『じじい』 ... ジャンル:未分類
作者:麻野まゆ                

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大人はみんな腐ってる。
汚い息を吐いて、地球をよごすんだよ。
そのうち、子供も腐って死ぬんだよ。
それで終われば良いのになぁ。


『じじい』


ガタンッバタンッ
乱暴に開いたドア。
乱暴に閉まるドア。
この家には腐った毒ガスが充満している。
「ひでちゃん・・・帰ってきたの?」
騒音に似て俺の頭を痛ませる母親の声。
臭い息がまた家を腐らせる。
「今日、テスト返ってきたんでしょ?母さんに見せてくれないの?」
鞄を乱暴に開けぐしゃぐしゃのテスト用紙をだすと、登りかけた階段の上からヒラヒラと降らせる。
「すごいでしょ?文句ない??」
ニンマリと階段の上から母親を見下ろした。
母親は静かにしゃがみ込み、落ちたテスト用紙に目をやると弱々しく。
しかし、確実な笑みをこぼした。
「さすがヒデちゃんね。母さんの自慢だわ。お父さんにも見せなきゃね」
母さんは立ち上がり、膝をはたくと台所に消えた。

登りかけていた階段を上り終え、自室へと向かった。
着崩した制服を脱ぎッ、私服に着替える。
財布とケータイ。
それにバイクのキーがありゃいいや。
全部ポケットに無理やり突っ込んだ。
今、何時?
もぅ出ようかな。
明日まで、この家にいたら俺も腐っちまう。
きっと、ユウスケが泊めてくれるや。
財布・・・金・・・。もうないや。
ほこりをかぶった机を尻目にして、自室を後にした。

階段を静かに下り、台所に入るとニヤニヤと母親がまだ俺のテストを見ていた。
「ヒデちゃん、どうしたの?」
まだ笑みを残し、そのうすら汚い顔を俺に向ける。
「ねー、今月のこずかいくれない?ほしいもんいっぱいあるんだ!」
ニッコリと笑う俺。
「ちょっと待ってね。」
俺の笑顔をそのままそっくりカウンター。
あなどれないなクソババア。

母さんは台所から二階へ。下りてきて気づくことは、
手に握られた数枚の万札。
「今月はふんぱつよ。次も頑張ってね」
こんな金額、普通の高校生は貰えないだろ。
だけど、俺は貰えるんだよ。すごいだろ。だけどなあ。
渡された金から伝わってくるのは・・・・。


ムナシサだけなんだよ。


テストとか良きゃー貰えるんだよ。
ほしい物なんか買いたい放題さ!
でも、やっぱほら俺にも欲しい物がまだあるんだよ。
金も良いけど、そろそろ『それ』はいいや。


ムナシイとかはもういいや。





バイクを飛ばして田舎道をつっぱしる。
見知った看板が目に入り、目的地まで近づいてきたことをしらせてくれる。
団地の入り口、コンビにの多さにビックリだよ。

あちらこちらの信号。
止まって進んで、止まって進んで。
通行人も車も見当たらない。
こんな夜中にうろついてる方がおかしいか・・・。
赤と青をいったりきたりの信号。
そろそろ見飽きてきてしまった。


どうせ誰も、何にも通らないよな・・・。


バイクのアクセルを握りなおした時。



「うわッ!!!!!」

信号無視をしようとした時。
ちょうど横断歩道を渡りかけた、老人をよけようとして。
ハンドルにブレーキをかけた。

幸い老人にはかすることもなく、バイクが転倒したわけでもなかった。
ただ、自分でもビックリして放心状態になってしまった。
『ハッ』っと我にかえり、腰をぬかして座り込んでいる老人に声をかける。

「大丈夫ですか!?!?」
俺を見て目を丸くしている。
パッっとみて、結構な歳をいっている感じがする男性だ。
どうやら・・・・・・怪我・・・はない。
かわりにしりもちをついってしまったようだ。
「えっ、あぁすいません。。。信号を間違えてしまったかな。どうもこの歳になるとねえ。周りが見えなくてしょうがない。いやっ、本当に迷惑をおかけしました」

「いやっ、こっちが悪かったんすよ!もう、こんな時間だと思って人とか来ないかなって思って。こっちこそ、危ない目にあわせてすいませんでした。」

「いやいや、今夜はどうも寝付けなくてね。散歩をしようと思ったら止まらなくてね・・・。こんな夜中だ。誰でも人が来ないと思うよ。」

深々と頭を下げる俺に、やさしい言葉をかけてくれる。
罪悪で胸がいっぱいになってしまった。
「本当にすいませんでした。あの・・・一人で帰れますか?」

「なんのなんの。これくらい!どっこらせ・・・・。」

老人が重い腰を掛け声とともにあげようとする。
しかし・・・。

「むっ、ほっ・・・。ありゃ、こりゃ、すいませんが、ちょっと手を貸してくれませんかね。」
はずかしそうに、苦笑いをうかべる老人。
俺もつられて笑ってしまった。

てを差し出すと、老人がその手をつかんだ。
夏にも近いはずなのに、老人の手はひんやりと冷たかった。
逆に俺の手が熱すぎるのか?
でも、そのしわしわの手は祖母も祖父いない俺にとってなんだか新鮮な気がする。

体をバネにゆっくりと老人が立ち上がる。

「いや、本当にすいません。」

「あの、もしよかったら・・・こんな時間だし。おくって行きますよ?」

「大丈夫。そこまでしていただかなくても。今の若者は本当に親切だね。
今度からはお互い気をつけましょうね。それじゃ、おやすみない」

老人が歩きだす。
その背中に・・・

「本当すいませんでした!」

おれはペコリと頭を下げた。






2005/06/15(Wed)20:23:15 公開 / 麻野まゆ
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