『風の旅人』 ... ジャンル:異世界 ショート*2
作者:東西南北                

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「風の旅人ー01まがいもの」


あなたは、あなたです。
しかし、あなたではない、あなたがいたら、あなたはどうしますか?


1「黒色」

一歩、一歩、歩くごとに、石に生えた鱗(こけ)がキュッキュと鳴り響く。あたり全体は、大きな木々が埋め尽くし、木々の間から、木漏れ日が男の顔に照り付けた。
男は名は松野勇平。職業は薬剤師。歳は25歳。村々に、薬を売るために今日も旅をしている最中だった。
「たしか、この辺だったような…」
松野は頼りない表情で、辺りを見つめる。しかし、辺りは木々があるだけで、景色は一向に変わる気配は無い。
「はぁ」とため息を吐く。
そして、鱗が生えている石の上へ、腰掛けた。そして、背負っている薬の入った大きなバックを地面に置く。

「どこで、道、間違えちまったかなー」
松野はそう呟くと、持ってきたバックの中から携帯食料を取り出す。成分は栄養効果満点の野菜と、たんぱく質が少量はいっている。味は一言で言うとまずい。青汁の中に、ちぎった食パンを入れたような味がする。それでも、栄養を得ることができるし、なにより空腹を耐えることのできるので、しばし、食べることにした。

あれこれ、3日、松野はこの森をさまよっていた。山のふもとにあるこの森は、別名、迷いの森とも言われている。とある町であった商人からは、「地図どうりに行けば大丈夫」といわれて、この森の中へ入ったのだが、やはり迷ってしまった。

携帯食料は底を着く。
あと、もって今日ぐらいか…。と松野は再び、ため息をつく。

「あなた、迷ってますね?」

後ろから声が聞え、松野は振り返る。そこにいたのは、白色の長い髪をした綺麗な女性だった。鼻が高く、まぶたがパチリと大きく開いている。ただ、不可解なのは体に黒色が見当たらないことだった。ホクロは無く、瞳の色も黒ではなく青色になっている。
一瞬、松野は外人だと思った。

「どこの国の人っすか?」
と松野は聞く。すると女性は大声で笑い、松野にこういった。
「何を言う。わたしはこの国のものです」
女性はそういう。
「まあ、話は変わるが、分かるように、今、迷ってんだ。隣村まで、行かなきゃいけないんだが…。あんた行き方、知ってるか?」
「あなたに教えても、また迷うでしょう。今日は、私の家へおいでなさってください」
「かたじけねえな」
「一泊、15000円ですけどね」
「金取るきかよ」
「あら、不満かしら。なんなら、迷い続けなさい」
「分かったよ」

松野はポケットの中から、財布を取り出し、お金を女性に渡す。女性は「ありがとうございました」と笑顔で松野に言った。

「でわ、私の後へ着いてきてください」

女性はそう言うと、松野はバックを持ち、女性の歩く後を続く。
山を登り、くだり、そしてまた上る。かなり遠くに、女性の住む場所があるらしい。
そして、お目当ての女性の家が見えた。

「おい。こんな、豚小屋に泊まるのに15000円も出したのかよ」

松野はそう呟く。

「なんなら、また迷いますか?」

女性はそう松野に言った。
女性の家は相当古く、築70年はくだらないと、松野は見た。それもまた、一回も改築していないらしく、今にも壊れそうだった。

「今、帰りましたよ!!」

と女性は大声で叫んだ。すると、家の中から亭主と思われる男性と、その3歳ほどの息子が家の中から現れた。亭主は、いたって、普通の松野と同じ年ぐらいの、顔つきをしている。

「そちらは、どちらさんですか?」

と、亭主は言った。
松野はそう言うと、亭主は家族紹介をし始めた。

「薬剤師さんですか。私は金山 和輝と言うものです。で、そちらの女性が家の奥さんの、あやめと言います。あと、この子が家の息子の輝です」

そう言うと、家族は礼をする。それに従い、松野も礼をした。

「なんで、こんな土地に住んでいるんですか?」

と丁寧な言葉を使い、松野は亭主に聞いた。

「いや、私は墨を作る商人の家系でして、私が12代目なんです。この辺りの、木々がすばらしいものですから、いい墨がつくれるんです」

亭主はそう言うと、松野を家の中へ案内した。



2005/12/17(Sat)23:06:31 公開 / 東西南北
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