『勇者』 ... ジャンル:ショート*2
作者:ずっぽぱ                

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 俺は立ち上がった。無論、ただ立ち上がっただけではない。奴らを倒す為に、「勇者隊」に志願したのだ。
 最近になって、人間と魔物の争いは激化してきた。最初俺たちは数の上でも上回っていたが、最近は大勢殺されて数が減ってきている。
 この状況を見かねた我らが王、ゼット様は、精鋭を集めた討伐隊を組織する事を決めたのだ。それに志願するため、俺は立ち上がったのだ。
「よう、お前も勇者隊に入るのか?」
 志願者受付の有る役所へ行くと、体のやたらデカイ熊の様な男が話し掛けてきた。
「ああ、そうだ。あんたもか?」
「おうよ。奴らときたら好き勝手やりやがって、頭きてたとこだ。たっぷりいたぶってやるつもりよ」
 その男はそう言って、よだれを啜るように口からズズッという音をたて、にやりと笑った。その仕草を見て、ああ、コイツは俺の嫌いなタイプだな。と確信した。
 男は薄汚い微笑と共に去っていった。

 翌日、首都ゼテストで、志願者の最終受付や、敵の弱点、有効な武器・戦法などの講習会がひらかれた。生々しい写真や映像つきで、中には途中で吐く者もいた。俺は、何とか耐え抜いた。
 講習会が終わると、一週間後の出発の為に各々、散らばっていった。さて、何をしようかと、ぼんやり立っていると、昨日の熊男に出会ってしまった。逃げたかった。
「おう!やっぱり来てたか。探したぜ。この後一杯どうよ?」
「…………」
 どうやらこいつ、昨日ちょこっと話しただけで俺と友達になった気でいるらしい。こっちとしては、とても迷惑だ。しかし、断る理由が見つけられず、半ば強制的に飲むことになった。
「ここだけの話だけどよ……」
 男はまだ酔ってもいないうちから話し出した。
「俺の仲間に奴らを喰ったことがあるやつがいるのよ」
「なんだと!?」
 俺は正直、驚いた。あんな連中を口にするとは……
「なかなか、不味くはなかったらしい。どっちかって言うと美味いらしいぜ」
「俺は……喰わんぞ」
「はっはっは。別に喰えとは言ってねェよ。ただ、そういう物好きもいるってこったよ」
「…………」
 その後は他愛ない世間話をして時が経った。

 一週間後、ついに俺たち総勢百四十八名は、憎き奴らを滅ぼすため、首都を出発した。
 俺は知っている。ずっと先の山の中に、奴らの隠れ里があることを。遠いが、何のことは無い。三日も走れば着くだろう。ちなみにその隠れ里には、俺好みの女がいる。奴らにしては、すこぶる美人だ。どうにかして、てごめにしたいものだ。一体どうすれば……
 などと考えているうちに、隠れ里に着いてしまった。俺は、その女を探した。俺はちょっと心配な事があった。他の奴らにやられてはいまいか。この里を、逃げ出してはいまいか。俺の姿を見て、ショック死してしまわないだろうか。この愛のあまり、彼女を喰ってしまわないだろうか。
 俺はもう一度、自分の姿を川に映して確認した。なかなか、自分でもまんざらじゃないと思っている。
 引き締まった無駄の無い体。絶対折れなそうな屈強な腕。俊敏な足。よく聞く鼻。よく見える目。何でも切り裂く鋭い爪。何でも噛み砕く頑丈な牙。風になびく、勇ましいたてがみ。
 俺は用意した花束を取り出し、里へ入った。

2005/05/07(Sat)23:19:35 公開 / ずっぽぱ
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