『BRAETH』 ... ジャンル:恋愛小説
作者:茂吉                

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いつからだろう。ぐるぐるぐるぐる流れ作業
 気が付けば毎日毎日同じ事の繰り返し

 御得意様との決まった挨拶
 マニュアル通りの電話対応
 朝起きる時間から家に帰るまでの何もかも
 今の私は小さな世界の小さな歯車
 キリキリキリって一人で小さく廻りつづけてる
 廻る意味なんて考えてられない
 廻ることだけが今の私の存在理由だから

 でも、いつか歯車のネジをキュッて止めて
 何処かに大きく飛び出すことを願ってる

 ただ臆病な私の歯車は、ネジを止めるきっかけをまだみつけていない
  
―VOL0…sabotage?―

 今日の天気予報は晴れ。でも空模様は天気予報で自信満々に「晴れ」と解説していた気象予報士の太鼓判を裏切るようなどんよりとした曇り空。6月の空気とも相まってジメジメと肌に纏わりついてくる湿気が、暑くも無いのに身体を汗ばませる憂鬱な天候だ。肌には良いシーズンと言われるけれど、そんな事より化粧がめんどくさい(去年もこの時期のじっとりとした空気に化粧が浮いてきて、仕方なく直そうとしたらダマになっちゃって大変だったしね。まぁ面倒臭がりのずぼら女だからこその失敗だろうけどさ…)、後ベタベタして気持ちが悪い、と私自身はあまり良いイメージが無い。
 
 そんな憂鬱な日に、私は熱心に仕事机の一部に豚グッズの展覧会場を作成していた。
 先ずバラバラに机の上に配置していた豚のヌイグルミを一箇所に固め、一体一体では気が付かなかった総合的な視覚的ポテンシャルを大きく引き出すことに成功した後、この日の為に買ってきたコルクボードに、今まで集めてきたキーホルダーを1つ1つ見栄えが良くなるように並べてはピンで留め、机に立掛けて確認してみる。
 「うん、この配列が一番惹きたつわね。」
 椅子に座るとヌイグルミもキーホルダーも丁度私の目線に来る見事な配列を達成できたことに私は満足気にうんうん頷いた。
 キィィッ
 軋ませる音を立てながら椅子にもたれ、監督のように腕を組みながら私は、作成した私のためだけの展覧会場を感慨深く見回した。
…眺めれば眺めるほど飾られた豚たちのつぶらな瞳のコラボレーションに、私の顔がニヘラとだらしなく崩れてくる。あーもう!…かわいいなーコイツら!

 平日の昼間、ボスがお出かけするとの事で、その間事務所の留守番を頼まれた私を含め3人の事務員は、主な仕事を午前中に終わらせてしまった事もあり、ボスが戻ってきた時に持ってくる仕事まで待機というあまりにも退屈な時間を迎えていた。
 「さぁて、次は何をしようかな…」
 このようにボスが出かける日は月に2回程あるのだが、私はそのような時いつも机の引出しの一番奥に入れているMY小説を取り出しては読み耽って時間を潰している。というわけで今回「やろう!」と思っていた豚グッズの整理を終えたので、残りの時間は本を読んで潰そうと机の引出しを大きく開けたのだが…
 「あれ?」
 引出しの奥にあるはずの私のMY小説が何故か見当たらなかった。
なんでだろう…誰かが私の机の引出し開けたのかな?と、一瞬懐疑的になったけどすぐに小説の無い理由を思い出した。
 「あー、そういやこの前のボスのお出かけ時に、読みきっちゃって家に持ち帰ったんだっけ」
 そういえばそうだった。今度新しい小説買って机に入れておこうって思っていたのに忘れていましたわ。こりゃ困ったなぁ、そうなると今回はどうやって残りの時間潰そう…。駄弁りは仕事仲間の趣味がバラバラで間が持たないと言うことは、入社時に嫌と言う程味わったし。それに元々私が、気心の知れない人と長く話すのは苦手なんだよね。「何か話さなきゃ」と思うほど言葉が出てこなくて沈黙を私が作ってしまうのが本当に嫌になる。
 「あら、中谷さん。じゃあ小説買いに行って来たらどう?」
誰に対して言うでも無い独り言が聞こえたのか、隣の机で同じく隠していた携帯ゲーム機を取り出して遊びに興じていた私より2年先輩の小山さんが私の方にちらっと顔を向け、さらりと社会人としてとんでもない事を提案してきた。
 「はい?今なんと?」
 私が振り向くと、既に小山さんの視線は携帯ゲーム機のモニターに移っていた。
 モニターには最近何気なしにテレビを見ているときにCMで流れていた「主人公である1人の女性が、彼女を慕っている28人の魅力的な男性達とのロマンスを楽しむ」というコンセプトで作られたゲームの映像が映っていた。会話シーンかな?解らないけど。
そういえば昔このようなゲームのキャラクターについて小山さんに熱く語られたことがあったなぁ、今は攻略する事に夢中になってて逆にそっけないけど、攻略したらまた熱く語ってきそうだな…眼鏡キャラがたまんないとかなんとかってね。私はやった事が無いけど、たくさんの女の子を夢中にさせるゲームであると小山さんから聞いている。
でも、ゲームはゲーム、現実は現実なんだよね。現に小山さんはゲームじゃたくさんの殿方を落とされているみたいだけど、現実では全くそういった良い話を聞かない。
と、ゲームの会話シーンが一区切りついたのか、小山さんは私の方に顔を向けた。
 「だから、小説無かったら中谷さん暇でしょ?どうせボスは2時間位戻ってこないんだから本屋までちゃっちゃと行って買っておいでよ。ねー良いですよね?川上さん。中谷さんが小説買いに本屋に出かけても」
 「ん?あー、いいよいいよ。行っておいでよ。まぁ、なるべく早めに戻ってきて下さいね」
 途中から話を振られた川上係長は読んでいるスポーツ新聞から頭を少し出し、小山さんの流れに乗ったかのように軽い口調で私に外出の許可を出してくれた。
 「いいのですか?形的には仕事中なんですけど…」
 内心こいつはラッキーとも思いつつも、社会的にそのような事までしていいものかと云う葛藤もあり、自分の口からも川上係長に伺いを立ててみた。
 「おう、いいよ。だって実際今することが無いし、気にすることは無いよ。行っておいで、行っておいで。まぁ気にしないからって、そのまま帰られちゃ困るけどね。あはははは」
 「ありがとうございます!じゃあ、ちゃっちゃと行ってきます!」
今、自分面白いこと言っただろ的に少し得意げな顔をしている係長に頭を軽く下げ私は出かける用意の為にロッカーに向かった。後ろで係長の「小山さんー、今の俺の台詞的を得ていて上手かったよな?」と同意を求めている声が聞こえてきて少し苦笑いしてしまった。係長、アレが無ければ良いおじさまなんだけどね。

 本を買ったらすぐに戻るのだし着替えるのは面倒だから、手提げ鞄だけでいっかな?
 それになんだか制服を着ながら出かけたほうが面白いかも。「あれ?仕事中じゃないの」みたいな顔されたりしたら面白いよねー。そこで私が「残念!許可は得てます!」としたり顔しちゃったりしてさ。
 ロッカーを開けながら、悪いことを企んでいる子供みたいにワクワクした気持ちが心を躍らせていた。

 では私、今から仕事サボって外に出まーす!
 
 バタン!
 取り出した手提げ鞄を肩にかけると私はいつもより軽やかにロッカーを閉めた。

2005/06/01(Wed)11:39:44 公開 / 茂吉
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■作者からのメッセージ
はじめに…羽堕様すいません!SSで当分やっていくといっていたのに今回どうも収まりそうに無かったので短編になってしまいそうです。舌の根も乾かないうちに申し訳ありませんでした。で、初の短編ですが、ジャンルがラブロマンスです(笑)恥ずかしさに負けないように頑張って続けていこうと思っています。まだ序章だけですが、これから暫くお付き合いしてくださる方が居られたら茂吉最大の幸福です。ではでは暫くの間どうか宜しくお願いします。

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