『永久理論』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:渚                

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「…ごめん、好きな人いるから。それにはっきりいって、結構迷惑なんだよな、こういうの」
 女の子は呆然と彼を見つめた。彼は気まずそうにすることもなくあっさり彼女に背を向け、そのまま歩いていってしまった。と同時に、あたしの隣からため息が聞こえる。それが安堵からのものだとあたしは知っている。
「よかったぁー。もしOKしたらどうしようかと思っちゃった」
「よかったねー」
 嬉しそうに頷いた舞は、耳たぶまで真っ赤だった。あ、可愛いなって思う。あたしにはできない表情だ。女のあたしから見ても、なかなかできた女の子だと思う。
「ごめんね由良。つき合わせちゃって」
「いいよいいよ。さ、もどろ」
 あたしたちはそっと生垣から出た。振られた女の子は相変わらずそこに立ち尽くしている。お気の毒様、と彼女の背中にそっとつぶやいた。
「でーもさぁ。ホント、亮ってぜんっぜん告白受け取らないよね」
 制服の襟についた葉っぱを取りながら舞が言った。
「ホント、並いる美女を滅多切り。さっきのも3組の城野さんでしょ?あの子可愛いのに。亮は自分が恵まれてるってわかってないよ」
「もう、見るたんびに告白する気なくなっちゃうよ。あんなふうに言われたら立ち直れない」
「ラブラブビーム送りまくってるくせに」
 舞はくすりと笑ったが、やがて悲しそうに目を伏せた。あれ、と思って舞を覗き込む。
「舞?」
「誰なんだろ、好きな人って」
「え?あ、んー…ちょっとわかんないな」
 舞は鈍い。亮がいつも視線を送ってる相手が誰なのかなんてあたしに言わせれば一目りょう然だ。
「…いいな、その子」
 舞がかなしそうにつぶやく。あたしは舞の頭にぽんと手を置いた。
「大丈夫だって。あたしも協力するからさ」
「…うん。ありがと」
 えへへ、と舞が照れたように笑う。あたしもつられて笑い返した。裏切れないな、と思う。実は、あたしも亮のこと好きなんだ…そんなこと絶対に言えない。いや、言わない。あたしは、この可愛い親友を裏切らない。











「あ、いたいた、由良ぁ」
 あたしたちが教室に戻った途端、剛が駆け寄ってきた。上目遣いであたしを見上げ、懇願するように喋る。
「頼む、数学のプリント見せて!!すっかり忘れててさぁ」
「えー。どうしよっかなぁ」
「えー、由良ぁ……」
 眼をうるうるさせて見上げてくる剛をあたしはしばらく見下ろしていたが、やがてこらえ切れずにぷっと吹き出した。剛はきょとんとした顔になる。
「あはは、うそうそ。いいよ、見せたげる」
「やったー、助かるよ」
「いえいえ。はいどーぞ」
 ノートを差し出すと剛はそれを受け取り、嬉しそうに微笑んだ。あ、可愛いなって思う。悔しいけど、こんな表情もあたしにはできない。男のくせに、その辺の女の子よりも可愛いのが剛だ。
「亮に借りようと思ってたのに亮のヤツいなくてさ」
「なんで?」
 とぼけてたずねてやる。どうしてかぐらい知ってる。今さっき、舞といっしょに彼を尾行してきたとこだ。
「告白だよ。えっと、3組の城野さんだったかな」
「まぁた美女だね」
「ホント、相変わらずモテるよ、亮は」
「剛だってもてるじゃん」
「そんなことないよ。亮みたいにしょっちゅう告られたりしないし」
 剛はありえないと笑い、あたしが渡したノートを開いた。
 呆れた。剛も鈍い。前から思ってることだけど、舞と剛は似てる。特に二人は亮のことに関しては相当鈍い。剛が全然告白されないのは亮が睨みを効かせてるからだ。剛に悪い虫がつかないように見張ってるのだ。お人よしの剛は告白されるといつもすごく困り果ててる。そんな剛のために亮は女の子たちを剛からシャットダウンしてるのだ。まあ元々特定の人以外には冷たいからあまりばれてないのかも知れない。
 亮は硬派だ。中学生以来の付き合いだからもう5年ほど一緒にいることになるが、その間に亮に告白した女の数は数知れない。だが亮が付き合った女の子はこの5年の間一人もいない。
 亮の好きな相手。5年間もの間彼が一途に思い続けている相手は、一体どんな女の子なんだろう。懸命に宿題をうつしている剛を見ながらぼんやりと考えた。
 と、あたしたちの隣にぬっと亮が現れた。あたしは思わず一歩飛びのいた。亮は剛の宿題をのぞき込み笑った。
「なんだよ、また忘れたのか?」
「遅いんだよ、お前。見せてもらおうと思ったのに」
「これ誰のだ、由良か?」
「そうだよ」
 あたしは隣から口をはさんだ。亮はあたしを見て笑った。
「悪いな、由良。こいつ面倒ばっかかけて」
「ホントよ。亮がいないせいよ。いいご身分よね、美女からの告白なんてさ」
「別に好きでされてるわけじゃないだろ」
 亮がむっとしたように言う。ああ、あたし馬鹿だ。なんでこんな憎まれ口しかいえないんだろう。険悪なムードのあたしたちの中を取り持とうと剛が口を開こうとしたときだった。
「あ、亮!!」
 舞の嬉しそうな声に顔を上げる。亮に気付いたらしい。舞はノートを抱え亮に駆け寄った。
「あのさ、昨日の宿題の3番なんだけど、どーしてもわかんないんだ。お願い、教えて!!」
「数学なら剛に聞けばいいのに。俺は文系専門だぞ」
「でも理系もわかるでしょ?」
「…しょうがないな」
 ふんわりと亮が微笑む。舞がノートを開き亮に何か話しかける。亮もそのノートを覗き込む。二人の顔が、鼻が触れそうなぐらい近づく。
 あたしは二人から目をそらした。亮が好きな人なんて考えなくてもわかる。考えることで自分が傷つかないようにしてるだけなんだ。わからないフリをして、気付かないフリをして……。
 視界に剛がうつる。剛は切なそうに二人を見つめている。そんなに辛いなら見なければいいのに。目をそらして現実から逃げればいいのに。でも剛はそうしない。きっと彼は、強いんだ。いつまでも自分の気持ちから逃げているあたしとは違って。
 でも、弱いことが救いになることもある。剛は強いから壁から逃げようとしない。壁の向こう側に見える二人の気持ちを、ただじっと見つめている。そんなときの剛は、すごく痛々しい。儚げで、今にも壊れてしまいそうで。
 あたしは思わず剛の頭にぽんと手を置いた。剛ははっと我に返ってあたしを見上げる。その目にはまだ痛みが浮かんでいて、あたしは剛の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ちょっ、由良。ワックスとれるっ」
 剛はあわてて嫌がったけどあたしは手を止めなかった。よっぽど思いつめた顔してたのか、剛はあたしの顔を見るとぱたりと抵抗をやめ、目を伏せた。
 抱きしめてやりたくなった。守ってあげたいと思った。男なのに女に守ってあげたいなんて思われたら、剛は嫌がるかなとぼんやり思った。こいつは女の母性本能をくすぐるのだ。こいつも、あたしの可愛い親友なんだ。
「…ま、がんばんなよ」
 ぼそりといってやる。あたしは優しい言葉をかけるのが苦手だ。だから勝てないんだ、舞には。男ならあたしより舞を選ぶだろう。実際、亮も剛も舞が好きなんだから。
 剛は黙ってあたしを見上げていたが、やがて微笑んだ。ちょっと触れただけで壊れてしまいそうな笑顔だった。












「ねっ、由良。バスケ部見にいこ」
「いいよ」
 舞はあたしの手を引っ張りながら早足で歩いていく。誰がお目当てかぐらい見ればすぐにわかる。
 体育館に行くと、すでに女の子がたくさんいた。皆うっとりと目を細め、興奮してささやきあっている。あたしと舞は人ごみを掻き分け、ようやく中が見える位置に行った。練習試合か何かをしてるらしく、部員たちがせわしなく動き回っている。シューズのゴム底がててるキュッキュッという音とボールが床を弾む音、女の子たちの囁き声……。なんだか頭が痛くなる。
 剛が激しいディフェンスをぬけ、亮にボールを回す。そこで黄色い歓声が上がる。ボールを持った亮は相手の間をすり抜けるようにしてゴールに走る。ゴール前のマークをものともせず、亮がシュートを決める。そこでまた歓声が爆発する。隣の舞を見ると、叫んではいなかったが目をきらきらさせて亮を見ている。亮と剛がハイタッチすると、また小さな歓声が上がる。まあ、うちの学校の二代イケメンのコンビプレーはファンの子から見ればたまらなく刺激的なのだろう。
 冷たくてどことなく近寄りがたい亮。人懐っこい笑みを浮かべ誰にでも優しい剛。幼稚園からの幼馴染の二人は、きっと昔からずっと周りの注目を引いてきただろう。中学生のときからそうだった。中のいい女友達という地位を得ているあたしと舞は、きっとラッキーなんだ。亮は女の子をまったく寄せ付けないし、剛は亮が見張ってるからおちおち近づけない。二人のことを名前で呼び、また名前で呼ばれ、いっしょにご飯食べたりいっしょに帰ったりできるのは、他の女の子たちから見れば叫びたいぐらい羨ましいのだろう。
 近くにいたって悩みは耐えないんだよ、とぼんやり考えていると、また女の子たちが大きな声を上げた。今度のは歓声というよりは悲鳴だった。亮が倒れていた。どうやら相手とボールを取り合っているときに足でも絡まったらしい。亮は足を抱え苦しそうに顔をゆがめ、剛が隣にしゃがみこんで声をかけている。
 と、あたしの視界の中に急に舞の後姿が現れた。あれ、と思って隣を見ると、いつの間にか舞はいなくなっていた。亮の隣にしゃがみこみ何か声をかけている。すごく必死な表情。ああ、よっぽど亮が好きなんだなーって実感する。
 舞は剛と一言二言話していたが、やがて亮の体を支えそっと起こした。剛がもう片方から手を添える。二人が両側から支えてようやく亮は立ち上がった。そのまま3人でこっちに歩いてくる。女の子たちは囁きあいながら道を開けた。3人がよろよろと体育館から出て行く。あたしも追いかけようとしたが、後ろから聞こえてきた会話に足を止めた。
「いいなー、舞ちゃんと由良ちゃん。亮君と剛君独占できて」
「でもさぁ、やっぱり両君の本命は舞っぽいよねー」
「てか、あの二人付き合ってんでしょ?」
「うっそー、やっぱりそうなの!?」
「まあ、確かにお似合いだもんねー、あの二人」
「じゃあ必然的に、由良ちゃんと剛君?」
「えー、それはないってー!!由良ちゃんってなんか無愛想だしぃ」
 そこまで言って一人の女の子がはっとあたしを見た。どうやらあたしがいることに気付いてなかったらしい。気まずそうにうつむく女の子たちに背を向け、あたしは走り出した。
 きっと3人は保健室に行ったんだろうけど、あたしは保健室とは逆方向に走った。今にも涙があふれてきそうで、歯を食いしばって必死でこらえた。
 舞と亮がお似合い。わかっていたけど改めて言われると辛かった。そして、あたしは剛ともつり合わない。たまにふっと、舞が憎くなる。二人に愛されている舞。あんなに可愛い舞。どうしてあたしはそんな風になれないんだろう。











 ぼんやりと教室に変えると、剛がいた。机に突っ伏している。あたしが驚いて声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。一瞬驚いた顔をしたがやがて微笑んだ。ああ、まただ。あの壊れそうな笑顔。
「帰ったのかと思ってた」
「剛こそ。舞と亮は?」
「亮は顧問と一緒に病院行った。舞も付き添い」
「…そっか」
 なんで剛もついていかなかったの……そんな野暮な質問するつもりはなかった。亮を心配していた舞。真っ青になって亮に駆け寄っていった舞。そんな二人を見るのに耐えられなかったんだろう。
「…ねぇ、剛。なんで二人の邪魔しないの?」
 剛は驚いたようにあたしを見た。普段ならこんなこと絶対言わない。こんな、剛の傷をえぐるようなことは言わない。でも、今はこうでもしないと耐えられなかったんだ。あたしは弱い。誰かの傷に触れないと自分自身の傷の痛みに耐えられなかった。
 剛はしばらく黙ってあたしを見ていたが、やがて悲しそうに微笑んだ。
「舞が幸せなら、別にいいよ」
「なにそれ。偽善者ぶっちゃってさ。ホントは憎いんでしょ、亮のこと。舞のこと奪いたくて仕方ないんでしょ」
 止められない。ひどい言葉がどんどん口から飛び出てくる。ナイフを吐き出しているようだった。でて来る時にあたしのことも傷つけていく。
 だめだよ、剛が壊れちゃう……。あたしの心は悲鳴をあげてる。それでも言葉は止まらない。
「何ぐずぐずしてんのよ。男ならちょっとは努力しなさいよ!!なんですんなり亮に譲るのよ!!」
「譲るとか奪うとか、舞は物か?」
 剛が低い声でつぶやいた。そこでやっとあたしの口は止まった。剛は黙ってあたしを見ている。真っ暗で、何の表情も浮かんでいない目。あたしはぞくっとした。
「二人が両思いなら、無理に壊すことはないだろ。大体、そんなことしたら二人が傷つく。亮も舞も物じゃないんだよ、ちゃんと気持ちを持ってる人間なんだ」
「…それなら、剛はどうなの。剛は何にも感じない物なの?剛は傷ついてもいいの?」
 そしてあたしは……?その言葉は飲み込んだ。剛は悲しそうに微笑み、答えた。
「二人が幸せなら、それでいい。亮だったらきっと、舞のこと大事にしてくれる」
「でも」
「由良」
 剛はなだめるように言った。
「誰かが傷つかなくちゃいけないんだ。犠牲ゼロ、って言うのは無理なんだよ。一番犠牲が少ない方法しかないんだ。俺が傷つけば、犠牲は最小ですむんだよ」
 あたしと剛さえ傷つけばすべてが丸く収まるの?どうしてあたしたちが傷つかなくちゃいけないの?
 その言葉は出てこなかった。














「由良ぁっ」
 舞があたしに抱きついてくる。あたしは舞を抱きしめながらぼんやりと考えた。きっと亮がOKしてくれたんだ。それで感涙、そんなところだろう。剛がゆっくりと近づいてくる。どうして?わざわざ傷つきたいの?どうしてそんなに、目をそらさないですべてを見ようとするの?胸がいたくて、あたしは剛を見れなかった。腕の中で舞が、鼻声で何か言っている。聞き取れなくてあたしは聞きなおした。
「…ふられちゃった……」

 フラレチャッタ

「え……?」
 ふられた?舞が?なんで?あたしは呆然と舞に聞き返した。舞は引きつった涙声で言った。
「好きな人がいるからって、振られちゃったよおぉ」
 一際大きな泣き声を上げ、舞はあたしの胸に顔をうずめた。あたしは訳がわからなくて、舞を抱きしめることもしなかった。
 亮に告白するっ、と宣言して、亮と舞が二人で教室を出て行ったのは10分ほど前だった。ああ、とうとうカップル成立か、となんだか自棄気味であたしは教室で待っていたんだが、あまりの展開に何もいえなかった。剛を見ると、彼もまた呆然と泣きじゃくっている舞を見ている。
 そこで、ある考えがふっと頭をよぎった。亮は剛のことを大切に思っている。もしかして亮は、剛に気をつかって断ったんじゃ……。
 急に怒りがわいてきた。そんなことしたって何の解決にもならない。舞も剛も傷つくだけだ。あたしは舞の肩を抱き、剛に渡した。剛は驚いたように舞の肩を支えあたしを見る。舞は泣き声を上げて剛に抱きつく。剛は戸惑いながら舞の頭を撫でながらあたしを見ている。口ぱくでごめん、と剛に言って、あたしは教室を飛び出した。











 亮は裏庭にいた。やっぱ告白は裏庭だよねー、なんて舞が言ってたことを思い出してきてみると、やっぱりここだった。亮は塀にもたれかかりぼんやりとどこかを見ていたが、あたしに気付くとゆっくりと体を起こした。
 あたしは亮に前で立ち止まると早速怒鳴った。
「どうして舞のことふったの!?」
「どうしてって…他に好きな奴いるから」
「うそ!!舞のこと好きなくせに!!」
 あたしは亮をにらみつける。亮は困ったようにあたしから目をそらした。そんな態度にいらだってあたしは亮をドンと押した。壁に背中をぶつけても亮はやり返してきたりはしなかった。あたしは耐え切れなくて、思っていることを口に出した。
「…剛のため?」
 亮はふっと顔を上げた。その目から何も表情は読めない。一度言い始めてしまえばあとは楽だ。あたしはすごい剣幕でまくし立てた。
「剛が舞を好きだから!?だから気使ってんの!?そんなことしたってね、何の意味もないよ!!舞も剛も傷つくだけだよ!!」
「由良」
「それとも何?二人のこと馬鹿にしてんの!?ちょっとモテるからって調子乗ってんの!?」
「由良」
 亮がさっきよりも強めの口調で言った。亮は悲しそうにあたしを見ている。そんな顔を見たらなんだかあたしも悲しくなってきた。ほんとにあたし馬鹿だ。ホントは亮と舞がくっついて欲しいなんて思ってないくせに。
「…別に、剛に気を使ってるんじゃない。これはホントだ」
 ゆっくりと亮が言う。あたしは亮から目をそらした。こんな悲しそうな目をしてる亮は見たことがなかった。
「それに、舞が……好きじゃないのもホントだ」
「じゃあ誰が好きなのよ。それ答えなきゃ信じてやらない」
 あたしは上目遣いで亮をにらんだ。亮は困ったようにうつむいた。まさか自分な訳ない……そう思うと辛かった。ここでしゃがみこんでしまいそうなぐらい、辛かった。あたしもこんなに亮のこと好きだったんだって実感する。
 長い間黙っていたが、亮はやがて決心したように口を開いた。あたしの目をまっすぐ見てはっきりと話し出した。
「舞は、俺にとって恋愛対象じゃない」
「それはわかったって言ってるでしょ」
「舞だけじゃない。由良もだ」
 胸の奥が痛んだ。そんなことわかってるよ……そう言い返せ。それがあたしのキャラじゃない。そうわかってるのに、どうしてもそう言えなかった。あたしは亮が好きなんだよ、そう叫びだしたいのを必死でこらえた。
「俺にとって」
 亮はそこで一度言葉をきり、大きく息をすった。覚悟を決めたように話す。
「舞も由良も、他のどんな女の子も、恋愛対象にはならないんだ……」
 あたしは亮を見た。亮もあたしを見た。亮はすっと気まずそうに目をそらした。はじめは意味がわからなかったが、やがてひとつの結論にたどりついた。あたしは思わず一歩あとずさりした。
「まさか…うそでしょ?」
「ホント。…ゲイなんだよ、俺」
 あたしは目を見開いた。亮にとっての恋愛対象は、男……。そして亮が最も大事に思っている男、それは……。
「…剛なの?」
 声が震えている。亮は何も言わなかった。あたしは信じられなくて、もう一度確かめた。
「…剛なのね?亮の好きな人って」
「……ん」
 なんだろう。なんともいえない気分だった。虚無感、というのが一番近いかもしれない。なんてことだろう。あたしも舞も剛も、亮も。ずっと空回りしていたのだ。皆お互いの思いに気付かずに傷ついてきてたんだ。
「…ひいてる?」
 亮の小さな声にはっと顔を上げた。亮はすごく寂しそうな目をしていた。あたしはゆっくりと首を振った。正直な気持ちだった。別にひいてはいなかった。ただ新しい事実に驚いただけだ。亮は安堵したように小さく笑った。
「…悪いな、こんな話」
「いいよ、別に。ただ、舞にはよーく謝ったほうがいいよ」
「ん。じゃ、いってくる」
 亮はあたしの隣をゆっくりと歩いていった。あたしは振り返らなかった。なんだか力が抜けて、その場にへたり込んだ。
 舞は亮が好き。亮は剛が好き。剛は舞が好き。
 終わることのないループだ。この状態は永久に変わらないかもしれない。そしてあたしは、傍観者。あたしは論外なんだ。部外者なんだ。
 頬に涙が伝うのがわかった。一体何の涙なのか良くわからなかった。亮にふられたから?亮がゲイだったから?あたしだけが部外者だから?どれも違うような気がした。でも涙は止まらなくて、ただただ泣き続けた。

2005/07/25(Mon)15:21:19 公開 /
■この作品の著作権は渚さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちわ。夏休みだーって遊びまくってる渚です。

なんかよく意味がわからないですね^^;前から書いてみたかったんです、好きな男の子に実はゲイなんだって告白される女の子。あたしは別に同性愛が悪いとは思いませんけどね。好きな相手がたまたま同性ってだけなんじゃないかなーと思います。


では、こんな意味のわからん話を読んでくださってありがとうございましたm(__)m

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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