『絶対正義・ヘキサグラム! justice3』 ... ジャンル:SF SF
作者:ロジック                

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・0・

こんにちは!良い子の皆は昨日会ったなっ!悪い子の皆は今日から良い子になると良いっ!私の名は『絶対正義・白轟』である!『ハクちゃん』と呼んでくれて構わない!
 私は世界企業・ヘキサフィーム』の所有する、最先端化学の結晶:人工知能の極みたる存在である!ここでは前回のあらすじを、私の超高度演算知能電子回路をフル稼働させ、君達に必ず「ハラショーッ!」と言わせられるあらすじを立ち上げて見せよう!!



『六束水無(むつづかみずな)』は、ロボットアニメマニアの父親と、特撮マニアの母
親が統括する両会社『六束製薬』『世界企業・ヘキサフィーム』の御曹司たる、薄幸少年である。

『個体識別コード:AMF-pro01-hexagram;ALKALI』なる、人工少女『アルカリ』の起動目的は『世界企業・ヘキサフィーム』の御曹司、『鍵』なる存在の六束水無の擁護である。

その日、六束水無は悪趣味両親が勝手に決めていた『養子・義妹』を向かいに行くべく、彼がいつも使う地方鉄道ではなく、国鉄の駅に向かって歩を進めていた。

その日、六束水無の親友たる『竹柳隆(たけやなぎたかし)』こと『チック』は、彼が(学校では禁止されている)アルバイトで貯めた金を使い、ギターを買いに出かけた。
 その帰り道、地鉄の電車の中で、彼は半裸の少女を目撃する。半裸少女こと『個体識別コード:AMF-pro01-hexagram;ALKALI』はチックのことを知っており、自分を水無の家に連れて行くよう要求するのだが・・・



 どうであったかっ!?「ハラショーッ!」はいけそうであるかっ!?富に期待したいところである!
 さぁ、今回はようやく『姫』と『鍵』が出会う時である!私の活躍も、もう、すぐそこだ!そこにも富に期待である!
 それでは、レッツアクションッ!!


・1・

 重い。
 なぜギターなど買ってしまったのだろう。
 『竹柳隆』こと『チック』は、既にカウントレスの領域に達した呪詛を唱える。
 ちなみに、今の彼は、学生ズボンに黒色のTシャツという、夏にはふさわしくなさそうな非常に熱吸収の良い姿で、肩からエナメルバッグとギターの梱包されたダンボール箱を引っさげて、帰途の路についている。
 チックが着ていたであろう『清音学園』の夏服である「ちょっとオシャレなライン入り」のシャツは、彼の隣を歩く、「実に人間らしくない」少女が着ている。
 初夏といっても夏は夏。暑いものは暑いのである。
 汗で体にぴっちりと張り付いたTシャツに、隠しきれない嫌悪感をあらわしながら、チックはひたすら自宅へ向かう。

 あの後、電車を降りたチックは、それこそ彼の人生の中でおそらくトップだったのではないかと思われるほどの速度で、ダッシュを開始した。
 相手は女なんだから。
 俺は男なんだから。
 絶対に振り切れると信じていたチックは、その鳥滸なる自負を、粉微塵された。
 スーパー男気を失い、尚且つ男としての『最低限のプライド』をも失ったチックは、人間離れした速度で追いついてきた半裸少女に、窃盗がバレて知り合いの家を尋ねては断られ終いには誰も頼ればよいような者がいないことに気付きなんとかサツをやりすごせないだろうかと考え港の廃工場の奥隅で鼠と戯れつつじわじわと近づく逮捕のときを震えながら待つ無職の男(37)のように電柱の影でひざを抱えうずくまっていたところを、捕縛された。
 とりあえず、手術着のような薄手の衣を纏ったままの少女を連れていては、本当にサツから逃げ惑うことになると考えたチックは、己の上着を脱いで、半裸少女にこれを着せてやったのだ。
 
 あの速度は人間のだせる速度じゃなかった。
 この少女は果たして本当に人間なのだろうか。
 人間じゃないのかもしれない。
 現に、今隣を歩いていても、汗水一滴すら垂らさない。
 人間じゃなかったとしたら・・・・・・なんだ?

 馬鹿ばかしい。
 俺は文芸部員じゃねぇぞ。
 SFは嫌いなはずだろ?隆ちゃんよぉ。
 過去にタイムトリップな車よりも、トリック満載のスパイカーが好きなはずだろ?
 
 よし。

 そうして、チックは砕け散ったスーパー男気を、ナントカして枠組みだけでも組み立てようと試みる。
 「あの・・・さ・・・」
 隣を歩く少女に声を掛ける。
 人形のように顔の筋肉を全く動かさない少女は、人間のように手足を動かし、前に進む。
 「なんでしょうか、水無様の親友・竹柳様」
 ぐるり、と顔だけこちらに向ける。歩く早さは変わらない。
 美少女だ。と、男気を再構成中のチックの脳は判断する。
 「いや、なんか、あれだよ、・・・・・・っそう、水無に会いたいんだろ?」
 「はい」
 「で、どうすんの?」
 「どうするとは?」
 「えっと・・・、水無にどんな用事があるのかなーっ・・・・・・て」
 「その質問に関しては、ヘキサグラムプロジェクトの実行委員会の了承パスを得ている人間、もしくは六束家にしか許可されていません。竹柳様は水無様の親友であるということでそれなりの態度を取れ、とマニュアルにはありますが、了承パスを得ている、という情報は検知されませんでした。答えられません、と返答するしかありません」
 「あ・・・・・・そぅ」
 
 意味不明だ。
 やはり人間じゃ無いのだ。
 暑さではない、別の感情によってできた汗が、こめかみからのど仏までつたう。
 恐怖だ。
 意思疎通だできないナニカ。人ではないのに、人の思考を持つ人ではないナニカ。
 自分の隣を、正体不明のナニカが歩いているという、そんな恐怖。
 自分も、水無に負けず劣らず、薄幸だ。
 やっとできた男気のかけらを、大事に大事にしつつ、これが目的地まで持てば良いのだが、とチックは願う。
 耐えろ、俺。


・2・

 地鉄の駅を降り、六束邸へと水無は向かった。
 六束邸が『六角豪邸』と呼ばれているのは知っていた。その形状が、そう呼ばせる所以だろう。正六角形を模したその家は、父自らが提案した形である。曰く「国防総省よりも一辺と一頂点多いんだ。ウチの方が凄い」
 六束邸が見えてきた時、改めて嘆息する。コレが水無の数少ない日課である。
 広すぎる家は、身の処し方に困る人間もいる、ということを、水無は高校に入るまで知らなかった。
 
 大勢の家臣に見守られ飯を食うことが当たり前と思っていた皇帝陛下は、今の世の「一人っ子」の食事をどう思うのだろうか。
 「皇帝陛下いかがでございますか?」「今日の鶏肉は、シュニパール領で特産しておりますハーブ鶏で・・・」矢継ぎ早に繰り出される家臣の説明。かいがいしくワインをつぐソムリエ。料理が出るたびにスプーンとナイフを替えるメイド。
 「チンして食べてね」「今日は帰りが遅くなります」ラップのかかった冷めた料理。電灯をつけると料理から離れる蠅。電子レンジの低くうなる声。
 つまりは、その関係の略図が、水無とチックの関係なのだ。
 金持ちにしか分からない、孤独。
 人と違うということは、程度の問題である。
 幸せとは、人並みになれてはじめて実感する。
 人並みより、上でも下でも、ダメなのだ。
 そう、水無は思う。
  玄関に付けば、もうそこから六束水無ではいられない。
 そこからは「『六束製薬』『世界企業・ヘキサフィーム』の御曹司」として振舞わなければならない。
 ここは『六束水無の家』、ではない。

 「「「お帰りなさいませ!!!」」」
 大勢のメイドに出迎えられながら、それでも水無の表情には動揺のかけらも見受けられない。それが『御曹司』としてあるための姿なのだ。
 「ただいま」
 「坊ちゃま、お帰りなさいませ」
 執事の六衛(ろくえ)翁は、実にハイスペックだ。あらかたの家事は、彼一人でもこなせるし、思いつく限りの資格を取得しているはずだ。
 「分かってると思うけど、すぐに出かけるから」 
 「義妹君をお出迎えに?」
 「そう」
 鞄を下ろし、制服を着替える。まるでそれが当たり前のように、水無が、脱いだ服をメイドの腕に掛けていく。
 それが当たり前なのだから、しかたがない。
 「車を出しましょう」
 六衛がそう言うと、間髪いれずに水無は応える
 「六衛っ」
 「・・・・・・申し訳ございません」
 そして、六衛は恭しく半歩後ろに下がる。

 そうなのだ。
 彼はこの家に条件を課している。
 自分が『御曹司』として振舞う代わりの、リターンだと考えれば良い。
 一つ・自分が行動するときは、自分の力でそれを行う。
 一つ・自分の交友関係に口を出さない。
 そして、最後の一つ。
 自分が望んだとき、いかなる場合においても、自分の単独行動を許す。
  その三つの条件が、憲法のごとく、水無を固く守っている。
 それが、彼が今までの人生17年をかけて、親に何とか認めさせた全てである。
 だから、毎朝遅刻する。
 だから、チックと笑いあえる。
 彼なりに考えた、彼の『人並みの幸せ』を保証する、三つの柱。
 これだけは、守り通す、通させる。
 金持ちであるが故の足かせを、何とか緩めるための方法。
 薄幸少年が、どこまでも薄幸でいないための。
 幸せの方法なのだ。

 再び玄関から、外へと歩き出す。
 少年らしい、少年の服で。
 そして『六束水無』として、義妹を迎えるために。
 単独行動を開始する。

・3・

 『竹柳隆』ことチックは、六束邸への最後の角を曲がった。
 期待にそって、彼の男気は何とか持ちこたえたようだ。そのことに対して、チックは安堵する。自分は腰抜けではなかった。やはりスーパー男気は、自分にこそふさわしい。
 自然と足取りが軽くなる。この悪夢のような時間がようやく終わる。
 チック脳内では、明日学校で水無をとっちめ謎の半裸少女の正体を詳しく吐かせその上で自分がいかに辛い思いをしたかを語り楽器店で最高級のギターオプションを買わせ向こう一週間は水無に学食の最高級メニューである『フカヒレアワビラーメン』の金を払わせるこれっきゃないな俺サイコー、という幸せ映像を放映している。ちなみにこのフカヒレとアワビは、ゼラチンと無名の貝で代用されていることをチックは知らない。
 すると向こうから幸せが歩いてきた。水無である。
 僥倖だ、とチックは歓喜する。
 まずは、この少女について大まかな説明を求めよう。その次に、家に帰ってギターの練習をする。これで連中との関係はプッツリだ。カモン、俺の日常。
 
 そのときだ。
 全くのイレギュラーイベントだった。
 隣の半裸少女が、
 動いた。

・4・

 その時、水無は自分が義妹の顔を知らないという根本事実にようやく気がついた。
 もう一度六束邸に帰って、何か資料になりそうなものを探そうと思った時だ。前方からチックの姿が見えた。肩から新品ギターの入っていると思わしきダンボール箱を提げていることから、彼が楽器店に寄った帰りなのだとわかった。「(金づるであるお前に)オプション(を買わせるために)が欲しいから、お前と一緒にまた機会を改めて」みたいなことを言われるかと想像していたが、それこそ自意識過剰のようであった。
 と、チックの隣には奇妙な格好をした少女がいる。
 下半身は手術着のような薄い布で覆われ、安物のスカートのようだ。
 そして上半身は、清音学園の男子用のシャツを身につけている。
 チックの彼女か?
 そうであれば既に耳にしているはずだが、彼に彼女がいるならば、『男ポイント』などと言うみみっちぃ制度を己に設けることはしないであろう。
 却下だ。
 だとすれば、誰だ?

 そのときだ。
 まったくの予想外行動だった。
 チックの隣の少女が動いた。
 水無の元へと。

・5・
 その時、『世界企業・ヘキサフィーム』が所有する地下施設にて、世界最高峰と言われ、しかし今後50年は『表の世界』に現れることはないであろう『人工知能・白轟』は時流原子の強大な移動を観測した。
 【これは・・・】
 彼の持つ超高度演算知能電子回路は、この状況が示す、一つの事実をはじき出す。
 【そうか・・・、そういうことなのか!】
 機械の知能が示す感情。それはプログラミングされたものかもしれなかったが、確かにそれは、彼自身の感情である。
 【はははっ!心地良いっ!なるほどなっ!時の流れを歪ます鍵!運命を紡ぐ姫!彼等がついにっ!ついにっ!!】
 悦びのあまり、彼は『身を起こす』。
 彼の『身体』の駆動回路が、今までに無い過敏な反応データを示す。
 『白轟』を管理するエンジニア達が慌てて制御に入るが、そのようなものは彼に全く効をなさない。
 意志電子が全身を駆け巡り、彼に一つの指令を下す。
 祝え。
 ひたすらに祝え。
 世界が混沌より目覚める日だ。
 自分のアイデンティティが、ようやく確立する日なのだ。
 これを祝わずに、何を祝おうか。
 二千年余りをかけ、再び現れたメシア。
 前のメシアは『キリスト』と名乗った。
 此度のメシアはなんと言う名であろうか?
 【きたぞ!ついにきた!!パンドラの呪いを解く真なるメシア!カオスを払拭する勇なるメシア!そなた等は、たごうことなき『神の御子』なり!二人で一つ!一人で二つ!はははっ!さぁ、共に世界を救おう!悪と名乗るものは全て救おう!我が主人達!!】
 そして、『白轟』は完全起動を果たす。
 かつて『ロンギヌス』と呼ばれた、神の兵器。白き断罪。気高き天使王・ミカエルの転身。
 この世界で己の定義を守るための、鋼鉄の身体。それでも良い。彼等が、メシアがいれば、鋼鉄もイージス甲に変わろう。
 人型を模した白き偶像。
 神を模した巨人。
 その名を『絶対正義・白轟』と呼ぶ。

・6・
 『個体識別コード:AMF-pro01-hexagram;ALKALI』は、今までにない感情プログラムを発動した。
 六束水無。彼の姿を視覚素子が認識した瞬間、擬似人型フレームが勝手に稼動していた。
 
 運命。
 
 そんな曖昧な定義しか持たない単語を、彼女は信じているわけではないが、この状況は、その単語が適用される数少ないものの一つではなかったか。
 一歩一歩、着実に近づく。
 六束水無の元へと。
 この感情をなんと表現しようか。
 適当な単語を、語彙ライブラリから検索する。
 検索・・・・・・終了。
 これだ。
 悦服。


 六束水無は、目の前に迫り来る少女の姿を、とても穏やかな気持ちで迎えていた。
 既視感。
 以前にもこのようなことがあったのではないか。
 幾度と無く繰り返された当たり前の行動。
 遙昔に体験した当たり前の行動。
 これが、普通。
 そう思えるほどの、少女の行動。
 そして。
 
 その感覚は、少女の華奢な身体を介して、水無に飛び込んできた。

・7・
 
 その日、竹柳隆ことチックは、本日二度目、彼の人生において三度目の、脳の処理機能の限界に達した。
 一度目は、彼が中学二年で、初めて『ああいう』ビデオを見た時。
 二度目は、つい先ほどまで、彼の隣を黙々と歩いていた少女を、電車の中で初めて視界におさめた時。
 そして、三度目が今だ。
 
 半裸少女が、水無に抱きついた。
 水無が、半裸少女を抱きとめた。

 白色に染められゆく彼の脳みそのなかで、最後の言葉が紡がれる。
 「あぁ・・・、俺、やっぱ小物だわ・・・」
 スーパー男気は程遠い。
 そして、竹柳隆ことチックは、気を失った。

 
 ちなみに、清音学園の生徒手帳は『不順異性交遊は慎むこと』と訴えているはずである。
 チックの生徒手帳は、チック自身、どこにあるかも分からない。

・8・

 その日、時流原子が、一人の人間の少年、そして、一人の人工の少女を中心に激しい活動を見せた。
 それは、二人の再会を祝うような、もしくは、歓喜のダンスのような。
 世界が、力一杯笑っているような。
 
 生命賛歌であった。
 
 
 
 

2005/05/01(Sun)03:01:11 公開 / ロジック
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■作者からのメッセージ
こんにちは。さっそく感謝の言葉を。

●京雅さま
 はじめまして。お褒めの言葉身にしみます。誤字が多いのは自分が至らない人間だからです・・・。アホの書くバカな文章だと思ってくらはい。

●7COMさま
 第三者視点は、自分の好きな書き方ですたい。主人公視点だと、他の人物の心情が書きづらいのです。
 小ネタも好きです。どうしても混ぜてしまう自分を、軽いヤツだと思ってください。

●甘木さま
 誤字すんません。バカなので気付かなかったんです・・・(泣)。以後留意して参りたいと存じます。
 国鉄は大変ですねぇ〜、今。自分も利用者なのであんまり悪く言いたくないでスけどね。
 なにわともあれ、ありがとうございました。

 ぶっちゃけて言うと、ロボットものです。まだまだロボットは出せそうに無いのですが、そういうのです。 
 ちょいオカルト入りです。
 さぁ、次回からは飛ばしますよぉ〜。アホ丸出しでいきます!!
 

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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