『不思議なパズル』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:上下 左右                

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 彼にはひとつの悩みがあった。それはあるパズルを完成させていないこと。買ったとき、元々ピースが足らなかったので完成させることは絶対にできない。不良品だから返してやると思ってその場所に向かったがどうしてもその場所が見つからなかった。
 それは不思議なパズルだった。一年前、人気のなさそうな小さな露店で買ってきたものなのだが、おかしなことにいくつものピースが足りないのだ。そのおかげで、完成したのは端っこのほうだけ。何もない真ん中は地面が剥き出しになっている。
 このときはまだそれほどの怒りを感じることもなくそれを箱の中にいれ、何故か捨てることをせずに押し入れの奥に封印したのだった。

 それから一年の月日が経った。学校の帰り道にふとその事を思い出し、押入れからそれを引っ張り出した。完成しないことはわかっている。考える力が足りないのではなくピースが足りないのだ。
 一度途中まで解いたというのもあって百ピースほどのそれをなかなかの速さで作っていく。パズルの定番と言うべき端から作っていくということもしないで全てのピースを使い切った。ここまでは普通のパズルとはなんの変わりもない。不思議なのはここからだ。
 一年前よりも、明らかにピースが増えているのだ。半分ぐらいしか完成していなかったパズルが、今では残り一ピースになってしまっている。
 しかし、少年はそれが増えていることよりも、後ひとつなのに完成させることのできないこの有耶無耶感が許せなかった。人ではないパズル、それに対して生まれてから最も強い怒りを抱いた。出来上がり寸前のそれをバラバラにして、箱の中に少し乱暴にしまいこんだ。
 どうも怒りの収まらない少年は、もう一度投げるようにして箱をひっくり返して箱を開ける。先ほどと変わらない。無造作に入れられたいくつものピースが彼を見ているように思えた。
 ピースを全て地面に置いて、少年はまたもくもくとパズル作っている。どうしてそういう気持ちになったのかは全くわからない。もしかするとこれもパズルに込められた魔力なのかもしれない。
 パズルはあっという間に完成した。今まで、どれほどがんばってもそれを迎えることはできなかった。それなのに今、いとも簡単に不思議なジグソーパズルを完成させることができたのだ。そう、今まで決して完成することのなかったパズル。それが完全な形となってこの世に誕生した。
 その達成感に浸りながら、足りなかった最後の部分を探してみる。確か、中央部分にあったはずだ。
 そのピースに書かれていたのは小さな文字だった。子供が書いたようにお世辞にも整ったとはいえない文字で「怒り」とひらがなで書かれている。
 改めて絵を見てみると、そこにはわけのわからない絵が出来上がっていた。ひとつの教室を描いたものだろう。笑っている子や悲しんでいる子。嫉妬と書かれた黒板や愛情と書かれた掲示物。いたるところに感情に関することが書かれている。そして、一番最後に現れたピースが怒りの文字。
 不思議なタッチで描かれた絵を一時凝視した後、少年は走り出した。親が何か言っていたような気がするがそれは無視する。いったい何を考えているのか、どこに向かっているのかもわからない。ただ、体が勝手に動くのだ。
 苦しい。肺へ十分酸素が送られていない。体力はクラスの人間よりも少しはあると思っていたのだが、限界というものがある。足が縺れ、何度も転がりそうになったがそれでも足が止まることはない。
 突然足が止まった。それと同時に体全てを使って深呼吸をする。大袈裟と思われるかもしれないが、彼はそれだけの距離を一度も止まることなく走り続けたのだ。
 そこは、ある神社の中にある小さな空き地だった。あのパズルを買った店を探しによくここを訪れたものだ。一度もそこを発見することはできなかったが。
 しかし、今目の前にはその店があって当然のように陣取っていた。相変わらず客らしき姿はない。
 まだ息が整っていないというのに彼はその店に近づいていく。
 その刹那、中から店員らしき男が草履の音をたてながら出てきた。その姿はまるで、江戸時代の商人を思わせる。
「おや?君は確か……」
 どうやら、一年前に一度だけ来たことのある少年の顔を覚えているようだ。客足はすくなそうだから、覚えておくことができるのかもしれない。
「ここを見つけることができたということは、あのパズルを完成させたんだね。あれから約一年。なかなかやるねぇ。普通の子ならまだまだ時間がかかるっていうのに」
 その青年はかなり陽気だ。何年も前から友達だったような、そんな感じだ。もしも相手が同い年ならそれはうれしいが、年上だとなかなか気まずい。そういえば、初めてきたときもこんな感じだった気がする。
「じゃあ、次はこいつに挑戦かな」
 少年はまだ一言も話していないのに何かを納得すると青年は店の中に戻る。そして、手になにかの箱を持ちながらすぐに出てきた。
「少し早いかもしれないが、(迫る大人への興味。初めての感情)だ!」
 なんだか、子供が見てはいけないビデオのような題名を読み上げると、それを少年に渡した。
 前のと同じで、箱には題名が大きく書かれているだけだ。完成した後の絵は描かれていなかった。

2005/07/17(Sun)23:06:54 公開 / 上下 左右
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