『兄弟とマスターのカクテル 【読みきり】』 ... ジャンル:ショート*2
作者:チェリー                

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 いっつもケンカしてばかりの兄弟。ほんと俺と弟は性格が合わない。父さんや母さんが死んだ時だってケンカしてた。まったくいつも弟からはじまってどんどん荒れていく。いつまでも幼稚な弟だ。

 父さんと母さんが死んでから俺が親代わりになって育ててやったが本当にこいつには手を焼かされっぱなしだ。

「俺がいないとお前はやっていけないだろ!」

「違う!俺は一人でもやっていける!親父みたく言うな!」

 こういう感じでよくケンカしてた。一人暮らしをはじめたいという弟。でもそれは絶対無理だろということから始まった。よく1階に住んでいるおばちゃんにどうすればいいかたずねていったよ。おばちゃんも返事には困っているようだった。俺は工場の仕事で弟の学校の金も、生活費もすべて払って自分のやりたいことは二の次にしていた。
 だから弟がなにかやりたいと言うとすごくムキになる。だってそうだろ?俺がやりたいこと我慢してるのに弟はいつまでもわがまま言うんだぞ?
 俺だってやりたいこといっぱいあるさ。将来の夢もリッパなものを持ってたさ。だって父さんと母さんが死ぬ前にだって一人暮らしして専門学校に通おうと思ってたんだ。ただ死んじまったから、俺が弟を守ってやんなきゃいけねぇ。
 さすがに弟に彼女ができたときはムカついたね。だって俺は仕事が精一杯で彼女なんて作る暇なんてかなった。今はつくろうとは思わない。だって彼女に金をつぎ込んじまったら弟が大変になるだろ?

「しっかり将来について考えろよ!」

 いつの間にか弟にはいつもそう言っていた。口ゲンカになると必ずその言葉が出てくる。俺がかなえることができなかった将来の夢。弟には自分の将来の夢をかなえてほしい。そのせいからかな?はぁ、俺も親父みたくなったなぁ。まるでこれじゃあ息子に言う父親だ。
 よく行く酒場でマスターの愚痴をこぼした。マスターはとてもいい人だ。俺のことをよく考えてくれる。俺の愚痴を最後まできちんと聞いてくれてサービスしてくれるんだ。

「弟君はあなたのようにちゃんと成長しますよ」

 いつもそういって特製のカクテルを作ってくれるんだ。マスター・・・・・・。心の友って言う感じだ。しかし弟は俺のように?ていうか俺はしっかり成長してるのか?

「俺ってしっかり成長したのか?」

 だって俺はただ弟を育てるために毎日働いて嫌なことをマスターにぶちまけて、自己中心的な男じゃないか?マスターだってたまにはいい話を聞きたいだろ?だけど俺は毎日弟の世話の苦労話だけ・・・・・・。ほんとムカつくよ!とテーブルとたたいて一度マスターをびっくりさせたこともある。

「ええ、貴方はとてもすばらしい人だ」

 マスターの言っている事は本当なのかあまりよくわからなかった。ただその日のカクテルは一段とうまかったのを憶えてる。

 あれから3年。弟は無事に高校を卒業して、おれもやっと落ち着いた。今では仕事の給料のすこしを貯金できるようにまで余裕が増えた。彼女もできて弟はバイトが決まって俺の仕送りとバイト代で一人暮らし。弟と口ゲンカもしなくて、ほんと毎日平和な日々だ。1階のおばちゃんとよく世間話をして、ほんと弟のせいで精神年齢は50代くらいまでいったようだ。

 そんなある日だ。突然弟から電話があり「話があるんだ。どこかで会わないか?」と連絡が入った。弟とは一年ぶりかな。俺は待ち合わせをあのマスターのバーに決めた。バーで弟とマスターの前の椅子に座り、用件を聞く。また口ゲンカにならなきゃいいが・・・・・・。すると弟はある資料を見せた。

「俺の夢がかなったんだよ!見てくれ!俺が夢見ていたあの会社だよ!」

 その資料には就職の採用通知が。そういえば弟が言ってたなぁ。この会社で俺は頑張りたいんだ。パソコンのなにかとても難しい会社らしいが、その時は俺はそんなの無理無理と言って相手にしていなかった。いつの間にか弟はパソコンの技術を勉強していたらしく、一人暮らしは俺に本気で会社に受けるということを隠していたようだ。恥ずかしいからさ・・・・・・と弟は頬を掻く。
 そんな弟を見て俺は思わず涙を流した。別に反対とかそういう意味で泣いたんじゃない。弟がいつの間にかこんなにも立派に成長していたからびっくりしてさ・・・・・・。弟は何か勘違いをして俺に下手な弁解をする。

「ほら、弟君はちゃんと成長してますでしょ?」

 マスターのその言葉を聞いてただ俺はうなずいた。止め処なく流れる涙。マスターは今日もまた特製のカクテルを差し出してくれた。

「おめでとう・・・・・・!おめでとう!」

 俺は何度も弟の肩をうれしく叩き、喜び合った。バーのほかにいた客も祝福して拍手を送る。弟も涙を流し、兄弟でしばしずっと泣き合った。マスターも客もみんなが涙を流したひと時だった。



2005/05/08(Sun)02:17:24 公開 / チェリー
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■作者からのメッセージ
ふう、ある曲を聴いてたら思いついて書いてみました。テーマは【兄弟】です。なかなか仲良くなれなかった兄弟。しかし、最後には〜という感じです。ご感想やアドバイス、ご指摘等よろしくお願いします〜。

ん〜でましたか〜。ということで修正へ〜。私もなんかこれ変かな?て思ってまして、よくわかんないからレスで反応みよう!とおもいました。予想通り、第一スレ目、貴志川様からご指摘〜。ありがとうございます〜。やっぱりこれで終わらせたほうがキリがいいです♪

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