『「交差点」 -fourth cross-』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ユズキ                

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「交差点」

-first cross-

 変化を望んでいたオレと
 不変を望んでいたオマエ。
 性格から何までもちがうオレ達の道が交わったのは偶然?
 それとも必然?
 その答えは・・・・・・。
 何か起こんえねぇかな・・・・・・。
 事件とか・・・・・・。
 オレ、神楽葵(かぐらあおい)十六歳は月曜日の真昼間からそんな物騒なコトを考えていた。
 ちなみにオレは今町外れの寂れた誰もいない公園のベンチに寝転んでいる。町から少ししか離れていない場所にも関わらず、ここは誰もいなくとても静かだった。
 もちろん学校には通ってるし、別に学校が創立記念日とかで休みというワケでもない。
 要するにサボリだ。
 言っとくけど学校に行きたくないとかいうワケでもない。
 ただ、あそこにはオレのしたいコトもする意味も見つけられないから。
 友達と遊んで笑ってても、結局は表面だけ。
 そんで外に出る。だけど外に出たところでしたいコトは何もない。
 結局オレは一人でいつもココに来ている。
 つまんねぇの。
 オレは空を意味もなく見上げた。こんな時でも空は変わりなく青い。
 あるかなしかの風がオレの茶に染まった髪を撫でていく。
 オレは眠ろうかと目を瞑ろうとしたが、
 ドゴン!!
 誰もいない公園に突然響き渡ったスゴイ音に瞑りかけた目を見開き、ガバッと体を起こした。
 「何だ?今の音、路地裏から?」
 そのスゴイ音は公園の奥の方から聞こえた。
 何かありそう!
 オレは内心ワクワクしながら、もちろん路地裏へと向かった。

 「おっ、ケンカか?」
 オレは様子が覗けるくらいの場所で隠れていた。
 オレが向かった先では二人の男がケンカをしていたようだった。
 かなりヒドイ殴り合いの・・・・・・。
 「何かマズくねぇ?」
 それもかなり。
 手前の顔は見えないが白い髪の男(だからといって老人ってワケじゃない)が奥のいかにも「ヤ」の付く人でーすって感じの男を一方的に殴っていた。
 「ヤ」な男の顔からは血がダラダラと流れ出ている。あと胸からも・・・・・・。
 あのままじゃ死んじまうんじゃ!?
 もし見つかったらオレも・・・・・・。
 オレはそのときを想像してサーッと全身から血の気が引いた。
 事件は大歓迎だが出来れば殺人の被害者ってーのは遠慮したい。
 バスジャックとか何だとかならいいんだけどな。
 よし、逃げよう。
 あの「ヤ」には悪いけど巻き込まれるのはゴメンだ。
 オレは後ろをサッと向いて静かーに逃げようとした。だが・・・・・・。
 カラン。
 ありゃ?
 オレは足元にあった空き缶を蹴飛ばしてしまった。
 後ろで争っていた音が消え、シーンと静まり返る。
 オレは重い首をゆっくりと後ろに向けた。
 さっき「ヤ」を殴っていた白い髪の男がこっちを見ている。
 「は、ハロー」
 ・・・・・・我ながらマヌケな挨拶だ。
 「ヤ」はその隙にちゃっかり逃げてるし。
 一人だけ逃げるなバカー!!
 気が動転してもはや自分が何を考えてるんだか分からない。
 白い髪の男はどんどんとコッチに近づいてきている。
 もしかしてオレってばスッゴイぴんち?
 逃げるべきかも分からず、オレは男の顔をジッと見ていた。
 その男の顔はとても整ってて、ってアレ?どっかで見たコトあるような?学校に確か・・・・・・。
 ハッ!こんなコト考えてる場合じゃなかった!
 オレが悩んでる間に男は目の前まできていた。
 男の手がオレの首にかかる。
 マジで?
 男の手に力が込められた。
 一気に首が押し潰されそうだ。
 あー、オレ死ぬのかなぁ?なーんもない人生だったな。
 オレは死を覚悟して目を瞑った。
 なぜだか「死ぬ」というコトが少しも怖いとも何とも感じなかった。
 怖くないって言うと何か違うような気がするけど。ただ、今そう言った状況になってるのが自分という感じがしなかった。
 明日の朝刊とかに載っちゃうのかな?とか余裕に考えていた。
 ただ、呆然と「死ぬのか」と思った。
 しかし、いつまでたっても死は訪れず、代わりにバタッと何かが倒れる音がした。
 オレはパチリと目を開けた。
 オレの足元にはさっきの男が地面に突っ伏して倒れていた。
 「何だか知らないけど・・・・・・。危機一髪?」
 オレはへたりと汚い地面に座り込んだ。
 コイツ一体どうしたんだ?
 「!?うわっ!?」
 オレはそいつを見つめていきなり声を上げた。
 倒れている男の髪が少しづつ短くなり、肩まであった髪が首から少し程度の長さになり、白かった髪は金へと変わった。
 何が起きたんだよ〜?
 オレは怖いもの見たさアンド、興味で男を正面にひっくり返して顔を見た。
 「コイツって・・・・・・」
 さっきもこの顔どこかで見覚えあるって思ったけど・・・・・・。
 「何でこんなヤツが?」
 オレの見た顔は確かに知っている男だった。いや、きっとオレの通ってる学校の中で知らないヤツはいないだろう。言い切ってもいい。
 倒れてるコイツ、名前は確か「向坂空露」(こうさかくうろ)IQ180以上の超天才で勉強はもちろん、運動能力までもハンパじゃない。その上、スッとした目鼻立ちに薄い唇、背が高く足が長くて小さな顔という、何から何までも完璧というオレとは全く正反対のヤツだった。
 ハッキリ言ってオレはコイツのコトは何とも思ってなかったけど・・・・・・。
 だけど、その優等生がこんな真昼間に「ヤ」みたいなのに暴行を加え、何より姿が変わった。
 「コレって大事件?」
 オレはニパッと一人明るく笑う顔がしばらく直らないくらい嬉しかった。
 退屈な毎日から抜け出せるような気がしたから。
 「よーし、レッツゴー!」
 オレは向坂を担ぎランランと家へと向かった。

 「それにしてもコイツどうなってるんだ?」
 オレは向坂を部屋のベッドに寝かせ近くのイスからその顔をジッと覗き込んでいた。
 まだ夕方だったから誰も家にいなくてラッキーだったな。ま、どっちみち今日も返ってこないんだろうけど。
 「ん・・・・・・」
 どうやら、向坂が目を覚ましたらしい。体を起こして辺りを見回していたが、オレを見つけた途端に無表情になった。
 「よ、おはよう」
 オレの挨拶に向坂は全く反応せず、オレの様子をキレイな金色の瞳でジッと見てるみたいだ。
 何かアレだな。いつも学校で見かけたのとは明らかに様子がちがうよな。
 いつもは他の生徒(一年から三年までの女子、男子)はもちろん、先生とかにまで話してるときもニッコリ笑って愛想いいのに・・・・・・。
 今のコイツはキレイな顔で無表情な為、近寄りがたさ200パーセントって感じだ。
 ここ、オレん家。覚えてるか?オマエ倒れて」
 「そっか、ありがとう」
 向坂はオレの言葉を遮りお礼を言ってきた。その顔はいつもの学校で見かける笑顔だった。
 オレもつられて笑い返すが、向坂の次の行動と言葉にオレはギョッとさせられるコトになった。
 「あの、向坂さん?」
 オレはまたもや首にかかっている手を見てから向坂を見上げる。
 ありがとう宣言の後に向坂はもの凄いスピードでオレの体を壁まで飛ばし、押さえつけた。
 その時間約3秒。
 またかよ〜。
 オレの額に冷や汗が浮かぶ。
 「俺の力、見たんだろ?だったらもう忘れろ」
 向坂の目は恐ろしいほどキレイな金だった。髪も白がかってきている。
 「・・・・・・オマエの力って一体何なんだよ?」
 「君には関係ない。これ以上詮索するようなら消しますよ」
 喋り方と笑顔はいつもの向坂だったが、今の状況ではその笑顔がなおさら怖い。
 マジだ。
 オレはそう思いコクコクと頷く。
 すると、向坂は手を離しそのまま窓から外へと出ていった。
 「おい、ここ二階!」
 オレは焦って窓の外を覗くが外は暗く、向坂の姿は見えなかった。
 おいおい、家の周りには木も何もないぞ?
 オレはしばらく呆然と外を見ていたが、しばらくしてそのまま後ろにあるベッドに倒れ込んだ。
 何かイロイロあったな。
 殺されかけて、殺そうとしてたヤツが実は向坂で。髪と目の色が変わって・・・・・・。
 「詮索するな、か・・・・・・」
 詮索したら殺すとも言われた。
 だけど・・・・・・気になる!!
 うっし、明日アイツに話聞こうっと」
 どうせ今のつまらない日常を送るより、ちょっとぐらいスリリングな方がいいよな。
ちょっとじゃないかもだけど・・・・・・。
 オレはそのまま楽しい気分で眠りについた。

 -second cross-
 
 「おっはよう!」
 「・・・・・・」
 オレの突然の出現により向坂も一緒に話していた女子も固まっていた。
 向坂のは驚きよりも嫌悪の方が大きいみたいだけど
 「向坂君。こんな人とお友達なの?」
 取り巻きAの嫌味発言。
 こんな人ってどういうコトだよ?
 確かに優等生のコイツに比べたらオレはかなりの劣等性だけどさ。
 「ああ、少しね。僕は少しこの人と話すからちょっとごめんね」
 そう言って女子に話しかける向坂はスッゴク甘い笑顔でお取り巻き達はぽーっとなってしまって何も言えなくなってしまっている。
 さあ、行こうとオレに声をかけ向坂は階段の方へと歩いていった。オレもその後をおった。
 な、何か、背中に尖ったものが突き刺さってる感じがするんですけど・・・・・・。
 後ろを恐る恐るチラッと振り返るとさっきまで向坂にぽーっとなっていたとは思えないほどの、まるで親の敵でも見るような殺意のこもった目でお取り巻き連中がオレを睨みつけていた。オレは急いでその場から逃げるように階段を駆け上った。


 「い、いい天気だね?」
 「・・・・・・」
 「こ、こんなに天気がいいと眠くなるよね。アハハハハ、あはは・・・・・・」
 シーン。
 きっ、気まずっ!!
 屋上についてからまだ10分。しかし一人喋り続け、その上目の前にいる相手は何も返してくれないというのは、かなりキツイものだと知った。
 何だか、ギャグがすべった時の芸人さんの気持ちがよく判ったよ。
 とりあえず語り合う前に少しでも仲良くなれるといいなぁとか考えてましたが。あ、無理ね?そうだよね。無理だよね。アハハハハ、はぁ。
 とりあえずどうしたもんかなぁ。無表情の向坂を見つめて考える。向坂は屋上に着いた途端からそんな感じで一ッ言も!口を閉ざして喋らない。さっき廊下で愛想振りまいてたヤツは一体どこの誰だったんでしょう?
 もう、いっそ単刀直入に聞いちまうか?でもさすがにそれは、なぁ。何かに包(くる)んで。包んで・・・・・。えっと、
 「オマエの力って何なの?」
 ・・・・・・あ、アレ?コレって包んだって言うのか?むしろ、超直球?
 えーっと、ま、マズった?い、いや、とりあえず向坂の反応は?
 オレがキッと向坂のほうを見やると向坂はいきなりのコトに驚いているような、呆れているようなな表情で固まっていた。
 うわぁ、もしかしても、しなくても大失敗?
 アハハハハハハ・・・・・・。ど、どうしましょう!?
 「なら教えてやろうか?俺の力」
 オレが慌てふためいてキョロキョロと視線を動かしていると、少し考えていた様子で下を向いていた向坂がいきなり話を切り出してきた。
 え、何?教えてくれんの?何で?
 教えてやるから近寄るなってコトなのか?と思ったが、オレはコクリと軽い気持ちで頷いた。
 オレが頷いたのを見て向坂が話し始める。
 「俺のこの力は科学者によって創られたものだ。人を殺すためにな」
 「?」
 突然の話にオレの頭はついていかず、頭の中が?でいっぱいになる。
 しかし、そんなオレは置いて向坂はどんどん話を進めていく。
 「正当な法では裁けない。そいつらにとって邪魔な奴を殺すために俺は創られた」
 ・・・・・・何?殺しのためだけにコイツは、向坂は創られた?
 「何それ?冗談?」
 「お前も見ただろ?俺が仕事してるところ。髪の色、瞳の色変わって嫌な力使ってたところ」
 確かに見た。向坂にヤラれてたヤツすごいたくさん血が出てて・・・・・・。それに、家で俺のコト貼り付けたときの異常なまでの速さ。
 「俺の体は身体能力から知能まで最大限まで引き伸ばされてる。要は化け物と何ら変わらない」
 自分のコトを化け物と称す向坂の顔がオレには少し寂しげで何か諦めているように見えた。
 「でも、化け物って・・・・・・」
 確かに頭の良さも身体能力の良さも、人より倍以上優れているのは知ってる。
 けど、「化け物」何てコトはないと思う。
 オレは慰めたかったのか、それについて否定しようとしたのか言葉をつなごうとしたが上手い言葉が見つからない。
 「俺が初めに殺したのは俺を造りだした母親だった」
 しどろもどろになっていたオレの頭に向坂の言葉が突き刺さった。
 母親を殺した?
 向坂が?
 「物心ついたぐらいの頃、俺の力が暴走して、気づいたときには血の海だった」
 向坂は淡々とまるで人事のように話していた。
 ツライコトであるだろうに、イヤなコトであるだろうに・・・・・・。
 「オマエ、変わりたくないの?」
 気づいたらそう口にしていた。
 向坂はその言葉を聞いて唖然としていた。
 そんなに驚くコトだろうか?
 オレはポカンとした向坂の顔を見つめたまま続けた。
 「オレは変わりたい。変えたいんだ、今を」
 オレがニッコリ笑って言ったのに反して向坂の表情は益々硬くなった。
 「・・・・・・変わるのがそんなにいいコトか?」
 少しの間を置いてから向坂が逆にオレに聞いてきた。
 「オレにとってはね。毎日の同じくり返しはもうイヤなんだ。オマエは?オマエはそれでいいの?」
 「俺は今のままでいい・・・・・・」
 向坂はボソボソと言った。
 その向坂は今まで見たことのない弱々しく消えてしましそうな瞳をしていた。
 「向坂?」
 しばらくたっても俯いている向坂が心配になりオレは声をかけた。
 すると、ハッと気づいたように、
 「気は済んだか?俺は本当にお前くらい軽く殺せる。分かったらもう、俺には近づくな」
 と付けたし、向坂はサッサと校舎へ入っていってしまった。
 オレはそれを目で見送り、やがて向坂の姿が見えなくなってからその場に座り込んだ。
 ――あんな想いはもうしたくない・・・・・・。
 向坂が今のままでいいと言った後、微かな声だったがそう聞こえた。
 あんな想いって一体何なんだよ?
 オレは目を瞑り少し考えたが、アイツの気持ちなんか分かるワケないからすぐに諦めた。
 正当な法では裁けないやら何やら分かんねぇけど。アイツが冗談言っているようには見えなかったし、アイツが創られたってのは本当なんだよな。それで変な力を持たされて、その力で親殺して・・・・・・。
 さっき、アイツは軽く話してたけど人殺すために作られて生まれてきたなんて、どんな気持ちなんだろうな・・・・・・。
 「変わりたいって、本当に思わないのかな?」
 オレは顎を膝に乗せる。
 変化を望まないっていうより、望みたいけど出来ない?
 でもそれも結局いくら考えても分からないのだろう。
 オレは考えるのを諦めゴロンとそのまま寝っ転がった。
 コンクリートの地面が少し冷たい。
 どうすっかな・・・・・・。
 このままここにいても意味ないしな。今日は授業出てくか。
 オレは立ち上がり背伸びをして教室へと向かった。

 「おい、オマエってばあの向坂と話してたって本当なのか!?
 教室に入った途端、オレの友達の一人が興奮気味に話しかけてきた。
 丁度休み時間だったらしく、クラス全員がいつも通りグループ同士で固まり話をしていた。
 もっとも、オレが教室に入ってくるまでだったが。
 向坂の力は絶大だな、と本気で思う。
 オレと向坂が一緒にいたっていう噂(まあ、本当だけど)はとっくに全校中に広まってるらしかった。
 どおりでここまで来る間みんなオレのコト見てヒソヒソやってるワケだな。
 案の定、今は教室中の視線がオレに集まる。
 「ああ、話したぜ」
 「何、話してたんだよ?」
 オレの周りにはクラスのほとんどの連中が集まっていた。
 ハッキリ言ってオレは友達が多い。本当に単なる友達でしかないけど。
 「勉強のコツとか?」
 「オマエ勉強する気なんかないだろ。それよりよ・・・・・・」
 アハハハハ。
 オレは友達と一緒に笑う。
 でも別に楽しいワケじゃなく合わせて笑う。
 噂やハヤリのコト。色々話して、それをくり返して・・・・・・。
 何が楽しくてオマエらは笑うんだ?それともオレと同じで他人に合わせて笑ってるの?
 いつのまにか身についてた世の中上手く生きてく方法。
 適当に話合わせて、笑って。適当に毎日をくり返す。
 楽しいって本当に感じることもたまにある。
 別に自分が不幸とも思わない。
 だけど、何か足りない。今のままじゃ、生きてるんだか死んでるんだか分からない。
 だからオレは変化を求める。日常からの変化を。
 向坂は・・・・・・。
 アイツからも似たものを感じた。
 気を許しているようでいて心に壁を造って、それ以上は他人を踏み込ませない。向坂の隙のない笑顔にオレはそう感じた。
 オレは変わりたいと思う。
 だけどアイツがそうじゃないならそこまでだ。
 アイツは赤の他人。そこまで心に踏み入るコトはしてはいけない。
 そのくらいのコトは分かってる。
 「おい、葵。どうしたんだよ?」
 友達の一人に方を揺すられオレは現実に返ってきた。
 つまらない現実に。
 「イヤ、なんでもない。ところでさ・・・・・・」
 オレはまた他愛のないいつもの話に戻る。
 そして笑い、時間は流れていく――。

-kosaka kuro-
 
 ―変わりたい。
 さっき屋上でヤツが言った言葉がヤケに響く。
 変わりたい。アイツも同じことを言っていた。
 何年ぶりだろう、アイツのことを思い出したのは。
 あの男はそっくりだ。彼女「ミイナ」に。
 顔が似てる訳じゃない。
 意思の強い瞳。俺とは違う太陽みたいな心。
 それでいてどこか弱さが見え隠れする。
 似ているからこそ危険だ。
 俺は俺でいられなくなる。
 怖いぐらい惹かれていく。
 あのときと一緒だ。
 またくり返したくはない・・・・・・。
 ピピピピ。
 携帯が新たな指令が入った事を告げた。
 俺は場所を確認しそこに向かう。
 俺は戻りたくない。変わりたくはない。
 またあんな想いをするぐらいなら、
 「変われなくていい・・・・・・」


 今日はどこ寄ってくかな。
 オレは放課後また街の通りを歩いていた。
 ちなみに時間はp.m4:00ぐらい。
 今日もどうせ家にはダレも帰ってこないんだろうし、何時までいるかな・・・・・・。
 ハッキリ言って家はオレにとって寝て、朝準備をするためだけのところになっている。
 いつ帰っても怒られる心配もない。
 こんな生活、いつから続いてるんだろう。
 ふと思い起こすがせいぜい長くても6年くらいだ。
 17年間生きてきた中の6年。その6年間の方が残りの11年間よりもスゴク長いことのように感じる。
 「あー、もうダメだ、ダメだ!」
 オレはどんどんと暗闇へと落ちていきそうな気分を振り切るため顔を横にブンブンと振った。
 とにかく今は今を楽しむコトだけ考えよう。
 オレはそう思い直ししっかりと視線を前に向けた。
 するとさっきまで賑やかだった様子とは全くちがう、廃ビルが立ち並び薄暗く静かな光景が目の前に広がった。酒と廃棄物とが混ざった異臭が鼻につく。そこらにはいわゆるホームレス達がそこそこにいるのが目に入った。
 どうやらいつのまにか人気の少ないところに入ってきてしまっていたらしい。
 「また、何か起こる前に戻ろ」
 何かヤのつく人とかいそうだし。それに何かヤな予感がひしひしとするんだよなぁ。
 ガタン。
 オレが元来た道を戻ろうと後ろを向くのと同時に何かがぶつかり物の倒れる音がし、オレは振り返る。
 何かこの展開覚えがあるような・・・・・・。
 物音のした方に目を向けると一つの人影があった。下を向いているせいで顔は見えなかったが目立つ白い髪はこの薄暗い空間でもハッキリと見えた。
 白い髪の人物、「向坂空露」は肩膝をつき遠くからでも判るほどに大きく肩を動かし息をしていた。その横には倒れたドラム缶があった。さっきの物音はドラム缶が倒れた音らしかった。
 そうして遠くから様子を観察している間も向坂は苦しそうにしている。
 オレがいるコトには気づいてないみたいだけど・・・・・・。
 「ハァ、しょうがねぇな・・・・・・」
 よくおせっかいだの言われるオレだが、そのときの向坂は本当にメチャクチャ苦しそうで例えオレでなくても助けただろう。特に女だったらすぐさま駆けつけるだろうな。
 「おい、大丈夫かよ?」
 オレが駆け寄り声をかけると、ゆっくりだったが向坂はオレを見上げた。
 体を見る限りケガをしてるワケじゃないらしい。おそらく昨日と同じ状況なんだろう。よく判らないけど。
 「立てるか?」
 オレは肩を貸してやろうと向坂の横にしゃがみ込んだ。が、
 「俺に近寄るな・・・・・・」
 そんなオレの親切に向坂は苦しそうにだが確かに一言そう言い放った。
 もともと気の短いオレなもんでプツンときそうだったが相手は病人(?)と言い聞かせ優しく声をかけて手を差し延べてやる。
 しかし、その手までも向坂はパシンと叩き払った。
 プツン。
 堪忍袋の緒が切れた音。体中の血が巡りまわってカーッと熱くなる。
 「オレだってなぁ、もう関わる気なんかサラサラなかったんだからな!?なのにオマエってばこんなところでこれみよがしにオレの前で倒れてるし。関わらないって思ったけどダメだ!オマエ放っとけない。判ったか!?ホラ、肩かせ!」
 オレは半場ひったくるようにポカンとしている向坂の肩を自分の肩に担ぐ。
 「家まで送ってやるからちゃんとオマエの家の方向言えよ?」
 向坂は返事はしなかったが、素直に家までの道のりを教えてくれた。オレはそれを聞いた後で向坂を担いで歩き出した。と言っても向坂の方が何センチかオレより身長も高いし、見た目ではよく判らないが結構筋肉もつい
 てるみたいで、オレが支えてんだか向坂が支えてんだか判らない状況だったけど。
 「ここ・・・・・・」
 向坂がひとつの大きくてとてもキレイなマンションの前で一言口にする。
 ここまでの道のり、結局向坂は「右、左」とさっきのコトしか口にしてはいない。
 ツライのもあるのだろうがきっとオレと話をしたくないのもあるのだろう。
 ちょっと複雑だよなぁと思いつつもオレはそのままマンションの中へと向坂と共に入っていった。

 「・・・・・・世の中不公平だ」
 オレは向坂の部屋に入りそう小さく呟いた。
 顔もよくて、勉強も運動もできて、その上金持ち?
 とりあえずベッドに寝かせた向坂の顔をジッと見つめる。羨ましそうに見てたのがバレたのか少しニラまれた。
 オレはその目から逃げるように部屋を見回した。
 本当に広いよなぁ。オレの部屋の何倍ぐらいだろ?というか最上階だよな、ココ。普通そういうのってメチャクチャ高いんじゃ?部屋に入るのにも暗証カードとか。本当世界が違うよなぁ。
 だけどオレには他のコトが目についた。向坂の部屋は確かに広い、だけど、イヤ、だから余計感じるのだろうか?
 生活感ない、よな。
 広い部屋に置かれているものはどれも備え付けのものであろうぐらいのものしか見当たらなかった。テレビもない上、キッチンさえも使ってないのかってぐらいキレイでとにかく人が住んでるようには見えなかった。
 だが、深くは考えずに部屋全体を見回してからすぐにまた向坂の方へと向き直る。
 「水、持ってくるか?それとも他に何か必要なものあるか?」
 オレは向坂の顔を覗きこみながらそう問いかけた。
 「寝てれば直る。帰っていい」
 ・・・・・・ここまでオレがやってやってるのに何だよ、その態度?
 オレは向坂のその言い方にまたもやプツッときて、
 「あのなぁ、こういう親切ぐらい素直に受け取っとけって。オレが看病すんの!オレがしてやるの!!オマエはおとなしく看病されてりゃいいの。判った?言っとくけどコレ命令だから」
 オレは勝ったというように目を細めフンッと笑ってやった。
 「・・・・・・オマエ、バカ?」
 少し間を置いてから言われた突然の言葉にオレは細めていた目を開いて思わず手をグーにしたが、開いたオレの目には笑っている向坂の姿が映った。いつものタラシの笑顔とも違う優しい笑顔。オレは少しの間ポケーっとその笑顔を見ていたが次第に嬉しくなってつられて笑った。
 オレはその後水を汲んできたり、料理もワザワザ材料まで買いにいって作ったり(これでも結構うまい)してやった。
 向坂もちゃんとオレの命令どおり素直におとなしくしていた。そして、何となくだけれどその時の向坂からはいつもより頑なな感じはしなかった。何にも話はしなかったけど、いつものピリピリ感はなかった。
 そうして夜遅くまで看病しているうちに気づいたらオレは寝ていたらしく、いつのまにか朝が来ていた。大きな窓からあたたかい日差しがさしている。
 オレは起き上がり辺りを見回す。するとすでに向坂の姿はなく、オレがベッドに寝ていた。きちんと布団までかけられている。
 「以外に、イイヤツ・・・」
 学校にもう行ったんだろうか?
 オレはボーッとしながらも腕の時計を見た。
 「10:30・・・・・・ッ!?」
 オレは飛び起きた。
 学校の規則では8:30までの登校になっている。ようは2時間も過ぎていることになる。
 いつもならサボるところだが今回だけはマズい!!
 学校の先生に「今度遅刻したらグラウンド10週!!」と言われていたコトを思い出し急いでベッドから出る。
 別にそれもサボっちゃえばいいんだけど・・・。
 「アイツは絶対やらせる!!」
 ゴリラと魚の混じったような顔の生活指導の先生がほくそ笑んでいる姿が頭に浮かぶ。
 それに、向坂も気になるしな・・・。
 オレはとりあえず着たままの制服とボサボサの頭を急いで直し、学校へと走った。


  −therd cross- 
 
 変だ。昨日オレは笑えた。
 ミイナを失ってから閉じ込めてた感情、心が、出てこようとしている。
 駄目だ。このままじゃ、またくり返す。
 俺は失くすことはしない。
 もう、絶対に・・・・・・。
 誰とも深く関わりをもたない。それでいいんだ。
 ただこの日々が流れていくのを感じていればいいんだ。今のままでいいんだ・・・・・・。


 「ハア、後一周!」
 オレは案の定ゴリ魚につかまりグラウンド20周をさせられていた。
 うちの学校のグラウンドは一周、一キロ近くはある。しかし、その長く辛かった苦難もあと少しで・・・・・・。
 「うっしゃ!ゴール!!」
 最後にラストスパートをかけ一気にゴールまで駆け込み、そのまま力なく地べたに座り込んだ。
 や、やっと終わったぁ。
 しかし、ほっと一息ついて肩で息をしているオレの近くまでゴリ魚はきて、
 「走るのは終わったが、あとは放課後居残りでプリント50枚と反省文な」
 「あ、50枚っすか。あと反省文・・・」
 ・・・・・・って、はい?今なんと?ご、ごごご、
 「五十枚ーー!!?」
 し、死刑宣告っすか?ソレ?
 ガガーンときているオレの顔を見るとゴリ魚は満足そうにほくそ笑み校舎へと帰っていった。
 五十枚に反省文って・・・・・・。というか遅刻ごときで反省文かよ。何書けってんだよ。
 オレはのたのたと歩いているゴリ魚の背中に向かって思いっきりあっかんべーをしてやった。 
 「朝から災難だったな」
 「おう、その上放課後までアイツとデートだ」
 オレは汗でベチャベチャのジャージから制服(コレも着たまま寝ちゃったからグチャグチャなんだけど)に着替えながら友達に答えた。
 「とっころでさ、向坂について聞きたいコトがあるんだけど・・・」
 オレはクラス中に聞こえるようにワザと大きな声で呼びかけた。途端に女子達の目がキランと輝いたような気がした。
 アレ?聞くヤツ間違ったか?
 
 「向坂空露、身長180センチ。体重71キロ」
 オレはクラスの女子のくれた情報を全て書き溜めたメモを歩きながら読んでいた。
 身長5センチも負けてるし・・・・・・。
 オレは少しムカつきながらも続きを読む。
 「片親がイギリス人で髪、目ともに色素が薄く金がかっている。母親は事故で死去。好きな食べ物は、ってそんな情報いらん!」
 女子に聞いたのが悪かったのか、向坂のプロフィールや好きなモノ、嫌いなモノ、どこから入手するんだ?って感じのものから、果てにはどこどこの国の王子などと言う明らかな作り話など、ほとんどいらない情報ばかりしか手に入らなかった。しまいには誰が一番向坂のコトを知ってるか、みたいな話になってしまい、結局のところ特に重大なものは得られなかった。
 「んー、片親がイギリス人だったとしても髪や目の色は変わらないだろ」
 母親についても事故死ってコトになってるんだな・・・・・・。
 「やっぱりアイツに直接聞くしかないか。教えてくれるか判んないけど、放っとけないもんな。とりあえずアイツ探して・・・・・・」
 キョロキョロと辺りを見回すとナイスタイミングで向坂が廊下を歩いてるのが見えた。
 オレは猛ダッシュでアイツのところまで走り寄った。
 「向坂クンッ!こっちきて。こっち」
 「え?あ、オイ!」
 向坂が学校では珍しく声を荒げていたが、周りからかなりの視線を感じたが、オレは気にせず向坂を屋上まで引っ張っていった。
 
 「あのさ、いい天気だな」
 「・・・・・・」
 「は、腹減ってこない?」
 「別に・・・・・・」
 シーン。
 き、気まずい沈黙。
 オレは連れ込んだ向坂と今回も友情を育もうと頑張ってみたのですが全くもって会話がハズみません。ど、どうしましょう?
 向坂はもうずーっとムスッとしてるし。昨日の向坂は何?オレの幻覚?
 と、とりあえず会話を。えっと、会話、会話えーと・・・。
 「今日さ、わざわざベッドに寝かしていってくれてありがとな。できれば起こしても欲しかったけど」
 「・・・・・・」
 ・・・・・・はい、会話不正立。向坂、会話はキャッチボールだぞ!キャッチボール!知らないのか!?
 ハァ、ダメだ。話が進まん。しょうがないな。もう本題に入っちまうか。
 オレは少し緊張して手を軽く握りしめた。そして、少し間を置いてから口を開く。
 「もっかい聞くけど向坂は本当に今のままでいいの?」
 向坂はピクリとイヤそうな顔をさらに少し引きつらせた。
 あ、さすがにいきなりすぎたか?
 「・・・・・・いい」
 内心話題を変えようかとどうにかこうにか考えていると向坂がそれだけ口にした。
 「本当かよ?なら、どうしてそんな苦しそうな顔してるんだよ?今のままで満足ならもっと満足そうにしてればいいだろ?」
 「いいんだ!!」
 向坂が叫んだ。
 「いいんだ・・・・・・。俺はただ人を殺すためだけに造られた。そうして生きてるんだ。俺はもう何も望まない。何もいらない」
 そう言い切ると向坂はオレに背を向け、そのまま校舎へと向かおうとした。
 「おい、待てよっ!!」
 オレの言葉を聞かず、向坂は何も言わず入っていってしまった。
 ギィと扉のしまる音だけが屋上に響いた。
 オレはその場に座り込み、肩膝をたてその上に頭を置いた。
 「ワケ判んねぇよ」
 心に壁を作って他人を近づけない。オレと同じ。その考えは当たってると思う。
 だけどオレとアイツで大きく違うのは「変化」を望むか望まないか。
 オレは今のままじゃ絶対イヤだし、変わりたい。
 おせっかいだったかな?でも、アイツ昨日みたいにも笑えるのに、どうして?
 けど、アイツは・・・・・・。
 「判んねぇよ・・・・・・」
 オレはまた呟いた。
 ――人を殺すためだけに生きてる
 「それだけなんてねぇよ・・・・・・」
 オレは苦しそうに呟く向坂の顔を思い出す。
 何をそんなに押し込めてるんだよ?何を・・・・・・。
 ・・・・・・あー、いつのまにかまたもやネガティブ思考になっててるな、オレ。
 「もう、ヤメヤメッ!今度こそ機会があればキチッと向坂に聞くってコトで今回はこれでヤメッ!」
 オレは自分に確認するため顔をパシンと叩いた。
 機会、か。アイツにとっては関わらない方がひょっとしたらイイのかもしれないけど。そんなん誰にも判らないしな。とりあえずアイツと友達になりたい、かな。うっし、そこから始めようっと。
 「うっし、行くか」
 立ち上がりオレはふと時計を見た。
 「ゲッ、早く帰んねーとゴリ魚が・・・・・・」
 プリントもって襲来・・・・・・。
 オレは急いで玄関へと向かおうとした。その時、
 「神楽。ここにいたのか、ほら、プリント50枚」
 ゴリ魚が出た。
 とてつもなく楽しそうに笑っているその手にはプリントがペラペラというかバサバサというか。
 な、何その束?てかどうしてその束が両手に一束づつあんの?あきらかにそれ50枚以上あるよね?ね?
 オレはすっかり逃げるタイミングを失い、そのままゴリ魚に教育指導室(ヤツの棲家)まで連行されてしまった・・・・・・。


 「本当、今日はツイてねー」
 オレはため息をつきながら電灯のついているだけの夜道をトボトボと歩いていた。
 すでに時計は8時を指している。
 プリント50枚(イヤ、百はあった)はまともに授業にも出ていないオレの頭では全くと言って良いほど解けず、気づいたときにはとっぷりと日は暮れていた。その上重いカバンの中には解けなかった文のプリントがまだたくさん入っている。
 今日中に終わるんかな、コレ?
 あーあ、本当は向坂にもっかい会いに行ってるハズだったのに〜。
 一度下を向いてから明日こそ、と気合を入れて拳をにぎった。
 「ん?アレって・・・・・・?」
 オレが目を向けた先にはなんと、向坂が!!
 「どこ行くんだ?」
 向坂が向かってるのは家とは全く違う方向。
 ひょっとして何かあんのかな?「仕事」ってヤツ?
 オレはしばらく迷っていたが、結局はモチロン後をつけちゃいました。

 「今日もまたこんなところに・・・・・・」
 向坂の後をつけて約20分。アイツはまた怪しい路地裏に・・・・・・。
 何で毎回こんなところなんだ?もっと明るくて騒がしい場所でやってくれればいいのに・・・・・・。
 どっちかてーと幽霊とかが苦手なオレは(ホント少しだけな。少し)一度そう思うもの、やっぱりそれじゃあダメか、と思い直しとりあえず気合を入れる。
 そうこう考えてる間にまた向坂のいる向こう側からまたもや「ヤ」っぽいおっさんが!来たと思ったら、吹っ飛ばされて、ゲシッと蹴られて、ハイ、おしまい。
 おそるべき強さだ。もう、「ヤ」は血を流して倒れてる。
 向坂の髪の色と目の色も元に戻り、こっち側にユーターン、ってマズイ!隠れないと!!
 オレは隠れ場所がないかとキョロキョロとしているとヤクザがムクッと頭だけ起こしているのが見えた。その手には、銃?って向坂に向けてる!?
 向坂はそのことに気づいてないみたいだ。
 教えないと!!
 「向坂!!後ろっ!!」
 オレが言うないなやヤクザは銃の引き金を・・・・・・。
 バンッ!!
 銃の音が辺りに響く。
 「おいっ、お前!!」
 向坂の顔が見える。
 今まで見たことのない必死な顔だ。
 コイツもこんな顔するのな。あー、それにしても痛いな。腹かな?足かな?
 確かめようにも体が重くて動かない。
 そう、オレは間に合わないと判断してとっさに飛び出て向坂を突き飛ばしたはいいけど、不覚にもオレに弾は当たってしまったのだった。
 「しっかりしろ!!」
 向坂に体を揺すられる。
 オイッ!痛いっつうの!!
  オレは抗議するためムクッと何とか上半身だけ起き上がる。
 「大丈夫だから、そんなに揺す」
 「馬鹿か?お前は。俺はあのくらい避けれる!!」
 オレの声は途中で向坂のどなり声でかき消された。
 「なら、何?オレってばヤラれぞん?」
 当たったのは足らしい、まあ当たったって言っても掠っただけだから少し血が出てるぐらいなんだけど足を動かすのは少し痛い。
 「それに、俺なんか死んでも」
 「オマエこそ、バカ?」
 今度はオレが向坂の言葉を遮った。
 向坂は意味が判らないのか、それともバカと言われたのが気にくわないのかオレをまっすぐ見てきた。
 「オマエ人を殺すために生きてるって言ってたけどな、それはオマエのコト作ったヤツらがそういう風に必要としてるだけだろ?その力だってそのために作られたとしても他のコトにだって使えるかもしれない」
 「だが、俺の存在理由はそれだけだ」
 またオレから目を逸らす向坂の顔をむりくり前に向け目を合わさせる。
 「存在理由なんてモン、誰かが居て欲しいと思ってるそれだけで十分だろ?オレは向坂空露を必要としてる。友達になりたい。それに学校のヤツらだってオマエのコトを必要としてる。そりゃ、本当のオマエを見てるワケじゃないかもしれないけどさ。それでも、オマエはオマエだろ?」
 オレは一息ついて、まっすぐ向坂の目を見て言ってやった。
 決まった。オレはそう思ったのに向坂のヤツは何故か堪えきれないというように笑い出していた。
 「おい、何で笑うんだよ!?」
 「だって、アイツと同じコト言うから」
 そういう向坂の目には涙まで浮かんでいた。
 「アイツって誰なんだよ?」
 ったく・・・・・・。
 「教えてやるよ」
 「へっ?」
 ようやく笑いの収まった向坂がいきなり切り出した話題にオレはキョトンとなる。
 「お前が聞きたいこと」
 そう言った向坂の顔は何か吹っ切れた感じだった。
 オレは大きく頷く。
 「母親の話はしたよな」
 向坂は話始めた。少しツラそうにも見えるその顔は少し子供のように感じた。
 「母親を殺してすぐに俺は研究所に引き取られた。軟禁の方が近いかもな。実験体にされて、暗くて狭い部屋に閉じ込められて。始めは嫌で逃げたくてどうにかしたかった。だけど、段々どうにもできないことが判ってきて、そのうち諦めるようになった。そんな時出会ったんだ。彼女、ミイナに・・・・・・」
 しばらく暗かった向坂の顔が「ミイナ」と言う名前が出たときに少しだけ柔らかくなった。
 「ミイナ?」
 「他にいた実験体のコ。実験体ナンバー3170でミイナ。彼女は俺より前からそこにいたコだった。ただ彼女はいわゆる失敗作だったんだ。だから、その時はひどく扱われてて。だけれど、それでも彼女の瞳は綺麗だった。全てを諦めていた俺とは違って太陽みたいで輝いてた。そこに飼われていた子供達の中では凄く珍しく返って浮いてたぐらいだった」
 飼われていた。その言い方にオレにはどれだけひどいものだったのか想像もつかなかった。それでも、淡々と向坂は話を続ける。
 「当時の彼女は7歳ぐらいだったのにしっかりしてて、いつも部屋の隅でボーっとしてたオレを引っ張って「遊ぼう」って声をかけてきたんだ。初めは無視して、それでも無理矢理ひっぱってって、仕方なく付き合ってやってるって感じだったんだけど、だんだんと惹かれていった。そんな彼女の口癖も「変わりたい」だったんだ。だから、お前に会ったときは驚いた。こんな馬鹿他にもいたんだ、って」
 オレは少しムッとするも、ふわふわと夢を語るように「ミイナ」のコトを話す向坂にその気持ちもなくなる。
 「それで、そのミイナってコは今どうしてるんだ?」
 「彼女は死んだ」
 少しだけ表情が暗くなるもののそう告げた向坂の言葉はあくまでも淡々としていた。
 「何、で・・・・・・?」
 「俺が殺した」
 !?
 向坂の言葉にオレはマズいコトを聞いたんじゃないかとあたふたする。
 「気にしなくいいよ」
 オレがオロオロとしているのを見て向坂は笑ってそう言った。
 あ、いつもの笑い方だ・・・・・・。
 学校で笑ってるときの向坂だった。顔だけが笑ってる。心だけを凍らせて置いてきている笑い方。
 きっとこの話も向坂にとってはツライ話なんだろう。イヤ、絶対に。
 しかし、向坂は自分の手をギュっと握りしめたまま話を続けた。
 「オレが14の時、ちょうど誕生日だった。ミイナが「外に行こう」って言ったんだ。何かプレゼントしたいから。記念だから、って。俺はいけないって答えた。俺はここに居なきゃいけないって。そしたらさ、ミイナが「アナタはアナタでしょ?」って、自分はどうしたい?って聞かれて、オレは考えて行きたいって答えた。・・・・・・だけどそれが間違いだった」
 向坂の手が少し震えていた。
 「俺とミイナは外に出た。研究所の、今までの全てから外に。本当はすぐに帰るハズだった。けど、少し遅くなって、研究所のヤツに見つかって。また、閉じ込められてミイナとも引き離された。それからずっと会えなかったけど俺はミイナの言葉のひとつひとつをくり返して耐えた。またそのうち会えると信じて。それからまたしばらく経って、いつもの実験のひとつで人型のロボットと戦う実際の戦闘訓練があった。俺はいつも通り出てきた機械をすぐさまに一撃でこの力を放って倒した。そこでいつも通り機械が倒れてそれを
研究所のヤツらが片付けて、それで終わるハズだったんだ。だけどそうじゃなかった。機械が倒れて、上の部分が外れて・・・・・・、中からミイナが出てきた。ずっと会ってなかったけどすぐ判った。まだ少し幼さを残した大きな瞳がさらに大きく見開かれて、口に付けられた枷が顔に食い込んでいて。もう、死んでた。それでも外傷はどこにもなくて・・・・・・。力を使ったんだから当然なんだけどな。信じたくなくて、ひょっとしたら違う人なんじゃないだろうかって、それでも頭は冷静にミイナだって告げてきて。駆け寄ろうとした。だけど研究員に止められて何か変な薬を嗅がせられて眠らされた。意識を手放す前に覚えているのは実験は成功だ、って笑ってるヤツらの声と苦しそうなミイナの顔だった」
 苦しそうに言い捨てるように向坂は言った。握りしめている手に更に力が加わっているのがオレから見ても判って痛々しかった。
 「後で、後でその事を一番上のヤツに詰め寄った。そうしたら、罰だ。って俺のことを唆した罰だ、って。だったら一緒に行った俺はどうしてって聞いたらお前は完成品だから、って言われた。今でも覚えてるんだ。ミイナの優しい顔が苦痛で歪んでるのを!苦しんで死んでいったのを!!」
 向坂の体がガタガタと震えていた。怒りから、悔しさから、たくさんの想いからだろう。それはオレに理解できるようなものじゃないだろう。何をしていいのか。何をするのが一番いいのか判らなかった。それでもオレは向坂の体をそっと抱きしめた。
 少しだけ向坂の体が強張るのが判る。
 「大丈夫だから、平気だから・・・・・・」
 何に対してなのか、自分でもよく判らない。だけど、そのままにはして置けなかったから。ただ、抱きしめて大丈夫とくり返す。そうしてどれくらいの時間が経ったのだろう。
 「だから、だから、オレは何も望まないと誓った」
 少し落ち着いた向坂が口を開く。
 オレは体をそっと離し、代わりに硬く握りしめられて血の滲んでいる手をそっと握り、黙ってそれを聞く。
 「お前は本当に似ているんだ、笑顔も瞳も。だから俺はお前を遠ざけた。このまま、また失くしてあんな想いはしたくない・・・・・・」
 「オレは居なくならないよ。オレはその人じゃない。それにその人だって向坂と一緒に居たくていたんだと思う。オレも一緒に居たいよ?」
 向坂がどうして?って顔をするからオレは、
 「オマエがダメだって言ってもずっと一緒にいてやる。しつこくつきまとってやるからな。それに、よーく考えたらオマエの力って要は特異体質ってヤツなだけじゃん。個性、だろ?」
 と付け足す。
 向坂は少しの間呆然としていたがやがて笑い出した。
 「お前本当に馬鹿だな」
 オレも怒りながらも笑う。
 「ってコトは一緒にいていいんだな?」
 「言っておくが何が起きるかは保障しない。それでもいいならいいさ。ただし、約束は守れよ?」
 「OK、OK。それよりオマエって呼ぶのヤメロよな」
 「名前聞いてない」
 「そうだっけ?」
 言われてみれば向坂の名前も本人に直接聞いたワケじゃなく知っていたワケなので。
 「そんじゃあ、改めて自己紹介すっか!えっと、神楽葵、17歳。ヨロシク!」
 オレはニパッと笑い手を差し出す。
 「向坂空露。同じく17歳。よろしく」
 向坂も笑って手を差し出す。
 「それじゃあ、帰るかって、オレ聞きたいコトまだ全部聞いてない?」
 「いつか、またな。そのうち全部話してやるよ」
 全部、か。まだなんかあるってコトか。でもま、いっか!
 「うっし、判った!帰ろうって、イテーーーー!!」
 勢いよく立ち上がろうと足に力を入れた途端激痛が走った。あまりの痛さにそのまま横に倒れる。
 そういえば足を銃で撃たれてたんだっけ・・・。
 「馬−鹿。ホラ、乗れよ」
 向坂がオレの傍らにしゃがみこみ背を向ける。
 「重いぞ?」
 「5センチも身長違うヤツなんか軽い、軽い」
 向坂は指で身長差をつくりながら笑っていう。
 「5センチし・か・だ!!ったく、もー!!」
 オレは怒りながらも向坂の背中に乗る。すると、向坂は言葉通り軽がると立ち上がってしまった。
 「オマエ、どんだけ力あるんだよ」
 これでもいくらつきにくいとはいえ、人並み以上には筋肉はついている。
 「トレーニングしてるからな」
 ・・・・・・?何だかスッゴク向坂明るくなってないか?でも、きっとこれが本当の向坂なんだろうな。
 「楽勝なら走って帰って」
 「それは無理」
 向坂と話す、笑う。気ィ使わなくていいし、すごく楽でそんでもって楽しい。
 普通のコトなのにな。
 オレ達はそのままそんな感じで家まで帰った。


−fourth cross−

 「う〜、こってりしぼられた・・・・・・」
 オレはまたもやゴリ魚の棲家。もとい、生徒指導室に呼び出しをくらっていた。ただ、今回は空露も一緒に。
 というのも、今回の飛び出しの原因はコイツのせいだった。
 昨日の今日でオレ達は大分仲良くなった。話してみると以外にイイヤツだし、理由は判らないけどとにかくコイツといると楽しい。空露も多分こっちが素なんだろうけど、元気がいいというかなんというか。
 確かに今日の空露を見てオレもビックリしたさ。優等生バージョンのコイツしか知らない他のヤツらはオレの数十倍も驚いてたと思うけど。
 そんで本題に入ると、今日の空露は今までの空露とは180度近く違った。違ってないところと言えばカッコ良さぐらい?で、実際何が変わったのかというと、一言で言えば格好だ。
 違いとは【今まで】金髪だったけど下にストンと落として何も加工なし。首元はきちんと上までボタンを閉め、指定のネクタイ、カバンなどなどetc・・・・・・。で学校の見本って感じだったのが【今】少し長めの髪を遊ばせ、シャツはボタンの全部開け中には黒の柄アリTシャツ、ネクタイ無し。
 普通の学生にしてみればまあ、このくらいは普通だろう。現にオレもそんな感じだし。
 他のヤツらがイメチェンしても学校中でこんな騒ぎにはならないだろう。しかし、実際したのは学校一有名な空露が優等生から、もともとの金髪も手伝い完璧遊んでる風にたった一日で一変してしまったのだからこの騒ぎも無理はないだろう。
 まあ、こっちの方が似合ってるとオレは思うんだけど・・・・・・。
 だ・け・ど、だ。オレには納得いかないところがひとつだけある。そう、オレが生徒指導室に呼ばれた理
由。
 何でオレまで呼び出されなきゃいけないワケ!?こんな風になったのは空露の意思であって、オレはひと
つも手伝ってない。なのに、「お前が唆したんだろ」とか言われちゃって、問い詰められちゃって、朝から
オレはお疲れモード。
 空露は空露で・・・。
 「初めて生徒指導室入ったな」
 とか、ニコニコ笑ってるし。
 「オマエ、どうして否定しなかったんだよ?」
 ゴリ魚や校長にまで詰め寄られたとき、空露はただ笑ってるだけで否定どころかなーんにも喋らなかった。
 オレは少し空露を睨みつける。が、それは軽く笑顔でかわされた。
 「まあ、まあ。ホラ教室行くか?次、調理実習だろ?」
 「マジで!?早く行こうぜー!」
 オレは大抵の授業はキライだけど、調理実習だけは大好きだった。
 オレは空露を引っ張りながら急いで教室に向かう。
 アレ?何か上手く話逸らされたような?
 ま、いっか!調理実習♪調理実習♪

 そんなこんなでオレ達は結構上手くやってた。
 周りからはかなり注目されてたみたいだけど(校内新聞にも一面に取り上げられた)慣れてくるとそれすらも楽しい。
 空露はまだあの仕事を続けてるみたいだったけど、特にオレは何もそれについて言わなかった。まだ他にも色々あるみたいだし、空露がそれでも普通に笑っていてくれるなら、それでいいと思ったから。
 オレの望んでいた目まぐるしい程の変化はなかった。けど、空露と話して、笑って、報道部から逃げ回っ
て、イヤだと思ってた毎日のくり返しも今は本当に楽しく感じる。
 本当の友達ができた。
 十分だった。

 
 ・・・・・・だけどその幸せな日々も長くは続いてくれなかった―――。





 ―――それから一週間後

 「アイツに関わったことを後悔するんだな」
 一人のデカイ男。
 「むー!!」
 縛られて地面に転がってるオレ。
 そしてオレを取り囲む他、3人の男。
 オレは今、例の路地裏にいる。
 オレってばよっぽどココに縁があるんだな〜。なんてコトはどうでもいい。
 オレは男達の顔を見上げる。
 額の傷といい、何か趣味の悪い服といい(コレは関係ないか?)明らかにそのスジの人っぽい。
 ツイてねー。
 オレはガクンと肩の力を抜く。
 それではこんな状態になるまでのいきさつを。

 『さてと、今日は空露もどっかに行っちゃってるし、久しぶりに一人で遊ぶかな』
 と思い立ち、街へと向かっていたところ、
 『少し付き合ってもらおうか』
 いきなりオレの前に現れた明らかに怪しい男4人組。
 ナンパ?
 イヤ、違うし!
 『ダレだよ、アンタら?』
 オレ、身構える。
 しかし、一人の男がコットンのようなものに含ませた謎の薬をオレに嗅がせる。
 オレ、気を失う。
 あっというまに拉致されちゃいました。
 チャンチャン―――。
  
 って終わっちゃダメ!!
 危うく現実逃避するところだったぜ。とにかくココから逃げ出さなきゃな。
 ・・・・・・どうやって?
 手足は縛られ、口には厚い布。この状態からどうすれば逃げ出せるかオレは頑張って考えた。
 考えたが、何もいい案は思いつかない。
 何気にどうやって殺すかとか4人の男は相談しちゃってるし!!
 ともかく大ピンチ!!
 話から聞くとどうやら空露関係らしいけど。
 とかなんとか考えてるうちに男達は相談を終えたらしくオレの方へ帰ってくる。
 「一撃で終わらせてやるから感謝しな」
 感謝できるワケないっつうの!
 一人の男がオレに向かって銃を向ける。
 マズイって、マズイって!この際ダレでもいいからヘルプ!!
 ドンッ!!
 銃の弾が放たれた音にオレは反射的に硬く目を閉じた。
 オレってば今度こそ死んだのかな?ヤダな。まだ生きたいよ。まだ空露と色んなことして遊んだりしたい。
 しかし、弾が放たれた音から少し経ってもオレは少しも痛みを感じなかった。
 そして変わりに「ほら、逃げろよ」と言うすでに聞きなれた声の後にバタッと何かが倒れる音がした。
 オレはその音に弾かれたように目を開ける。
 ・・・・・・ナニ?コレ?目の前が真っ赤で・・・・・・。
 オレは顔についた生ぬるい赤いものを手の甲で拭った。オレは自分の手から前へと視線を移す。
 何だか慌てて話し合ってる男達。その下には?


                                「・・・・・・空露?」

 オレのすぐ近くにうつ伏せで倒れてる男。
 背中が真っ赤だ。
 顔は見えない、だけどあの目立つ金髪は・・・。
 オレは目を見開く。
 気づくとオレの手、足、口は自由になっていた。
 オレは自分の体を見る。どこもケガしていない。
 当たり前だ、空露が庇ってくれたんだから。
                        なら、ならこの大量の赤いものは?
 オレの顔についてるのは、地面を多い尽くしそうなこの真っ赤なものは?
 「空露?空露!?」
 オレは仰向けに抱き起こす。
 名前を呼ぶと空露は目をゆっくりと開けた。
 4人の男は今だあたふたとしている。
 それはそうだろう。依頼主で有ろう人にとって必要なものを傷つけたのだから。
 男達は全員走って逃げ出していった。
 今のオレにはそんなコトどうでもいいコトだった。
 「空露!大丈夫か!?」
 オレは手で空露の胸から今も流れ出る血を押さえる。
 だけれど押さえてもなおその血は止まるコトを知らないかのように流れ続ける。
 「柄にもない事してるな。人、助けて死ぬなんて・・・・・・」
 空露は少し笑いながら言うが、その声はとても苦しそうだった。
 「死ぬわけないだろ!?今、病院に!!」
 「いいから聞いて?」
 オレは携帯を出し病院にかけようとしたが、空露の必死な顔に手を止め、空露のすぐ側に座りこんで顔を覗きこむ。
 「俺、本当にこんな風にしていられる事なんて夢にも思わなかった。お前のおかげだよ。これでも感謝してるんだぜ?」
 空露がハハッと笑うのに対してオレは自分に言い聞かせグッと涙を堪える。
 「何て顔してんだよ?俺、お前の笑ってる顔好きなんだからさ・・・」
 空露がもう力のない手でオレの頬に触れる。オレはその手を握り、せいいっぱい笑顔を作る。どれくらい情けない笑顔だったか判らないが、空露はそれを見て満足そうに微笑んだ。
 「なぁ。名前、呼んで?」
 「空露・・・・・・、空露」
 「サンキュ・・・・・・な。葵」
 空露の瞼がゆっくりと閉じていく。その体が光り始めた。
 そして段々と光が薄くなり、空露の体が砂へと変わって風に流されて消えてゆく。
 今まで見たコトのないスッキリとしたキレイな笑顔を浮かべて。
 「・・・・・・空露?空露、空露!?」
 消えていってしまう、そう感じオレは握りしめたままの空露の手をさらに強く握った。
 必死で名前を呼びかけた。
 しかし、空露はそこにいたのもまるでウソのようにいなくなってしまった。
 オレは辺りを見回す、だけど当然空露はどこにもいない。
 「なぁ、ウソだろ?こんなの悪い冗談だよな?・・・・・・返事しろよ、空露」
 返事は返ってこない。
 代わりに雨がパタパタとオレの頬を濡らす。
 オレはさっきまで確かにあったぬくもりを信じて手を握りしめた。
 ジャリという音に手を開くとそこには空露がいなくなった証拠の砂だけが残っていた。
 雨がどんどん強くなっていく。
 空露は? 空露はいなくなった?
 実感が湧かない。
 さっきまでそこにいたのに? 笑ってたのに?             もう、いない・・・・・・。
 「側にいてやるって、ずっといてやるって言ったじゃんか?そんなん、いてやれないじゃん。一緒にいけないじゃんか・・・・・・」
 ずっと我慢していた涙が零れ落ち、次から次へとあふれ出た。
 「空露ッッーーー!!!!!」
  

 オレはただそこで泣き続けた。
 何時間もずっと、ずっと。
 握りしめていた手に残った砂さえもやがて消えていってしまっても、ずっと、ずっと―――。




                      なあ、こんなの悪い夢だよな?
                 お願いだから早くさめてくれよ。 お願いだから・・・・・・。


2005/04/30(Sat)11:47:25 公開 / ユズキ
■この作品の著作権はユズキさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
*注 次回嘘(?)予告

 「空露・・・・・・」
 空露が死んだことが今だ信じられない葵はそれから3年後には夜の蝶と呼ばれるようになっていた。
 そんな葵の前に現れたのは一人の男だった。
 「アンタは・・・・・・」
 葵はそいつの顔を見上げる。
 男はゆっくりと口を開いた。
 「校庭、50周」

 葵:↑ってゴリ魚!?
 空:葵、途中乱入しない。まだ続きがあるんだから。
 葵:えっ、でもゴリ魚が。

 夜の魔王に命じられた通り、葵はグラウンドを走っていた。
 「何でオレこんなことやってんだ?」
 葵は途中でこんなコトには意味はないと気づき足を止めた。
 そんな葵の背後からふいに声がかかった。
 「ここでやめちまうのか?」
 葵はその聞き覚えのある声に弾かれたように勢いよく振り返った。
 忘れるハズがない、空露の声だ。
 「空・・・・・・・、露?」
 そこにいたのは。そこにいたのは、確かに空露ではあった。
 ただ、頭が四角で至る所にネジがあり、足なんかはタイヤだった。
 驚いている葵に空露(?)は優しく声をかける。
 「ズット、イッショニイテクレルンダロ?」
 葵はその言葉に姿は違えどそこにいるのは空露だと確信した。
 「空露!モチロンだろ!!」

 オレ達の路(みち)はまた重なった。
 今度こそはもう失くしたくはない。
 オレはまたしっかりとその手を握り返した―――。

 -true steart- ここからが本当の始まり

 葵:えっ!?コレってウソだよな?何か最後の方とかイイ感じで終わってるけど・・・・・・。
 空:嘘かもしれなければ、本当かもしれない。
 葵:結局どっちなんだよ!?
 空:そうだな、この下には他に予告はないな。
 葵:てことは、本当の予告?

*注(半分本当で半分ウソです。正確には約二パーセントくらい本当で九十八パーセントくらいウソです)

↑雰囲気壊す可能性があるので入れないでおこうかと思いましたが、入れてしまいました。本当に気分を害されたりした方いらしたら感想の方にでも「予告入れるな」だけでいいので書き込んで下さい。

残すところあと一話となりました。ここまでお付き合い頂いた方できれば最後までお付き合いお願い致します。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。