『時を越えて  【読み切り】』 ... ジャンル:ショート*2 ショート*2
作者:勿桍筑ィ                 

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 私は、今休暇を取ってハワイに行く途中で、国際便の飛行機に乗っている。近くには家族連れやカップル、何かの団体までもいる。団体といっても十二、三人である。
「お父さん?南の島ってみんな言うけど、なんで?」っとある家族の少年が、父親に質問しているのが聞こえてきた。
 あの父親にとってかなり困る質問だろう。
「そ、それは……南の方角にあるからだ!」
 やっぱり。ちゃんとした答えになっていない。
「え〜!答えになってないよ〜!」
 少年が駄々をこねるように、父親に文句を言っている。
「そんなに気になるのだったら、自分で調べなさい!」
 困りかねた父親は、最後の手段を使ったようだ。
(そうかぁ、南の島かぁ)
 南の島と聞くとある話を思い出す。昔、子供の時に親の友人の外国人から聞いた話だ。
 それは、南の島に住む人々に昔から伝わる話だそうだ。


 南の島、そこは遠く、そして夢の島。楽園。でも、その向こうには、南の島よりも、更に皆が夢見る島がある。その島の名前は、‘Everydream’。皆が夢を抱く、夢の島。っという意味の造語。しかし、そこは、‘夢’っという表側の表情だけではなく、また別の裏側の顔も持つ。それは南の島に住む者だけが知る。
 ――苦しみを味わうという意味の造語の名の島。その名は、‘Infernoway’(インファーノウェイ)。その苦しみは、想像を遙かに超えているという。
 苦しみは人々に付きまとう。それを避ける者は、唯夢の島に行くだけ、避けない者は地獄を見る。だが、地獄を見ただけ報われる。それが一般論。
 でも、そのような一般論はこの島では通用しないという。この島で報われるには、“地獄”をどのように乗り切るかが問題ではない。どのように、この地獄で生きていくかが問題なのだそうだ。
 しかし、どのように地獄で生きていけば良いかなんて、全く分からない。分からないが、最後に言いたいのは、‘夢’はもしかしたら、〔叶えるためにある〕のではなく、〔散るためにある〕のかもしれない。だが、やはり前者を信じたい。

 ――ポン! ポン!
『お客様に申し上げます。間もなく当機は、着陸態勢に入りますので、シートベルトをお締め下さい』
 ――ポン! ポン!

「それで、それからどうなるっていうの?」
 あれ?いつの間にか私は、あの少年の所まで行ってこの話をしていた。
「お客様!申し訳ありませんが、席にお戻り下さい」
「あっ!すいません!」
 後味の悪い終わり方をしてしまった。あの少年に悪いことをしたかもしれない。


――空港――

 さっ!この休暇を有意義に過ごそう。
「あ、あのう……」
「ん!?あっ、はい?」
 そこには先程の父親の姿があった。隣には少年の姿もあった。
 さっきの話の文句でもしに来たかな?そう思い、身構えていた。
「先程は……ありがとうございました」
 なんとあの後味の悪い話に感謝してきたのだった。
「いやいやとんでもない!あんな話を突然してしまって!こちらこそ……」
 私とその父親は、子供の前で深々と頭を下げ合った。
「おっちゃん!」
(何!?おっちゃん!?)
 私が父親に別れを告げようとしたとき、少年が私のことを突然おっちゃん呼ばわりしてきた。一瞬ムッときたが、抑えた。
「こら!失礼だろ!」
 父親が少年を叱り、頭を叩こうとしていた。
「いやいや、良いんですよ」
 少年がホッとした顔で私の顔を見上げた。それを見て、私はまたもやムッとしてしまった。理由は自分にも分からない。
「おっちゃん!それで聞きたいことがあるんだけど、ね?」
「良いよ。なんだい?」
 あの話のことだと思い、了解した。
「あのね、さっきお父さんにも聞いたんだけど……」
「え!?」
 なんだかとても嫌な予感がしたので、自然に立ち去ろうとした。しかし、動けない。ふと下を見ると、父親の手が、「独りにしないで」っと言っているように私の服を掴んでいた。
「……南の島ってなんで南の島って言うの?」
 やられた。
「い、いやそれは……ね〜」
 私は父親と顔を見合わせ、少しの間そこに立ったままだった。




――――完



2005/04/22(Fri)23:16:02 公開 / 勿桍筑ィ
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■作者からのメッセージ
どうも、勿桍筑ィ です。
誠に勝手ながら、前回の作品の続きが書けなくなり、放棄することにしました。面目ないです……。
今回は、ショートショートとして書かせていただきました。
やはり作品を書くのは難しいなっとつくづく感じました。まぁ、前回よりは小説らしくなったかと思います。
また、この物語に出てくることは、言うまでもなく、フィクションです。

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