『こんなはずじゃぁ』 ... ジャンル:ショート*2 ショート*2
作者:喪黒福造                

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「ピピピピピピ」


 目覚まし時計がなり、いつものように朝が来た。
僕はのろのろとベットから起き、歯を磨き、顔を洗い、パンと牛乳とヨーグルトを食べた。僕にとってはごく普通の朝だ。

「行って来ます」

母が「いってらっしゃい」という前に僕はそそくさと家を出た。ふと携帯電話を見ると時刻はもう7時を過ぎている。
「やっべ!!」
僕は急いで自転車に乗り、駅へ向かった。
「ガタガタガタガタ」自転車が歩道をのるたびに自転車のかごに入っているかばんが飛びはねた。

 
 駅に着くと時刻は7時37分をまわっていた。7時41分の電車には間に合ったようだ。
僕はぺちゃくちゃと騒がしいホームで電車を待っていた。そこを中年のハゲたおっさんが前に立ってタバコを吸いながら電話をし始めた。
「あ〜はいはい、その件は後でしますのでよろしくお願いします、はい、いえいえ……」
おっさんの声はやたらでかい。
僕は話の内容よりもタバコの煙が気になった。ったくだからおっさんは嫌なんだよ。
その時、ガタンガタンと人を乗せた大きな鉄の塊が僕の前に止まった。ようするに電車が来たわけだ。さっきのおっさんはそそくさと席に座り今度はメールをし始めた。僕はそのおっさんの前に立った。電車はいつものようにぎゅうぎゅうの満員電車だ。

 
 僕はふとおっさんの座っている座席を見ると「お年寄り優先、この座席の近くでは電源をお切り下さい」と書いてある。
おいおいおい、おっさんここ携帯電話禁止じゃん。さっさと電源切れよ!!
僕は気が弱いので心の中で叫んだ。自分で言うのはなんだけど僕はとても正義感が強いのだ。


10分後、


 相変わらずおっさんはメールを止める気配はない。僕は我慢の限界だった。注意したくてしたくてたまらなかったけどでも言う勇気がなかった。

その時、「ピピピピピピピピ」

おっさんの携帯が鳴った。
おっさんは急いで左ポケットを探り、躊躇することなく携帯電話に出た。
「はい、もしもし、ええはい、はいもうすぐ行きます、はいはい・・・・・・」

僕は勇気をふりしぼった。

「あの、ちょっといいですか?」僕は蚊のなくような声でおっさんに言った。
「はい、ええ、はいはい・・・・・・」おっさんは聞こえてないのか、まだ携帯電話で話している。

バシッ!!みんなの目線を数え切れないほど感じた。
僕はおっさんの携帯を取り上げたのだ。おっさんはすごい顔をして言った。
「な、なにすんだ」
「ここは、携帯禁止なんだよ!!電源切れってここに書いてるだろ!!」僕は注意書きの紙を指差した。
「ふざけんな!!こっちには仕事があるんだ!!ほら、他にも電話してる人いんじゃねーかよ!!」おっさんは電話片手にこっちを見ている金髪の若者を指さして言った。でもおっさんに言うとおり、今だに電話をしている人が6人くらいいた。
僕は後戻りが出来なかった。
みんながこっちを見ている中、大声で言った。


「みんなここでは電源切れ!!!!」なんだかすっきりした。


その時だった、「あ〜悲しい、あ〜悲しいあ〜あ〜あ〜」俺の携帯の着信を告げるうたが鳴った。友達からの電話だった。

 電車が来るまでの3分間は長かった。みんなからの冷たい視線が心に突き刺さり特におっさんの正面からの視線は怒りでいっぱいだった。逃げたくても満員で逃げられない。

「けいたん〜けいたん〜けいたん駅で〜す」

「ガシャ〜ン」電車が止まり、ドアが開いた。
僕は急いで電車を出て階段を上り、道路へと出た。何か硬いもので頭を叩かれた気分で立ち尽くして呟いた。


「こんなはずじゃぁ」




2005/06/26(Sun)09:56:03 公開 / 喪黒福造
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