『諦めないで』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:朔羅                

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序幕

「あいつ可笑しいよね。私の事本当の友達だって思ってるもん。」
「はっ、馬鹿じゃないのあいつ。あんなのに友達できるわけないよね〜。」
「そうそう♪」

誰も信じられない。

「ちょっとさぁ〜、目障りなんだよ。消えてくれる?」
「生意気なんだよね、あんたが生きてて。」
「つーか生きる必要ないし?アハハハハ。」

何で私が生きちゃいけないの。

「てかあいつ暗くねぇ?」
「マジダサいし、あいつの彼氏になる?」
「冗談じゃねぇよ。」

暗くさせたのは、誰なのよ。

「諦めちゃ、ダメだよ。」

…誰?

Act1

 私は「神戸平羅(こうべ へら)」。現在中学2年生。友人は…ゼロ。でも人は寄ってくる。
「ねぇ神戸〜、耳貸して。」
「何?」
「ウ・ザ・イ。」
そして、満面の笑みを浮かばせる。それは黒くて黒くて、こっちが見てて泣きたくなるような笑い。コレがもう…、2年間も続いてる。そう、入学当時から。

 昼休みなんか、私にとって休みではない。むしろ、体が疲れてくる。痣は増えてくるし、血が体からどんどん抜かれていくよう。
「生意気なんだよ!」
「さっさと死んじまえ!」
よくこんなことができるわね、親が見たら泣きそうだわ。そうよね、あんた達って気の合う人間か本当に見てて吐き気のする人間にしか本性表さないものね。


馬鹿げてる。


 空は綺麗、私はボロボロ。雲は純白、私は真っ黒。風は心地よい、私は最悪な気分。
「いっその事、楽になりたい…。」
そうだ、楽になればいいんだ。楽になって、この世界からいなくなっちゃえば、こんなに苦しい事味合わなくて済む。柵に手をかけて、脚を振り上げる。もう1本も…。このまま下に下りれば、「天国」が待ってるんだ…。口の端が攣りあがる。透明な橋を歩き始めた。


「え…。」


 橋を…、渡れてない。むしろ、柵の内側にいる。そんな、ある筈もないものを渡ろうとしたのに…。
「何してるの?」
ふと、高めの男子の声が響いた。見上げると、綺麗な顔立ちの男子。ダークブラウンの髪に、透き通った肌、薄茶色の瞳…。
「楽になろうと…、したのに…。」
綺麗なのに、私を泥沼に引き戻した。
「楽じゃないよー、あの世は。」
…あの世?…茶色の子は、静かに、悲しげに笑った。
「俺、天野由汰(あまの ゆた)。俺も…、楽になろうとしたんだよ。」
へぇ、由汰っていうのか…。…って幽霊!?ど、どうして霊感のない私に見えてるのよ!口開けすぎて、唾が乾きそうになった。

 由汰と私は柵に寄りかかって、座った。ずーっと黙りこくったまま…。あぁ、信じられない。だから嫌われるのかな、私。
「あんたも?」
楽になろうとしたってことは、実行したって事だよね、由汰。勿論、縦に頷いてた。
「虐めの理由って、結構くだらねぇんだよ。」
そう、まさに経験者だね。

 大半の理由が、「ウザイ」とか「キモイ」。「ウザイ」は別にいいって場合と、くだらない場合がある。例えば、昔虐めっ子で、その被害者たちがそれ返しちゃってる事。まぁ、いわゆる「復讐」だね。でも、頭がいいとか、ブリッ子だとかはどうもいただけない。頭がいい人を妬いてるなら、自分も辿り着こうとする。でもそれをしないのって、ためにならないよ。ブリッ子は確かにムカつくね、自分が上だって言われてるようで。でも無視しときゃいいの、虚しくて止める筈だから。

 「キモイ」は私がどうもいただけない理由。勿論外見だ。可愛い子が「キモイ」って言われてるの、理由何?可愛いのに何で?って感じ。あと、アトピー出てる子。あれは皮膚病みたいなもんなんだし、かかってるならしょうがない。そんな風に思わない奴、いるんだよね。


世の中、狂ってる。


 由汰なんて綺麗で優しい。目がちょっと垂れ目で、優しい雰囲気がある。なのに…。
「どうして由汰が虐められたの?」
由汰は首を上げて、「うーん…」と考えていた。そして思い当たったように、口を開けた。
「俺、芸能界のオーディション受けたんだよ!歌手になりたくてさ。で、受かったから友達に言ったら…、


『何な訳?もう俺たちとは違う人間です、って言いてぇのか?』


だとよ。そのお陰で…、みーんな敵になっちゃった。」
アハハと小さく笑う由汰。…何で笑えるのよ、辛かったはずなのに…。
「君は何で?可愛いのに…。」
…初めてだ。こんなこと言われたのも、疑問にした人も。でも、
「わかんない。」
誰も、言ってくれない。
「ただ、『ウザイ』とか…。」
すっごく抽象的で、よくわかんない。由汰はただただ首を傾げて、こっちを見てる。
「とにかく、それってやっぱ変な理由だと思うんだよね。だからあえて言わない。あとさ…。」
由汰の顔が、桜色に染まる。


「守って、あげる。だから、諦めちゃ、ダメだよ。」


 どもりどもりでも、可愛かった、優しかった、泣きたくなった。ちらちらと、私の様子を伺ってくる。自然と、笑いが零れてくる。
「いいよ。あ、私の事平羅でいいから。」
すると、由汰は笑顔の面積を広くした。

Act2
 人間としては有り得ない、透明な体を持つ由汰(だって空が体越しで見えるんだもん。あと浮いてるし)。こいつが幽霊だと分かってても、憑いてくるのはイラつく。
「ねぇ…もうちょっと、も〜ちょっと離れてよ。」
それでも、由汰はヘラヘラ笑ってる。
「だって、何が起こるかわかんないじゃん。もしかしたら、行き成り…。」
「やめてよね。」
不安を奮い立たせるなっつーの、馬鹿。

 その時だ。
「何あいつ、馬鹿じゃないの。」
「えぇ〜、何処に誰がいんのよ。あの馬鹿女。」
絶対変人だと思われてるなぁ…、私。由汰が見えるかどうか、知らないけれど。由汰を瞳だけをスライドさせて見てみると、頭を抱え込んで唸っていた。なんか…、トイレにこもってる人みたいに。
「あ〜、忘れてたぁ…。


俺の姿、俺と同じ境遇の人にしか見えないんだよね…。」


…さっきの場面、私変人決定。てか忘れるなよ、由汰君。
「それ早く言ってよ。」
「ごめんごめん。ここの中学の屋上って、『儀式』のとき以外使われないじゃん?だから…ね。」
頭をぽりぽり掻きながら、またヘラヘラ笑う由汰。何だコイツ、って思う時もある。でも憎めない、可愛い。

 教室は地獄の場。机が彫刻されてた。
『死ね』『バーカ』『うぜぇ』『消えろ』『学校来んな』『生きてんじゃねぇよ』
瞳だけで教室内を見ると、中にいる全員の生徒が笑ってる。でもって、殆ど女子。泣いたって、仕方がない。こいつらの期待を裏切れば、寂しくてなくなるって思ってるから。おでこに手を当てて、溜息をついた。あぁ、ガキっぽい…。
「懐かしー。」
後ろには何気に思い出に浸ってる奴が約1名。そうだ、由汰もなんだよね。確かにあんたには懐かしいわよね。
「机、使わなきゃいけないんだよね。もうボロボロになってるのに。文字見てると、辛くなってくるよね。何もしてないんだろ…、平羅。」
由汰…、あんたどうやって私の心、見てるのよ。あんたの答え、全問正解。

 授業が始まった、今日は5時間授業。やった、直帰れる。でもねぇ…、授業に限ってもお子ちゃまなのがいるんだなぁ、これが。例えば、私が教科書音読してると、
「神戸さーん、声ちっちゃすぎて聞こえませーん。」
は?あんたの声が五月蝿いんだよ。あと、テストで交換採点する時、
「神戸さん、何0点とってんの?!恥ずかしぃ〜!!」
名誉棄損で訴えてあげようか?でも放課後、先生のところへ行くんだもんね。で、点稼いでくるからね。由汰は授業中とあって、ただ口を挟むだけだった。
「五月蝿いね、いつまで平羅をサンドバックにしてるんだよ…。」
私は喋れないから、ノートの隅っこに答えを書けたら書く。この場合だったら、
『それで満足なんでしょ。あいつらなんて』
とか。由汰は小さな声で、「そうなんだよねぇ〜。」って呟く。あんたをストレス発散の玩具にしてた奴らも、その思考なんだろうね。

 ただ、もう1つ地獄が待っていた。掃除だ。今回は運悪く、トイレ掃除。ゴミ掃いて水撒いて便器の中掃除して、洗面台洗って…。しかも流してないとこっちが大変だ。もう1人の女子は、私の監視役。
「ちゃんとやってよね。それで私達の功績が上がるんだから。」
私は奴隷で、あいつらは色んな国の女王様。ふざけんじゃないわよ、いつまでも奴隷に頼る気?ちょっとは何かして見なさいよ、何もできない、腹黒女王なんてお断りよ。
「何よ…、手ぇ止めてんじゃないわよ!!」
五月蝿いわね、と思った時首根っこをそいつに捕まれてた。そして、洋式トイレのドアを開けられて、便器の中の水に顔を叩きつけられた。10秒位して、引き上げられる。でも空気を貰えるのは1秒もない。またそれが繰り返される。汚いってもんじゃない、苦しい、死ぬ、やばい、ダメだ…。


「ぐばぁぁ…(由汰ぁぁ…)。」


 一体、どれだけ時間が経ったのだろうか。何時帰ったのだろうか、ベッドの上にいる。ぼんやりした視界の中で、またぼんやりした由汰が心配そうに浮かんでた。
「ごめんね、約束したのに早く助けられなくて…。」
「あんたは悪くないよ。」
こんなのに弱気になってる、私が悪い。…ん?
「助けたって…、何時?」
「便器の中に入ってさ、水をあの不良?の女の子に勢いよくばっしゃーん!ってかけてやった!そしたらあの子、メイクしてたみたいでさ、もう化け物みたいになってた。」
あぁ、由汰(憑いてるし)に完璧に化けの皮剥がしたのね。
「由汰…、何で…。」
そう、なんで「守ってあげる」なんて言ったのよ。何で、放ってくれなかったのよ。
「私なんか、1人で大丈夫なのに…。」
由汰は目をぱっと見開いて、目を細めた。


「辛い時、1人でやっていけない。だから…、放っておけない。」


辛くなんかないって言おうとした、でも由汰に遮られてしまって…。
「『辛くない』は、一種の武器だけど、自分のことはちゃんと守れないから、注意してね。」
あぁ、もうお手上げ。由汰には構わない、何でもかんでもお見通し。…会ってすぐなのに。幽霊は色んなところに入り込めるのかしら?無性に可笑しくなって、泣きたくなって、由汰のYシャツ(制服)に掴もうとした。でも相手を忘れてた。
「平羅ゴメン!」
気持ちを察知してか、由汰は手を合わせて謝った。それが可笑しくて、可愛くて、笑った。

2005/07/17(Sun)11:28:39 公開 / 朔羅
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです、朔羅です。
人間って、同じ思考の人といると、なんか心地よくなりますよね。
被害者だって、同じ目にあった人といると落ち着くと思って。
因みに、男の子を幽霊にしたのは、「陰の支え」的なイメージを持たせたのですが…、なってるのかわからなくなってきた。

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