『そこにいるのは別の住人』 ... ジャンル:リアル・現代 ファンタジー
作者:探し者                

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 悪魔それは何だろう?

   人の心が生み出した幻想?

     恐怖の具体化?

      不安の幻覚?

 いや、違う。悪魔は存在する。
 何故ならオレは出会ったのだから………

 出会ってはいけなかった、平穏を保ちたいのなら。
 出会わなければいけなかった、世界を維持したいのなら。

『オレは……正常だ』そう、自分に言い聞かせる。




【そこにいるのは別の住人】−プロローグ−




 オレは夢を見ている。何故ならこれは現実にはありえないからだ。
 暗い空間にオレ一人だけが存在している。これが現実だと俺は信じない。
 草も木も空も地面も空気すらも存在しない空間だ。これは世界ではない。
 オレそこで何をしているのか……【全てを否定している】
 そして目の前に何かが居る事を肌に感じた。

『榊 真弥、お前は今日の夜、22時37分12秒に死ぬ。これは運命、変えることは出来ない』

 そんな事急に言われても信じることは出来ない。
「信じる筈ないだろ。誰が律儀に俺の死を予言しているんだよ?」
 夢だ、これは夢の中で起きている現象を受け入れなければいいだけだ。言葉の主に言い返すが返事は冷たい。

『その小さな頭脳で考えろ!自分が凡才でない事を!自分が並外れた体力を持っている事を!その目に少しの赤みが帯びている事を!自分が■■である事を!』

 オレは――――

     シラナイ
  シラナイ

     知無

    知らない!



/01

「真弥、早く起きなさい」
 先ほどとはうって変わって現実味のある声が耳から脳へと伝わる。
 それは母さんの声だと認識して朝だと言うことも認識する。
 仕事が忙しくて普段は家にいない母だけど昨日、帰ってきたと思いだす。
 眠い体に渇を入れながら身体を起こす。
「……おはよ」
「はい、おはよう」
 母さんは容赦なくカーテンを開けて日差しを部屋に入れた。
 その日差しのお陰でだんだん目が覚めてくる。
 ああ、そういえば今日もテストだ、と。
 遅くまでテスト勉強をしていた所為か、夢の所為かは分からないが体の動きの鈍さを感じる。
「昨日も言ったけど今日から一週間仕事で出かけるから後の事よろしくね」
 そういえば昨日言っていた気がする。多忙な母さんには良くある事だった。ちなみに何の仕事をしているかは知らなかったりする。
 一週間で帰ってくるならば早いほうかもしれない。だから俺は殆ど1人暮らしな気分で毎日を過ごしていた。
 そして、母さんは腰まである長い髪を動かしながら部屋のドアまで歩く。
 母さんはもう出て行くみたいだ。
「……ん、いってらっしゃい」
「行ってくるから。私が留守の間、気をつけてね」

 そして母さんは仕事に出かけた。
 俺もそろそろ行かなきゃ間に合わないと思いながら立ち上がる。
 寝ぼけながらも顔を洗い、歯を洗い寝癖を直したりしていたら時間が危うくなっていた。
「テストに遅刻ってやばいよな…」
 そして朝飯を食うことなく家を出た。
 無念、母さんの用意した朝食……
 テーブルの上に置いてあるトーストを残念に思いながらリビングを出る。
「いってきます!」
 俺は誰も居ない家に挨拶をして家を飛び出した。



/02

 最後のチャイムと共にやっと二学期最後のテストが終わった。
 これでやっと解放された……
 勉強が嫌いな俺にとっては至福のひと時だった。
 だからテストの結果については忘れる事にしよう。現実を離れることも必要だと自分に言い聞かせる。
 幸福感と焦燥感に浸りながらクラスを見渡していると俺の親友が近寄ってくる。
「よう、真弥。テストどうだった?」
 今、声を掛けてきた男の名前は杉並 宗。
 寺の息子でありながら茶の髪、長髪、というらしくない概観をしている。他には制服のボタンをとめないとか、好きな音楽はロックだとか、細かく言えば他にも色々あったりする。
 真面目な者が多いこの学校では黒を推薦しているが教師も何も言わないので宗だけが浮いた存在となっている。教師は何も言ってはこないがチェックしているのは間違いないだろう。
 そんな宗の事を親友と思っている。そして向こうも同じことを思っているだろう、小さい頃に知り合ってから何をするにも一緒だったからだ。
「まあ、いつも通りかな。そっちは余裕そうだね」
 昔から一緒にいた幼馴染だ、だから分かっている、こんな完璧な人間にも欠点があると言うことを―――――!
 その欠点を宗は腕を組みながら発揮する。
「誰かとは頭の出来が違うからね」
 口が悪いよ……その毒舌で俺のハートをどれだけ傷つけた事か……
 思ったと事は躊躇わずに言う。
 お世辞なんて言っているのを見たことはない。その口の悪さで俺を含めた他人を傷つけるのはよくあることだ。
 しかしそれが事実なので言い返すことも難しい。ちなみに俺は宗と口喧嘩で一度も勝ったことがない。というか勝てる気がしない。
 それが理由か別に理由があるのか宗に近づく人はあまりいなくなっていった。
 一匹狼そんな言葉が似合うかもしれない。
 本来一人を好む性分なのだろう、だけどオレだけは例外だった。
「やっと、テストが終わったんだ、遊びにいこうぜー」
 これは毎回恒例の出来事だった。宗と俺はテストが終われば直ぐに遊んで気分を変える事になっている。
 だから今回も俺は遊びに出かける誘いに乗ることにした。
「それじゃあ行こうか!」





      平穏な時間が過ぎていく……

    何も無い毎日、幸せな日々。

       危険を感じない時間。

   現実だけを見ることが出来る空間。

 今はまだ…平和がオレを包んでいる。

        時間だけが過ぎていく―――

  何も知らずに…何も見ずに……







『榊 真弥お前は――――――――――――――死ぬ――――』



『これは――――――――運命だ―――――――――』



『――――――――――変える事は出来ない』








/-03

 オレは嘆きの声を漏らす。
「しくじった………」
 オレともあろう者が上級使い魔の数体に隙をつかれるとは……
 もう、この霊体である体は維持できないほどに疲弊している。
 この現界では魔界と違い肉体が必要になる。世界が違うからそれぐらいの違いがあっても当然だろう。
 だが肉体を持つと言う事はあらゆるリスクを負うことになっている。
 霊体であれば現界の物に触れることは出来ない、だが肉体があれば触れることが出来るようになる。
 それに肉体を手に入れる事自体難しいだろう。
ヒトの魂ごと肉体を奪うか、魂の無い肉体を奪うか……
 そんな考え事をしながら他の事も考え始める。
 いつまでも此処に隠れている訳にもいかないし動き出そうか。使い魔に動きを悟られないように気配を消しながら行動を開始する。
 さて、この体は後何時間維持できるだろうか……
 オレには任務がある、しかしそれは数時間で達成できるほど甘くは無い。

 動き出してから二時間程が経過した。時は変わり、日暮れて夜になっていた。
 ビルの上から街を見下ろす、この街にはヒトが多いと再確認する。
 多くのヒトが行き交っている。
ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒト、ヒトの行き交う街。
 私とは違う生き物、【合いそれない生き物】そう教え込まれた。
 現界に私達魔族の生きる場所は無いと……
 そして見る限りヒトの数は多かった。

 オレは昔の言葉を思い出す。
『ヒトは増えすぎた……』
『ヒトは醜い…群れては裏切り、そして権力の世界に存在する』

 昔、父上が言っていた言葉だった。
 オレはまだヒトの事を何も知らない。本当にヒトは醜いかどうかも分からない。
 でも、どうしてこのヒトの街は明るく輝いているのだろう――――か?
 光り輝く街頭、光り輝くネオン、サイン、そして光り輝く魂……
 オレは生まれて初めて思った。

『美しい』












/04

 俺は情けない声を漏らしてしまった。
「うっっ…………」
 遊びすぎた。
 もう時間は午後の10時を過ぎている。少し遊びすぎたに違いない。
 歩く足取りも多少は重くなっていることに気づく。
 カラオケを2人で7時間程歌い続けたから喉が枯れそうだった。それにしても2人で7時間もテンションが下がらなかったのが不思議なくらいだ。
 宗と帰り道は反対なので先ほど別れたばかりだ。オレと同じく街の人も家路を急ぐ人が大抵だろう。

 交差点で信号を待っている。
 車も人も動きが止まっている。
 そして―――音すらも止まっていた……

 アレ???何だ?これれは?

 何かが可笑しい。異常な世界が目の前に広がっていた――――
 不自然な格好で止まる人、止まる空間、この場で機能している物体は無い。
 いきなりの出来事で頭の中が壊れそうだった。考える事が多すぎる
 どうしてオレだけが動いている?
 そもそもどうして動きが無くなったんだ?


 ワカラナイ。
          解らない。
     分らない。


 そして……オレはふと今日見たリアルな夢を思い出した。
 思い出してはいけないと思いながら。

『榊 真弥、お前は今日の夜、22時37分12秒に死ぬ。これは運命、変えることは出来ない』


 時計を見ると22時37分12秒きっかりだった。
 これはデジャブか?
 ちょっと上手くいき過ぎじゃね?


『口でそう言っても頭の中では理解しているだろう?オレ達の存在、自身の可能性、現界とは違う世界、全ては知っている筈だ』


 オレは何も知らない、いや、知らない筈だ。でも、この現象の説明がつかない。
 そして何も出来ずに時間が5分ぐらい経っただろう。
 そして何も聞こえない筈の空間に音が響いた。

 何かが動く音、何かの風が切れるような音。
 そして、笑う声。



『キヒャヒャヒャヒャ』
 気味の悪い笑い声、その声を聞くだけで気分が悪くなりそうだった。
 近づいてくる何かは空を飛んでいた。

 "黒い大きな羽を持って……"

 オレには何故かその異形の存在を理解出来た。
 黒を中心とした色で身を包んでいる体、細い手足に鋭い爪、黒き翼に赤く光る目、そして幻想を思わせる角。
 どれをとってもこの世界には似つかない存在。
 アレは悪魔だ。この世界に存在してはいけない。
 街を笑いながら飛び交う悪魔、こいつか空間を止めた元凶だろう。
 だからと言ってオレには何も出来ない。何かを行う術も無い。
 そしてその悪魔は声を上げる。
『バルティアン・バルィオ!何処に隠れた!』
 街と言う空間が機能していれば正常を保てなかっただろう。
 しかし、今は停止している翼を持った悪魔は叫びながら街を飛び回った。
 言葉を聞く限り誰かを探しているようだ。オレはどうすればいい?
 他の人のように動かない方がいいのか?
 それとも悪魔と和解でもすればいいのだろうか……



『そんな必要は無い。向こうがお前の存在に気づく』



 また………だ―――――

 誰かがオレの脳に直接話し掛けてくる。
 オレは正常だ、何も可笑しくない、普通の人だ。
 何故こんな事態に合わなければならないんだ!


『はっ何を言言っている!お前は正常じゃない!異常者だ!』


 くっっ―――――この声は一体何を言いたいんだ?


 そんな葛藤をしている間に、悪魔が俺の存在に反応する。
『ん?何かが動く音が聞こえるぞ?』
 その声が聞こえると同時に悪魔は方角的にオレの方に顔を向けた。
 そして、その悪魔と目が合ってしまう
 いったいどんな音が聞こえたっていうんだ!誰に向かってか分らない怒りを感じる。しかし俺は危機感を感じずにはいられない。
『貴様、ヒトか?』
 悪魔は地面に降りて一歩一歩近づいてくる。
『間違いなく、ヒトが踏み入れることの出来ない領域の筈なんだがな。もしかしてバルティアンか?』

 言葉を受けるだけで威圧感を感じる。”死”を目の前に感じる。
 悪魔を前にして生き残る事は出来ないと!
「ち、違っっ……」
 俺はその瞬間駆けた。心臓の鼓動は早くなって、極度の緊張によって大量の汗が顔を過ぎる。今の俺の判断力よりも本能の方が優秀だ。
 逃げろ!にげろ!ニゲロ!逃ゲロ!
 俺は全力で駆ける、今まで生きた中で最高の走りだっただろう。この速度なら世界記録でも狙えるかもしれないと思ったが死んでしまってはその記録も意味がなくなる。
 死にたくない!
 俺は悲鳴を上げる本能と体に鞭を打ちながら人気の少ない裏路地まで逃げた。
 どれぐらい離れた?ワカラナイ
 撒くことが出来たか?不明

 そして理解する。黒き悪魔がそこに存在しているという事を――――
『どっちでもいいや、見られたからは死んで貰おうか』
 その言葉を聞き取れたが聞きたくなかった。
 “死”という単語が含まれていたからだ。


      声ガ聞コエル――――

『分かっているだろう?無意味だ、諦めろ。そうだな…時計を見てみろ時間ピッタリだ』




 脳にまた声が聞こえる。別に従うつもりなんかなかった、しかし腕時計の目を向けてしまった。
『22時37分12秒"きっかりだろ?』
 当たり前だよな、この空間の全てが止まっているんだから。
 時計が動くはずないじゃないか、バカやろう……


『キャハハハハハハ、死ねよ』
 一突きだった。
 悪魔は細い腕を肘に辺りまで深々と差し込んだ。
 俺の心臓へと、死んだとそこで理解した、体に血が流れない。
 悪魔が腕を引き抜くと同時に大量の血が飛び散る。
 痛いと理解する暇も無かった。
 断末魔の叫びを上げる暇も無い。
 気が付けば胸に穴が空いていたのだから。
 人は死を感じると走馬灯を見ると言うがオレには見えなかった。
 悪魔は何が楽しいのかキャハハと笑いながら飛び去る。
 意識が無くなる。


『―――――――――』




 もちろん時間は22時37分12秒だった。

 オレは此処で……死んだ。




/-05

 ヒトはこんなにも脆いのかと思う。奴の軽い一突きで機能が停止するほどに脆い。
 オレとはまったく別の生き物だ。
 だがオレの霊体にも時間と言う限界が訪れる。
 別にそのヒトに同情した訳じゃない。
 自分の肉体が欲しい訳でもない。
 何故だろう……
 その儚くも切なく脆い生き物であるヒトを救いたいと思った。
 そして救うなら今しかないと思いながら。
 オレは高い建物の上から飛び降りる。
 奴は周りにももう居ない。
 それが分かっているから近づくことが出来る。
 このヒトの周りには赤い血が大量に流れていた。
 ヒトとしての機能の全てが止まっている。
 このままでは二度と動くことは出来ない。
 しかし、まだ魂は抜けていない。だからこそ生き返る事が可能。


『ヒトよ……オレの命を与えてやる。だからその肉体を貸してくれ』


 オレは最後の魔力をこの術につぎ込んだ。


『共存しよう!』








−1−


 俺は真弥と別れて自分の家路についてから数十分程の時間が経った。
 自分の中に不思議な感覚を覚えずにはいられなかった。
 なんだか不安で落ち着かない、そして親友の顔が浮かぶ。

 真弥――――――――




/01

 ………あれ?俺は何をしているんだ?
 気が付けば街の真ん中で突っ立っている。
 街には人通りは少なくなり静けさだけが支配していた。
 その静けさの所為かゆらゆらしている記憶がだんだん鮮明になってくる。

 グラリと世界が歪んだかのような眩暈、体内の血が吐き出されそうになる嘔吐感にうずくまってしまう。
 地面に膝を付いて闇を見つめる。
 そして気づいた。俺に深々と腕が刺さった事を!
 自分の胸に目をやる、だけど穴どころか制服には傷一つ血一滴もついていなかった。
 あれは何だった……?夢か?現実か?でも実際何も起きていない。
 時計を見ると23時を過ぎている。
 オレの記憶が正しければ22時37分12秒に"アレ"が来たんだ。
 黒い翼を持ち、赤き目を光らせ、ヒトとは違う体を持っている悪魔が…


   分らない。
 ワカラナイ。
   わからない。
 解からない。


 思考が―――――――複雑過ぎて悲鳴を上げる。
 無理だと本能が告げる。
 答えなど――――出ない。


『大丈夫だ、直に慣れる。今はまだ上手く繋がっていないだけだ』

…………………………………………はぁ?
 いきなり…頭の中で声が聞こえた。
 何だ、この声は?”あの時の声の主と”はまた違う声を出している。
『理解できないのは分かる。だがこれは事実だ、オレが命を助けた、そして君はオレに命を救われた。原因がオレにあるとしてもそれは事実だ』
「なっ……!」
 勿論理解なんか出来ない。理解出来なさ過ぎて俺の精神が少し壊れそうな勢いでもある。
「ちょっと待ってくれ、もう少し解るように説明してくれないか?」
 声に向かって話しかけてみる。と言っても頭の中で話しかけるのだから変な気分だ。
『わかった、順をおって説明しよう。君は一度殺されたんだ、魔界に住む悪魔に――――』
 これは……説明になっているのか?少なくとも俺に分かるように説明されていない気がする。魔界ってなんだ?悪魔は?
『魔界についての説明が必要か?』
 当然だ、と思ったが声には出さない。
「…………頼む」
『なるほど、君は”こっち”の関係者かと思ったが違うのか……』
 関係者?こっち?
『君が足に地を踏んでいる此処は現界と呼ばれている。そして他2つに分かれている、それは魔界と天界だ。そして、それぞれの世界に属する種族がある。現界は人、魔界は悪魔、天界は天使。そしてそれらの世界は”扉”によって隔てられている。オレを含む悪魔はその扉を通って現界へ来た』
 分かったような、分からないような……
 信じられないような話だが、信じざる得ない状況が俺にはある。
「まあ、大体は理解できたと思う。でも何でこの現界に悪魔がいるんだ?その扉っていうのは簡単に行き来できるようなものなのか?」
『勿論、簡単に行き来できないように工夫されている。まぁその工夫は現界の人間によるものなんだが……。そしてオレは現界である任務をする為に来た。正直に言えば君が殺された理由はオレにもある。オレを追ってきた悪魔の所為で迷惑を掛けた』
 つまり、彼は俺が殺された理由が自分にあると言っている。
「責任を感じる必要はないよ。君は俺を救ってくれたんだろ?それなら貸し借りはチャラにしようじゃないか」
 決して表情は分からないが、彼が一瞬笑顔を見せたような気がした。
 悪魔とは名ばかりで悪い奴じゃないのかもしれない。
『ありがとう。そういえばまだ名乗っていなかったな。オレはバルィオ最後の眷属、バルティアンだ。君の名も教えてくれないか?』
「俺の名前は榊 真弥だ、よろしく。バルティ……」
『オレの事は好きに呼んでくれていいぞ、シンヤ』
「ああ、バル」



 俺は今、認めた。俺は正常じゃなくなった、何故なら体の中に悪魔が住むようになったのだから。

【これは始まりに過ぎない】

【これは前座に過ぎない】

【まだ、幕は上がっていないのだから】

【これから榊 真弥は悪魔と共存する】




 あれからバルは疲れたと言って寝ている。
 お互い姿は見えないけれどなんとなくどんな常態かなら分かるようになった。
 だんだん繋がってきているのだろうと思う。
 次にバルが目覚めた時には詳しい事情を聞かせて貰おう。

「ただいま」
 そして誰もいない家に到着した。
 俺は精神的にも肉体的にも疲れていた、だから何もせずにベッドに飛び込んだ。
 何も考えずに、ただ睡眠と休息を欲して――――



/-02

 今、魔界の戦いは激化している。
 いつか存在していた平穏なんか気づけばなくなっている。何処へ行っても誰かの屍と喧騒が覆っている。
 それは対立する二つの勢力との激闘。魔王ヴィントラが指揮する東の勢力と魔女キャンベルが指揮する西の勢力。
 圧倒的武力によって魔王ヴィントラは魔女キャンベルを押さえ込もうとしていた。
 そもそも戦いの始まりなんて簡単なものだった。
 意見を受け入れたくないから、気に入らないから戦う。
 しかし、その激闘も佳境へと向かっている。そして西の勢力、魔女キャンベルが決断を下す。
 魔女キャンベルが最も信頼しているバルィオの眷族へと重要な任務が与えられた
 内容は理解するのは簡単、しかし難易度は最高の任務だ。

『"魔女王"と呼ばれた私の母さんを探してきてください』

 それは西の勢力を全滅させない為の最後の方法。魔界全土を統治していたという実績のある魔女王だからこそ必要になる。魔女キャンベルは王にはなり得ない、それを実感し思い母を頼る。それは最後の希望。
 そして希望を探す為にオレは現界へと向かった、封印されていた”扉”を無理やり開いて。
 しかし魔女王は現界にいるということ以外の情報は皆無だった。何故、魔界を離れ現界で姿を消したのか?未だに生きているという情報もない。
 これは賭けでもある。魔女王を見つけ、説得し、西の勢力を救う為の魔女キャンベルの最大の賭けはバルィオの眷属に任されているのだから。




2005/09/20(Tue)21:15:12 公開 / 探し者
■この作品の著作権は探し者さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんな駄文に感想を書いてくださりありがとうございます。
今回は世界観とかの説明で御座います。
描写というのは難しいです。描写が足りないと思いつつも何処にどんな描写を入れればいいのか分からなかったりしています(汗
皆さんからのアドバイスでなんとか上達したいとか思います。
また何か意見がありましたら感想をお願いします。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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