋭くキレるスライダーとカーブを武器としている。
 キャッチャーは、ど真ん中サイクロンカーブを要求した。美濃はうなずいてモーションに入った。そして、リリースした。
 「うわっ!?」
 バットは風を切った。これもまたいい音だった。そして美濃は満足そうにマウンドを降りた。
 キャッチャーの中島が笑顔で美濃に駆け寄った。そして肩をポンと叩いた。
 「ナイスピッチングでした!サイクロンも健在ですね」
 「そうか。そいつぁよかった。中島、佐藤にマウンドに上がるように言ってこい。オレが打つから。サイクロンの完成度、見たいしな」
 「はいっ」
 中島は彼女の元へ駆け寄った。そして笑顔で伝えた後、ホームへ小走りで戻った。
 「センパイ!とりあえず、サイクロン投げてください!」
 「おっけぃ!」
 彼女は笑顔でモーションに入る。そして、サイクロンカーブを放った。
 「っと」
 中島が、身体を使わないと取れないほどの変化だった。これには、さすがの美濃も驚いた。
 「こいつぁ、スゴイな。教えがいがあったってもんよ」
 中島は佐藤へボールを返した。そして美濃が右バッターボックスへ入った。
 「さぁ、どこに来る」
 美濃はわくわくしていた。自分の球が見れる。もしかしたら自分以上かも知れない。そう思ってバットを構えた。伝説の振り子打法。
 美濃はピッチングだけでなく打撃も一流だった。その自慢の振り子打法で毎年打率3割以上を保持していた。
 中島がサインを出した。そして佐藤がうなずく。モーションに入る。美濃が足を上げた。
 「えっ!?」
 美濃のバットが空を切った。サイクロンカーブは、鋭く落ちた。完成している。美濃はおどろいてしりもちをついた。
 「てて…スゴイじゃないか。毎日居残りで練習したかいがあったな」
 「えぇ…」
 そして、佐藤はマウンドを笑顔で降りた。

第一話 −練習試合 対聖協学園

 「明日は、練習試合だ!用意しとけよ!」
 「はいっ!」
 グラウンドの一角に選手を集めて美濃が宣言した。そして、キャッチャーの中島が美濃にこう言った。
 「対戦相手ってどこなんスか?」
 「聖協学園だ」
 「聖協…?」 
 聖協学園とはキリスト教に熱心に取り組んでいて、野球部も都内の大会でベスト10にランクインしている。特にエースの中村 彰浩(なかむら あきひろ)は、超大型投手で身長は2m近くある。右のオーバースローで、快速球を放ることで有名。
 「どうした中島?」
 「ってことは、佐藤センパイが先発…なんですか?」
 「サイクロンカーブデビュー戦ってなわけだ」
 「えぇ!?そんな、いきなり実践で使えるほどじゃ…」
 「案外、いけるかも知れないぞ」
 中島は、難しい顔をして監督に訴えた。
 「超高校級のピッチャーと、長距離砲相手にどうしろってんですか!?」
 「大丈夫だ。しっかり作戦は練ってある」
 「大丈夫って、そんな…」
 「大丈夫だよ中島。アタシもそろそろ実践で使ってみたいって思ってたところだし」
 「センパイ…」
 佐藤が、軽く中島の肩を叩いて微笑んだ。そして更衣室へ歩いていった。
 中島は悩んでいた。夏の大会前で、データーがない中、どうやってリードしたらいいのかを。そして、どう攻めたらいいのだろうかと。
 そして、翌日。いよいよ試合の日がやってきた。聖協学園はエースと長距離砲をベンチにおいていた。温存作戦だ。もし何かあったときに交代させるに違いない。中島はずっと気にしていた。
 「佐藤さん!ちょっといいですか?」
 「どうした、中島」
 佐藤が中島の所へ駆け寄った。そして中島が暗い顔でこう言った。
 「ひょっとしたらですけど、あの二人たぶん、交代要員だと思うんです。本来ならこんな弱小高校との練習試合に呼ぶはずがないんですが…」
 「心配すんなって。アタシがきっちり抑えるから、中島はさ、後ろにそらさないことだけ考えてればいいよ」
 美濃率いる、西京高校は万年一回戦負けの記録を持っている。こんな名門が、主力選手を出すほどの相手ではないが、今回はベンチに主力選手が二人いた。
 「さぁ、皆いくよっ!」
 「おうっ!」
 3年生の佐藤たちが引っ張る、西京高校。美濃は、ベンチにどっしりと座っている。先攻は聖協学園。一番は1年生で遊撃手の渡辺。中島は、遊び半分でサイクロンカーブを注文してみた。
 「うわっ!?」
 右打者のためか、サイクロンカーブが食い込んでくるような感覚だった。
 「ストライク!」
 バッターは、立ち上がり、バットを構えた。中島の要求したのは、インコース低めのスライダー。佐藤は、それにうなずき放った。鋭くきれるスライダーにバッターはまた尻もちをついた。

続く

2005/12/18(Sun)20:56:29 公開 / とっしー
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■作者からのメッセージ
どうでしょうか?
楽しんでいただけたらうれしいです。

スポーツものが好きな方にはオススメですねw
では失礼します。

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