『終末日記……読みきり』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:名も無き小説書き                

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 七月十四日。晴れ。
 今日から僕は日記をつける。何故かといわれれば簡単で、ついにこの世に終末が訪れるからだ。だから僕は後世のため、この日記、終末日記を残そうと思い、うしてペンを執っている。
 ことの始まりは一週間前だ。この一週間というのは正確ではないので、話半分に見てもらってもかまわない。とにかく約一週間前だということさえ認識、覚えておいてくれればそれでいい。そう、約一週間前から終末は始まったのだ。
 終末といっても、映画や小説のような(この日記を見たあなたたちの世界にそんなものがあるかどうかはわからないけど)隕石が落ちてくるとか大地震が世界中いたるところでおきたとか火山の噴火が何度も起こったとか、そういうことじゃあない。全然ない。自然災害ではないし、戦争が起こって全世界中が核爆弾を明日にで発射しようとしているわけでもない。これも覚えておいてほしい。
 僕たちの身に迫っている週末とは、そのような目に見えて危険なものではなく、目に見えない危険なものなのだ。ニュースではそれを「突発的自殺症候群」と呼んでいた。
「突発的自殺症候群」。それは読んで字のごとく、突発的に自殺がしたくなるという病気のことである。肉体的な何かか、それとも精神的な何かのどちらが原因なのかはいまだ判断できていないらしいが、そんなある種の病気が蔓延しているというのだそうだ。
 最近、世界中で自殺者が急増していると、ニュースが告げていた。首吊り投身飛び降り服毒手首切り焼身感電エトセトラ。自殺者はここ数日で増えて増えて増えて増えて増えて、ついに全世界で五千万人を突破した。このペースで自殺者が増え続ければ、恐らく一ヵ月後にはのべ五億か十億人が自殺することになるという。
 現在時刻は十一時。宿題もあるし、そろそろ眠くなってきたので、本日はここまで。



 七月十五日。曇り。
 また今日も自殺者が出た。しかも近所で。自殺したのは同じマンションに住むおばさんらしく、どうやらおばさんもあの症候群にかかってしまったようだった。
 学校はない。行く気も行く必要もない。自分が明日にでも死ぬかもしれないのに、学校に行くやつなんていないのだ。大体生徒も教師も死にすぎていて、授業なんか出来るわけがない。僕のクラスに「自殺症候群」にかかって死んだやつは八人いて、まだ二桁に達していないものの、上級生の学年には十五人死んだクラスもあるらしいし、教師だって三分の一から半分くらいが自殺してしまった。繰り返すが、授業になるわけがない。それは別段僕の学校が、というわけではなく、全国の学校どこでも起こっている。今日も明日も学校に行かなくていいというのはいいものだ。
 インターネットで「突発性自殺症候群」について調べてみた。なんとなく、これはすでに日記ではなく報告書と化してしまっているような気もするが、まぁ保留。別にいいや。細かいことだし。
 とりあえずプリントアウトし、切り張りしてみることにする。
「『突発性自殺症候群』というのは恐らく精神性のものだと判断される、自殺した人間の体からは薬物や寄生虫、なんらかの異常が発見されなかったからだ。となるとこの症状は、世間一般によく見られる欝状態から来る自殺衝動と酷似しているものだと考えることが出来る。この症候群、世界中で起きている自殺は、他人の自殺を知ったことが引き金となって今まで抑圧されていた自分の精神的負荷が発露され、それによって連鎖し生じていく自殺、全く新たな自殺だと考えることが出来るだろう」
 インターネットのあるサイトでは、こんな風に報じていた。新聞社のホームページ内の、どうやら高名な大学教授の話らしい。そう考えると、なるほど、信憑性がある。
 精神的負荷の発露。ならば僕は大丈夫かもしれない。



 七月十六日。曇り。
 今日は珍しく昼に日記を書いてみる。先ほど自分の幼馴染に出会い、この日記のことを話した際に、「未来の人間が私たちと同じ言葉や文字を使えるわけないじゃない」というきつい指摘の言葉をいただいた。最もな理由だったが、現代人である僕たちはかなり大昔の文字と文、漢文やら古文やら線文字Aやら甲骨文字やらを解読できることから考えれば、僕のこの日記がいつか読まれる日がくるのではないかと想い、今日も今日とて日記に文字を連ねるのだ。
 僕はもっともな理由、正当な理由だからといってこの日記を書くことをやめたりはしない。三日坊主になるのは(この言い回しも、やはり未来にこの日記を見ているあなたたちにはわからないのだろうけど)嫌だったし、あいつの言うとおりにするのはなんだか癪だった。全く、何が「でっかくなったのは体格と態度だけ」だ。お前だってでっかくなったのは胸だけじゃないか。
 愚痴を書いてしまった。とりあえず気を取り直
 今、最高に気分が悪い。この行は実は前の行を書いて空から三十分以上後に書いているのだが、その際たる原因は、前述した僕の幼馴染が自殺してしまったからだ。しかも僕の目の前で喉に包丁をつきたて、僕の腕の中で息を引き取った。死体を見るのは初めてではなかったけれど、目の前で人が死ぬのはもちろん初めてで、ましてや腕の中で息を引き取るなんて。
 僕の幼馴染は、あいつは、僕が日記を書いている最中に僕の家へと来た。別段そのこと自体は珍しいことでもなかったし、今でも月に一度はそう言うことがあったのだけれど、今日ばかりは様子が違った。そわそわしているというかなんと言うか、落ち着いていない、挙動不審だったのだ。僕にしかわからないことで、他人に見せる日記(何か可笑しい表現だけど、本当のことだ)に書くべき内容ではないのかもしれないが、いつものあいつはもっとおおらかで快活なのだ。
 あいつは僕の部屋に入るとすぐに僕に向かい合って、そしていきなり「好きだよ」と叫んで、後ろに隠していた包丁を自分の首につきたてたのだ。頚動脈が切断されたことを示す真っ赤な動脈血が喉元から噴出して、そしてあいつは絶命した。僕に倒れこみながら、僕の腕の中で。死因は失血性のショック死らしい。
 にしても今日は本当に疲れた。読んでいる人間にはわからないだろうが、この一文を書くのにさえ数十分をかけている。それくらいに疲れている。精神的にも肉体的にも疲労しきっている。日記をまだつけたいのだが、そこまで体力が持つかどうか。
 あいつはどうやら「突発性自殺症候群」にかかったらしい。幼馴染が目の前で包丁を喉に突き刺し、そして両腕の中で息を引き取ったという事実は僕の精神を蝕むには十分すぎたのかもしれない。しかも最期の言葉が、僕に向けての「好きだよ」。泣きたくなってくる。いや、実際、本当に泣いてるんだけどさ。紙が濡れて書きにくいったらありゃしない。
 泣いたら腹が減った。どうやらもう少しで夕飯のようだし、今日は残念ながらここまでにしよう。これ以上粘っても時間の無駄っぽい。
 余談だが、何故か現在、僕は頭がいたい。ちりちりと、ちくちくと、うずくような痛みが僕の頭を取り巻いている。腕が何かを探しているかのように、ほとんど無意識に動いてしまう。
 カッターナイフをつかんでしまう。
 まさか僕は「突発性自


                    了

2005/07/25(Mon)23:11:46 公開 / 名も無き小説書き
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■作者からのメッセージ
 なんとなく、こういうダークな作品を書きたくなりました。
 さて、主人公である「僕」はこれからどうなったのか……。それは皆さんの心の中にあります。カッターナイフを喉に突き刺したのか。それとも誰かが止めにきてくれたのか。もしかすると自分の力と理性で生き延び、夕飯を食べに行ったのかもしれないません。
 想像し、創造してください。この物語の本当の結末は、あなた方の思いの数だけ存在します。

とかなんとか、格好いいことを言ってみる。

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