『 母の想い 』 ... ジャンル:ファンタジー ファンタジー
作者:pikotan*                

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なんで?何で皆わたしをいじめるの?
もういや。苦しい。だれかたすけて・・・。

私は気づけば暗い闇の中に居た。わたしはこの世界にいてもいいのか・・・?
苦しかった。辛かった。ここから飛び降りれば、なにも考えなくてすむんだろうか・・・。
風がフェンスをまたいだ私の髪をなびかせた。すごく高い。ここから飛び降りれば・・・。

―――出来ない。この私じゃあとても出来ない。・・・恐い。すごく恐い。
私の行き場はどこにあるの?わたしの居場所はどこに・・・。なんで私だけこんな・・・。


私は池宮 祥子。小学4年生になったばかり。
おかあさんは私を産んだあと、家の火事で私をかばって大やけどの重態を負った。
包帯は顔の皮膚が見えなくなるほど巻かれて、5年も意識不明の状態が続いている。
おとうさんは一度実家に帰って、なんどもおかあさんの世話をしている。
しかし、いまだにおかあさんの変化は見られない。
私はおかあさんの顔がわからない。
・・・・・わたしはどうなるの?


「ねえしょうこ。昨日パラダイスワールド面白かったよねぇ〜?」
彼女は私の一番の友達。
内気でめったに表に出ない性格。でも、私とはすごく合う性格。
「昨日テレビ見てないんだ・・・。」
「ふぅ〜ん。そっか。」
私のお家はおかあさんが病院で入院したあと家庭がすごく貧しくなってテレビが買えない。
あるのは、冷蔵庫と洗濯機とキッチンだけ。一回はお金が無くて家を追い出されたこともある。
あ、次の時間は図工だ。スケッチブックの準備をしなきゃ。


ガラガラガラ。
教室のドアが音を立てて開いた。
「はい、日直さん。号令かけてください。」
今日の日直は小林さんだ。そして、今日は小林さんの号令によってこの授業が始まった。
「はい。今日はおかあさんの絵を書いてください。」
すると、幼いわたちたちは元気よく笑顔で返事を返す。
「はぁ〜い。」
しかし、私はおかあさんの顔すら思い出せなかった。
お母さんの顔なんて・・・・・。わからないよ・・・。
「えっと、この時間で提出ですから、早めに書き上げてくださいね。」
「はぁ〜い。」
私はペンとノートブックを机の上に用意した。
私はありのままに書いた。ペンが私の知ってるお母さんをしっかりと書き上げていた。
そのとき、友達が私の絵を覗き込んで・・・言った。
「お〜い。こいつのおかあさんはお化けだぜ!」
すると、人の群れが私の周りに集まってきた。先生も心配そうに見ている。
私が書いたのはおかあさんだ。病院で包帯ぐるぐる巻きにされているおかあさんだ。
「こいつはお化けの子だぜ!」
一人の男の子が言った。それに続きほかの男の子が言った。
「お化けの子!お化けの子!お化けの子!」
わたしはだんだん今の自分がキライになった。どうせならもっといい家庭に生まれればよかった・・・。
そこに、先生が割って入った。
「やめなさい!さぁ、席に戻って。」
先生は周りの人を遠ざけると、私の絵を覗き込んでいった。
「みんなは知らないだけなのよ。あなたのことも。あなたのおかあさんのことも・・・。だから、気にしないで。」
先生はまるで透き通った声の天使のように言っていたが、わたしのこころはいかりと不安で押しつぶされそうだった。でも、私は発散できない。なにやるのも恐い。言い返したって、逆に言い返されそうだし、自殺したくたって、恐い。・・・もういやだ。こんなの耐えられない・・・。

私はある公園の池に来ていた。大きな岩に座って学校で書いたスケッチブックを見ていた。ここに泳いでる鯉を見てたら、心が安らぐ気がした。
わたしもあんな優雅におよぐ鯉みたいに気持ちよく泳ぎたいなぁ・・・・・。
すると、ふらっと体がゆれ、池に落っこちた。視界が小さな悲鳴とともにゆっくりと見えなくなっていった・・・。



ここは・・・。どこ?
私は野原に寝そべっていた。なんだか、体が軽い。すごく気分がいい。
立って周りを見渡した。背中にはスケッチブックの入ったバッグをしょっている。一本の地肌の見えた道がまっすぐ伸びて、その先に一本の木が立ってるのが見える。わたしはその道に沿って走り出した。
だれか人が立っている。・・・だれ?
近づくにつれて、輪郭がはっきりしてきた。私は驚きを隠せなかった。
「お・・・おじいちゃん?」
たしか、私のおじいちゃんは死んだはず・・・。
おとうさんは寿命が終わったって言ってたけど。
「こんにちは。」
おじいちゃんはしゃがみこんで私の顔を覗き込むようにしゃべっている。
「おじいちゃん?」
すると、おじいちゃんは一本の指を口元で立てた。
「しぃ。」
「おじいちゃんどうしたの?」
わたしのおじいちゃんは口元にあった手で私の頭をなでた。
「・・・ここでは名前を言ってはいけないんだよ。」
「なんで?」
私はすごく不思議な気分だった。
死んだはずのおじいちゃんが目の前に居る。
いつも感じていた不安と陰気な感情はどっかに消えている。
おじいちゃんは険しい顔をして言った。
「ここで会った人に名前を教えてしまうと、ほんとに死んじゃうことになるんだよ。」
「私、生きてるの?」
「・・・生きてもいないし、死んでもいないよ。」
私は池にいたはず。いつも感じでいたいやな感情に押し流されそうになっていたはず。
「あのね・・・。おじいちゃん。・・・死んじゃったの?」
おじいちゃんは私の肩に手をおいて言った。
「もう、戻る体も無い。体と魂のつなぎはもう断たれている。・・・だから、もうもどれないんだよ。」
「・・・・・」
そのとき、おじいちゃんの目に涙が浮かんだ。
「でもね。今ならまだ間に合う。しょうこ。この先に行くと、川があるはず。そのをわたらずにその川に沿って歩きなさい。」
すると、肩に置いたおじいちゃんの手が光とともに消えていく。
「おじいちゃん!どこ行くの?!」
もう肩まで消えていて、足からも消え始めている。そして、おじいちゃんは言った。
「天国だよ、しょうこ。孫の顔を見れてほんとに嬉しかった。」
「・・・・・・」
私はじっと、おじいちゃんを見ていた。すごく悲しい。私をなでてくれたあの手も。いつもくさかったあの足も。私をおんぶしてくれたあの背中も少しずつ消えていく・・・。あとは首から上しか残っていない。
「おじいちゃん!」
すると、おじいちゃんは私を見てくれた。
「いままで、ありがと。」
すると、残ったあの忘れられない顔までも消えてどこかに去ってしまった。
私にはおじいちゃんがにこっとほほえんでくれたような気がした・・・。



わたしはこの細い道を歩いていた。すごく歩いたような気がする。でも、なぜか疲れない。
やっぱり、天国はここのような気がする。それとも、天国はもっと良いところなのだろうか。
私はそんなこと考えながら歩いていると、木にもたれてロングスカートをつけていて、フードを頭にかけている女の人が見えた。私はその女の人の前に立った。
すると、女の人はすぐさま気づいた。
「だ、だれ?」
とても温かみがある声・・・・・。包帯を頭に巻いている。
「おか・・・・!」
すると、私はおじいちゃんが言った言葉を思い出して口を両手でふさいだ。
{ここで会った人に名前を教えてしまうと、ほんとに死んじゃうことになるんだよ。}
私は何も言わずにただ黙って立っていた。
するとお母さんのような女の人は私の声が聞こえないことで私を探し始めた。
「どこ?どこにいったの?」
女の人は手探りであたりを探す。私はその手をゆっくりと握り締めた。
女の人はそれに気づくと、私の握った手にもう一方の手を重ねた。
「なんだ。ここにいたのかぁ、返事がないからこの顔を見て逃げ出したと思ってたの。」
わたしはただ黙ってそこに立っていた。
「あのぉ。私を川の向こうまで連れてってくれないでしょうか。」
「・・・・・。」
その女の人は私の手の甲をさすると、はっと気づいて言った。
「あなた・・・。まだ子どもなのね。お名前は?何歳なの?」
わたしの頭の中ではおじいちゃんの言葉が渦を巻いていた。
{ここで会った人に名前を教えてしまうと、ほんとに死んじゃうことになるんだよ。}
「・・・・・。」
私は喋りたかった。私はここに居るということを伝えたかった。
・・・・・でも・・・・・私は教えてあげられなかった・・・。
「私は・・・。わたしは10歳!」
唯一、教えてあげられることはそれしかなかった。
「そっか。10歳なんだぁ。」
そう言いながら、女の人はひざをついて座った。
「わたしは子どもがいてね。ちょうどあなたと同じ年でこのくらいの背をしているの。今はどこでなにをやってるのかなぁ。大きくなった娘の顔が見たかったわ。」
わたしはそのとき、この人はおかあさんだ。と気がついた。
わたしはおかあさんのとこを良く知らなかった。
そのとき、不意に思ったことがひとつだけあった。
「ねぇ。」
わたしは下を向いたままおかあさんに問いかけた。
「はい?」
「何で死んだの?」
わたしはお母さんがなぜわたしを助けてくれたのかが分からなかった。
生きていても、毎日不満を抱えている。
生きていても、いじめられ、けなされていた毎日。
あの時、おかあさんだけ逃げていれば、おかあさんが死ぬ必要なんて無かったのに・・・。
何のためにおかあさんはこのわたしを助けたのかが不思議でならなかった。
「わたしはね。家の大火災に、こどもをかばって命を落としたの。そのころ娘は5歳だったの。」
途切れ途切れに記憶がよみがえってくる・・・。
「あの時。一度家の外に出たわたしは娘が居ないことに気が付いたの。わたしは、なかに取り残されている娘を助けるために炎の上がる家に飛び込んだ。すると、家の隅で恐がっていた娘を見つけて、すぐさま駆け寄ったわ。娘を連れて外に出ようとしたんだけど、玄関は崩れていて通れなかった。窓もそうだった。わたしたちは周りにあるもので壁に穴をあけた。コレなら娘は脱出できると娘を外へ押し出した。しかし、娘を外に出した後、家は崩れ落ち、わたしは・・・死んだ。」
わたしはその話がなまなましく思えた。
「・・・・・あ。でも、後悔はしてないわよ?だって、わたしの子どもですもの。助けるのに理由なんて要らない。そうでしょ?・・・・・わたしは娘を愛してた。炎の燃え盛る中、隅で丸まっているあの子を見てたら心が急に痛くなって・・・。」
おかあさんの目には包帯の裏からじわっと涙が染み出てきた。
「ごめんなさいね。こんな難しい話あなたにしゃべって・・・。」
わたしは、おかあさんの手を少し強めに握ってみた。おかあさんの手・・・あたたかいなぁ・・・。
手を強めに握ったことで思い出したのか、おかあさんは立ち上がった。
「さぁ、川の方へ向かいましょう。」


わたしはおかあさんの手を引いてまっすぐ伸びる道をただひたすら歩いた。
朝の顔を見せていたあの気持ちよく青い空は、夜の表情を見せかけていた。
長く歩いたにもかかわらず、わたしはぜんぜん疲れなかった。魂・・・だからかなぁ?
「ねぇ。」
「ん?」
おかあさんは顔を向けずに言っていた。
「川まではどのくらいかかるの?」
「そうねぇ・・・。もう着くはずなんだけど・・・。」
すると、川の音がかすかに聞こえてきた。
「あ。」
目の前に広がるのは、緩やかに流れる川だった。そこに一艘の船がぷかぷか浮いていた。
「川に着いたのね?」
「うん。」
わたしはおかあさんの手を引いて船に乗せた。そして、バッグを置いてしばらく待った。
しかし、押さない限りこの船は動かないと思い、わたしは一度船から降りた。
すると、なんらかのキッカケで船は動き出し、川の上をなんの抵抗もなくすいすい進んでいった。
「あ・・・。」
おかあさんはわたしが乗っていないことに気が付くと、見えていないはずのわたしに手を振った。
「案内してくれてありがとう。又いつか。わたし、先行っとくから!それじゃあ、さようなら。」
おかあさんはそういうと、船が向かう先に白い光が現れた。
すると、光の一部がおかあさんを照らした。そして、おかあさんの姿はみるみるうちに戻っていった。
おかあさんは手のひらを見つめている・・・。
「み・・・見える。」
そして、お母さんは、船に置いてきてしまったバッグから顔を覗かせているスケッチブックを手にとった。
そこに描かれていたのは包帯でぐるぐる巻きにされていたお母さんの顔・・・。
そのスケッチブックを閉じると名前の方に目が行った。
そこには{池宮 祥子}と記名されていた。
お母さんははっと何かに気づき、わたしのほうを振り向き、立った。
「祥子・・・。祥子!この川を渡らないで!」
「お・・・おかあさん・・・。」
わたしの胸が急に熱くなった気がした。
「あなたはまだ死んではいない。死んではいけないんだよ!」
「おかあさん・・・。」
息が使いが荒くなり、悲しい何かがこみ上げてくる・・・。
「わたしが産んだ体。わたしが救った命。絶対無駄にはしないで!」
「おかあさん!!」
胸が急に痛くなり、感情的な涙が溢れ出した。
「ここの川に沿って歩きなさい!そうすれば、きっと助かるから!」
「おかあさん!」
わたしの喉でたくさんの言葉が詰まった。
おかあさんと手をつないで遊園地行ってみたかった。おかあさんがいつも近くにいて欲しかった。
おかあさんと一緒に公園で遊びたかった。せめて最後におかあさんのあたたかい腕の中にいたかった。
たくさんの言葉が詰まって言い出せない。とてもつらい。苦しい。悲しい。
でも、どんな言葉にじゃまされても、間をくぐって出てきた言葉があった。
「・・・おかあさん。今まで・・・ありがと・・・う。」
わたしの顔は涙でいっぱいだった。おかあさんはこの言葉を聞くと、安心したように船に腰を下ろした。
「祥子。わたし、あなたを見守ってるからね!」
「おかあさぁぁん!!!」
おかあさんは満足した笑顔で光につつまれて・・・・・消えた。
わたしは川に沿って歩いた。ひたすら歩いた。川はまっすぐだった。
そして歩いているうちに手から薄くなり始め、次に足が薄くなり、やがて。わたしはそこから消えた。



「祥子!!」
わたしはお父さんの声に導かれるように目を覚ました。
「祥子ぉ・・・!」
「お・・・とうさん?」
目を覚ましたときにおとうさんは力強くわたしを抱きしめてくれた。
ほんとうに心配してる顔だった。正直嬉しかった。
わたしはこの世界にいちゃいけない存在だと思ってた。でもそれは違った。
それはわたしの心が弱いだけ。人は悲しみの壁や、苦しみの壁を越えていくものだと気が付いた。
わたしは悟った。お母さんから教えてもらったのだ。
人はいろんな壁を乗り越えて成長するものだとね。
5年間親のいないわたしにとって、最初で最後の教訓だった。
ありがとう・・・おかあさん。






おかあさんの気持ち・・・・・。今なら分かる気がする・・・。







2005/04/17(Sun)03:14:14 公開 / pikotan*
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■作者からのメッセージ
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