『空から桜が降る頃には・・・ @』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:波音岸 美青                

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 四月になり、私立藤野学園の中庭にある大きな桜の木が今年も美しく咲いた。風がそよぐたびに木から桜の花びらが舞い踊る光景や、砂時計のようにそれがゆっくりと土の上につもっていく光景は、とても優雅だった。
 その光景を見ている一人の男子生徒がいた。高等部二年A組の村橋大和だった。大和は、入学したての中東部の頃から、毎年この季節になると必ず、この威風堂々と花を満開にさせる桜を見ている。だから彼がこの桜を見るのは五年目である。その桜は誰もが綺麗と認める美しさで、大和もまた、その桜の美しさに惹かれていた。

 「大和!聞けよ!すごいこと聞いたんだよ!!」
大和が教室に入ると、待ちかねていた親友の平岸内が大和のもとに興奮しながら走ってきた。
「朝からなんだよ・・・。」
「驚くなよ。今日からこの学校に韓国から留学生が来るんだよ!しかも俺らのクラスに!!」
「りゅ・・留学生?!」
大和は、何故こんなにも内が興奮しているのかが分かった。この学校に来て何年も経つが、留学生が来るのは初めてだった。
「お前はいいよな。」
内が大和を羨ましそうな表情で見る。
「何で?」
「だって、お前クラス委員じゃん!クラス委員だったらその留学生と色々接する機会が多くなるだろ。」
「別にそんなに接しなくてもいいんだけど・・・。」
大和が言うと、内はフッと笑った。
「大和。確かにお前には京子がいる。だけどな、噂によると留学生は女。しかもメッチャ美人なんだって!!」
内はニヤニヤしながら言ったが大和にはそんな下心はなかった。大和には京子という彼女がいる。今も近くで何人かの友達と楽しそうに喋っている。
「はいはい。」
興味のなさそうな大和を異常なものでもみるような目つきで内が見た。
 「なんだよ・・・。」
内の目つきが怪しいので、大和は同じ様な目つきで内を見た。
「お前な・・・」
内がそう言おうとした瞬間、大和の背中に衝撃が走った。内も驚きのあまりに言葉をなくした。
「やーまーとっ!!」
大和の彼女の深沢京子が大和に後ろから飛びついたのだった。
「ちょっと、内!!あたしの大和取らないでよ!」
「取ってねぇよ!取ったらホモになるだろ・・・。」
京子が内を怖い目つきで睨んだので内は京子から目をそらした。
「大和はあたしとラブラブなんだから!留学生なんて興味ないのよ。あんたのその軽さを大和に洗脳させないでくれる?」
「・・・・・・。してない・・・。」
内はものすごく小さな声で言った。内にとって京子は誰よりも恐ろしい存在なのだ。だから京子には絶対に逆らえない。言い返したりしたら、悪い時は殴られる。そんな二人のやりとりを、間にいる大和は笑いながら見ていた。

 チャイムが鳴り、校舎の外にいる生徒も慌てて中に入ってきた。騒がしかった廊下もだいぶ静かになってきた。
「留学生・・・!留学生・・・!」
大和の席の後ろは内だ。内はさっきから大和の背中に向かって、そう呟いている。その姿には大和も呆れた。現在彼女のいない内は、留学生の事がとても気になるのだろう。ただし、彼女がいないといっても、内は決して不細工ではなかった。むしろかっこいい。だけど女遊びが激しくて、一人の女に本気になったことはない。
「内・・・。少し黙って。何か背中の後ろで言われたら呪いかけられてるみたいだから。」
そう言った大和も、とても美形だ。しかも、モテル。しかし、京子とつきあっていることは誰でも知っていたので、大和に告白する女は数少なかった。裏でもてていたので、大和も自分がモテルことに気づいていなかった。そして京子も大和に似合う綺麗な顔立ちの女だったから誰も京子から大和を取ることはできなかった。
 やがて、廊下からコツコツと足音が聞こえ、担任の池下雄子先生が教室に入ってきた。
「おはよう。今日は大事な話があるので、これから体育館で全校朝会を行います。二列になって廊下に並んでください。」
「いよいよ留学生に会えるな!」
興奮状態の内が大和に耳打ちした。
「俺はどうでもいいんだけど・・・。」
内をなだめるように大和が言った。
 全校生徒が集まり、朝会が始まった。今日は中等部の生徒も来ている。留学生が来たからってちょっと気合いれすぎなんじゃないか・・・と、大和は思った。そしてざわつきが少しずつおさまってきた頃、校長先生がステージの上に立った。
「今日、皆さんに集まってもらったのはね、お隣の国、韓国から留学生が来たからです。じゃあ、君。」
校長先生が、ステージ脇をチラッと見て、その留学生に目で合図した。すると、留学生は生徒が見えなかった脇の方から歩いてきた。その留学生を見ると、皆ざわつき始めた。
「うほっ!」
内が変な声を出し、大和はしばらくその留学生に見とれていた。深い黒の長い髪が印象的なその留学生は、噂どうり美人だった。男なら誰もが見とれるだろう。
「今日から一年間、高等部の二年A組で生活することになったキム・チョウさんだ。」
校長先生がそう言うと、キムはお辞儀をした。
「こんにちは。始めまして。キム・チョウです。日本がとても大好きデス。まだ、日本語で分からない所があって、皆さんに迷惑をかける事もあるカモしれませんが、一年間よろしくお願いします。」
キムの自己紹介が終わって体育館は暖かい拍手で包まれた。皆がキムを歓迎していた。

 「先ほど紹介された、キム・チョウさんです。皆とは一年間一緒に過ごす事になるので日本の事を色々と教えてあげて、仲良くしてね。」
担任の先生がそう言った。
「こんにちは。一年間よろしくお願いします。」
キムがにっこりと微笑んで言った。この瞬間、クラスの男子生徒はクラッと来ただろう。キムが喋る日本語は、少したどたどしかったが文法も何もかもが完璧だった。
「じゃあ、席はどうしようかな。クラス委員の村橋君の隣にしようかな。」
先生が大和を指差して言った。大和の胸が高鳴った。先生がキムを連れて、空いていた大和の隣に机を置き、キムを座らせた。
「村橋君、学級委員だからよろしくね。」
先生は大和に、そう耳打ちし、教壇の方に戻っていった。
「よろしくね。」
キムが大和を見てニッコリと微笑んだ。
「うん。よろしく。俺は村橋大和だから。何かあったら何でも聞いて。」
クラスの代表者として、大和もニッコリと微笑んだ。大和の微笑みはかっこいい。キムの胸も少しだけ高鳴った。大和が後ろを振り向くと、内が羨ましそうな顔で見ていた。そして少し離れた席に座っている京子の顔は不安そうだった・・・。

 「また、桜描くの?」
ノートと筆箱を持ってどこかに行こうとしている大和を見て、内が聞いた。
「あぁ。毎年描いてるから今年も描こうと思ってさ。」
「そんなに絵が好きなら美術部やめなきゃよかったのに。」
そう言って内は後悔した。
「ごめん。あの事には、ふれない約束だったよな・・・。」
内がすまなそうに言った。
「別にいいよ。お前もこれから部活あるだろ?頑張れよ。」
少し強張った表情で大和が言った。
 大和は昔、美術部に入っていた。でも、あることが理由でやめてしまった。だけど桜は毎年描く。あの人が褒めてくれた絵だから・・・。重い想いを振り切るようにして、大和は中庭へと走った。そして、毎年座っている場所に座り、ノートを開いた。
 絵を描くときの大和は、目つきが変わる。とても真剣な眼差しだが、目は絵をあいくるしそうに、優しい目で見ている。そんな大和を誰もがかっこいいと思うだろう。絵も時間をかけて、ゆっくりと丁寧に描いていく。桜の花びらの一枚一枚が美しく描かれていく。それはキムの美しさのように優しい感じで・・・。
 三時間経ち、大和の絵も完成した頃、誰もいなかった中庭に一人の美しい女が訪れた。キムだった。しかし、大和はキムに気づいていないようだった。
「あの・・・大和君・・・。」
後ろから声が聞こえたので大和は振り返った。キムが立っていた。
「あ・・キムちゃん。」
「キムでいいです。この桜、とても綺麗ですね。」
「うん。」
自分の好きな桜を褒められて大和は嬉しくなった。
「あら?」
キムは大和の絵を見つけるとニッコリと微笑んだ。
「大和君が描いたのですか?」
「あ・・うん。」
「とても上手デス!写真みたいによく描けてますね!美術部に入ってるのですか?」
勘が鋭いな・・・と大和は思った。
「昔入ってたよ。」
「やめちゃったのですか?とても上手なのに。」
「うん・・・。」
キムを見ていると、あの人を思い出す。とても優しかった沙羅先輩を・・・。
「何でやめたかっていうとね、絵が嫌いになったわけじゃないんだ・・・。ただ、美術部には思い出があって・・・。聞いてくれる?」
大和は何故だかキムに聞いて欲しかった。思い出したくなかった過去のことを・・・。
「はい。」
キムはニッコリと笑って言った。

 それはまだ大和が中等部だった頃・・・
〜続く〜



2005/07/17(Sun)09:07:45 公開 / 波音岸 美青
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■作者からのメッセージ
どうも。ミサオです。
初投稿デス。
つまらない話だと思いますが、読んでください!!
初心者なので、感想もいっぱい下さい!!
これからも連載していくのでヨロシクお願いしマス!!

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